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金属の相変態と熱処理について

前回は鉄鋼材料の内部組織を見てみることをテーマに書きました。温度次第で内部組織(結晶構造)が様々と変化することがポイントです。

今回は引き続き鉄を対象にして、温度変化に伴う内部組織の様子を詳しく見ていきます。また、機械的特性を安定させる「熱処理」についても触れていきます。

金属の結晶構造の変化

以前にも触れましたが、金属の内部組織が変化することを「変態」と言います。その中でも「同素変態」は同一元素のまま結晶構造が変化することを言います。

常温における鉄の結晶構造は体心立方構造であり、フェライトと言います。フェライトは約900度までは安定状態ですが、これより温度が高くなると面心立方構造のオーステナイトに変化します。さらにオーステナイトは約1400度までは安定状態ですが、それ以上の温度から融点までの間は再び体心立方構造に戻ります。

このように結晶構造が変化することが同素変態に当たります。変態する温度を変態点と言います。鉄の熱膨張率は温度と共に増加しますが、結晶構造が変わると熱膨張率自体も変化します。

この他、フェライトは780度で強磁性体から常磁性体になります。この変化は原子中の電子状態だけが変わる磁気変態と呼んでいます。

一方で、フェライトは高圧になると稠密六方構造の形に変化します。この変態は高圧下で変態点が低温側へ移動する現象です。超高圧・超高温・超真空などにおいて特殊な加工を行う場合に有効です。

鉄の結晶構造の成長

金属が溶けている状態では金属原子はある自由に動き回ります。温度が下がると原子熱運動は低下し、原子同士が結びつき合うようになります。凝固すると共に、原子群が規則正しく結合を始めます。この単位格子または核を中心に結晶が成長します。

成長する方向は最初にできた核の方向で決まり、ぶつかり合うところで留まり、そこが結晶粒界となります。凝固速度が速いほど最初の核がたくさん出現するため、結晶粒は細かくなります。

結晶粒内は樹の枝のようになっており「樹枝状晶:デンドライト」と言います。最初に凝固した樹枝状の部分には炭素やその他の元素の濃度は少なく、後で凝固する樹枝状間には、逆にこれらの元素や不純物が濃縮されています。このように添加した合金元素や不純物が、不均一に分布していることを「偏析」と呼びます。

熱処理の効果について

通常は鉄鋼材料は圧延や冷却を工夫して、引張強度や延性などを目的に応じて保持するようにしています。焼入れとは、金属を所定の高温状態(金属組織がオーステナイトになるまで加熱)から急冷させる熱処理です。

機械的特性(強度や延性など)の調整のために焼入れ処理した鉄のマルテンサイト組織は、硬いけど脆い状態となります。この焼入れ組織に粘り強さを与えるのが焼戻しです。基本的に焼戻し温度と呼ばれる時に保持する温度を変更することで、両者のバランスを取ります。

延性を重視する場合は高温で焼戻し、強度を重視する場合は低温で焼戻します。このとき、内部には変態や熱膨張による内力が発生します。この内力は焼入れ後にも残るため、亀裂の発生など機械的性質の悪化を生じさせることがあります。

この内力を除去あるいは軽減させるのが、焼戻し処理です。材料の大きさや加熱時間にもよりますが、500度程度の焼戻しでほぼ除去でき、200度程度の焼戻しで半減できます。

他には、焼なましは残留する内力の除去、粗大化した結晶構造を戻します。焼ならしは材料を所定の高温まで加熱した後で空冷することで、結晶構造を均一に微細化させて、機械的特性の改善を図る熱処理です。

おわりに

今回は鉄を対象に内部組織の変化を具体的に見ていきました。熱処理の効果についてにも触れました。

これらの性質は実際に目で追うことができない領域でもあるので、イメージをつけて理解することが、金属の性質を深く知ることにつながると思います。

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