見出し画像

連続体力学に基づいた物理計算の話 -8-

物理学では「質点」「剛体」「連続体」という3種類の物体の扱い方が存在します。

特に、連続体は物体の質量、運動(並進と回転)、そして形状変化(変形)を考慮します。質点や剛体はより扱い方を簡略化した存在と言えます。

こうした物体の変形を扱う学問として「連続体力学」があります。連続体力学は固体だけでなく、流体の分野にも適用可能な古典的学問でもあります。

前回は変形勾配テンソルの中でも「ひずみ」のテンソルを扱いました。特に解析の方面で使われる「微小変形理論」の話題にも触れました。

今回は変形における「速度」に関して扱います。ラグランジュの表記とオイラーによる表記のそれぞれの意味について、詳細に深掘りします。


物質時間微分について

連続体力学において物理現象を追うためには、物質点における物理量を見ることが重要です。例えば、物理現象を捉える際に物理量の時間変化率に注目する方法がありますが、それは物質点を固定した時間微分することを指します。

これは「物質時間微分」または「ラグランジュ微分」と言います。この表記は特別な形を取りますので、演算操作から異なることに注意します。

物質時間微分は変形勾配テンソルにも適用できます。これは、速度ベクトル場の物質座標における勾配を意味します。つまり、物質点の近傍の微分形式(ベクトル)に作用して、速度の微分形式(ベクトル)に変換する2階テンソルです。

速度勾配テンソルについて

変形勾配テンソルの物質時間微分は、現在配置における速度ベクトル場の物質座標に関する勾配を表します。一方で「速度勾配テンソル」という別の表現があり、これは現在配置における速度ベクトル場の空間座標に関する勾配を表します。

速度勾配テンソルは、現在配置の空間座標(位置)の近傍における微分形式(ベクトル)を速度の微分形式(ベクトル)に変換する2階テンソルです。

速度勾配テンソルの対称部分を「変形速度テンソル」と言い、反対称部分を「スピンテンソル」と言います。

変形速度テンソルは、2次形式が空間座標(位置)の近傍における長さの2乗の時間変化率を表す2階対称テンソルと言えます。一方で、スピンテンソルは回転を意味するので、回転速度増分と空間座標(位置)の近傍の変化量(増分)と直交関係であると言えます。

これらの関係から、有限ひずみ(テンソル)についても物質時間微分を求めることができます。その結果は上記の通りです。

力学問題と運動の扱い方

一般的な固体問題(変形)を扱う場合、変形に伴いながら徐々に固体の性質が変化することを意識する必要があります。また、変形の過程(履歴)も重要であり、常に同じ物質点に着目した状態で履歴を保持する必要もあります。

つまり、固体問題では物質表示を前提とした「変形勾配テンソル」が重要な意味を持つと言えます。

一方で、流体問題は流体の周囲の速度ベクトルなどの状況次第で性質が決まります。つまり、時々刻々と変化する速度ベクトル(分布)が重要であり、空間表示を前提とした「速度勾配テンソル」が重要視されます。


出典:Advanced Airbagsimulation using Fluid-Structure-Interaction and the Eulerian Method in LS-DYNA(A. Haufe, K. Weimar, U. Göhner, 2004 Engineering)

固体問題を有限要素法として扱う場合は、基本的に節点や要素は変形を伴いがら移動します。つまり、解析領域は物質座標系を基準に作成されて、固体の境界と要素の境界は一致します。これは「ラグランジュメッシュ」と呼ばれます。

解析領域を空間座標系を基準に作成する場合は、同じ解析領域内に分布する関数場を直接扱います。これは「オイラーメッシュ」と呼ばれます。なお、固定された要素内に存在する物質点は時々刻々と変化します。

固体問題は物質座標を独立変数として扱う方が有利であるため、ラグランジュメッシュを使います。一方で、流体問題は空間座標を独立変数として扱う方が有利であるため、オイラーメッシュを使います。

おわりに

今回は物質時間微分の話を中心に進めました。連続体力学では固体と流体の両方を扱いますが、違いは「物質表示」「空間表示」のどちらを基準にするかです。

この違いは有限要素法をはじめとした解析手法の場面では顕著に現れます。自分も思い返せば、結果処理などで上記に挙げた差異を適宜使い分けていました。

■連載完結と参考書籍紹介

今回の連載では主に連続体の基本的な見方と、そのための事前的な基礎事項を中心に扱いました。まだまだ先はありますが、今回で一旦の区切りとします。主に使用した書籍を下記に残しておきます。

今回はこれまでとは違い、個人的な勉強のまとめも兼ねたので、文章は本書の内容を多用しました。個人的な理解の第一弾という位置付けでした。

この先の話も今後で書く予定です。その際はぜひよろしくお願いいたします。最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

-------------------------
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
-------------------------

⭐︎⭐︎⭐︎ 谷口シンのプロフィール ⭐︎⭐︎⭐︎

⭐︎⭐︎⭐︎ ロードマップ ⭐︎⭐︎⭐︎


この記事が参加している募集

数学がすき

物理がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?