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"アートセラピスト"になるには?

「アートセラピストになるのなら、海外留学すべきですか」
「アートセラピストになるにはどんな資格が必要ですか」

yumitを立ち上げて、アートセラピストという肩書きで活動を始めてから、何度もいただいてきたご質問です。

実は、yumitへのお問合せは、クライエントさまだけでなく、アートセラピーそのものに興味のあるかた、実際にアートセラピーを行っているかたからのものも結構多いのです。特に「イギリスでのアートセラピーについて知りたい」というご要望が多いように感じます。

そのような目的でのオンラインセッション、SVもよくお受けしています。

同じ興味を持つ方々からのお問合せ、セッションのご予約は大変嬉しいのですが(アートセラピスト同志の繋がりが出来ることも嬉しいです!)、あまりにたくさんいただくので、私の方で前もってまとめておいた方がいいなと思いまして。

今回は、上記のようなご質問に対するお返事をまとめてみました。



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1  海外留学“すべき”ということはない


まず最初に、私は、「アートセラピストになるために海外留学することは、必ずしも必要でない」と考えます。ご質問いただいた皆様にもそのようにお返事しています。


・日本にも優れた先生がたくさんいる

なぜなら、日本国内にも優れたアートセラピーの先生はたくさんいらっしゃるからです。
私は日本芸術療法学会に参加させていただいていますが、アートセラピーを実践し、研究している素晴らしい先生方に出会うことができました。
日本芸術療法学会でもアートセラピーのトレーニングコースを提供していますし、民間の団体でもいろんな資格・研修制度を立ち上げています。ご自身の目指すアートセラピーのイメージに合わせて選ぶことができると思います。

・日本人ならではの感覚
もし、日本でアートセラピーをしようと考えておられるのであればなおさら、日本のアートセラピーを学ぶのがいいのかなあと私は思っています。私はイギリスでアートセラピーを学んで、結局日本に帰ってきて日本でセッションをしているわけですが、やはり国民性というか、イギリスの人と日本の人とでは、アートに対する感覚がかなり違うなと感じています。(これは長い話になりそうなので、詳しくは別のnoteで書きますね)
日本の人の方が奥ゆかしいというか、アートという媒介を使って自己表現するのに準備がいるように思うのです。USやUKで学んだ手法で日本の人にアートセラピーをする時は、その“差”をしっかりと理解し、配慮することが必要だと思っています。

・偉人たちの本に学ぶ

遠く離れた海外に行かずとも、手に入る情報はたくさんあります。留学しても授業ではまず課題図書を読み込んでくるよう言われたりするので、それと同じ本を読んで学ぶことで、背景や理論、事例なんかはかなり理解できると思います。原著を読むのは骨が折れますが、英語を学ぶいい機会にもなります。もちろん日本にも名著がたくさんあります。私は中井久夫先生の古い著書を読むのが大好きです。

・実践に学ぶ、クライエントに学ぶ
アートセラピーは、“言葉にできないもの“を扱うことが多いので、なんと言っても実践から学ぶことが重要です。あなたがもし、既にアートセラピーを実践する立場にいるなら、一番の先生はクライエントです。こんなこと言うとアレですが、私はどんなに偉い先生よりも、患者さん、クライエントさんから学ぶことが多かったし、今もそう思って学び続けています。ケースの答え、問題解決の答えは、教科書のどこにも書いてありません。スーパーヴァイザーでさえ知り得ません。目の前のクライエントさんご自身の中にあると私は思っています。


2  資格にこだわりすぎなくていい


これはすごく個人的な私の意見なので気をつけてほしいのですが、私は、そのセラピストがどんな資格を持っているかよりも、「クライエントさんの幸福に資するセッションを行えるかどうか」の方がずっと大切だと思っています。“実力“とも言えるかもしれません。

これまで、「民間の資格しか持っていないのですが」「本格的に学んだことがないのですが」というアートセラピストさんからたくさん問い合わせをいただきました。皆さんとても向上心が強く(わざわざ私のセッションを受けるくらいなので)、実際にクライエントさんや生徒さんを抱えて、意欲的に活動されていました。利用者さんの様子や声も聞かせていただきましたが、とても価値のある活動をされていると感じました。なのでその通りにお返事しました。また、法律的に見ても、資格がなくとも「心理カウンセラー」を語ることに問題はないのですよね。

逆に言えば、資格を取っただけで臨床経験を積まないセラピストもたくさんいると思います。

私自身は日本では公認心理師、臨床心理士、臨床美術士の資格を取りました。イギリスではBAAT(British Association  of Art Therapist)という団体の認定した大学院のコースでトレーニングを受けました。それは、自分の臨床家としての能力に自信がなかったからです。自分のやり方が正しいのかどうか、自分がクライエントさんたちに提供するものが十分かどうか、確信が持てず不安だったからです。イギリスに行ったのも、「自分には修行が足りない」と思ったから。

でも結局資格を取ったからといって、満足できるものではなかったです。よく言われることですが、資格は通行許可証みたいなものに過ぎません。特定の場所で働くことを許されるというだけです。それを持ったままどこにも行かなければその人は専門家でもなんでもありません。

ただ、資格がないということは、更新のための研修や臨床経験のチェックもないということなので、ご自身で志高く保っていられることが重要になってくると思います。


3 海外でアートセラピーを学ぶ意味


それでも海外でアートセラピーを学んでみたい、というかたには、もちろん留学をお勧めします。時間もお金もかかるし、大変なこともたくさんありますが、私自身は行ってよかったと思っています。後悔したことは一度もありません。

留学に対してイマイチなことばかり書いてしまったので、最後にメリットを挙げてみようと思います。あくまでも私個人の経験からですが。

・すべてが修行・糧になる
言語の違う国で一人で暮らす。まずは暮らしに慣れる。しかも大学院に通う。お金もないので稼ぎながら学ぶ。母語でない言葉でカウンセリングをする。アジア人としての差別を経験する。治安の悪いエリアで生き延びる。0から友人を作りコミュニティに入っていく。スーパーヴァイザーを探す。そういう全てが、大変ですが、糧になります。(人生初の鬱も経験できました)

・マイノリティとして扱われる経験

上記と似てますが、未知の場所で少数派として扱われる経験は、クライエントさんの苦悩を理解する上でも役に立っているなあと感じます。「誰も自分をわかってくれない」「自分だけがみんなと違う」「うまく意思疎通できない」など。私のいたロンドンはいろんな人種のごたまぜの街だったのでそこまで浮かなかったですが、学校のコースや病院では唯一の日本人でした。

・アートの力を実感する

これは特に、コースでのグループセッションや実習先で。「言葉でうまく表現できないとき、アートが助けてくれる」ということが数えきれないほどありました。火事場の馬鹿力とでも言うのでしょうか。なんとかしてこの人と心で繋がりたい、理解したい、力になりたい!という強い思いをアートが媒介してくれる感覚は、留学中に何度も、強く実感できたように思いますし、それが今の臨床にも生きていると思います。

・人と出会う、世界が広がる
あとはもう人との出会いに尽きます。私はとにかく人に恵まれました。コースで教えてくれた先生、臨床を指導してくれた先生、個人分析の先生、十人十色のクラスメイト、そして素晴らしいクライエントさんたち。私の凝り固まった小さな世界を思い切り広げてくれました。現地で生活されている日本人の方々との出会いにも救われたし、勇気づけられました。

・街に恋をする、街の美に触れる
これは、一見関係ないようでいて、すごく大きなことでした。私は最初から、留学するならロンドンと決めていました(行ったこともないのに!)。候補を色々考える中でロンドンという街にいちばん惹かれたからです。
世界最大級の美術館、博物館、まわりきれない程たくさんのギャラリー、美しい建造物、デザイン性に優れたショップ、自然豊かな幾つもの公園、オペラにミュージカル。3年弱住んで、私はすっかりこの街に惚れ込んでしまいました。またヨーロッパの他の国へのアクセスも抜群で、本当にたくさんの国に行き、いろんな街でアートに触れることができました。「いろんな表現・作品に触れる」ということは、アートセラピストをする上でとても重要だと思っています。そういう意味でも“どこで学ぶか“ということは大切だったと思います。




長くなりましたが、今回は

「アートセラピストになるのなら、海外留学すべきですか」
「アートセラピストになるにはどんな資格が必要ですか」 

といったご質問にお答えしてみました。
読者さまの中でもし他にもご質問ありましたら、可能な限りお答えしていきたいと思っているので、TwitterのDMやコメント欄にメッセージ頂けたら幸いです。

最後までお読みいただいてありがとうございました。
それでは、また次のnoteでお会いしましょう。

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