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【エッセイ】ふさわしい唄

 急に寒くなって、秋の彼岸に「もう炊いたあんこがない」と言われたのを思い出した。正月のもちをつくまでに用意しなければならない。年末はなかなか時間がとれないので、今のうちに炊いて冷凍しておくか、と重い腰を上げた。
 買ってきた小豆を鍋に入れる。ひと袋に何グラム入っているかわからないが、3袋買った。豆ってのはたいがい思ったより多く炊きあがるが、懲りずに毎回大量に炊いてしまう。たぶん、それが正解だ。だから今回も3袋すべてを炊く。
 鍋に水を入れて手でかき回す。水を替える。ぼーっとしていたら、頭の中で唄が流れているのに気づいた。なんだ?
 もう一度かき回す。……小豆洗おか人とって喰おか……ショキショキ。
 納得した。妖怪小豆洗いが来ているらしい。水を替える。
 次はご機嫌で一節唄って、洗い終えた。小豆はひと晩水に浸けておく。
 明日炊くあんこの成功は約束された。だって、こっちには妖怪小豆洗いがついているんだから。

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