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【アートノトお悩みお助け辞典】頁4.撮影・配信・SNSに必須の権利知識に関するQ&A

第一線で活躍する各分野の専門家にご協力いただき、芸術文化活動に役立つコラムや情報をお届けする「アートノトお悩みお助け辞典」
今回は、法務講座「撮影・配信・SNSに必須の権利知識」に寄せられたご質問について、講師を務めていただいた大橋卓生(おおはし・たかお)先生にQ&A方式でご回答いただきました。どなたも知っておいて損はない、役立つ知識をお届けします!


はじめに

私が講師を務めた「芸術文化の担い手のための法務講座2023 第3回『撮影・配信・SNSに必須の権利知識』」では、事前から多くのご質問をいただきました。例えば、「演劇公演において、美術等のプランナーが自身の記録用に舞台写真を撮影し、その写真を自身のWEBサイトやポートフォリオで公開しようとした際、契約時点でプランナー自身による写真撮影やプランナー自身の利益のための公開、利用に対する許諾を結んでいなかったため、主催として掲載許可をだすことができなかったことがあった。一般的にはどのような文言を契約に盛り込むことで、これが可能となるか。」という質問がありました。こちらの回答は、アーカイブ動画と講義資料をアートノトが配信・配布しています。ぜひ受講いただければと思います。
この記事では、講座当日に時間の都合によりお答えできなかった質問から抜粋してお答えしています。

Q&A

■ 幼児が幼稚園で聞いた絵本の物語を、夢で見たり、または自分で思いついた話と誤認して親に語り、その様子を親が撮影してネットで公開した場合、著作権はどうなりますか?

▶ 幼児が語った物語に、過去にその幼児が聴いた絵本の物語の創作的な表現が含まれているか否かがポイントになります。
▶ 物語(文章)の創作的な表現は、背景事情や人物像の具体的な描写や具体的なセリフの流れといったところに認められると思います。
▶ その幼児が聴いた絵本の物語を細部まで記憶しており、それを再現した場合、親がその物語を撮影することは、元になった絵本の物語の複製ということになります。この時点では、家庭内で行われていることと思われますので、私的複製として著作権侵害の問題は生じないものと思われます。
▶ 撮影した動画をネットで公表することは、私的複製の範囲を超え、元になった絵本の物語の著作権(公衆送信権)の侵害が問題となります。
▶ 物語の大まかな流れや短い決め台詞は、著作権では保護されないアイデアであったり、創作的な表現にあたらないとされることが多いと思います。したがって、物語の大まかな流れ短い決め台詞を覚えている程度で、それを元に幼児が夢で見た話(自分で考えた物語)を交えて話すような場合は、元の著作物の創作的な表現を使用しているとはいえないと思われます。

■ 自分が撮ったリアル映像にBGMとして音源を使う場合にもシンクロ権が問題になるのでしょうか?

▶ 音楽は、①曲と歌詞の著作権、②音源の著作隣接権(実演家の著作隣接権・レコード製作者の著作隣接権)で保護されます。
▶ シンクロ権の問題(JASRAC等著作権管理事業者が管理していない権利の取扱)は、①曲と歌詞の著作権の話になります。JASRACが管理する外国楽曲を、ご自身で撮影した映像のBGMに使用する場合、権利者と直接許諾料の交渉をする必要があります。
▶ 音源を使用する場合は、シンクロ権とはいいませんが、音源の著作隣接権を有する者(通常はレコード会社)から許諾を要することとなります。
▶ ただし、家庭内で個人利用する場合は私的複製として許諾なく行うことができます。

■ 映画の中で小道具として既製品のペットボトルを使用し、「そこのカルピス取って」というような固有名詞(商品名)を含んだセリフを使う場合、許諾が必要になるでしょうか。

▶ ご質問で問題となりうる権利としては商標権です。
▶ 商標権は、その商標(商品名等)を有する者が、自己の商品と他者の商品とを消費者等に区別して認識させるものです。商標権の侵害が問題となる場合としては、他人が無断で商標(商品名等)を使用して自分の商品を商標権者が販売している商品であるかのように売り出す場合です。
▶ ご質問の場合は、その映画をカルピスを製造販売している会社が制作・公開しているものとして「カルピス」の名称を使用していませんので、商標権者からの許諾は不要です。

■ 日本の法律はパロディに厳しいとのことですが、コミケなどの同人誌カルチャーは寛容かと思います。あと、オマージュと主張した場合でも、許諾は必要でしょうか?

▶ オマージュであっても、無許諾でも著作権侵害に該当しないとされる著作権制限規定(私的複製や引用など)に該当しない限り、著作権(複製権/翻案権)の侵害となりますので、原則として許諾が必要です。
▶ コミケなどの同人誌カルチャーは、原作の著作者・著作権者が権利侵害を主張しないという範囲で成りっているといえます。

■ 歌ってみた動画をYouTubeにアップロードするため、既存の曲のトラックを自分で制作する場合、編曲禁止とありましたが、どこまでが編曲の範囲なのか教えていただきたいです。例えば、オリジナルの音源にない新しい楽器を追加したトラックにすることはできないのでしょうか。

▶ 著作権法上の「編曲」は、二次的著作物を創作する行為として規定されています。二次的著作物とは、オリジナルの著作物の単なるコピーでなく、オリジナルの著作物をベースとしてオリジナルの著作物の創作的な表現を感じ取れるが、新たな創作的表現も加わっている著作物です。
▶ 上記の意味で編曲に該当するか否かは、明確に線引きできるものではなく、また、日本においては裁判例もほとんどありませんので、ケースバイケースで判断せざるを得ません。
▶ オリジナル音源にない新しい楽器のトラックを追加することで、オリジナル音源の創作的な表現を改変し、新たに創作的な表現を加えた二次的著作物に該当するかどうかを検討することになります。歌詞のある楽曲は、メロディがあり、基本的にメロディがメインの創作的な表現となると考えられます。歌ってみた動画で、原曲とは異なる例えばアコースティックな楽器のみやラップのみでアレンジして歌っているものを多くみかけますが、メロディ部分に改変がないため、問題視されていないのではないかと思われます。

■ 作詞家や作曲家が、音楽出版社に著作権譲渡して管理委託することが多く有ると思いますが、音楽出版社は著作権等管理事業者にならなくても、管理委託を受けられるのでしょうか?

▶ JASRACなど著作権等管理事業者は、法律上、権利者(作詞家・作曲家)から管理委託を受けて著作権を管理し、利用者に定額で利用許諾をし、権利者に利用料を分配しています。
▶ 音楽出版社は、音楽著作物の利用開発を図るために著作権の管理を行います。その利用開発から得た利用料を権利者に分配します。要するに、音楽出版社は、管理する各楽曲を様々なメディアで利用されるようプロモーションを行います。
▶ JASRACなど著作権等管理事業者との違いは、まさにこのプロモーションを行う否かに大きな違いがあります。JASRACなど著作権等管理事業者は、管理楽曲の利用について使用料規程を設けて広く利用に供していますが、管理楽曲のプロモーションは行いません。
▶ 以上のように音楽出版社は、法律で定める著作権等管理事業を行うものではありませんので、特段、著作権等管理事業者の登録を要しません。しかしながら、音楽出版社は、権利者から契約に基づき楽曲の著作権譲渡(通常期間限定)を受け、その楽曲を利用開発する義務を負うことになります。音楽出版社は、権利者の立場になりますので、多くの場合、その楽曲をJASRACなど著作権等管理事業者に管理委託をしています(管理委託方法にバリエーションがあり、音楽出版社自身で管理する部分と著作権等管理事業者で管理する部分を選択することが可能です)。


執筆者プロフィール


大橋卓生(おおさわ・たかお)[パークス法律事務所 弁護士]
大学法卒業後、プロモーターを志して株式会社東京ドームに入社するも、管理・法務畑を歩むこととなったことをきっかけに弁護士を志し、2004年に弁護士登録。現在、パークス法律事務所にてスポーツ法・エンタテインメント法を専門とする法律家として音楽や映画、スポーツなどコンテンツ関連の法律問題などに従事するとともに、日本スポーツ法学会の理事、NPO法人エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワークの理事や公益社団法人日本学生野球協会の理事を務める。

芸術文化の担い手のための法務講座2023

“著作権”にまつわるさまざまな場面で、戸惑いや曖昧さを経験したことはありませんか?
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第1回 芸術文化のための著作権入門
第2回 アーティストのための契約必須知識
第3回 撮影・配信・SNSに必須の権利知識
第4回 どこまで似れば侵害なのか


東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」
アーティスト等の持続的な活動をサポートし、新たな活動につなげていくため、2023年10月に総合オープンしました。オンラインを中心に、弁護士や税理士といった外部の専門家等と連携しながら、相談窓口、情報提供、スクールの3つの機能によりアーティストや芸術文化の担い手を総合的にサポートします(アートノトは東京都とアーツカウンシル東京の共催事業です)。