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クリスマスの夜、小学生の兄弟に夜更けに酒を買いに行かせる泥酔親

父が死んだ直後に経済面で苦しくなってた母から、12月になって「うちにはもうサンタとかプレゼント制度とか無いから。サンタが居ないのも元々知ってたでしょ?」とふいに言われた。

そこまでは「まぁ、残念だけど仕方ないか〜」くらいに受け取った。引っ越してきてからお手伝いさんもハウスキーパーさんも居なくなった。朝ごはんは無しか、あっても適当な菓子パン、結構な温室育ちから急にビニールハウスの外に放り出されたような環境の変わりっぷりが、「お金が無く、時間も無く、子供のためだけに何かしてやれる余裕が完全に無くなった事実」を雄弁に物語っており、小学4年生の中でも特段頭の悪い自分ですらある程度察して納得するのに十分だった。

そういう苦い諦めと共に迎えたクリスマス当日、連れ込んだ男と同居してるおじと母の3人が夕食後の晩酌でベロベロに酔っ払い、母が、小4の自分と小3の弟に「ワイン切れちゃったからさぁ、あんたら一緒に買ってきてよ!何でも良いから〜!いいじゃん、いいじゃん!おつかい!」とまるでいつもそうしているかのように要求してきた。

初めての要求だ。何かの聞き間違いかと思った。外はすっかり暗く、時間もいつもなら寝るか寝る準備をしている9時頃だ。雪は降ってないけどシャレになってないほど寒くて、早く温かい布団に包まれにいこうとしていた矢先だった。

それに「大人達が大人達だけで盛り上がっている=相手にされない=寝るまでなにもしなくていい」と、これまでそうだったように、今日もてっきりそのパターンだと思っていたから。プレゼントが無いだけのクリスマスを過ごして寝るだけだと思っていた。

「お酒買ったことないから分からないし…」などという小さな抵抗も空しく強引に酒代を押し付けられて、渋々弟と寝巻きの上に外着とコートと羽織って準備をした。

寒い暗い夜道を歩く。町並みは静まり返っている。時折やんちゃな声がまだ眠ってない家から聞こえてくる。弟とそれを聞いてより疎外感と惨めさを感じた。コンビニに着いたら着いたで唐突に視覚と聴覚が賑やかさに晒される。クリスマスの店内ソングと陽気な飾りつけとクリスマス用の売れ残りケーキ、サンタのキャラクターが居るような亜空間じみたコンビニでそれらを横目に真っ直ぐ酒コーナーに向かった。

所狭しと並んでる酒コーナーの種類の多さに驚きつつ、端から端まで眺めて早く用を済ませて帰りたくて目を皿にして酒瓶に目をやる。こんな事もっと大人になってからするものだと思っていた。ワインだけでも複数の種類があった。どれを手に取ったらいいか分からない。そもそも親がどの酒を好んで常日頃飲んでるかなんて小学生は興味が無い。

少し迷った果てにただ着いてきて横にいる弟に
あえて「どれだと思う?」と聞いてみる。
「わかんない…」と返って来る。
うん、そうだよね。考えたこともなければ
関心も全く無かったような世界だ。

きっと世の小学生の
大半が酒については
「自分とは関係の無い世界だ」
と思って過ごしている。

自分達も同じだった。
見たこともない色とりどりのラベル。
賑やかなポップ、大小様々な形の瓶。
「ワイン買ってきて」「何でも良いから」
としか聞かされなかったから
赤ワインと白ワイン、どちらを
買えばいいのかすら分からなかった。

弟と悩み抜いた末に白ワインを選び、
凍えながら重たい酒瓶を割らないように
慎重に持って帰って渡した。
上機嫌そうな母の顔がビニール袋の
中身を見て一瞬で曇った。

「ハァ〜?普通こういう時は
 赤に決まってんだろ…白かよ…白とかお前ら…
 ホント気が利かないというかさぁ…笑」と
開けながら呆れるように文句を言われた。
そんなの分かるわけが無いよ。
プレゼントどころか、お礼の一つも無かった。

いつだって私等は問題児。
酒で言葉も振る舞いも雑になった
大人に心なく投げかけられた言葉を
今でも一言一句覚えている。

生きる活動に使わせていただきます