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【エッセイ】ねこ、負傷

 朝、馬屋の廊下に毛だまりができていて、スズメかツバメがカラスにやられたのだろうと思った。
 ねこは道具を置くところの奥のほうで丸くなって寝ていた。いつもは姉や母が仕事をし始めると顔を見せにくるのに今日は全然起きる気配がない。
 しばらくしてのそのそと出てきた姿を見て、廊下の毛だまりの毛はねこのものであることがわかった。
 ねこは負傷していた。
 顔の右側が腫れ上がり、赤くなった目から目やにだか膿だかが出ている。歩くと、右前足を引きずる。カリカリは食べなかった。
 あまり触れられたくないようなので放っておくと、馬房のすみの牧草に埋まってじっと寝ていた。
 姉に言われてチュールを買っていった。
 私が夕方に行くと、ねこは痛々しい顔で外でうずくまっていた。
 鼻先にチュールを近づける。はじめは少し顔を背けたが、匂いを嗅ぐうちに気分が乗ったらしく、ざらざらの舌ですぐにチュールを舐め尽くした。
 食べる元気があることにひとまず安心したが、どうにも顔が腫れている。目からは絶えず涙が出る。毛はもとからみっちり生えているので、どの辺りの毛が抜けたのかわからない。
 そのあとも、暗くなるまでねこは竹ぼうきの陰で寝ていた。
 母と姉によると、ケンカの相手は最近出入りするようになった三毛猫であろうとの見解だ。
 普段はケンカをしないので、きっと一方的に襲われたんだろう。ネコパンチの一発や二発やり返していればいいのに。
「あんなヤツ相手にしないで隠れてれ。いっつも寝てる隙間に入ってれば見つからんべや」
 姉とふたりでねこに諭すように言った。当の本人は聞いているのかいないのか、目を閉じて体力回復に努めている。
 ねこよ、早く元気になれ。そしてあのふてぶてしい声でエサをねだり大きな態度で昼寝してほしい。
 ひとまず明日も、チュールをやろう。ねこにとってのお粥みたいなものだ。

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