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【エッセイ】夜泣き

 ときどきある。
 目覚めたときに、涙が流れている。まだ夜中だった。
 久しぶりだ、と思いながらまばたきをしたら、両目からさらに流れ落ちた。
 寝間着の袖でぬぐう。夢と現実のはざまで混乱しつつ、一刻も早く再び眠りにつきたい。

 それにしても、心当たりがない。それほど追い詰められていたわけでもない。ああそうか、久しぶりに読んだ小説の、救いのない展開のせいかも。
 孤児の少女が成長していくお話。かっこいい大人の男性2人に守られながら生きていくなんて、刺激が強すぎやしないか。

 涙(と食べすぎたスルメ)のせいで盛大にむくんだ二重まぶたは午後になってもその勢力を弱めなかった。休みで良かった。
 なんだかひどく疲れていたが、実家に残してきた昔の痕跡を消したい衝動に駆られて、少しだけ実家に行く(誰にも気づかれずに、サッと任務を遂行した)。

 みんなはもっと、好きなように生きてんのにな。
 突然むなしさが突き上げる。同時に言葉にしがたい歪んだ罪悪感が頭をもたげる。
 これが昨夜の涙の原因か、あるいは涙がこんな思考を招くのか。
 世界は素敵だ、と歌ったロックバンドがいたっけ。たしかにね。そう思わなきゃやってらんないっていうか。
 でも実は、否定するほど絶望しちゃいないけど、肯定するほど満たされてもいないっていうか。
 どうにも黙っていられなくて、明るいうちから温泉につかる。たったそれだけの気分転換でさえ、無意識のうちに誰かに(何かに)許しを乞う。
 陰気なヤツよ。


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