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あたしは可愛くなんてない。

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「その感情が愛でも、憎しみでも、悔しさでも。あたしの、あなたへの感情は誰とも違うのだから」…… 1話5000字ほどの読み切り形式で送る、女性同士の感情シリーズ。
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#恋愛

【百合好きがやってみた #目合い祭 】君としたいの

【百合好きがやってみた #目合い祭 】君としたいの

※2024年4月追記:元々の企画は成人向け設定のワンクッションのために有料化しておりました。
が、noteで正式に成人向けのゾーニングがなされることとなったのと、あさのがnote内で収益をいただくことを終了させたので、全編無料公開となりました。
作品自体は今でも大切なものなので残しておきます。
よろしくお願いします。

 こんにちは、朝乃です。

 元々は、この企画のために考えていた百合モノではあ

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エピローグ いつかのあたしたちは

エピローグ いつかのあたしたちは

「サナちゃん!」
 小さな部屋に、ふたり暮らし。
「ねぇ見てサナちゃん、誕生日プレゼント! あ、あとね、遅れちゃったけどハッピーハロウィン!」
 ファンシーな寝間着姿の天野セナは、満面の笑みを浮かべた。
 リボンでラッピングされた袋をひとつずつ、両手に持って。
「どっちが誕生日で、どっちがハロウィンのプレゼントなの?」
「どっちがどっちなのか忘れた! えっへん!」
 セナは何故かドヤ顔だった。
 

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君が眩しい

君が眩しい

 夏の終わりはよく、人が死ぬような気がする。
 だから彼はあの日、あの日差しの眩しさが目にしみると言っていたらしい。

 その石には「金城家」と刻んであって、でも、こぢんまりとしていた。

「あ……凜花(りんか)」
 眉の下辺りでぱっつんとしてある前髪。
 でも、プライベートでの彼女はツインテールなんていう幼い髪型なんてしていない。
 当たり前だ、本来の久保田明里というのは聡明な女性である。
「何

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恋じゃなくても、僕らはきっと(2)

恋じゃなくても、僕らはきっと(2)

 胸の膨らんだ自分のことなんて、絶対受け入れられないと思っていた。
 なのにどうしてだろう。
 藍里ちゃん……どうしてだろうね……?
 僕、本当はこれを望んでいたのかな……?

 聖は本当に意地悪だ。
 このインラン、と言い放ち、上に乗っかる僕をくすぐる。
 そういう彼は今、僕を抱いてくれているのだ。
「や、やめ……っ!? おっぱい触んな、それズルい!」
 僕は彼に抱かれて、いやらしくて細い声を我

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恋じゃなくても、僕らはきっと(1)

恋じゃなくても、僕らはきっと(1)

 そこそこ前の話だが、僕はかなり無理な形で診断書をもらった。
 女に戻りたい奴だとでもしないと、治療もなかなかやりづらいだろうという判断だった。
 分かっているよ、これは諦めであり裏切りだ。
 両親も友達も、僕はてっきり女性になるものだと思っている。
 大晦日のあの舞台に立った、あの美しい声をした歌い手みたいに。
 彼女は「あたる」という読みの名前をした人だったけど、僕からすれば似て非なる世界の人

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恋を知らないあなたでも

恋を知らないあなたでも

 私は、姉と血が繋がっていない。
 そんな風に見えないように努力して、ネガティブな自分を吐き出さないようにしている。
 それが、役者でありアイドルである私の仕事だから。
 アイドルユニット、「Lシス」ことLively Sisters(ライブリー・シスターズ)のオファーは、まさしく本領発揮する場を獲得できたというわけだ。
 でも、それを姉は快く思っていない。
 彼女は正直者で、生真面目なのにどこか頭

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ライブリー・シスターズ

 あたしは不安だった。
 この物語を読むことに、みんなはどう反応するのだろう。
 自分はこの、染谷くんと佐倉さんのうちのどちらになるだろう、と。
 ううん、それよりも……
 この仕事がもしうまく行ってしまったら、愛するサナちゃんと離れ離れになるのだろうか。
 そんなことを思いながら、舞台袖で台本を握りしめていた。

 うちの事務所は、「アイドルになれば何でもできる」というのをポリシーにしていて、こ

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夏の微熱(2)

夏の微熱(2)

 この人は男……男の人じゃないと何だか怖い。
 僕は内心怯えていたのだろう。
 必死で、夏樹さんが着ていたもののことなんて考えていなかったのだが、畳の上にはしわくちゃになったハーフトップがあった。
「や、だ……何で、声オペなんかしちゃったんだろ……」
 結局、そういうことなのだ。
「な、つき……さん……」
「マジで自分が気持ち悪い」
 息を切らしながら、夏樹さんは瞳を潤ませていた。
「ひーくん……

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夏の微熱(1)

夏の微熱(1)

 今年の夏は遅かった。
 じめっぽい中僕はシェアハウスの草むしりをしていて、それはあの人を待っていたからだった。
「……夏希さん」
 こういう眩しい日は思い出す。
 スベスベの白い素肌と長いまつ毛、ベージュの潤んだ唇。
 それから、凛々しくも優しいお姉さまの声。
 未だに引きずってしまうのは、何でも忘れるタイプであるはずの僕にしては珍しい。
 仕方ないのかな……確かに、夏希さんのことが好きだったか

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青く小さい、まばゆい君を

「ボクのおかげで、晴れました!!」
 小柄な彼女は両手を広げて、潮風の香りをいっぱいに吸い込んでいた。
「うーん! どこまでも青いね、サナちゃん!」
 空の青と、一面に咲き誇るネモフィラがつながっているように見えた。
 その中で彼女の派手なオレンジ色の、短い髪はとても目立った。
「ボクらは今、海浜公園に来ていまーす! どう? すごいね? すごいでしょー!」
 セナは、アマチュアとはいえ演劇畑の人間

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