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地産地消で知るイタリアの食 - 2/2

毎年春にフィレンツェで開催される食の見本市「テイスト」。愛情と情熱が込められた食には、その数だけ物語があります。今年訪問して心に残った生産者を案内しています。


ラクイラ村で、大地と生きる女性達

アブルッツォ州のラクイラ村。
2009年に大地震に見舞われ、
あれから何年も経っているのに
いまだ完全に再起してるとは言えない土地。

このラクイラ村で強く逞しく、
大地とともに生きる女性に出会いました。

アーモンドの枝という意味の ラーモ・ディ・マンドルロ社。大地震の起きた10年後の2019年に設立しています。

参照:ramodimandorlo

意外に思われるかもしれませんが、イタリア人は豆類をよく食べます。

王族、豪族、大商人が飽食に明け暮れる一方、庶民達の食事は豆類が中心でした。

痩せた大地に実をつけ、良質のタンパク質を含む貴重な栄養源です。

そんな歴史を持つイタリアでは、豆文化が根付いています。

ラーモ・ディ・マンドルロでは約40年間放置されていた土地を開墾し、標高650メートルの大地にレンズ豆とひよこ豆の種を撒き、オーガニックで育て収穫した豆を販売、もしくは粉として販売しています。

粉を挽くのは石臼で
石臼を引く動力は水車です。

機械で挽くのと異なり、流れる水が動力なので速度の調整はできません。

水が流れるままに任せゆっくりと挽かれる豆。時間をかけて挽かれた豆は、機械生産では失われてしまう滋養をたっぷり含んでいます。

レンズ豆の粗挽きと細挽き

イタリアではここ数年色々な種類の豆類パスタが生産されているのも追い風になっているようで、石臼で挽いたレンズ豆やひよこ豆でパスタ類も作っています。

レンズ豆の収穫高は上々。

女社長のブルーナさんは、レンズ豆の粉で作れるレシピを研究。そして生まれたのがスナック菓子「レンティキエッレ」。

ほんの少々の砂糖を足してあるだけで、レンズ豆の香ばしさと甘さが口に広がり、ふんわり優しい味。豆の栄養分も含まれている健康的なスナック菓子の誕生です。小麦と違ってグルテンフリーなのでアレルギーの方も安心して食べることができます。

レンズ豆のパンドーロも誕生し、その名はパンレンティッキオ。

エクストラ・ヴァージン・オリーブオイルを加え、オレンジやレモンのピールとピエモンテ産のマカデミアナッツが混ぜてあります。

もうひとつ、ラーモ・ディ・マンドルロで大切な商品が「サフラン」。サフランの「赤い雌しべ」を乾燥させたものを水に浸すと、水が黄金色に染まります。中世時代は、貨幣と同じ価値で商取引されていたサフラン。

どんなに時代は移り変わっても、サフランの雌しべを摘む機械はいまだにありません。土すれすれに咲く小さなサフランの花を、咲ききらない朝に手で収穫し、雌しべを摘み取ります。約1500本の花から10グラムしか取れません。

参照:ramodimandorlo

ほんのり苦味があり、独特の香りがするサフランは、リゾットやスープに用いられ、フィレンツェではカーニバルのときに出回るスポンジケーキに使われます。

容器いっぱいの雌しべ。
どれだけの労力をかけて集められたのでしょう。

気さくでエネルギーに溢れたブルーナさんと談笑しながら、ふと頭に浮かんだことを伺ってみました。

ラクイラはトンボロが伝統工芸ですよね、ラクイラから出展されたトンボロ職人さんに去年お会いしまいした。

コルシーニ邸庭園と職人展示 2023年 n.3

シモーナ・ランニーニさん?

そう、シモーナ・ランニーニさん!

えー!信じられない!

世界共通のセリフです。

偶然の繋がり。
なんて世界は小さいのでしょう。

インスタレーションの女性アーティストと共同制作した「Punto Plastico」は、
私たちのお店に飾る予定なんですよ。

ラクイラは地震に遭いましたが、わたしたちは伝統を守るために奮闘しています。ミラノで開催された国際観光見本市にラクイラとして出展しようとしたけど、観光資料として出せるものがなにもなかったの。

信じられる? 自然があり歴史があるのに。

だけど、わたしは諦めないわ。
ラクイラの良さを知ってもらえるように
会社を運営する傍ら、観光にも力を入れるの。

頼もしいブルーナさん。

ブルーナさんに写真を撮ってもいいか尋ねたところ、

ダメダメダメ。恥ずかしいから絶対イヤ。

意志堅固なかっこいい姿から一変、少女のような姿で両手を振って頑なに否定するブルーナさん。

いつかまた再会したい素敵な女性。
ラクイラに行ってみてもいいかも。そんな気持ちが心をよぎりました。

アンチョビの雫

有名観光地アマルフィやポジターノから少しだけ南下したところに、チェターラという小さな街があります。

アマルフィといえばレモン。チェターラといえばコラトゥーラ。

漁師の町チェターラで収穫されたカタクチイワシと塩を交互に重ねて容器を満たしたら、熟成させます。発酵した頃合いをみて容器の底に穴を開けると、旨みが凝縮された雫がポタリポタリと落ちてきます。これを瓶詰めにしたのがコラトゥーラです。

今回はアマルフィ海岸よりもさらに南下したチレント海岸にある「メナイカ」社のコラトゥーラに出会いました。

「メナイカ」という音の響きが珍しくなかなか頭に入ってこないので、意味を伺ってみました。

カタクチイワシを釣るための網漁具の名前です。網目は荒く作られているので小さな魚が網に引っかかることがないの。古代ギリシャから受け継がれた漁法で、無意味に不要な魚を漁ることを防ぐことができるんです。

参照:alicidimenaica

アマルフィ海岸チェターラ村のコラトゥーラとの違いはあるのでしょうか?

製法がまったく違うわ。

パエストゥム街を堺に、上はラテン、下はギリシャの文化が根付いているの。

突然、紀元前に話が飛びました。

マグナ・グラエキア(ラテン語:Magna Graecia)は、古代ギリシア人が植民した南イタリアおよびシチリア島一帯を指す名前。ギリシア人たちが持ち込んだ古代ギリシア文化やヘレニズム文化は、エトルリア文化や古代ローマ文化に影響を与えたほか、南イタリアにはギリシア語を話す共同体が今日まで残った。ギリシア植民都市の遺跡はイタリア半島やシチリア各地に散在し、今日の大きな都市の起源となったものもある。

参照:Wikipedia

こんな感じです。

実際のマグナ・グラエキアは、ナポリより北にあるカプア辺りまで広がっていましたが、コラトゥーラの場合は、ラテンとギリシャの区切りがずっと南のようです。チレントの人たちは自分たちの先祖はギリシャ系と思っていることでしょう。

イタリア人の街意識(かつての自治国)が強いのは感じますが、まさか、ラテンとギリシャを引き合いに出されるとは。奇想天外な話しに、ワクワクです。

わたしたちは、紀元前からギリシャ人が行っていた漁法や製法を受け継いでいます。

カタクチイワシは船上ですぐに血抜きをします。沖に戻ったら塩と交互に積み重ね、重石をして圧をかけます。塩が溶け出しカタクチイワシのエキスが容器の縁まで上がってくるので、それを掬い取ります。

昔はこれをガラスの容器に入れ、7月初旬から8月一杯、太陽のもとに置いておきました。

南イタリアやギリシャの夏をご存知?

真夏の太陽がじりじりと照りついて、ガラスの容器に入ったカタクチイワシのエキスの温度はお湯の沸点のように高くなります。

澱が発生するので、10〜15日ごとに容器を交換します。コラトゥーラの語源になった「コラトーレ」の意味通り、容器に「注いで」いくんです。

秋になるとエキスを火にかけ殺菌をし、濾して瓶詰めにしていました。

いまは天日にさらすことなく、工場で行っていますが、製法は昔とほとんど変わりません。

かつては地中海全域に広がっていた製法でしたが、時間のかかる作業ですし、もっと手早い方法に取って変わられてしまいます。チレントの小さな村では、オリジナルのレシピが細々と受け継がれていますが、私たちの会社もそのひとつです。

味を試してみたいと申し出てると、

試飲したいという人は初めてよ! 小さなカップもスプーンも準備してないの。

じゃあ、どこかで調達してきますね。などと私も返答しながらスタッフのお話を伺っていたら、いつのまにか、

ほら!試飲用のカップが手に入ったわ!

どこで見つけてきたのか手の中にコップがあり、早速試飲させて頂きました。

塩でエキスを出しているので塩辛くはあるけど円やか。魚の臭みもなく、熟成されたふっくりと丸みのある味で「うまい!」のひとことでした。

冬になると食料が不足し収入も減ります。そんなとき、私たちのコラトゥーラは食卓の救世主です。

パスタを茹でても和えるソースがありません。コラトゥーラで和えることで、魚の味を堪能できるんです。どこを探しても魚は見当たらないけどね(笑)。

塩は貴重なものでした。コラトゥーラを作ることで、料理に塩を使わずに和えることができます。パンにコラトゥーラとオリーブオイルを垂らしたら塩は必要ありません。これだけで十分に美味しく食べることができます。

参照:alicidimenaica

これが私たちの伝統であり、わたしたちの土地の味です。

着色料や保存料などは一切添加していません。

マグロの瓶詰めも同じです。地元チレントで獲れたマグロを塩を入れたお湯で茹で、水気を切ったら、切って瓶に詰めて、空気に触れないようにオリーブオイルを注ぎます。

この瓶のなかには、マグロ、塩、エクストラ・ヴァージン・オリーブオイルしかありません。

わたしが4歳のときに、おばあちゃんが教えてくれた製法でいまも作っているんですよ。

Nonna faceva cosi e noi facciamo cosi.
おばあちゃんがしていたのと、同じことをしているだけです。

シンプルで印象的な言葉が心に響きました。

抱腹絶倒必至のイタリア映画。
南イタリアへようこそ!(Benvenuti a Sud)
この舞台になっているのが、この会社のあるカステッラバーテです。
内容をちょっと覗けるようなのでリンクを貼っておきます。

ナポリ語は言葉なので、Unescoの世界遺産に登録されました。 「南イタリアへようこそ!」と言う2010年の映画をご覧下さい。

Posted by 南イタリアへようこそ on Sunday, April 12, 2015

写真で訪れる見本市「テイスト」

見本市「テイスト」の模様を写真でお伝えします。「食」っていいですね。みんな楽しそう。

玉ねぎを、

じっくり煮込んでいます。

ンドゥイヤ。「ン」で始まる言葉がこの世にあるなんて。カラブリア州の唐辛子がたっぷり入ったサラミ。辛いだけでなく肉の甘みもあり、ビールと最高の相性。

プーリャ州のサラミ類。マルティーナフランカという村の、豚の首あたりのサラミ「カポコッロ」には、葡萄を火にかけて煮詰めたヴィンコットという液体に漬け込んでいて、ほのかにワインの味がするのが特徴です。

ヤギさんのチーズ。大量生産の市販チーズはミルクが高温殺菌されるけど、中小会社では低温殺菌のみのところもあり、深みのあるチーズに仕上がります。Latte Crudoが低温殺菌の意味です。

パルミジャーノチーズ。左から84ヶ月、60ヶ月、30ヶ月、18ヶ月。84ヶ月はまるで鰹節のような、深みのある味でした。

パッケージングにも力を入れている商品を多く見かけます。

会場の至る所に、ウォーターブースがあり、無料で水を提供してくれます。塩いの食べて、甘いの食べてを繰り返していると喉が渇くので、ありがたいサービスです。

ケージの中に入って、にわとりと触れ合おうという趣旨らしい。

そして、卵のデイスプレイ。

投稿に間が空いてしまいましたが、お立ち寄り下さりありがとうございます。そして最後までお読み下さりありがとうございます。

フィレンツェ滞在の日程がたまたまテイスト開催日と重なるときには、訪問されることをお勧めします! 美味しい食材に出会え、素敵な生産者に出会え、いまのイタリアに出会える場です。


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今日はイースター。
イタリア語でパスクア。
Buona Pasqua !
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