【エッセイ】空想のはなし
今、人間が生きている範囲があって、その外側に人間が知りえる範囲があって、その向こうには誰も知らない、人間の範疇を越える領域がある。
それは、深海であったり、宇宙であったりする。
宇宙や深海を特集するテレビ番組をよく見る。
情報は頭をすり抜けていくので自分の知識になりはしないが、じんわりとした憧れめいたものが心に浮かぶ。まだ解明されない世界。人智を越えた場所。
そして学生時代に、先輩とファミレスで語り合ったことを思い出す。
『深海と宇宙はつながっているのではないか』
わたしたちはルーズリーフに図(というより絵)を描きつけながら、長い時間話をした。
光も空気もない世界。生身では存在することもままならない。
宇宙服と潜水服のデザインはどうか。宇宙船と潜水艦。ライカ犬。スプートニク号とアポロ。宇宙人。UFO。銀河。ブラックホールに海溝。ダイオウイカ。くじらの墓場。奇怪な姿をした深海魚たち。
話の内容は完全なる無駄話であったが(先輩もよくつきあってくれたものだ)、先輩と過ごしたあの時間はまったく無駄ではなかった。
自分にもあんな風に時間を使えたころがあったのだと時どき思い出し、ちょっといい気分になる。
SFも科学も得意ではないし、未知のものは未知のままでいいと思う性分である。未知であればこそ、このようなでたらめな空想をする余地もあるというものだ。
宇宙や深海のことが次々と明るみになってゆくのは、世界の真理を知ってしまうようで少しこわい。しかし、新たな発見を心待ちにしている自分もいる。
この気持ちのことを、ひとはこわいもの見たさというのだろう。
そしてわたしは今でも、ほんの少しだけ宇宙と深海はつながっていると信じている。
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