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流体力学の理想形態(完全流体)の物理を知ること -11-

流体力学で理想状態のひとつに見做される「完全流体」について。連続体と仮定した場合に、流体の接線応力(抵抗力)を無視したものとして、完全流体の定義が成されます。

流体圧力を2階のテンソルで表記した場合に、圧力のスカラー量(p)とクロネッカーのデルタ(行列的な対角成分を有値にする処理)と合わせて、次のように表現されます。

$${p_{ij}=-p\delta_{ij}}$$

今回の連載では、完全流体としての物理的な特性を中心に見ていきます。

完全流体(理想流体)の非圧縮性流体について、話の終盤に入ります。前回は渦運動について、運動方程式などの基本的な力学法則を踏まえて、渦度領域を伴う物理挙動を確認しました。

今回は完全流体の渦運動の具体例として、2次元流と軸対称流に関する一般的定理の導出に取り組みます。渦の運動方程式を起点にして、解析的過程を確認していきます。


2次元流の渦運動問題

復習にはなりますが、渦度を考慮した場合(下記の右辺の第2項)を踏まえた完全流体における運動方程式は次の通りです。

$${\frac{\partial \bm{u}}{\partial t}=-\textrm{grad}(P+\frac{1}{2}q^2+\Omega)+\bm{u}\times\bm{w}}$$

こちらを積分計算することで、渦度と流れ関数を含めた形を導出します。

$${p+\frac{\rho}{2}q^2+\rho\Omega+\rho\int{wd\Psi}=const.}$$

本項では2次元流の問題を取り上げます。速度場と流れ関数について、複素関数論(正則条件)を踏まえて、次のように規定します。

$${\bm{u}=(u,v,0)}$$ , $${u=\frac{\partial \Psi}{\partial y}}$$ , $${v=-\frac{\partial \Psi}{\partial x}}$$

渦度(ベクトル)の成分は速度場に対する法線方向に限定されます。そこから、渦度(大きさ)は次のように求められます。

$${w=\frac{\partial v}{\partial x}-\frac{\partial u}{\partial y}=-\Delta\Psi}$$

本項(2次元流)について、下記に続いて具体的に解き進めていきます。

今回は限定的に「円形渦」の場合を考えます。非圧縮性で渦度が半径(a)の円の内部に一様分布するとします。流れ場を回転対称として、流れ関数を半径(r)に依存するとして、円の内部における支配方程式は次のようになります。

$${\frac{1}{r}\frac{d}{dr}(r\frac{d\Psi}{dr})=-w\;(r<{a})}$$

一方で、円の外部では次のようになります。

$${\frac{1}{r}\frac{d}{dr}(r\frac{d\Psi}{dr})=0\;(r>{a})}$$

流れ関数を特殊解として求めます。ここでは、題意から流れの内部に特異性が存在しないことを前提とします。

$${\Psi=-\frac{w}{4}r^2\quad(r<{a})}$$
$${\Psi=-\frac{w}{4}a^2(2\textrm{ln}\frac{r}{a}-1)\quad(r<{a})}$$

上記の特殊解(流れ関数)から、速度場は円周速度成分のみを有することが分かります。つまり、円の内部では一定の角速度の剛体回転が生じ、外部では円の面積と渦度(大きさ)の積に準じた循環による渦糸で流れが作られます。

先程の特殊解(流れ関数)を用いて、同関数と渦度を用いた圧力場の方程式を利用します。

$${p+\frac{\rho}{2}q^2+\rho\Omega+\rho\int{wd\Psi}=const.}$$

上記より圧力を求めると、次の通りになります。

$${p=\frac{\rho}{8}w^2r^2-\rho\Omega\quad(r<{a})}$$
$${p=\frac{\rho}{8}w^2a^2(2-\frac{a^2}{r^2})-\rho\Omega\quad(r>{a})}$$

ここから、重力が作用する場合(z軸負方向に作用すると仮定)を考えます。

$${\Omega=gz}$$

外力ポテンシャルを代入して、自由表面における圧力(大気圧)を求めます。自由表面は大気に接することから、高さ(z)をゼロとして仮定して、圧力を求めると次の通りになります。

$${p_{\infty}=\frac{\rho}{4}w^2a^2}$$

ここから、自由表面に対応する高さ(z)は次のように求められます。

$${z=-\frac{w^2}{8g}(2a^2-r^2)\quad(r<{a})}$$
$${z=-\frac{w^2}{8g}\frac{a^2}{r^2}\quad(r>{a})}$$

自由表面は渦の中では回転放物面形であり、渦の外では半径(r)の2乗に反比例した窪みを有することが分かります。このような渦を「ランキンの結合渦」と言いいます。

軸対称流の渦運動問題

次にx軸を対称軸とする軸対称流の問題を取り上げます。渦度ベクトルは方位角をなす方向に値をもつため、速度場と垂直方向(z軸方向)に成分は限定されます。このことから、軸対称流は2次元流と類似した事象と言えます。

ここで、ヘルムホルツの渦定理に基づくと、非圧縮性流体では流れに沿う形を前提とする関係式が成立します。

$${\frac{w}{y}=const.}$$

一方で、前回と同様に流体密度と同次元を有する定数を分けて、速度成分を正則条件を交えて流れ関数と紐付けます。

$${u=\frac{\rho_0}{\rho{y}}\frac{\partial \Psi}{\partial y}}$$ , $${v=-\frac{\rho_0}{\rho{y}}\frac{\partial \Psi}{\partial x}}$$

2次元流の問題では、ヘルムホルツの渦定理から渦度(大きさ)が一定値に保たれていました。圧力場に関する支配方程式は次の通りです。

$${p+\frac{\rho}{2}q^2+\rho\Omega+\rho\int{\frac{w}{y}d\Psi}=const.}$$

上記の右辺(一定値)は、いずれも流れ場全体を通じて一定です。これらはベルヌーイの定理の軸対称流に関する一般的な方程式と言えます。

次の渦領域をもつ軸対称の非圧縮流を考えます。

$${\frac{w}{y}=const.=-k}$$

また、渦度と流れ関数(正則条件)を関連付けて次の関係式を導出します。

$${\frac{\partial^2 \Psi}{\partial y^2}-\frac{1}{y}\frac{\partial \Psi}{\partial y}+\frac{\partial^2 \Psi}{\partial x^2}=ky^2}$$

上記について、半径(a)の球面と流れ関数をゼロと規定した形の特殊解(ヒルの球形渦)が提唱されています。

$${\Psi=\frac{1}{10}ky^2(r^2-a^2)}$$

この特殊解は球面の内部でヘルムホルツの渦定理が成立することを前提に、渦度が分布する場合の挙動を表します。球面上で流線に沿う速度分布は次の通りです。

$${q=(\sqrt{u^2+v^2})_{r=a}=\frac{k}{5}ay}$$

ここで、上記のような球形の渦領域がz軸方向の速度(U)の一様流の中に存在するとします。渦なし流の速度ポテンシャルは導出済みであり、球面上の速度分布は次の通りです。

$${\Phi=Uz(1+\frac{a^3}{2r^3})}$$ , $${q=\frac{3Uy}{2a}}$$

ここで定数(k)が次の通りであれば、内外の流れを与える球面上での速度分布は一致します。同時にベルヌーイの定理より圧力も一致します。

$${k=\frac{15U}{2a^2}}$$

内外の流れは球面を分離流線として、ひとつの流れ場を形成します。これを「ヒルの球形渦」と言います。これは完全流体の方程式の厳密解であり、流体運動の基本的なモードとして知られています。

おわりに

今回は完全流体における渦運動(渦度領域における流れ)について、2次元流と軸対称流を具体例として、導出過程を含めて示しました。

今回は渦度領域が変形しないことを前提としましたが、一般的に連続性を有する渦度領域は流れに対して変形を引き起こし、渦度が誘起する速度場を変化させます。

連続的な渦度分布を孤立した渦糸の集団で近似することで、渦糸系の運動論を見ることが可能です。次回はその辺を確認していきます。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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