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学生時代の研究の話 〜高専編〜

#本記事は8/17の記事を書き直したものです。

自己紹介でも書いているが、私は工業高等専門学校(高専)の出身である。この高専は5年制の学校で、高校の3年間と短大の2年間を合わせた期間に相当する。

高専には「卒業研究」という必修科目がある。5年目の最終学年で各自にテーマが与えられ、1年かけて問題に取り組むというもの。

私も1年かけて取り組んだが、さらに内容を深掘りしたいと思い、2年間の専攻科課程に内部進学した。合わせて3年間を研究活動に費やした。

3年かけての研究活動の記録。今回はその頃のことを書こうと思う。

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研究テーマについて

私の研究テーマは「軟鋼の降伏点現象に起因する不均一変形の有限要素法による解析」である。冒頭から難しい印象を与えるタイトルを出したので、噛み砕いて説明したい。

まずは「軟鋼」について。軟鋼は鉄鋼材料(鋼材)の一種で、正式には下記のように定義されている。

軟鋼:炭素含有率が約0.12~0.30%の鋼材

次に「降伏点現象」について。軟鋼の引張試験で見られる「応力ーひずみ関係」で説明したい。引張試験とは材料試験のひとつで、材料に引張力を加えることで、材料の性質を確認する試験のことである。ここで得られる応力ーひずみ関係とは、変形量に対して生じる内力の関係を表している。

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研究テーマにある「降伏点現象」とは、上の図で言うところの応力降下(上降伏点から下降伏点へ応力が落ちること)と降伏棚(応力がほぼ一定状態のまま変形が進むこと)のふたつを指している。

このふたつは軟鋼特有の現象でもあり、これらが不均一変形に及ぼす影響について調べるのが、この研究の目的である。

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研究背景について

先に説明した降伏点現象だが、現実のどのようなことに直結するのか。これを伝えない限り、研究の意味などがイメージとして掴めないと思う。もちろん、ここできちんと説明しておきたい。

この降伏点現象と密接に関係することとして「リューダース帯」の発生というのがある。局所的に内力が集中してすべり変形を起こすことが原因だが、材料の表面にシワができるなど見た目(美観)を損ねるため、問題とされている。

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こういう局所的に発生する特異な変形挙動を総じて「不均一変形」と定義する。この問題を再現するにしろ、発生しないように対策を施すにしろ、これまでは実験的なアプローチしかなかった。これでは、人海戦術など気の遠くなるような作業量が必要である。

逆に、このような不均一変形を解析上で再現できるのであれば、より効率的な検討ができるようになる。これがこの研究の目指すところである。

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有限要素法について

軟鋼を対象とした不均一変形を調べるにあたり、利用したのが「有限要素法」である。過去に説明したが、改めてここで解説しておきたい。

有限要素法を大雑把に説明するとしたら、構造物(解析対象)を小さな「要素」に切り分け、荷重領域や固定領域などの「境界条件」を加味して、各要素の変形挙動を計算するというもの。

数値計算なので、定性的な分析だけでなく定量的な分析ができる。例えば、建物を想像するとして、風圧などの負荷がかかったときに、どこに強い力がかかるかを調べることができる。また、実際にかかる力を定量的に計算することで、建物の強度として問題ないかを確認することもできる。

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上の図は、直角パイプにかかる力を有限要素法で計算した一例である。曲部内側でより大きな力がかかることが分かる。これは簡単な例だが、より複雑な形状の構造物を相手にする時に有限要素法は力を発揮する。

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降伏点現象を表した構成式

降伏点現象を物理的な観点から説明し、構成式(応力ーひずみ関係を数式で表したもの)として提案した研究結果がある。私の研究では、その構成式を導入した有限要素法の計算プログラム(このプログラムは指導教官が過去に作成した)を利用するところからスタートした。

研究活動の1年目はプログラムの理解から始めたが、非常に難解で苦労した。有限要素法の理解もそうだし、構成式をプログラムに導入した流れも専攻科過程の時間も使いながら何とか理解した。

研究成果としては、降伏点現象のモデル化の深掘り、それにより生じる不均一変形を再現・確認すること。基本的な現象確認には、円孔を有する薄板(円孔周りの不均一変形を観察する)を用いた。

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上の図では不均一変形の印象が薄い(降伏点現象を考慮しない場合に相当)。降伏点現象を考慮すると、円孔縁辺りに強い応力集中が発生することが確認できた。これにより、実現象に近い結果を積み重ねてきた。

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3年間で乗り越えた壁

研究活動の1年目は、様々なことに食らいつくのに必死だった。初めて触れる「有限要素法」のプログラムは指導教員から直にいただいたもので、今後に備えて内容をひとつずつ着実に理解するように努めた。

実際に2年目からはこのプログラムを自分がやりたいことに合わせて、自由にカスタマイズすることになる。当然ながら、プログラムの処理手順を正確に理解する必要があった。

元々はプログラミングが苦手だったが、ここでじっくり向き合うことで、苦手が自信に変わった。

また、論文を書くのも初めてであり、指導教員のアドバイスと共に何とか仕上げることができた。何回もやり直しを受けたものの、この経験が生かされてか、大学院ではスラスラと論文を書き上げることができた。

研究を通して「プレゼン」の経験も積んできた。これも初めての経験であり、指導教員からのアドバイスを受けて、しっかりとしたプレゼンに仕上げた。この経験も大学院以降でスキルとして生かされた。

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おわりに

今回は高専時代の研究について振り返った。1年目は四苦八苦することばかりだったが、ある程度理解できた状態で迎えた2年目からは、余裕をもちながら研究を進めることができた。

3年間の研究で得たことが、大学院といまの仕事に生かされている。3年間は長い時間だが、じっくりと深掘りするタイプでもある私としては、人生的にも貴重な経験をすることができた。

大学院ではまた別の研究に取り組むことになる。その辺の話も今後で書こうと思うので、お楽しみに。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。実際は非定期ですが、毎日更新する気持ちで取り組んでいます。あなたの人生の新たな1ページに添えるように頑張ります。何卒よろしくお願いいたします。

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