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【エッセイ】パンドラ

 まったく身に覚えがないのに、パンドラの箱が開いてしまったらしい。そもそも、箱を抱えていたことすら気づかなかったのに。
 災厄というのか知らないが、いろんなことが重なって襲ってきた。(ただ忙しかっただけとも言う)

 これまでの人生で三本の指に入るほどに疲弊し、心身ともに擦りきれた。
 壊れて、崩れていくのが自分でもわかった。わかっただけでどうすることもできなかった。絶望の中で、平静を装って笑顔を浮かべた。(口数少なく眉間にシワをよせたままで)

 ひとまず、それを乗り越えたものか勝手に過ぎ去ったものか、少しだけ楽になった気がする。
 しかし、気を抜いてはいけないと自分がどこかでささやく。不安と恐怖が襲う。それを追い払う。またすぐに戻ってくる。
 まえに妖怪いそがしにとり憑かれたときも、奴がいついなくなったのかわからなかった。気がついたらいなくなっていた。
 災厄も同じなのかもしれない。しばらくはその影に怯えるだろうが、忘れた頃には姿を消しているのだ。

 災厄のあとには日常が戻ってきた。
 箱を逆さにして振ってみても、もう何も出てこない。中をのぞいても手を入れてみても、中身は空っぽだ。
 わたしが開けた箱には、希望は残らなかったのか。絶望の向こう側が空虚とは、そりゃあ
わたしだって真っ白になるわけだ。それではいかにも救われないが、いかにもわたしらしい。
 ぼんやりした頭でパンドラの仕打ちを嘆きながらふと思い至る。
 災厄のあとには日常が戻った。いや、日常が残った。
 そうだとしたら、日常こそがほんとうの希望なのかもしれない。

(きれいごとを言って自分をなぐさめてみても、散らかった部屋は片付かない)

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