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イタリアの女性達とモダンデザイン。 Ferragamo Museum n.2

ワンダ・フェラガモ夫人へ捧げる展示会より。 n.2
Donna Equilibrio - Museo Ferragamo a Firenze

フィレンツェのフェラガモ本店の美術館で開催されている、Donna Equilibrio「女性のバランス」。

1955年からの10年間の女性達にフォーカスをしている展示です。この時代は、そのまま、2018年に97歳で他界されたワンダ夫人が生きた時代でもあります。

ワンダ夫人は、靴作りでフェラガモの名を世界に知らしめたサルバトーレ・フェラガモの奥様です。

夫が60歳で亡くなり、39歳の若さで、突然に夫の意思を引き継ぐようになります。ビジネスウーマンなどという言葉とはほど遠い、良妻賢母が美しとされたいた時代。

一筋縄ではいかない環境で、夫の事業を引き継ぐのは容易なことではなかったでしょう。

時代は、変わり始めている。

当時のイタリアにはそんな空気が漂い始めました。

ワンダ夫人がフェラガモ社を牽引し始めた時と同じくして、イタリアの女性達が少しづつ社会に進出しはじめます。

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🌿ガエ・アウレンティ(Gae Aulenti)デザインの美しいランプ。

参照:Donna Equilibirio HP

ガエ・アウレンティ。どこかで聞いた名前。記憶を辿っていくと、オルセー美術館を改修した人物であることを思い出しました。

建築や照明だけでなく、インテリアや工業デザインもやってのける、粋な女性です。

イタリア国立21世紀美術館Maxxiにて。
オルセー美術館の改修設計図。
イタリア国立21世紀美術館Maxxiにて。

調べたところ、イタリア文化会館エキジビションホールで3月12日(日)までガエ・アウレンティの展示会をしているようです。もう少しで終わってしまいますが、興味のある方は、ぜひ!

https://iictokyo.esteri.it/iic_tokyo/ja/gli_eventi/calendario/2022/12/mostra-aulenti.html

🌿イタリアを代表する赤色のリキュール酒、カンパリ。

カンパリ(Campari)の広告では、アンジョラ・マリア・バルビッツォーリ(Angiola Maria Barbizzoli)夫人を描いてます。

カンパリ社の創立者であるダヴェデ・カンパリ氏の甥と結婚したアンジョラ・マリア・バルビッツォーリ夫人は、夫に先立たれ、1954年にカンパリ社を引き継ぐことになります。

女性実業家として、イタリア共和国労働騎士勲章(Cavaliere del Lavoro)を受賞した最初の女性のひとりです。

🌿ジュッサーニ姉妹(Sorelle Giussani)。姉妹で漫画家。

参照:Donna Equilibirio HP

まさか彼女達が、というか女性2人が、イタリアで、今も人気のある漫画「Diabolik(ディアボリック)」の生みの親とは知りませんでした。

参照:Donna Equilibirio HP


🌿 家電会社ブリオンヴェガ社

夫に先立たれることで、夫人達が事業を引き継ぐことが多かったのか、ブリオンヴェガ社でもリーナ・ブリオン(Rina Brion)夫人が社長となり、息子のエンニオと会社を継承します。 

1960年代のイタリアは、クリエイティブな工業デザイナーが次々と誕生した時代。

ブリオンヴェガ社では、積極的に彼らとコラボレーションし、ヒット商品を次々に生み出します。

写真の家電は、2人のデザイナー、マルコ・ザヌーゾ(Marco Zanuso)とリチャート・サッパー(Richard Sapper)の手によるもの。

左から、ドニー(Doney)、ラジオ・クーボ(Radio Cubo)、アルゴル(Algol)。1960年代のイタリアのデザインって、なんて可愛いのでしょう。

リーナ・ブリオン夫人も、イタリア共和国労働騎士勲章(Cavaliere del Lavoro)を受賞した最初の女性のひとりです。

実業家、作家、デザイナー、画家、医師、弁護士と、それまで男性が主流だった世界へ果敢に飛び込む女性達もいれば、パートタイムの仕事をする女性達も増えていきます。

🌿タイピスト。タイプライターを使い、文字を打ち込む仕事です。

オリベッティ(olivetti)社のタイプライター。olivetti 82とLettera22。

キーボードが色付けされていて、イタリアらしいデザイン。中央のキーボードは、もちろん鮮やかなイタリアの赤。

Lettere 22は、オリベッティ社が開発した、持ち運びできるタイプライター。

アルファベットは全部で21文字。その文字を打つ機械を1とし、22という名前が命名されたそうです。

🌿スーパーでのレジ打ちも、忘れてはなりません。

いまでもフィレンツェでは生協(Coop)と双璧をなすスーパーマッケット、エッセルンガ(Esselunga)。1957年の写真です。

参照:Donna Equilibirio HP

いまはバーコードを当てるだけで「ピっ!」と料金が表示されますが、昔はすべて手打ち。リラの時代だから、900とかの数字もあります。「1」の数字は一番下にあって打ちづらそう。


🌿売春はイタリア政府公認の活動でした。この展示会で始めて知りました。

1958年2月20日に、正式に売春制度が廃止されます。

参照:Donna Equilibirio HP

イタリアの法令には、提案をした人物の名前が掲げられますが、売春制度廃止を訴えたのは、政治家アンジェリーナ・メルリン(Angelina Merlin)。メルリン法令(Legge n.75)と呼ばれます。

1948年にイタリアの元老院 (Senato della Repubblica)に選出された初めての女性です。

参照:https://ilbolive.unipd.it

共和国のすべての国民は、法の前で平等です。差別があってはなりません。もちろん、そこに性別もありません。
Tutti cittadini della repubblica sono uguali davanti alle legge senza distinzione.  anche senza distinzione di sesso.

メルリン議員の提案が、どれだけ世間に論議を引き起こしたか、簡単に想像することができます。メルリン議員は酷評されますが、そんな罵声は馬耳東風。

そしてついに1958年、385票(賛成)対115票(反対)にて、案が決議されます。


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それぞれの分野で活躍する女性達、かっこいいです。経済成長期にあり、モノづくりの生産数も増え、少しづつ中流家庭が豊かになり始めた時代。

戦中戦後の過去から、未来への希望が見えはじめた、大きなエネルギーを感じます。

1950年から1960年にかけて、家庭内の仕事も大きく変化していきます。戦後の三種の神器『白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫』がイタリアでも普及し始めます。

それにともない、新しい素材のキッチン道具が開発され、女性を対象にしたCMもテレビで流れるようになります。

次回は、当時のイタリアらしいキッチン用品や、いまもイタリアのパスタを代表するバリッラ(Barilla) 社の広告などを、一緒に見てまわりましょう。

最後までお読みくださり、
ありがとうございます。

次回もフェラガモ美術館で
お会いできたら嬉しいです!

Ferragamo Museum - Donna Equilibrio
目次
60年代のイタリアの女性たち。n.1

https://note.com/artigiana_arte/n/n137042902342
イタリアの女性達とモダンデザイン。n.2(本編)
https://note.com/artigiana_arte/n/n34d61c765e84
キッチンとイタリアン・デザイン。n.3
https://note.com/artigiana_arte/n/n6b59f8407354
ドレスと、宮殿と、フェラガモと。n.4
https://note.com/artigiana_arte/n/n49e69f7e7488
サルバトーレと、靴と、フェラガモと。n.5 - 番外編
https://note.com/artigiana_arte/n/n5f51dc9d1183

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