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勉強嫌いな私が東大に来た理由|憂鬱日記

「なんで東大を目指したの?」

とは、たまに訊かれる質問である。

多くの東大生はきっと、

社会の役に立てる人間になりたい。
自分自身の高い社会的地位収入のため。
純粋に高度な教育を受けたい。
勉強が好きで、一生懸命やってたら東大に来た。

こんなところだと思う。

私は残念ながら、

社会の役に立つことに関心はない
高い年収も社会的地位も望まない
高度な教育にもぜんぜん興味がない
加えて、
小学生の頃から普通に勉強が嫌いだ。

オタク気質なので、好きなものについて調べるのは好きだ。
好きなものに関することなら寝食も忘れて調べ上げるし、
覚えたくなくても覚える

でも勉強というか、
算数・国語・理科・社会この四つは全部嫌いである。

小学生の頃は母がメチャクチャ怖かったので、
殺されたくなくて勉強していた。(可哀想)
私の両親は別居していて、兄弟は父と暮らしていたので、
家の中では母との人間関係が全てだった。

私の成績はクラスで突出していたが、それは当たり前である。
他の子とは違うのだから。

何が違う?

頭のできが違う? 勉強時間が違う?
そうじゃない。

覚悟が違うのだ。

皆は成績が悪くても、お咎めなしか、ちょっとがっかりされるくらいだし、
勉強している子は、自分の将来とか、先生に褒められたいとか、
そんなところだろう。

私はが懸かっている(と当時は思っていた)。
テストは戦争だった。
あまり書くと本当に心配されそうだけど、
体罰とかも普通にあった。

あと、私は経済的に恵まれていた。
家の収入自体は、日本の世帯年収の中央値くらいで、
大して高くはなかったが、
私の母は教育熱心で、あらゆるお金を教育費に注ぎ込んでいた。
だから家には、エアコンテレビもなかった。
平成の中流家庭でありながら、昭和の3Cがなかったのだ。
もちろん旅行なんか行ったこともない。
(それは家族仲のせいもあるが。)

家庭の支出のうち、食費が占める部分をエンゲル係数といい、
教育費が占める部分をエンジェル係数というらしいが、
我が家のエンジェル係数は日本一だったんじゃないだろうか。

そんな環境だから小学生の頃は、勉強しないという選択肢を考えたこともなかった。

なぜ私の親(というか母)が、ここまで教育にこだわったのか。

娘に良い大学に行ってほしかったから?
娘にお金持ちになってほしかったから?
娘に高い社会的地位を手に入れてほしかった?

ふつうはこの辺の理由を思い浮かべるだろうし、
私も当時はそう思っていた。

ママは私に良い大学に行ってほしいんだな。

と思っていた。
母は貧困家庭の出身で、苦労して高校を出た人なので、
私には同じ苦労をさせたくないんだろうと思った。

とにかく大学に行ってほしんだろうと。

ところが実際は、そういうわけでもなかったようだ。
それを中学生になってから知る。

私が中学生になった頃、母は完全に、
「教育ママ」であることに飽きた

小学生の頃は、ママ友との繋がりが深く、
ママ友と会うたびに子供の成績表を見せ合い、
父母会ではママ友たちの前で先生から褒められ
たくさんのママ友から、

うちの子もアサコちゃんみたいに出来が良かったらなあ

とうらやましがられて、母は鼻高々だった。

だから「教育ママ」としてのモチベーションを保っていたが、
中学校に入るとそういうママ友同士の交流はなくなる。

それで母は「教育ママ」であることに飽き、
私の成績に興味を示さなくなり、
学期末の成績表にさえ目もくれなかった

小学生の頃は、
成績表でオールAじゃなかったら、
一つでもBがあったら、
家が壊れるぐらい怒っていたのに。
中学生になると、そもそも成績表を見ない
母は成績に興味がない。
お勉強? 何それおいしいの?
こんな調子である。

私が勉強していると、母は、
「たまには外で遊びなさいよ」
まともなことを言い、
私が医者になりたいというと、
医者はキツイからやめたほうがいい
といい、あげくのはてに、
女の子が高学歴でもしょうがない
とまでいう始末である。

もうビックリである。

母の教育熱心ぶりは、ただのマイブームだったのだ。

その頃になると普通にエアコンも買ったし、
テレビも買ったし、人間的な生活を送った。
家に帰ったら勉強しないというか、ペンを持つこともなかった。

小学生の頃に勉強していたおかげで、
私は偏差値の高い私立中学に通っていたので、
皆そこそこ勉強が好き真面目だったし、
勉強できて当たり前という空気感があった。

でも私は学校に心から馴染むことはできなかった。
中学生になって自我もはっきりしてきて、

成績とかどうでも良くね?

と気づいてしまった。
だって、成績が悪くても、誰にも殺されないし。
ヒステリーを起こされることもないし。

私は、性別とか関係なく、
学歴とかしょうもないと思った。

勉強できて何になる?
良い大学に行って何になる?
大企業に勤める? 官僚になる? 学者になる?
国連事務総長になって世界を救う?
それで幸せになれるのか?

そんなことのために、
数学だの英語だの、クソつまらないのに一生懸命やれと?
そんなことより、好きな音楽を聴くほうが楽しいし、
スポーツできるほうがカッコイイし。

気がつけば落ちこぼれ
中高一貫だったので、高校はエスカレーター式に進学したが、
私の成績は最底辺だった。
先生に呼び出され、
「次も同じ成績なら、留年だぞ」
と言われたこともあった。

さすがに高校留年はしなかったけど、
授業はほとんど理解できなかった。
というか、聞いてなかった。

学年トップの優等生から、先生に呼び出されるほどの問題児に転落。
そこで気づいたことがあった。
問題児になると、先生の目が変わるんだな。
友達の目は変わらないけど、大人の目は変わる。
常にバカにされている感じだ。

いちばん悔しかったのは、
小論文を書いたとき、あまりにも出来が良すぎて、
「おまえに書けるわけがない。誰に書いてもらったんだ?」
と先生に言われたときだ。

うるせえ。

私は文才があるんだよ。
好きなものには詳しいんだよ。
数学の定理も覚えてないし、
理科も社会もからっきしだし、
英語もHelloくらいしか言えないからって、

小論文とは関係ないだろうが?

勉強ができないと、人として軽く見られる
その事実が本当に悲しかった。

だから簡単に言えば、それが悔しくて、
東大に行けばバカにされることはないと思い、
その先生も反省して謝るだろうと思い
(結局そんな展開にはならなかった)、
勉強して東大に行くことにしたわけだ。

見返してやるっ!

ってやつである。

でも、簡単に言えばそうだけど、
もうちょっと正確にいうと、そういうことじゃない

私は、
「勉強が得意かどうか」
というクソしょうもないものさしで、
他人にジャッジされることにウンザリだった。

小学生の頃にちやほやされたり、
母が成績表を見せびらかしたり、
中学生・高校生になって勉強しなくなり、
とたんにバカにされるようになったり、

全部ウンザリだった。
勉強が得意かどうかで、
人(というか子供)の価値を決めるな!

と叫びたかった。

でもそれを勉強できないまま言ったら、
負け惜しみとか、
勉強しない言い訳とか、
言われるじゃん?

だから東大に行けば、
声を大にして、さっきの言葉を叫べると思って、
勉強することにしたのだ。

でもいざ東大に行ったら、
思っていたのとはちょっと違った

私が、
「成績で子供をジャッジするな」
と言っても、

勉強できるからそう言えるんでしょ?
おまえだって学歴社会の恩恵を受けてるくせに何?

と言われ、

あげくの果てには、東大生というだけで、

「人を学歴で見ている」
「勉強できない人をバカにしている」

という最も思われたくない人物像を、
勝手に押し付けられちゃう始末である。

違うってば。
私が一番嫌いなキャラなの、それ。
学歴厨きらいなの、私。

東大生は勉強が得意な集団だから、なおのこと、
他人を勉強でジャッジする。そういう環境である。

うーん、頑張る方向をミスったかも。
でも、でも。
じゃあ、どうすれば良かったの?

もちろん、勉強させてもらえる環境に生まれついたこと、
衣食住に困らなかったこと、
学費を払ってくれる親がいること。

本当に感謝している。

そういう環境が用意されない子供がいる状況。
教育格差。
どうにかしなきゃいけない。

これは完全に別の問題なので、別の記事で書く。

とにかく一連の出来事で私が学んだことは、
自分が「おかしい」と思う社会的な価値観に出会ったとき、
それに反論するために、
その価値観に迎合することは、あまり意味がないということだ。

「勉強できない人はダメ」

という価値観に対し、
反論するためにまず「勉強できる人」になろうというのは、
結局は相手に気に入られようとする行動に過ぎない。

反論するには、ただ反論するしかないのだ。
「負け惜しみ」と言われようが、
「言い訳」と言われようが。
「恩恵を受けている」と言われようが。

傷つかずに反論する方法はない。

私が何をしようとも、
相手は結局、私の至らない点を見つけては、
私の反論を封じ込めようとするのだから。

これは容姿についても思う。
美人が優遇される社会はおかしい
とブスが言えば、
ブスの負け惜しみ」と言われるが、
それで頑張ってキレイになったところで、
同じことを言えば、
美人である恩恵を受けてきたくせに
と言われるだけなので、

キレイになることに意味はない。

この容姿の話、ルッキズムの話は、また別の記事で書きたいと思う。

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