見出し画像

#4 「男性だからこう女性だからこう、という世界観に囚われずに自分を表現したいものは何でも使っていくという自由さがある」 トークセッション/カイトさん

カイトさんプロフィール


**********************************

現在は就職活動はせず、自分の夢に向けて、フランスの国立ナント大学で語学留学をしているカイトさん。

自分のセクシュアリティを自認したのは高校2年生の頃。それまでは、自分の恋愛対象は女性だけだと思っていたが、自分の恋愛感情は男性にも向くことを自覚した。現在はゲイとして生きていらっしゃる。

小さい頃から、女の子が好むキャラクターが好きで、他の子とは少し違った彼は、それが原因でいじめを何度も経験してきた。

しかし彼は自分の居場所を見つけるために、光に手を伸ばし続ける。

SNSコミュニケーションやLGBTQコミュニティでの経験を経て、内側から発光する彼はとても美しい。

でも、自分が少年期に経験した苦くて苦しい時期があったのはもちろんのこと。

今どこかで同じような思いをしている子たちに「僕がここにいるよ」と伝えるために、YouTubeやinstagramを通して自分の経験やアドバイス、人生観をシェアしている。

**********************************


トークセッション


カイトさん(以下カ):皆さんこんにちは。ワタナベカイトと申します。スライドを作ってきたので、軽く自己紹介しますね。

僕は1999年東京都で生まれました。青山学院大学の地球社会共生学部に通っています。主に発展途上国の経済とか、サステナブルディベロップメントの勉強をしています。本来ならば現在4年生なのですが、今は休学中です。バイトは留学するのでやめてしまったんですがGUの渋谷店で働いていました。将来の夢は大学を卒業してキャビンアテンダントとして働くことです。性格はマイペースだけど、その分最後に追われる心配から焦ったりするところがあります。趣味は友達など、新しい繋がりを作ることです。ダンスと旅行が大好きです!大学に入ってから今まで、バイト代をはたいて19カ国に行きました。旅行では、メディアや教科書には書いていない本当のことを知ることができたり、現地で新しい人と繋がれたり、自分を成長させてくれるところがあって、お金以上の価値があるなと思って、これに大学生活をかけていました。

Chisato(以下C):はじめまして!自己紹介ありがとうございます。今日はよろしくお願いします!19カ国って凄いですね!大学に入学してからですよね?すごい。去年はコロナで海外には行けなかったんじゃないんですか?

カ:去年は11月からヨーロッパにいました。でも全部バイト代なので貯金が全然ないです笑

C:そうなんですね!めちゃめちゃ行動的ですね!それで、今はシンガポールにいるんですか?

カ:そうです。今はフランスに行くためにシンガポールで次の飛行機を待っています。昨日日本を飛び出しました。

C:地球社会共生学部の学生ということは、社会課題についても勉強されていたんですか?

カ:そうですね。大学2年の時にタイかマレーシアに留学に行かないと卒業ができなかったため、タイに行きました。フィールドスタディと言って社会実験を行いました。街の人にインタビューをしたりとか街や国の実態を調査して日本に戻っても研究発表をしたりしていました。タイには半年行っていました。

C:そうなんですね、長いですね。

C:それではカイトさんのセクシュアリティはどの属性にあたるんですか?

カ:僕はゲイに当たります。

カ:中学生までは、ストレート(シスヘテロ)と言う立場でした。
高校に入ってから違和感が出始めて、いきなりゲイになったわけではなくて、一旦バイセクシュアルになりました。その頃は彼女もいたし彼氏もいましたね。

C:えっ同時期じゃないですよね?

カ:もちろん別の時期です笑

C:ご自身のセクシュアリティについて、違和感を覚えたきっかけはあったんですか?

カ:うーん…はっきり気づいたのは大学ですね。でも、それまでは、自分は他の人とさまざまな観点で違うなと思っていました。例えば、ストレートの男性はゲームが好きだったりスポーツでも野球やサッカーが好きだったりしますよね。でも僕はテニスやダンスの方がすごく好きでした。
ダンスは女性がたくさんやっているんですね、高校の時はダンス部で、総勢200名くらいいたんですがその中で男性は僕1人だけでした。その中でもよく馴染めていました。普通の男の子だったら馴染めなくて辞めちゃうと思うんです。でも僕は女の子のゴシップの話や大人っぽい話がすごく好きで、そういうところについていけたんです。

それで、高校1年までは彼女がいました。でも高校2年生くらいから自分に違和感を感じはじめて、自然とLGBTの人たちがいることを知って、LGBTQ+の同世代の子たちと繋がるようになっていって、どんどん世界が広がって、彼氏もできたりLGBTQ+の友達ができたりして、自分がどんどん広がっていった感覚でした。

C:その人たちとは、何かのコミュニティに参加することで出会えるんですか? 

カ:街の中を歩いていたり、学校の中にいたりしても、誰がゲイなのかバイセクシャルなのかわからないじゃないですか。だから、この出会い方に偏見を持つ人もいるかもしれませんが、SNSでコンタクトを取り合うんです。Twitterで検索をかけると同じ仲間の人たちがたくさん出てくるから、同世代の人をフォローして会ったり、またその友達の友達と会ったり。それでどんどん輪が広がっていくという感じでした。ゲイ同士というか、LGBTQ+コミュニティはそうやってコネクションを広げていく人が多いと思います。Twitterのプロフィールに、G(ゲイ)とか、B(バイセクシュアル)とか書いてあるんですよ。そして結構僕たちは学年を気にするんですよ。だから平成11年生まれだったら、「H11」とちゃんと書いてあって、身長や体重なども細かく書いてあります。例えば165センチ56キロだったら、「165/56」という感じで笑

そこで友達を見つけていくんです。たぶん知らない人からすると新鮮な世界だと思います。

C:なるほど!全然知らなかった世界でした!

周りのゲイやバイセクシャルの人もそうやってつながっていくんですか?

カ:基本的には、Twitterで交友関係を築いて、18歳以上になったら新宿二丁目で夜に集まって会話をしたりします。二丁目の中には、マクドナルドみたいな感覚で立ち寄れるカフェもたくさんあるんです。そこではお酒も出ないため高校生なども集まれるので、Twitterでは会えない人たちとも会うことができました。そこでネットワークが広がりました。

C:そうなんですね。では大学ではゲイとして生きていたんですか?


カ:女性を好きになれる心はあったので、大学1年生の秋まで彼女がいたんです。でも、彼女から性的な営みを求められたときに自分が100%の気持ちで反応できなくて、男性と性的な営みをしていた方が自分の素を出すことができるなと実感したんです。女性を好きになれるけど、性的な場面になったときにこのままずるずる自分に嘘をついているのは良くないし、相手を傷つけることにもなるとも思いました。いい言い方をすれば葛藤なんですが、これを大人になってもやっているんだったら、今けりをつけようと思い、ゲイとして生きることを決めました。

C:なるほど。じゃあお付き合いしている時はなんとなくちょっと違うなと思っていたんですか。

カ:そうですね普段は大丈夫なんですが、性的な場面になると自分の気持ちがついていけないということがよくあって引っかかっていました。それで決心して別れたと言う感じです。別れた時は自分のセクシャリティについては相手に言っていませんが。そこからは女性とはお付き合いはないです。

C:今はセクシュアリティにおける葛藤は落ち着いているんですか?

カ:はい、落ち着いています。思い出を振り返ると引っかかることがたくさんあったんです。小学生の頃に配られるお道具箱に入っていた色鉛筆で自分の指にネイルをしたり、当時男の子ではムシキングが流行っていたのですが僕は全く興味がなく、セーラームーンやプリキュアの方が好きだったり。ずっとセーラームーンが変身するときの仕草を真似したり、幼稚園でもおままごととか先生ごっこが好きだったりしました。普通の男の子がするような遊びをしていないという感じです。

C:それは自分の内面のせいだと考えるなど、違和感を感じたりしましたか?

カ:いいえ、僕は自分が普通だと思っていて、その時はおかしいと思っていませんでした。でも他の(ゲイの)友達は自分の中でモヤモヤして傷ついていたりした事があったそうです。でも僕は鈍感なのか、これが普通だと思っていました。自分のセクシュアリティに後から気づいたことも関係している

かもしれません。ちなみにゲイ/レズビアンの人の50%くらいの人は、生まれてからすぐに自分がゲイ/レズビアンだと気づくと言われています

C:人によってもそれぞれなんですね。

カ:はい、全然違います。

C:大学生の時に自分はゲイだと気づいてから、周りの人、友人や家族にカミングアウトはされましたか?

カ:僕のスタンスとしてカミングアウトは大きなイベントではないと思っています。来たる自然なタイミングがあれば、ちょろっとすればいいかなと思っています。
僕は友達には伝えていて、家族にはまだ1人か2人かしかしていない状況です。なんで友達にはカミングアウトしたかというと、僕が大学生になってバイセクシャルからゲイになったことで心の中がすごく晴れて、吹っ切れたんですね。お酒は弱いんですけど2丁目に行くようになって、クラブなどで、同じ境遇を抱えている仲間や、上の世代の大人の人たちと話すようになって、いろんなアドバイスを聞くようになったんです。そこで僕は、「ああ、ここでなら自分の素を出せる、この世界にいていいんだ」と分かるようになりました。ここにいる人たちがこんなに認めてくれるんだったら、この自分の居場所や自分の存在を友達に認めてほしいと思って、(友達からすると)そんなに大した事じゃないだろうと思い切って友達には言うようにしました。

C:ご友人の反応はどうだったんですか?

カ:「類は友を呼ぶ」ではないですが、高校の頃から向こうは向こうで気づいていたそうです。「ゲイの友達が欲しい、周りにいないの?」とか、「早く言ってよー、あはは」「まぁ気づいてたけどねあはは」という感じでした

C:お友達はラフな感じの反応だったんですね。

カ:そうですそうです。だからそこまでこのセクシュアリティに対して否定的な意見を聞いたことがないです。カミングアウトする前も後も。

C:家族にカミングアウトをするのが一番難しいと思う人が多いと聞いたことがありますが、カイトさんはご家族とお話しをする事はありましたか?

カ:実は僕の叔父がゲイなんです。2丁目でクラブの朝帰りに始発電車に駆け込んだとき、座った席の向かい側に叔父がいて、カミングアウトしたわけではないんですが強制的にばれてしまったんですよ笑

家族は両親と弟2人の5人家族なんですが、彼らへのカミングアウトはあんまり考えていないです。そんなにビックイベントでもないと思っているので、いつかタイミングがこればいいと思っています。

僕は将来的に結婚したいし子供も欲しいので生涯付き合いたいと思えるパートナーができたときには伝えようかなぁとは思っています。だからカミングアウトというかたちでドカンと伝えるのではなく、何かのセットとして伝えたいです。それでいいかなと思っています。

カミングアウトは僕にとって大きいことではないし、自分の性別がおかしいとは思っていないし、ある種の個性だと思って生きているので、それを不安だなぁとか思ったりした事は無いです。でもある種のタイミングとなるきっかけが必要だと思っています。

C:今は叔父以外には知られていないんですか?

カ:いやー、言っていないんですが多分ばれています。笑 ネイルしたりとか、喋り方とか手振りに特徴があるんです、LGBTの人たちって。僕のお父さんお母さんは音楽関係の仕事をしていて、普通にLGBTの人たちと関わることがあるので、たぶん心の中に秘めていると思います

C:そうなんですね。ちなみに叔父さんとはお話しすることになったんですか?

カ:そうですね、本当に家族のようにお話しすることが増えました。父親と母親には話せないこと、相談できないことがたくさんあるので…将来の不安とか家族関係とか。

叔父は結婚していて、フランス人のパートナーとパリに住んでいます。

去年の11月、僕はフランスに行って、パリでお店をやっている2人の手伝いをしたり、そのパートナーの人の実家のクリスマスパーティーや年越しを一緒にしたんです。そのなかで、男性同士でも家族になれる家族観を体で感じてきました。途中で猫が死んでしまったりとかいろんなお別れがあったんですが、そのときはふたりで抱きしめあって泣いていたりとか。「家族ってこういうもんなんだなぁ」「性別関係なく、男女のカップルと本当に何も変わらないんだな」と勉強になりました。ふたりから直接的なアドバイスももらいました。

C:おじさんはご家族にご自身がゲイである事を公表していていたんですか?

カ:彼は小さい頃から自分は他の人たちと違うなぁと思っていて、初めからゲイの自認があったらしいです。彼は今50代後半なので、僕らよりもSNSやネットの情報が全然なかった時代なので、20歳とかになるまで自分のセクシュアリティの存在が分かっていなかったそうです、自分は世界で1人だけの病気で本当に自分だけなんじゃないかというのを感じていたそうです。

でも、ある時に気づいたそうです。コンビニで売っているマガジンを見て。今からすると考えられないんですが、昔はマガジンの中に恋人募集というものがあって、そこに同性愛者の恋人募集をしていますというページを見て、自分は1人じゃないんだと気づいたらしいです。でも本当にそれまでは自分とおすぎとピーコしかいないんじゃないかと思っていたそうです

そこで2丁目に行くようになって自分の世界が広がったそうです。そしてそこで、今のパートナーに出会ったそうです。

C:そっか、、SNSが発達してない世界って大変ですね。フランスの今のパートナーの方は当時は日本にいて出会ったんですか?

カ:その方は日本でファッションの先生をやっていて、日本に25年ぐらい住んでいたんですけど、たまたま2丁目のバーで叔父と出会って、その後お付き合いしたそうです

そして付き合って3年くらいで僕のお父さんとお母さんに伝えたそうです。僕のお父さんとお母さんはセクシュアリティの多様さに寛容なのですぐに受け入れられたそうですが、僕のおばあちゃん(叔父のお母さん)は古典的で、最初は理解してもらうのが大変だったそうです。今は別に平気だそうですが。

C:今パートナーの方と叔父さんは結婚されてるんですか?

カ:はい。フランスでしています。そもそも日本では同性婚ができなくて、叔父は日本国籍の人なのでそのまま日本に滞在できるけど、パートナーの人は労働ビザで日本にいました。日本にいるときは一緒に住んでいるだけで法律上は結ばれていませんでした。でも2年前にフランスに移住して結婚したという経緯です。

フランスは同性で結婚できるし、婚約関係よりちょっと下のゆるい方法もあります。パートナーシップ制度みたいなのがあって子供の親権などはよくわからないけど、それでも同性婚することができます。

彼らは教会でキスをする、いわゆる普通の結婚のプロセスを踏んでいます笑

C:じゃあもうおじさんはフランスにずっと住めるんですか?

そうですね、ほぼ永住権っていう感じですね。

でもフランス語がしゃべれないので、フランス政府が用意したフランス語の授業に参加しないとビザが下りないらしいです。

C:じゃあ叔父さんの影響っていうのが大きかったんですね。

カ:大変大きいです。僕が行くところはナントなのですが、叔父とパートナーが住んでいるのはパリなので、パリに着いてからは2週間ぐらいお世話になるつもりです。

C:そうなんですね。ありがとうございます。

C:ところで、セクシャルマイノリティであることで困ったことはありますか

カ:初めてお会いした新しい人に出会ったときに「彼女いる?」と聞かれるときですかね。初めて会う人にカミングアウトするのもおかしいし、「彼氏がいる」と言うのもおかしいなと思って。
僕がストレートであるという前提で話されるとき、その受け答えをしないといけないというのに困りますね、、どう返したらいいのかわからないです。かといって嘘をつくのも嫌だし。聞き方の問題は変えてほしいなと思っています。

C:初対面でカミングアウトするのはやっぱりおかしいですよね。受け入れてくれる相手かどうかもわからない段階で。「彼女はいない」と答えるしかないですかね、、

カ:すごく濁しますね。

C:それは日本で多いんですか?

カ:はい、海外では彼女がいるかとかボーイフレンドがいるかとか、まずそんなことはあまり聞かれたことがないです

C:まず、個人的なことですもんね。

カ:個人的なところだから日本人はそういうところで敏感なのに結構問い詰めてくる人多いじゃないですか。

C:ああ、私も昨日ありました。はじめましての人に彼氏がいるか聞かれました。それって必要なの?って思います

カ:うーん、聞きたい気持ちはまだ分かるんですが、聞き方を「好きな人がいる?」「パートナーいる?」「恋人いる?」ふんわりした聞き方がいいです。性別をドカンと置くのではなくて。

C:なるほど、たしかに。

カ:あとは、僕はゲイで心も男性なので問題は無いんですが、トランスジェンダーの友達は行政手続でF(女性)とM(男性)しか書いてなくて、戸籍上の性別と心の性別のどちらに丸をつけたらいいのかがわからないと困っていました。

C:なるほど、、

カ:それ以外は、今のところ障害があるというわけではないです。

でも、将来的なもっと大きな面で言うと、もし僕がパートナーと法律上結婚できないうえに国際カップルだとしたら、コロナ禍だと国境が開いていないため彼氏と会うこともできないんです。普通に法律上で認められている男女間の夫婦たちはビザを持っているから日本に会いに来れるんです。同じ愛なのに、愛し合う性別が違うだけで会えたり会えなかったりする。

C:それはだいぶ大きいですね。やってられませんね、、

カ:コロナ禍じゃなかったら飛行機で移動すればいいだけの話なんですが、今は国境が閉まってしまっている状況なので、海外から日本には入れないんです。それはとても悲しい。僕らがまだ認められていないんだなと感じます。

C:とても問題ですね。では、逆に自分のセクシュアリティで良かったなと思った経験はありますか?

カ:ストレートの人たちから見たらどう感じるかは分からないんですが、snsを通じて学校・会社以外の人たちと、垣根を越えて繋がれることです。
自分と趣味が合う人やそうじゃない人とも話したり、歳を越えた人とつながり合うことができたり、コネクションができました。
僕は旅が好きなので、ソーシャルメディアを使うと、現地のLGBTQ+の人たちとコミュニケーションを取れるんです。「海外に行った時に案内してあげるよ」「ディナーしようよ」や、「今回案内したから日本に来たら案内してね」とか、友達関係ができます。それが恋の関係になったりもするかもしれないけど。そういう、ストレートだったら味わえないネットワークづくりができるのは大の特権ですかね。

C:確かにそうですね。
LGBTQ+の共通点を生かして、色んな人とお話出来たり繋がることができて、学校や家とはちがうサードプレイスみたいになっているんですね。

カ:はい、そうです。
あとは、「ストレートの男性とかだったらこういう洋服を着ないといけない」とか「これは男の子っぽい服だからこれ以上は切ることができない」ということがあると思うけど、ゲイの子たちは自分を華やかに見せるためにお化粧したりネイルしたり洋服を着たりするんです。男性のものだけじゃなくて女性のものをうまく使ったりとか、色使いとか個性を生かした幅広い世界があるのかなと思います。
男性だからこう女性だからこう、という世界観に囚われずに自分を表現したいものは何でも使っていくという自由さがあるかなと思います。ゲイとして生きていて今はとても楽しいです。

C:いいですね。聞いていて私も楽しくなってきました。
性別っていう概念が薄いからこそ、いろんなものを自由に組み合わせたりできて、世間でいう常識みたいなものに縛られずに自分を表現することができるということですね。

カ:そうです。あと僕はアパレルのメンズフロアで働いていたんですけど、最近渋谷の土地柄もあってフェミニンな服を着たい男の子や、女性でメンズの服が着たいお客さんが来るんです。そのときに、ストレートだけど、そういう表現がしたいというお客さんに、自分が当事者だからこそうまく受け答えができるというのはいいところかなと思っています。

C:素敵ですね。男女の服をミックスした、ジェンダーレスな雰囲気の服を着る人は最近増えてきたのかなという印象がありますね。

カ:そうですね。生きてて最高です。

C:LGBTQ+シーンがメディアに取り上げられたりして盛り上がりを見せるようになったのは最近というか、そう遠くないと思うんですけど、パートナーシップ制度が導入されたところかな?と思うんですが時代の流れとともに認知が変わってきていることを感じたりしますか?

カ:小学校とか中学校の時に、自分のちょっとフェミニンな部分でからかわれたり、いじめに遭ったりすることがざらにありました。メディアに出ているトランスジェンダーの方はいつもいじられる存在というか、いじられてなんぼでお金をもらっている状況で、それが当たり前の世界で。そのしわ寄せが僕に来ていて。でも僕が高校くらいになると、りゅうちぇるさんとかけみおさんとか、いじられないで、自分の個性を出して有名になって、みんなの共感を呼ぶ存在が出てきました。「この人たちって面白いよね」というかたちで広まったので、「ゲイの友達が欲しい」「二丁目に行ってみたい」と話す人たちも増えてきたなという印象があります

C:メディアの存在や影響ってかなり大きいですね。

カ:結構大きいと思います。ストレートの人たちってLGBTQ+の人たちと関わりが持てなくて、どういうものが真実なのか、どういうことを考えているのかが伝わりにくいと思うんです。そうなると、視覚情報で入ってきやすいメディアを通してしか、LGBTQ+の人たちの情報を得ることができなくて、詳しくは理解できないと思うんです。さらに、メディアの中でいじられていると、「ああ、そうやって扱っていい存在なんだ」となってしまうんだと思います。この風潮がガラッと変わったのは、僕が高校に入ったくらいの頃だと思います。

C:確かに5、6年くらい前からかもしれませんね。メディアを目にしていて考えることや思うこと、違和感は他にもあったりしますか?

カ:LGBTQ+に対して取り上げてくれるメディアはいっぱいあるんですけど、悲観的な見方で伝えているメディアが結構多いと感じてます。「過去にこれだけ苦しい思いをしてきました」とか「心の問題を抱えています」とか、そう伝える媒体が多すぎて、「私はこれだから幸せ!」みたいな発信があんまりないんです。「今いじめに遭っています」とか、「自殺しそうです」とか、社会問題として捉えられることが多くて「LGBTQ+=暗い人たち・病んでいる」というふうに見られるのがすごく嫌です。また、そのメディアに出演する人たちが泣いているところだけが切り取られていたり。本人は本当に苦しいのかもしれないけど、苦しさをオーバーに演出して世間に見せている感じが、僕は当事者として良くないと思います。もっと明るいところも見せないと世間の人たちにリアルが伝わらないし、そういうところを最近問題だなと感じています。

C:本当にそういう苦しみを抱えていらっしゃる面もあると思うけど、そこにフォーカスし過ぎた過剰に演出が行われている面があるのも事実ですよね。暗いトーンで話が進んでいくような。いいところもあるはずなのに。


C:教育は日本で受けられてきたんですよね。子供の頃はいじめられていたとおっしゃっていましたが、どのような感じだったのですか?

カ:僕は口げんかが多かったんですが、周りでは暴力を受けていた子もいました。小学生の頃は結構酷くて、親同士で会議になることもざらにありました。C:そうなんですね。それでは、今まで受けてきた教育の中で違和感を感じた事はありましたか? 

カ:教科書でLGBTQ+の存在に触れられていたとしても、「(性同一障害)」と書いてあったことです。僕はLGBTQ+は障がいじゃないと思っています。誰が男女同士が愛し合うことが正解・正当と決めたのでしょうか。それは決まっているわけではないと思います。あとは、教科書の説明がうすっぺらかったり、端っこにしか書いてなかったりすることに違和感を感じたことがあります。

C:LGBTQ+について扱う授業はありましたか?

カ:それが、義務教育の中でも高校の中でも全くなくて、大学に入ってからやっと初めてありました。

C:そうですよね。LGBTQ+という言葉が教科書に入っていたかも怪しいです。教育の場から、偏見ではない正しい知識を発信しないと、差別や偏見を助長してしまうんじゃないかなという気がしますね。

C:今の教育についてもう少し深めてお聞きしてもいいですか?これからの時代、新しい教育の仕組みをつくっていくとなったときにどういうことが必要だと思いますか?

カ:まず、暗いイメージを払拭しないといけないと思っています。LGBTQ+当事者は授業受けている生徒の中にも絶対にいるし、暗いイメージはその当事者を余計苦しめてしまうと思うんですね。なので、生徒に当事者がいることを前提として、「あなたは1人ではない」ということを伝えてあげたいです。セクシュアリティを障がいとして扱っているのもよくないし、「もし心配事や悩みがあればここに連絡してください」みたいな情報もあればいいかなと思います。
また、小・中学生など、はやくからセクマイを自認している子の心のケアが必要だと思います。小さい子はSNSに疎いから自分の世界を広げづらいと思います。おそらく相談相手が全くいない状況なので、カウンセラー的な存在が身近にいて、傷つくことなく、自分が1人だと感じることなく過ごせるのかなと考えています。
高校生や大学生になればSNSに強くなるとは思うんですけど、それだけではなくて周りの理解も必要になってくるので、そこでいかに明るいイメージを伝えていけるかなと考えています。たしかにいじめの問題なども伝えないといけないと思うけれど、「こういう人たちが普通に生きていける世界をどうやって作っていけばいいだろう」とか、「男女関係なくLGBTQ+関係なく、よりよいいい世界を作っていくにはどうしたら良いのだろうか」などをみんなで考える必要があると思うんです。そのためには、教科書を棒読みするだけではなくて、ディスカッションを交えた、自分が当事者として授業に参加できる形式が必要だと思います。
また、今はkemioさんとか、カミングアウトしている有名な方がいると思うので、当事者の意見を授業で取りあげて、「あなたが知ってる身近な有名人で、こういうセクシュアリティや価値観を持っている人がいるんだよ」というのメッセージを、明るいイメージで伝えていった方が、当事者の僕らとしても授業を明るい気持ちで受けれるし、僕らの存在を受け入れる人たちも、受け入れれやすいんじゃないかなと思います。

C:たしかに、ただ暗記するようなみたいな扱い方だったら、授業で扱っても深い理解にはならないですよね。日本の教育は座学が中心でディスカッションの機会は全然ないと思います。自分で考えて、色々な人がいるということを受け入れる態勢が、子どもの時から習慣として付いているか付いていないかではだいぶ違うのかなと感じます。

カ:ディスカッションすることで、自分と違う意見を持っている人と関わったり、自分と違う性別の人と気軽に気楽に関わるようになったりとかすると思うんです。ただ教科書を棒読みする授業だと、他人事のように「へーそうなんだー」と流してしまう場面があるので、参加型の授業は必要なのかなと思います。

C:その点海外の学校は違ったりするんですか?いろんな国の人とお話ししてて聞いたこととかありますか?

カ:僕はタイの大学でしか海外の授業は受けたことがないのですが、しょっちゅう先生とコミュニケーションをとったり、学生同士でディスカッションをしたりしていました。1枚の紙に付箋を貼っていくとか、付箋と付箋を結んでいてお互いの意見の共有をするとか、自分の価値観の伝え方まで勉強になる授業が普通にありました。

C:なるほど、アウトプットする時間っていうのが結構あるのかな。フランスにこれから行かれると思うんですが、それ以外にもいろんな国に行かれていて日本と海外の違いを感じることはありますか?

カ:主に欧米の場合、法律で僕たちの権利がちゃんとプロテクトされている点が大きいです。結婚もできるし、子供も持てるし、普通の家庭が築ける。そういうのはとても大きいです。コロナ禍でも好きな人と一緒に住める権利が与えられて、普通の一般市民としてゲイの人にも同等の権利が与えられている。大きく言えば人間として認められているという感じです。それはかなり大きいですね。一方で、自分の個性を出す面に関しては日本の方が全然生きやすいです。日本では僕たちの権利は法律的には守られていないんですけど、男性のネイルや化粧など、自由なファッションをすることは、受け入れてくれるんです。欧米では、「男性はこういう服を着た方が男らしい」「男性がメイクする事はどうなんだろう」「髪型は自由じゃなくて上げているほうが男っぽい」とか、いろんな括りがあります。スキニーパンツを履いているだけでLGBTQ+関係の人と思われるとか。だからその点は日本の方が全然生きやすいです。

C:海外の方が逆に服装で括られることが多いんですかね。

カ:そうですね。髪色とかピアスとかタンクトップとか。とにかく個性を出せないんです。表現することが難しいというか。そういうところはアジアのほうがずっと生きやすいです


C:不思議ですね。法律では認められているのに、表現としてはハードルがあるというケースもあるんですね。

C:日本ではファッション等は自由だけど、法整備の話などがリアルになってくるとシリアスに保守的になるみたいな面があるのかな

カ:これは多分教育の問題でもあると思います。当事者が自分の身近にいないから、自分は関係ないと考えるんだと思います。「ファッションと法整備は別だよね。」「自分には関係ないし、そんな法律は本当に必要なの?」「法律まで作らなくていいでしょう」とか。

C;なるほど。日本にも欧米にも、いい面もあれば、悪い面もあるという感じですね

C:カイトさんはこれからフランスに行かれると思うのですが、どうしてフランスを選んだんですか?LGBTQ+シーンの視点から見たフランスをお聞きしたいです。

カ:フランス方がLGBTQ+への法整備がされているし、権利として認められているという前提もありますが、叔父とそのパートナーが住んでいるところしか見たことがないので、他のLGBTQ+コミュニティの人たちとは深く関わってみたいからです。実際長期間住んでみないと分からないところもあるので、そこでいかに自分が素を出せるかどうかにも興味があります。

法律的に守られている社会で生きていくためには、自分はどういうスタンスでいるのかなというのも感じてみたくて、そういうことでもフランスを選びました。

C:期間はどれくらい行くんですか?

カ:1年間です

C:帰ってこられたときに、フランス生活がどんな感じだったのかまたお聞きしたいです。楽しみです!

C:では、日本においても海外においてでも、こんなものがあったらいいなと思うものは何ですか?コミュニティー・場所・施設・制度において、お聞きしたいです。

カ:実は、LGBTQ+コミュニティの中では、ゲイの人はゲイの人たちとしか関わらないし、レズビアンの人だったらレズビアンの人としか関わらない、という状況があるんです。共生を分かち合わないといけないのに、コミュニティ内で喧嘩が起きることもあります。

コミュニティの中でうまく輪を作れる環境になってほしいです。もっと言えば、LGBTQ+の人たちとストレートの人たちがふつうに会話をして、ラフに意見を交換できるような場所がほしいです。カフェとかがいいですかね。町を歩いているだけでは、LGBTQ+であろうとストレートであろうとその人がどんなセクシュアリティか分からないじゃないですか。だからこそ、「ここにいけばこういう人たちと繋がれる」というカフェがあったらいいなと思います。
違う属性の人の意見をお互いに理解し合える場所があったらいいですよね。意見が噛みあって交差しないと、現政権の政策とか日本の一般市民の意見のモチベーションが上がっていかないし、視点のレベルアップもされないと思うので、そういう場所がもっとあればいいなと思います。さらに、それが東京だけじゃなくて地方にもたくさんあって意見の共有が活発化していけばいいなと思います。

C:たしかに、マイノリティから見えている世界と、マジョリティから見えている世界の間にある溝を橋渡しできるような場所があればいいなと思いました。
身近な友達に当事者の人がいれば、自分の友達だから自分も当事者になるし偏見なんてないですよね。私にもXジェンダーの友人がいるんですけど、その子の存在によって、自分自身の性別について考えることが多いです。セクシュアルマイノリティの方々の話を聞いているとすごく視野が広がるので、もっと色んな立場の色んな思考の人が、自由に意見を言える場所がもっとあればいいですよね。

どういう場所がいいやすいんでしょうかね。カフェやバーとか、ちょっと美味しいものをつまみながらがいいんですかね。

カ:はい。堅苦しくない、誰でも入れるような感じがいいかなと思います。

C:気軽さって大事ですよね。セクマイに関することだけじゃなくて、いろんな問題におけるマイノリティの方々とそうじゃない方々の間ってすごく空いているなと感じます。普段接する機会がないのも大きいですよね。私は、アートを通したら両者を繋ぐきっかけになるんじゃないかと思って、この活動をしている面が大きいです。今のチームでセクシュアルマイノリティについて研究しながら、どんな作品を作るのか、展示をするのか議論している途中なんですが、アートとして展示とか発信していくにあたって、こうだったら面白いんじゃないかっていうのがあれば教えていただきたいです。

カ:アートって結構幅が広いので難しいんですが、ただ絵を展示する感じだとしたら、人が集まらないと思うんです。なのでもっと気楽に入れる場所にするとか、絵と音楽を組み合わせたオープンバーだったり、アートを通して人を集めやすくなるといいですよね。

C:そうですよね。もっと私たちの中で協議して考えたいと思います。またアイディアを教えてくださるととてもありがたいです。

C:最後の質問なんですけれど、ゲイとして公表してから自信を持てるようになった出来事はありますか?

カ:「自分が1人じゃない」と感じられるようになったことが1番大きかったです。SNSや新宿2丁目で自分の世界を広げる前は、結構狭き門だなと思っていました。でもそれらの場所に行ってから、大きな輪の中で色んな世代の人たちと出会いました。特に上の世代の人たちは、今までのヒストリーや悩み事を持っていらっしゃって、「こういうことに悩んでいるのは自分だけじゃない」と分かりました。上の世代の人たち以外にも友達ができて意見交換をする中で、どんどん心が和らいでいったという感じです。一方で、「世間はこういうところで自分たちを受け入れてくれているんだ」と知ってから、「自分らしくこの世界に素を出して生きていけるんだな」と感じることができました。それを経て、よりオープンな自分になれました。カミングアウトについてもそこまで重く考えないようになったし、自分の素を認めてくれる人たちと関わればいいかなと思えるようになりました。性同一性障がいではなくて、これが自分のある種のインディビジュアリーティーというか、個性という括りを持って生きていこうと感じることができました。それで結構オープンになりました。

C:YouTubeでご自身の経験をシェアされていると思うんですが、それもいろんな人と関わるなかで発信してみようと思ったんですか?

カ:僕が中学校や小学校の時にいじめを受けていたというのもそうだし、LGBTQ+コミュニティの色んな方と関わるなかで、それぞれのヒストリーの中に過去のいじめとか孤立があったことを知って、そこには、僕が知っている人たちの中では発信しきれないものがあるんじゃないかなと思いました。YouTubeでは、コンテンツに興味を持ってくれた不特定多数の人が見てくれるので、「あなたが知らない世界の人たちがここにいるよ」「僕がここにいるよ」と伝えたくて、そしてそれが当事者であれば、「あなた1人ではない」ということを伝えたかくてYouTubeで発信しています。

C:すごくいいと思います。これからもご自身に関する発信を考えているんですか?

カ:そうですね。フランスに行くので、日本とフランスとのLGBTQ+の違いとか、僕じゃないと見ることができない目線があると思うので、それを発信していって、日本の当事者の人たちやそれ以外の人たちに分かりやすく伝えられたらいいかなと思います。日本の当事者の人たちは日本でも幸せに生きていると思うんですが、「日本では自分たちの権利が法律で守られていない」とか「ファッションで自分の個性を出せるところ」などの様々な特徴に気づけていない人も多いと思います。なので、日本の良さや海外の良さを比較しながら、現地にいるからこそ伝えられることを発信できればいいかなと思っています。


C:楽しみです。私たちもその動画を観たいと思います。今日はこれで以上になります。ありがとうございました。


____________________________________

自分のアイデンティティのこと、社会への眼差し、将来の夢。

脈々と思考がなされてきた彼の歴史を感じ取ることができるようなインタビューだった。

「生きていて最高です。」

現状を取り巻く問題に対して冷静に目を凝らしながらも、自分が生きていることを楽しむ心を忘れない彼の姿に勇気をもらった。

あなたの人生にはロールモデルがいるだろうか。

自分のロールモデルである叔父の人生に導かれるようにして将来を切り開いていく彼を見て、自分の指針となる物語を見つける大切さを思い出させてくれた。

メディアにおいて、LGBTQ+シーンが過剰に暗いトーンで演出されることへの違和感についてよく語ってくれたが、それは彼の生き方が示しているのではないか。

これからも彼の視点で発信された言葉や映像に注目したい。







____________________



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?