おっさん女子の休日〜静かなる岡に幻の肴を探しに〜
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非常にまずいことになった。
由々しき事態だ。
わたしは過去2回にわたり、Jリーグサポーターにおけるアウェイ遠征の意義や楽しみ方を偉そうな口調で書き記してきた。
有り難いことに賛同の声や励ましの声もたくさん頂戴した。
サポーターにとってのアウェイ旅というのは、本来サッカー観戦にかこつけられたオプションのようなものだ。
余裕があれば観光をすればいいし、日帰りができるならスタジアムから直帰だっていい。
あくまでサッカーを観ることがメインだ。
しかし、わたしは旅を主役にしたかった。
本末転倒と言われようと、旅のついでにサッカー観戦をするというスタンスを提案したかった。
それは、勝つか負けるか分からない不確定要素の強い試合に対し、旅はある程度自分自身でコントロールできるからだ。
もちろん、予想だにしないトラブルが発生することはままある。
『トラベルイズトラブル』
しかし、大抵の場合は自分の責任だし、リカバリーもできる。
自分ではない誰かと自分ではない誰かがゴールを奪い合い、彼らにただひたすら勝敗を委ねるのとはわけが違う。
どんな試合結果になってもその地を訪れたことを後悔しないために、わたしは旅を全力で楽しむのだ。
前置きが長くなったが、結論から書こう。
ベガルタ仙台がまたアウェイで負けたのである。
アウェイ6戦全敗。
清々しいほどに散々な結果だ。
そしてわたしはまたこうして負けた試合でのことを綴らねばならなくなった。
いくら旅を全力で楽しんで、おもしろおかしく書き記したとしても、そこからにわかに漂う悲壮感は拭えないだろう。
OWL magazine代表の中村氏に、
「麻美ちゃんの文章は皮肉が効いてて素晴らしいね!」
と褒められたことがある。
違う。
皮肉にせざるを得ないだけなのだ……。
本当はわたしだって勝利で浮かれたテンションのまま記事が書きたい。
やけ酒ではなく祝勝会での一コマを、ドヤ顔ならぬドヤ文で伝えたい。
「アウェイ楽しそうだな!よし、行ってみるか!」
読んでくれた方に、ただそう思ってほしいだけなのだ。
このままではまずい。
試合内容や結果の仄暗い部分を打ち消すために、観光とは違うネタ的な要素を渇望してしまっている。
ほとんどYouTuberのメンタルだ。
これは由々しき事態だ……。
試合のことは忘れました
アウェイ・ジュビロ磐田戦。
わたしが毎年欠かすことなく訪れるアウェイの一つだ。
東京からそう遠くなく(新幹線利用で1時間半ほど)、とても見やすく綺麗なスタジアムで、磐田市近郊には美味しい食べ物もたくさんある。
中でもアウェイサポーターにとても人気なのが、静岡県内でのみチェーン展開をしているハンバーグレストラン『さわやか』だろう。
ヤマハスタジアムのスタグルではないにも関わらず、アウェイサポーターにはジュビロ戦とセットのように捉えられている。
店員が目の前で半生状態の俵形のハンバーグを真っ二つに切り分け、その断面を熱々の鉄板にこれでもかと押し付ける。
その際油と肉汁が大量に跳ねるので、下に敷いてある紙を持ち上げて顔と服をガードするのがさわやか流だ。
ソースはオニオンソースとデミグラスソースの2種類から選べるが、わたしはいつも片方にだけオニオンソースをかけ、もう片方はプレーンのままにしておく。
ミディアムレア状態の肉々しいハンバーグをそのまま味わうため、塩コショウのみで食したいからだ。
何を隠そうさわやかのハンバーグこそ、わたしがアウェイ・ジュビロ戦に行く大きな理由にもなっている。
まだ訪れたことのない方には是非ともこのハンバーグを体験してほしいのだが、注意しなければならないことがある。
さわやかのハンバーグはアウェイサポーターだけでなく、静岡県民だってみんな大好きなのだ。
土日・祝日のお昼や夕飯時ともなれば、まず並ばずに席に着くことは不可能と言えるほどの混雑になる。
今年のゴールデンウィークには、御殿場インター店での待ち時間がなんと500分超えという常軌を逸した数字になった。
先日東京ディズニーリゾートのミッキーの顔がマイナーチェンジしたことが話題になったが、変更前の最終日のグリーティングは12時間以上待ちだったそうだ。
さわやかはもはや超繁忙期のディズニーランドだ。
夢の国、さわやか。
待ち時間が全然さわやかじゃない、さわやか。
さわやかのホームページにはリアルタイムで各店舗の待ち時間が表示されているので、店舗を訪れる前にしっかりとチェックすることをお勧めする。
余談だが、一説によると磐田市出身の女優・長澤まさみさんがTVでさわやかを紹介したことがきっかけで、人気に火がついたらしい。
恐るべし、長澤まさみ。
ヤマハスタジアムのスタグルでは是非この生搾りメロンジュースを飲んでほしい。
メロンにそのままかぶりついているかのような贅沢な果肉感にも関わらず、後味は実にスッキリしている。
飲み物としても優秀だし、デザートにもなる逸品である。
おかわりをしてしまうこともあるほど、わたしのお気に入りのスタグルだ。
静岡県は温室メロンの収穫量が日本一で、磐田市やお隣の袋井市などが産地として有名である。
しかしメロン全体の収穫量が日本一なのは実は茨城県で、鹿嶋市やお隣の鉾田市が産地として名を轟かせている。
このことから、ジュビロ磐田vs鹿島アントラーズをわたしは勝手にメロンダービーと呼んでいる。
まぁそう呼んでいるのはわたしだけだと思うが……。
ただ、アントラーズのホームであるカシマスタジアムのメロンのスタグルは、ホーム側の観客しか買うことができない。
アウェイサポーターでも買うことができるという観点から、個人的にはヤマハスタジアムに軍配を上げたい。
大分編でも少し触れたが、わたしはジュビロのマスコットであるジュビィちゃんが大好きだ。
まずとにかく顔がめちゃくちゃ可愛い。
しかもめちゃくちゃ腰が低くフレンドリー。
写真ではわからないが、ポニーテールの髪の毛(羽毛?)にジュビロのエンブレムにも使われている星や月の形の髪飾りを付けている。
ユニフォームとのバランスを損なわないヒラヒラの白いスカートに、足元は水色のスニーカー、バッグももちろん青を基調としていて、クラブカラーでの統一感がある。
わたしにとってジュビィちゃんは、おしゃれ女子サポの鑑なのだ。
ユニフォームを着用したコーディネートの最もシンプルかつ分かりやすい例にもなるので、是非ジュビロ以外の女子サポやお子さんにも参考にしてほしいと思う。
ジュビィちゃんの彼氏でもあるジュビロくんにも会えた。
ジュビロくんはどちらかと言うと無骨で、よく言えば男らしいキャラクターだが、まぁジュビィちゃんが選んだ相手ならそれでもいい。
この2人(2羽)のマスコットの素晴らしいところは、ほとんどの確率で会えるところだ。
例えば他のクラブのマスコットだと、キックオフ1時間半前には準備の関係から早々にグリーティングを引き上げてしまったりする。
また、スタジアムの敷地が広い場合、マスコットが敷地やコンコースをぐるっと一周することがあるため、タイミングが合わないと出会えずに終わることもある。
その点ジュビロくんやジュビィちゃんはキックオフ1時間を切ってもファンサービスをしていることも多いし、彼らがいるのはメイン入り口前の広場と大体決まっているので、ほぼ確実に会うことができるのだ。
これはお子さんにも嬉しいし、基本的に年1回しか来ることがないアウェイサポーターにとってもありがたいことである。
もちろんわたしはビールを買ってアウェイのゴール裏に乗り込む。
気温が高く喉も乾くので、ビールが身体に染み込んでいくような感覚が気持ち良い。
ちなみにこの時の銘柄はサッポロ黒ラベルだが、広場のスタグル売り場には静岡のご当地ビールである静岡麦酒も売っている。
ビールを愛するビールクズのみなさんにはそちらもおすすめしたい。
アウェイサポーターの席は2階にあるので、ピッチをしっかり見渡せるのもヤマハスタジアムの良いところだ。
球技専用スタジアムなので、コーチングの声が聞こえるほど選手との距離が近いのも素晴らしい。
まぁその分、見たくないものもしっかり見えてしまうわけだが……。(2失点)
この日は磐田市内全22校の小学5,6年生が約3,200人も招待されていたらしく、スタジアム内には子供たちの元気な声援が響いていた。
チアに混ざり、一生懸命大きなフラッグを振る子供たち。
この観戦が授業の一環だというから、さすがサッカー王国静岡県と言えよう。
元々サポーターだった子供たちも大勢いたと思うが、この試合をきっかけにジュビロやサッカーを好きになった子供たちもきっとたくさんいただろう。
そういう意味で言えば、この試合におけるベガルタの貢献度は申し分なかったと思う……。
誰かをサポーターにするには、勝ち試合を見せることが何よりの近道なのだ。
ダービーってすごい
試合後は毎年ヤマハスタジアムで会うジュビロサポの方々と飲みに行った。
磐田駅前にある昔ながらの焼き鳥屋で、いつもなかなかの賑わいだそうな。
お互いいまいち波に乗れない苦しい状況のクラブ。
だからだろうか、ベガルタサポ1人のわたしに対しジュビロサポは6人いたにも関わらず、誰一人として試合内容の話をしてこなかった。
この勝利の価値は絶対に大きく、さぞ嬉しかったはずなのに。
ジュビロサポの優しさを感じると共に、気を遣われているのかと思うと申し訳なさも感じた……。
次節の話になる。
「仙台は次どこ?」
1人のジュビロサポが問う。
「次はアウェイ清水だよ!2週連続静岡!」
何の気なしにわたしは笑って答えた。
すると、1人のジュビロサポの目つきが変わった。
「今日の試合はどうでもいい。次、やれ。」
呆気にとられるわたし。
やれ?どういうことだ?
考えを巡らせる間に、その人が常々言っていたジュビロとエスパルスの因縁の話を思い出した。
サッカー王国静岡に本拠地を置く2つのクラブ。
1つはオリジナル10。
1つは遅れてリーグに加入したクラブ。
Jリーグ参入に至るまでの経緯を聞くと、なるほどそれは因縁にもなるなと納得する。
かく言うベガルタにも一応ダービーというものが存在する。
みちのくダービーという、同じ東北を本拠地とするモンテディオ山形とのダービーだ。
しかし、前述の静岡2クラブのダービー関係を聞いた後だと、何かしっくりこない。
「そこまでの因縁なんてあったかな?」
「いや、別にわたしモンテディオそこまで憎くないな。」
わたし個人としては、みちのくダービーにそこまでの思い入れはない。
それはわたしが仙台や宮城の人間でもなければ、子供の頃からブランメル(ベガルタの前身)を応援していたわけでもないからだろうか。
敵対関係は必要だ。
それによって観客が増えたり、メディア露出が増えたり、何より盛り上がるというのは本当に素晴らしい。
しかし、今Jリーグでダービーと呼ばれる対戦に本当の意味でのダービーはいくつあるだろうか?
やっぱり何かしっくりこない。
この試合では、選手紹介時にベガルタの長沢駿選手がジュビロサポからブーイングされた。
それはかつて彼がエスパルスに所属していたからだ。
しかし彼がエスパルスを退団しベガルタに加入するまでに、ガンバ大阪を経ている。
期限付き移籍も含めると、なんと5クラブも挟んでいるのだ。
それでも彼らは長沢選手にブーイングする。
「あいつは清水の人間だから」
この試合で得点をしたジュビロの中山仁斗選手は昨シーズンまでモンテディオに所属していた。
しかし、ブーイングどころか彼をモンテディオにいた選手だと認識している人すら多くなかった。
この差はなんだ?
これがダービーというものなのか?
わたしは衝撃を受けた。
羨ましいと思う気持ちさえ芽生えた。
帰り際にジュビロサポに
「来週は10-0で勝てよ!」
と煽られたが、わたしは
「10-0で勝てるなら今こんな順位にいないわ!」
と返した。
幻の魚を求めて
実は今回ジュビロ戦の記事を書くにあたり、わたしを非常に悩ませることがあった。
それは、静岡での観光内容がパッと浮かんでこなかったことだ。
・毎年行っている
・東京から日帰りで行ける
上記の理由から、あえて旅行をするという考えに至ったことがなかった。
また、
・エスパルスとの兼ね合い
というのもわたしを悩ませた。
静岡にも観光地はたくさんある。
でもよく考えてみると、そこは磐田より清水に近いのではないか?という場所も何度かあった。
前日にダービーの話を聞いたばかりだったので、なぜか第三者のわたしでさえピリピリしてしまう。
さぁ、どうしよう。
これより下は有料記事(¥300)となります。今回の旅の中心となる話が含まれますので、読んでいただけたら嬉しいです。またOWL magazineの月額会員(¥700)になっていただくと、この記事も含めた月間15〜20の有料記事が読み放題になりますので、併せてよろしくお願いいたします。
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