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流体力学の理想形態(完全流体)の物理を知ること -5-

流体力学で理想状態のひとつに見做される「完全流体」について。連続体と仮定した場合に、流体の接線応力(抵抗力)を無視したものとして、完全流体の定義が成されます。

流体圧力を2階のテンソルで表記した場合に、圧力のスカラー量(p)とクロネッカーのデルタ(行列的な対角成分を有値にする処理)と合わせて、次のように表現されます。

$${p_{ij}=-p\delta_{ij}}$$

今回の連載では、完全流体としての物理的な特性を中心に見ていきます。

前回は完全流体(自由表面問題)について、表面張力波や定在波など特殊な状況を追加することで、改めて物理を考えてみました。

今回は非圧縮性を有する完全流体の波動を扱うために「ポテンシャル流」について確認します。引き続き「渦なし」の流れを考えますが、より広義的な流体の流れを見ていきます。

速度ポテンシャルと循環定理

渦なしの条件下においては、スカラー関数である速度ポテンシャルが存在するものとして考えます。速度ベクトルとつなげて、次のように定義します。

$${\bm{u}=\textrm{grad}\Phi}$$

非圧縮性の流れを規定する領域内において、任意の閉曲線Cに沿う循環を次のように定義します。

$${\Gamma=\int_C(\bm{u}\cdot{d\bm{s}})=\int_C(\textrm{grad}\Phi\cdot{d\bm{s}})=\int_Cd\Phi=[\Phi]_C}$$

最右辺はCを一周する際の値の変化を表します。領域が仮に単連結であれば、上記の最終的な結果はゼロになります。この場合の速度ポテンシャルは1価関数と言えます。

例題として、単軸方向の一様流を考えます。流体が非圧縮性であれば、連続方程式は次のように定義されます。

$${\Delta{\Phi}=\frac{\partial^2 \Phi}{\partial x^2}+\frac{\partial^2 \Phi}{\partial y^2}+\frac{\partial^2 \Phi}{\partial z^2}=0}$$

ここで、非圧縮性流体の渦なしの場合は、速度ポテンシャルはラプラス方程式の解に相当します。ラプラス方程式は線形であるため、解の重ね合わせも可能です。上記の方程式に対する解の1次結合も解になるのです。

$${\Phi=C_1{\Phi_1}+C_2{\Phi_2}}$$

上記の一様流に対して、わき出しと吸い込みを規定します。流れの強度(m)の正負(符号)でわき出しと吸い込みが分岐します。速度(大きさ)は次のようになります。

$${q=|u_r|=\frac{|m|}{r^2}}$$

ここで、計測点までの距離がゼロになる場合(原点位置)で流速(大きさ)は発散します。ここでは非圧縮性の仮定が崩れます。非圧縮性の仮定の分岐条件のひとつとして、音速(a)を用いて次のことが考えられます。

$${r=\sqrt{\frac{|m|}{q}}{\leq}\sqrt{\frac{|m|}{a}}}$$

以上のように、流れの場における物理量の無限大に相当する「発散」は流れを表す解の「特異点」として扱われます。

2重わき出し問題

同じ強度を持つわき出しと吸い込みが近接距離に置かれている状況です。左側を吸い込みとして、右側をわき出しとします。このとき、速度ポテンシャルは重ね合わせの原理に基づいて、次のように表されます。

$${\Phi=-\frac{m}{r_1}+\frac{m}{r_2}}$$

ここで、わき出しと吸い込みの間の距離をゼロに近づけるならば、距離の2次以上の項を無視するとして、次のように近似します。

$${\Phi=m\frac{r_1-r_2}{r_1r_2}=-\frac{\mu\textrm{cos}\theta}{r^2}}$$

この極限によるわき出しと吸い込みの一対を「2重わき出し」と言います。右辺にある余弦項に掛かる係数を2重わき出しの強度と言います。

この性質を利用して多重わき出しに応用します。例えば、速度ポテンシャルの2階微分係数は「4重わき出し」と呼ばれます。

$${\Phi=\mu_{ij}\frac{\partial^2}{\partial x_i \partial x_j}(\frac{1}{r})}$$ , $${i,j=1,2,3}$$

ここで、右辺の係数は2階の定数テンソルです。4重わき出しとは、無限に近接した4個の正負のわき出し(組)と言えます。

球に対する一様流れ

一様流に向き合う2重わき出しから成立する流れを考えます。x軸方向に沿う形で一様流があり、原点に一定強度の2重わき出しがx軸の負方向に置かれています。この流れの速度ポテンシャルはは次のようになります。

$${\Phi=Ux-\frac{\mu}{r^2}\textrm{cos}(\pi-\theta)=(Ur+\frac{\mu}{r^2})\textrm{cos}\theta}$$

軸対称流においては次のストークスの流れ関数が存在します。

$${\frac{\partial \Phi}{\partial x}=\frac{1}{y}\frac{\partial \Psi}{\partial y}}$$ , $${\frac{\partial \Phi}{\partial y}=-\frac{1}{y}\frac{\partial \Psi}{\partial x}}$$

ここから、流れ関数については前者からyで積分することで、次のように求められます。

$${\Psi=(\frac{U}{2}-\frac{\mu}{r^3})y^2}$$

ここで、流れ関数がゼロになる条件はyがゼロである場合を除くと次のようになります。

$${r=a=(\frac{2\mu}{U})^\frac{1}{3}}$$

すなわち、流線はx軸および上記に示す半径の球面に沿います。この一様流と2重わき出しからなる流れは、半径aの球面を境に分断されます。外部の流れは球を通過する一様流を、内部の流れは球面内部の2重わき出しに対応します。

半径aを通過する一様流の速度ポテンシャルおよび流れ関数は、次のように表されます。

$${\Phi=Ux(1+\frac{1}{2}\frac{a^3}{r^3})}$$ , $${\Psi=\frac{U}{2}y^2(1-\frac{a^3}{r^3})}$$

また、球面上の速度分布は次のようになります。

$${q=\frac{3}{2}U\textrm{sin}(\pi-\theta)}$$

つまり、速度は面体の垂直上面において最大値を取ることがわかります。速度ポテンシャルの式から分かるように、逆方向の一様流を追加した場合は、一様流同士は打ち消し合うので、静止していた球体はx軸の負方向に運動します。

おわりに

今回はポテンシャル流れについて、主にわき出しとわき出し(単体)から見た場合の話と、球体を設けた場合の一様流問題について考えました。

球体周りの流れについては、基本的な流体力学の問題のひとつです。次回は流れから力に変換する際の話などに展開できればと思います。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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