のあ(浅井伸彦, 公認心理師・臨床心理士)

公認心理師、臨床心理士、保育士。「推しの子」「葬送のフリーレン」「SPY×FAMILY…

のあ(浅井伸彦, 公認心理師・臨床心理士)

公認心理師、臨床心理士、保育士。「推しの子」「葬送のフリーレン」「SPY×FAMILY」推しのしんりし。

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お仕事の依頼について

執筆、イベント登壇、取材、経営や企画に関するコンサルティング、共同研究、新規事業開発などについて。 (下記以外でもご相談ください) 主な専門テーマは、 心理学、精神、コミュニケーション、対話、海外、語学、(日本語含)ことば、トラウマ、保育、福祉、自律神経、教育、健康など。 これらについての執筆や、企業内での悩み、新しいサービスや商品の研究や開発、臨床心理学的研究など。 注意事項1と2の下に書いています。 必ずこれら「注意事項」をお読みいただいてから、必要な方はご連絡を

    • 35.【推しの子】人はなぜ愛するのか

      「愛すること」とは一体何なんでしょうか。なぜ人は愛するのでしょうか。なぜ愛はこうも人を変えてしまうのでしょうか。 精神分析家エーリッヒ・フロムの著書「愛するということ(フロム著,鈴木晶訳,紀伊國屋書店)」は有名ですが、「愛するということ」という邦訳は、英語だと"The Art of Loving(愛する技術)"とされています。愛するということに対して「能動的な技術」であり、また「簡単に浸れる感情ではない」と捉えています。 「愛」の裏に渦巻くネガティヴな感情マザー・テレサは

      • 34.【推しの子】親(大人)と子どもの関係性

        【推しの子】では、親子関係・大人-子どもの関係性が、大きなテーマにかかわっています。しかも一つ一つが大きく深刻な内容です。 特に小さい子どもにとっては、親の存在が世界のすべてであるかのように感じ、その時の記憶・経験は後の人格形成や対人関係の持ち方などに大きく影響を及ぼします。 これらの中には、複雑性PTSD(Complex PTSD, C-PTSD)にもなりうる可能性のあるものが少なくありません。「複雑性PTSD」とは、2022年に発効となったICD-11(国際疾病分類1

        • 33.【推しの子】という作品と心理学

          【推しの子】という作品は、決して長くない物語の中にかなり多くの要素が詰め込まれています。しかも、内容的にも最近話題のものばかり。これだけ多くの要素がうまく噛み合って一つの作品に昇華されているということが奇跡的です。 本来、一つの作品中にあまり多くの要素を詰め込みすぎると、カオスになってしまいがちですが、この【推しの子】作品事態の舞台設定自体が実に練られたものになっていると感じました。赤坂アカ先生の原作の創作力と、横槍メンゴ先生の美しく可愛い作画が化学反応を起こした結果がこの

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        • 臨床心理士から見た「推しの子」
          37本
        • トラウマやトラウマ治療について
          2本

        記事

          32.星野アイという「人間」

          星野アイはアイドルという職に就いた「人間」精神障害の中には「演技性パーソナリティ障害」と呼ばれるものもありますが、アイは演技性パーソナリティ障害とはいえないでしょう。演技性パーソナリティ障害とは以下のような診断基準からなります。 さりなはルビーという人間を、ゴローはアクアという人間を演じて生きてきました。それと同じく、星野アイはアイというアイドル(偶像)を演じて生きてきました。 アイは、自分がアイドルになると決めてからは、「何がアイドルとして正しいか」ということを考えて、

          31.有馬かなと役作り

          すでに、26.感情演技-感情の解放とコントロール- でも演技については触れていますが、今回も演技、特に「役作り」について、心理学的な観点からみていきたいと思います。 役作り役作り、演技については完全に素人ですので、それを差し引いてお読みください。感情演技については上記の記事に譲って、別の観点から描きます。 自分の中にもいろいろな「自分」がいます。それは、多重人格という意味でなくとも、「親と話す時の自分」「恋人と話す時の自分」「友人と話す時の自分」「仕事で一対一で話す自分」

          30.ギャップと逆手

          メルトは、アクアからの助言で刀を使ったパフォーマンスを通じて、観客に対して「完全に下手とナメてた役者が、いきなりめちゃくちゃ凄い事始めたら」というギャップを利用して周りを驚かせました。 ギャップというものは、エンタメに関わらず大きな注目を集めたり、変化を生じさせます。ギャップ萌えという言葉もあるくらい、ギャップをうまく利用することは色んなところで行われています。 たとえば、漫画でよく出てくる例としては「素行不良な少年と思っていたら、意外と優しい一面があった」とか、「おとな

          29.黒川あかねのプロファイリングと心理的アセスメント②

          黒川あかね(以下、あかね)は、第51話でも得意のプロファイリングを繰り広げています。ただ、このプロファイリングは、あかねでなくてもたどりつけそうな内容です。 公認心理師や臨床心理士という心理の専門家による心理的アセスメントは、もっとご本人から話を聞いていくため、このように連想を繰り広げていくことが同じとはいえないかもしれませんが、あかねの連想を追ってみました。 あかねの新たなプロファイリングあかねは連想するのが上手。 とはいえ、そこまで上手でなくても、これだけ情報の欠片(ピ

          29.黒川あかねのプロファイリングと心理的アセスメント②

          28.アクアはパニック障害?PTSD?

          パニック障害って?パニック症/パニック障害とは、突然前触れなく動悸や呼吸困難、めまい、吐き気などの「パニック発作」と呼ばれる発作が起きる精神疾患のことです。昔は、パニック障害という言葉が使われていましたが、いまではパニック症という言葉が、DSM-5 TR(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル第5版 Text-Revision)によって使われています。実際には両方の言葉がまだ使われています。 あかねがアクアの症状として疑っているのはパニック発作ですね。 パニック発作は

          27.【推しの子】のアニメ化における編集と「東京ブレイド」

          テレビアニメ【推しの子】第2期の第1話(通算では第12話)では、「東京ブレイド」の劇の上映シーンから始まりました。 さらにオープニングでも、東京ブレイドのアニメーションをメインにしたものとなっています。 この「東京ブレイド編」では、前記事「23&25.原作者と脚本家、二人のクリエイターの葛藤とダイアローグ」でも、原作者と脚本家の間の苦悩について述べました。今回、この【推しの子】作品自体においても、漫画(原作)という媒体と、アニメという媒体の違いを活かして、魅せ方が変えられて

          27.【推しの子】のアニメ化における編集と「東京ブレイド」

          26.感情演技-感情の解放とコントロール-

          「感情を出す」ということ。これは子どもの頃には考えずに自然にしていたことです。子どもの頃の方が、ある意味「感情を出す」ということはしやすいのかもしれません。 感情の抑圧もちろん大人になっても感情を出すことはありますが、子どものころと比べると、理性が感情を抑えることが増えてきます。理性が感情を抑えるようになれば、本来出すべき(解放されるべき)感情も身体や心といった器(うつわ)の中に閉じ込められてしまいます。 アクアはアイが亡くなってから、感情が乏しくなったようですが、このよ

          26.感情演技-感情の解放とコントロール-

          25.原作者と脚本家、二人のクリエイターの葛藤とダイアローグ(後編)

          【推しの子】の東京ブレイドでは、49話で原作者のアビコ先生が脚本家のGOAとオンライン上で「対話」することができたからこそ、東京ブレイドの劇が日の目を見ることができました。そこにはさらなる悩みのタネが出てきましたが… 対話とファシリテーター色んな意味でギリギリの状態での対話だったため、雷田が「鬼が出るか蛇が出るか」という一か八かの状況になり、有馬かな曰く「役者の演技に全投げのとんでもないキラーパス脚本」ができあがりました。もしここで、その二人のクリエイターの間に、二人の邪魔

          25.原作者と脚本家、二人のクリエイターの葛藤とダイアローグ(後編)

          【番外編】クリエイターとメンタルヘルス

          「クリエイターやアーティストは心を病みやすい」というのは本当でしょうか?精神医学・心理学用語には、創造の病(creative illness)という言葉があります。エレンベルガー(またはエランベルジェとも)という人は、「創造性と(精神的な)病には親和性がある」と考えました。 正確で詳細に記述すると難しいのですが、 この解放されるまでの長い苦しみの期間のことを「創造の病」と呼びました。 さて、問いを戻しましょう。 「クリエイターやアーティストは心を病みやすいのでしょうか

          【番外編】クリエイターとメンタルヘルス

          24.クリエイターだけじゃない「うつ病リタイアコース」

          うつ病*リタイアコース*一般的には鬱はひらがなで書くので、ここでは『うつ病』で統一させてくださいね。 クリエイターだけじゃなく、また「うつ病」だけでもないですが、本当にこれはよくあるんですよね… 「いや、もう死にたいですねー」というのはもちろん、文字通り死にたいのではなくて、この止まれない・休めないのをどうにかしてほしいけど、どうにもならないから「死にたい」になるんですよね。 それを「うつ病」と呼ぶのか、はたまた身体にきて別の病名がつくのか、自律神経失調症と呼ばれるのか

          24.クリエイターだけじゃない「うつ病リタイアコース」

          23.原作者と脚本家、二人のクリエイターの葛藤とダイアローグ(前編)

          【推しの子】の作中でも語られていますが、原作者と脚本家は立場が異なることから、こだわるところ、こだわらざるを得ないところで両者の間に葛藤が生じることは当然といえます。 考え方・立場・枠組み・創造性の多様性原作者と脚本家という関係性でなくても、漫画家とアニメ家、漫画の中でも原作者と作画担当者、曲作りにおいても作曲、作詞、編曲、(音楽)アーティストの間に完全に同じ意見、感想というのは存在しません。立場の違い、職業の違い、性別の違い、年代の違いだけでなく、「個性」があることから、

          23.原作者と脚本家、二人のクリエイターの葛藤とダイアローグ(前編)

          22.あかねの「没入型」演技と、かなの「適応型」演技(後編)

          では、前回「21.あかねの「没入型」演技と、かなの「適応型」演技①」でのあかねの話に続き、今回は「適応型」演技についてお話したいと思います。 適応型は「俯瞰的な視野の広さ」?有馬かなの「適応型」演技というのは、黒川あかねのような緻密な分析まではせずに、そのキャラクターの特徴をつかみ、作品全体やそのシーン全体を見渡したとき(俯瞰した時)に、自分はどのように演技するのが収まりよくなるかということを計算して行う演技のことを指し示しているのでしょう。 「今日あま」の時もそうでした

          22.あかねの「没入型」演技と、かなの「適応型」演技(後編)