マガジンのカバー画像

創作

11
作ったおはなし
運営しているクリエイター

記事一覧

おとぎ話

おとぎ話


 むかしむかし、あるところに、美しい自然に囲まれた小さな村がありました。手入れをせずとも咲き誇る花々や、凛と生い茂る草木は人々の生活に安らぎをもたらしているのでした。
 その村に、ひとりの誠実な青年がおりました。
 青年は毎日よく働き、人には親切にし、自分を卑下することもなく、皆に平等に接することから
 青年が住む村、その隣の村、さらにその隣りにある少し大きな町の住人たちにいたるまで、老若男女

もっとみる
カメレオン

カメレオン

「今の顔、本当に素敵。」

 嫌い。
 誰よりも私を心から肯定した言葉だったから、大嫌いになった。

 

 目覚ましの音が鳴る。
 私は、その音が聞こえるどれくらい前からかもわからないほど、座って、膝を抱えていた。小さな窓から空を見て、考えることをやめたいと考えながら日が昇っていくのを見ていた。
 一日の始まり。これから近所の人たちがぞろぞろと家から出てきて、各々の目的地へ向かう。サラリーマンの

もっとみる

ワタリドリ

《コンコン》

いらっしゃいませ。
本日は何を?

あ、あの、
"モズの早贄"を…ひとつ…

そういったお品物は当店ではお取り扱いございませんが。

じゃ、じゃあ
"ツグミの鳴き声"を、ふたつ

申し訳ございません、当店はオーダーメイドの文具店でございます。
音声販売は行っておりません。

あ、あ、えっと、
"梅にウグイス"を、みっつ…

お客様、そちらはことわざかと。

は、はぁ、よかった…

もっとみる

気になる

あーごめんちょっと遅れた、席取っといてくれてありがと

何飲んでんの?

はーん相変わらずそういうの好きなんだ

いや?別に言ってみただけだよ

なんかさあ、出る時丁度宅配便来てさぁ、午前指定で12時ギリで来られると、いや間違ってないですけど?そうなんですけどね?みたいな
ギリで家出なきゃいけない予定入れる自分も悪いですけど?みたいなさ

そうそう

配達員さんもさ、毎日がんばってくれてるわけだけ

もっとみる

気になる あらすじ

カフェの1席。
ひとりの女性が先に待っていた女性の元へ来た。

うるさくも静かでもない昼下がりのその場で
周りの客たちはなにも、わざと聞き耳を立てていたわけではないんだが…

『どうやら久しぶりに会うらしい。』
『わ、男女のもつれ話じゃん。』
『なかなか話が進まないなーこの人たち』
『…ちょっと脱線が多すぎやしないか?』

『なに?』
『どういうこと?』
『そ、そんな…!!』

無粋とわかっていな

もっとみる

自販機の恋人 応募用

「彼女欲しいなあ」

「また言ってんのかよ」

「だってさあ、俺ら大学生よ?人生の夏休みよ?」

「本格的に卒業できなくなるぞ」

「女に興味ないのか?」

「今はそんな気分じゃないってだけ」

「なんだよ、選び放題のくせに…」

「なにか言ったか」

「なんにも」

俺、須藤涼太はとにかく彼女が欲しかった。
同じ学部でなんとなくつるむようになったこいつ、益子は顔が良い。頭も良い。遠巻きに女の子た

もっとみる

自販機の恋人 あらすじ

いつもは見かけない場所に自販機が現れるんだ―――

大学生の須藤涼太は彼女が欲しかった。
友人の益子に聞いた信じがたい都市伝説のような話。
合コンがうまくいかなかった帰り道、彼を誘う不気味な音と光をまとった自販機。

『まさかな』

益子の話通りに次々と自分に惚れる女達。
すべてが自分の思い通りになることに、優越感を感じずにはいられない。

ではその優越感の矛先とは?

気づかぬうちに誇大化した自

もっとみる

自販機の恋人

「あ~彼女欲しいなあ~」

「また言ってんのかよ」

「だってさあ、俺ら大学生よ?人生の夏休みよ?」

「夏休みなら宿題くらいすれば。レポートも何もかもやってねえじゃねえか。本格的に卒業できなくなるぞ」

「なんだよお前、いつもそんなこと言うけど女に興味ないのか~?」

「興味がないわけじゃねーよ。今はそんな気分じゃないってだけ」

「そうやって調子にのってさあ、就職すると毎日職場と家の往復で出会

もっとみる

ワンマンナイトショー

『今日はみんな集まってくれてありがとう!
ほんとにね、私緊張しちゃって、背筋もぴんとして固くなっちゃってさ笑
やっぱりね、こうやってみんなと顔を合わせられる時間って意外と短いから。
こういうの刹那的っていうのかなぁ、クサいけど
みんなと会えて嬉しいの。

時間を共有しているのって特別だから。
私はいつでもここにいるけれど、みんなが足を運んでくれないと会えないわけだからね。

何日間かあっても、一日

もっとみる

初夏の晴れ

《2番線 快速電車が通過いたします。》

急ぐ人らが止まれないこの街で、私はホームの天井の隙間から空を見ては心臓をつぶされている。
空を見上げられるのは余裕の表れか?流れゆく雲を追えるのは心が少しでも穏やかだからか?

あの青い空に向かって、夢を書いた紙飛行機を飛ばしたい少年もいれば、雨を願う女だっている。

『空はほら、普通に生活してたらあんまり見ない人だっていると思うのよね。忙しい現代人は特に

もっとみる

まるく赤

「カシオレが可愛い子ぶってるお酒だって言い始めたやつは死ねばいいのに」

何度聞いたかわからない彼女の口癖。週末でにぎわうバルの喧騒の中でも、彼女の声は一際大きく聞こえる。
薄手のブラウスから見える白い腕。細く長い指がグラスに触れている。
キレ長の目、すっと通った鼻筋、厚めの唇に真赤な口紅。
美人な彼女は、いつも可愛いを嘆いている。

「また言われたのか」

「直接は言われてないわよ、でも『意外だ

もっとみる