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Komorebi-言葉から知る真実

「Komorebiがきれいだね」。

ある夕方、大学近くの公園を散歩していたら、一緒にいたバングラデシュ出身の友人が何気なくつぶやいた。しゃべっていたのは英語だけど、Komorebiは「木漏れ日」、そう日本語です。


静止画でも美しさが伝わるでしょうか?この景色が家から5分程度にあるのです

「ほんとだね…」とそのまま受け流しそうになって、はっと我に返った。「えっ?いまなんつった?!こもれび?!!」
だって、木漏れ日なんて単語、日本人でもそうそう日常で使わない…ですよね?少なくとも私は、ですが。
その単語を、日本語を母国語としない、日本に行ったこともないという友人から聞くなんて!

それにしても、木漏れ日という日本語のなんと美しいことか。そして、実際に目の前に悠々と広がる緑の木立、その合間からこぼれる太陽光線の輝き。歩みを進めるごとにあちらの木の陰、こちらの葉っぱの間、と、妖精が飛び回るかのように(見たことないけど)はしゃぎ回る様子は言葉にできないぐらい美しい。

そんな目の前の風景に感動しながらも、その現実と「木漏れ日」という単語が私の頭の中では結びつかず、見ていても思い浮かんでこなかった。友人が突然、口にしたことで、風景の美しさが一層、増した気がしました。


夕陽が木立の間を飛び回ります

以前、読んだ本に「識字運動」のことが書かれていました。文字を知らなかった人が「夕焼け」という漢字を習って初めてどれほど美しいものかを知った、というエピソードが紹介されていたのです。
その本の著者(識字運動とは別の方です)は、「『文字を知らない』ことは、人間の感性が花開くことまでも制限してしまうのかもしれない」と仰っています(池亀彩「インド残酷物語ー世界一たくましい民」集英社新書、2021年より)。

「komorebi」を聞いたときの私は、まさにこのような状況でした。

言葉を知ることで、真実を知る。私はその言葉を話す国の人なのに、初めてその言葉の持つ本当の意味が腑に落ちた気がしました。

以前、キャンパス内で多国籍の学生が集まり「自分の国の好きなところをあげる」というテーマでわいわいおしゃべりしていたとき。
「なんてたって食事がうまい!」「親、特に母親を大切にする習慣は自慢できる!」などとさまざまな意見が上がる中、私は「言葉が美しいところ」と言いました。

日本語って、他の言語(私の場合は英語を想定してます)では一言で表せないような複雑な感情をも一つの単語で表すなど、言葉での表現方法がとても幅広い気がするのです。

たとえば「切ない」とか「空しい」って、英語だとどんな単語が適しているのでしょう?
「さみしくて身の置き所がない感じなんだけど、でもなんだか甘酸っぱくて決していやではない、あーなんて言えばいいの?」みたいな気持ちに、これだっとはまる単語はいまだに見つけられていません。結果、英語でいうときはいくつもの単語を駆使してくどくどと”説明”する感じになってしまいます。(そんなことないですか?)

だから、言葉にしがたいものなのに、人間だからこその複雑な感情を説明する単語がたくさんある日本語って素晴らしいな、といつも誇りに思うのです。

そして木漏れ日の場面。美しい単語を使うせっかくのチャンスだったのに、その言葉が頭から抜け落ちていました。それを知ってか知らずか、日本語を普段話さない友人が「すっ」と目の前の風景に言葉を当てはめて、途端に世界の輝きが増しました。

愛しい言葉も、木漏れ日の美しさも、そんなあれこれを気づかせてくれた素晴らしい友人がいることにも、すべてに感謝したい気持ちです。

ところで、言った当の本人は「何をそんなにびっくりしているの?」とでも言いたげにほほ笑んでいます。
「なぜ、そんな単語を知ってるの?」と聞くと、「日本のアニメや漫画が大好きで、そこから学んだ!」とのこと。私の反応から、シチュエーションにぴたりとはまる言葉を絶好のタイミングで使えたとわかったらしく、とても嬉しそうでした。

それにしても、Syracuseの夕焼けや夕陽は本当に美しい。太陽が沈む直前、空がとてもきれいなピンクやオレンジ色に染まり、度肝を抜かれるようなスペクタクルが広がります。それがほぼ毎日、いつも何気なくそこにある空で見られるのです。

私はそれを「神様からのギフト」だと言っています。辛くて苦しいこともある毎日の中で一瞬、すべてを忘れて自然の美しさに浸ることができるからです。

今の時期は夜9時を過ぎてもまだ明るいので、近所の公園に友人らと集まって散歩したり、おしゃべりしたりするのが日課。地元の人は「Famous Syracuse Sunset」(逆にいうと、夕焼けというどこにでもあるものぐらいしか名物がない)と自嘲気味にいうのですが、私はこんなSyracuseが大好きです。


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