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UXが出来ることはみんなのイメージより遥かに多い / UXデザイナー,PdM/PO,CXO,CUXOについて考える

AI(人工知能)の急速な発展により、私たちのビジネスや日常生活は大きく変わりつつあります。この変化の中で、UX(ユーザーエクスペリエンス)の重要性がこれまで以上に高まっています。しかし、UXの本質や可能性について、十分に理解されていない部分も多いのではないでしょうか。

UX(ユーザーエクスペリエンス)はUIの単なる改善ではなく、サービス全体を通じたユーザー体験の設計と最適化を意味します。真のUXデザインは、プロダクトだけでなく、企業戦略からマーケティング、セールス、オペレーションまで、あらゆる側面を包括的に考慮する必要があります。

この記事は、UXの価値をUXデザイナーとPdM,POとCXO,CUXOのそれぞれの役割から捉え直し、関係性を踏まえた包括的な解説を目指したものとなります。

「UX」とは「UI」ではない

用語確認:UXとUI

UXはサービスのすべて、UIは一部分

UX(User Experience)とは、ユーザーがサービスや製品と相互作用する際の全体的な体験を指します。一方、UI(User Interface)は、その体験の一部分であり、ユーザーが直接操作するインターフェースを意味します。

UXは、ユーザーがサービスを知り、使い始め、継続的に利用し、最終的に離れるまでの全過程を含む包括的な概念です。UIはこの広範なUXの中の一要素に過ぎません。

UIだけがUXに影響を与えるわけではない

私は、NetflixとAmazon Primeの両方に契約しています。NetflixのUIは直感的で使いやすいのに対し、Prime VideoのUIはやや複雑で使いづらいと感じます。しかし、それにもかかわらず、時々Prime Videoで映像を視聴することがあります。なぜでしょうか?それは、Prime Videoにしか配信されていない独自のコンテンツがあるからです。

この例は、UIの使いやすさだけがUXを決定するわけではないことを示しています。コンテンツの質や独自性、価格、アクセシビリティなど、様々な要因がUX全体に影響を与えているのです。

UIがUXの全てなわけじゃない

UIはUXのごく一部に過ぎない

サービスは企業の戦略に基づいて開発されます。プロダクト(アプリケーションなど)はそのサービスの一部であり、UIはそのプロダクトのインターフェースです。しかし、サービスを支えるのはプロダクトだけではありません。セールス、マーケティング、カスタマーサポート、オペレーションなど、様々な要素がサービス全体のUXに影響を与えています。

例えば、子供向けの動画アプリを開発しているプロダクトチームがいる一方で、ホラーやスプラッター作品ばかりを契約しようとしているセールスチームがいたとしましょう。この場合、サービスのコンセプトが一貫せず、結果としてUXが著しく低下してしまいます。

"UXデザイナー"を名乗るならプロダクトだけを見ることから離れ、サービスに責任を負うべきだ

"UXデザイナー"を名乗るのであれば、単にプロダクトを見てUI改善だけを行うことから脱却する必要があります。また、自分たちがUI改善しかしていないのにUXの全てを担っていると思い込むのをやめるべきです。

真のUXデザイナーは、他の領域もUXに影響を与えることを認識し、組織の全ての部門を巻き込んでいくことがサービスのUXを最適化することだと理解しなければなりません。これは、プロダクト開発から企業戦略まで、幅広い視野を持つことを意味します。

「UX」を"UXデザイナー"のキャリアから考える

UXデザイナーのサービスや企業へのUXへの関わり方を私は4つの職種で捉えています。UXリサーチャー、UIUXデザイナー、UXディレクター、そしてUXストラテジストです。最初の3つの役割がプロダクト(案件)担当者レベルであるのに対し、UXストラテジストはサービス/戦略側の上流担当者です。

一口にUXデザイナーと言っても、視点が違う

1.UXリサーチャー
UXリサーチャーの主な役割は、特定のプロダクトやプロジェクトに関連するユーザーの行動、ニーズ、動機を深く理解するための調査を行うことです。ユーザーインタビュー、アンケート調査、ユーザビリティテストなどを通じて、ユーザーに関する洞察を得ます。
2.UIUXデザイナー
UIUXデザイナーは、特定のプロダクトのユーザーインターフェースの設計と改善を行いつつ、そのプロダクト内でのユーザー体験全体を考慮します。ワイヤーフレームとプロトタイプの作成、ビジュアルデザインの制作、インタラクションデザインの設計などが主な業務です。
3.UXディレクター
UXディレクターは、従来のWebディレクターの役割にUXの視点を加えた位置づけです。特定のプロジェクトやプロダクトにおいて、UXの観点からチームを指揮し、一貫性のあるユーザー体験の実現を目指します。
3.UXストラテジスト
UXストラテジストは、他の3つの役割と異なり、特定のプロダクトやプロジェクトに限定されない、サービス全体や企業戦略レベルでのUX最適化を担当します。ビジネス目標とユーザーニーズを結びつけ、長期的なUX戦略を立案します。

これらの役割の重要性や具体的な業務内容は変わる可能性がありますが、ユーザーにとって価値ある体験を創造するという根本的な目的は共通しています。
プロダクトレベルでの細やかなUX改善から企業全体のUX戦略の立案まで、各役割が重要な機能を果たしています。

プロジェクトにおける関わり方

UXの視点をプロダクト担当者ではなくて、PdMやPOが持つとどうなるのか

PdM / POがUX視点を持つことで、サービス全体のUXが担保される

プロダクトマネージャー(PdM)やプロダクトオーナー(PO)がUXの視点を持つことは、単なるプロダクト改善を超えた、サービス/組織全体の変革につながる可能性があります。彼らの役割は、プロダクトの成功(例:コンバージョンなど)だけでなく、ユーザーの全体的な体験を最適化することにあるからです。

まず、PdMやPOがUX視点を持つことで、組織の縦割りを解消する動きが生まれます。彼らは、プロダクト開発チームだけでなく、マーケティング、セールス、カスタマーサポートなど、様々な部門と協力してユーザージャーニー全体を設計するようになるでしょう。

UIは使いやすいけど、ユーザーが本当に見たい作品が入ってないみたい。
または、カスタマーサポートの対応がイマイチだから、彼らにもUXの重要性を理解してもらって、改善案を一緒に考える…のような動きが可能です。

縦割りの弊害:プロダクトとマーケでペルソナを2つ作るな

縦割り化が進んでるサービスだと、例えばプロダクトチームとマーケティングチームが別々にペルソナを作っているようなところもあるかもしれません。
ユーザーは一人なのに?
これを単にUI起点ではなく、サービス起点で持つことで、彼らは、ユーザーの全体像を捉え、一貫したペルソナを基に戦略を立てるようになります。

PdMやPOがUXの視点を持つことで、組織全体がユーザー中心のアプローチを取るようになり、結果として一貫性のある、価値あるサービスを提供できるようになります。
彼らの役割は、単なるプロダクト管理者から、ユーザー体験の設計者へと進化していくでしょう。

縦割りから解放されることで、サービスのUXは強固になります。

CXO、CUXOができること

CXO / CUXO は企業戦略、サービス戦略においてUX視点を担保する

では、企業のCXO(最高体験責任者)や CUXO(最高ユーザー体験責任者)はなにをしているのでしょうか?
彼らは、企業のビジョンや戦略そのものをユーザー起点で考えるています。彼らの存在により、UXの重要性が経営レベルで認識され、全社的な取り組みとして推進されるようになります。
経営戦略にUX視点を入れるとはどのようなことでしょうか?
例えば下記のような例がありそうです。

Step1.
小売りチェーンが実店舗とオンラインストアの両方を持っているが、別々の部署が管轄しており、せっかくのポテンシャルを活かせていない。
Step2.
経営にUXの視点を入れ、「お客様がいつでもどこでも簡単かつ快適にショッピングできること」を理念と設定した
Step3.
店舗スタッフの接客ノウハウをオンラインチャットに活かしたり、オンラインでの閲覧履歴を店舗での接客に活用したりすることで、双方で簡単-快適さを向上させた
Step4.
理念に基づき、近くのお店にオンラインから購入でき家まで届けてくれるサービスの新規事業に乗り出した

このように、CXOやCUXOは組織全体を俯瞰し、あらゆる顧客接点でのUX向上を統括的に推進する役割を担います。
彼らの存在により、UXが企業文化の中核に据えられ、持続的な競争優位性の源泉となっていきます。

なぜ経営にまでUX視点が必要なのか

これまでの話を振り返ります。なぜ経営というレイヤーにまでUXの視点を持ち込むことが必要なのでしょうか?

それは簡単です、なぜなら、
サービス/プロダクトとはユーザーが存在して初めて成り立つからです。
どんなに優れた技術や斬新なアイデアも、それを必要とし、価値を感じるユーザーがいなければ意味がありません。つまり、企業の戦略立案の出発点自体、常にユーザーのニーズや願望、課題であるべきです。

例えば、新しい掃除機の開発案をするとします。しかし、単に「より強力な掃除機」を作ることが本当に正しいアプローチなのか、議論を行うべきです。
技術的には素晴らしいスペックであっても、ユーザーが本当に求めているのは「毎日の掃除の手間を減らすこと」かもしれません。そこで、掃除機の性能向上だけでなく、自動で掃除してくれるロボット掃除機や、そもそも埃がたまりにくい素材の家具など、より広い視野で考えることが重要となるでしょう。

このように、ユーザーのニーズを起点に考えることで、単なる製品改良を超えた、真に価値のあるイノベーションが生まれる可能性があります。ユーザー中心の思考を経営に置くと、このような意味が生まれます。

まとめ

それぞれが重なりながらUXを担保している

UXは単なるUIデザインを超えた、包括的な概念です。真のUX最適化には、組織全体でユーザー中心の思考を持ち、プロダクト開発から企業戦略まで一貫したアプローチを取る必要があります。

UXデザイナー向け

UXデザイナーを名乗るなら、より幅広いUXに目を向けましょう。
もちろん上の図のどこに自分の職責を置くかはあなたの自由ですが、UXはUIの改善だけでなく、サービス全体のユーザー体験を最適化することを意味します。
プロダクト開発から企業戦略まで、組織全体でユーザー中心の思考を持つことが重要です。

その他の役職向け

PdMやPOがUXの視点を持つことで、縦割りの解消や一貫したユーザー体験の提供が可能になります。CXOやCUXOの役割は、経営レベルでUXの重要性を浸透させることです。ユーザーニーズを起点とした戦略立案が、持続可能なビジネスモデルにつながります。
UXができることは、みんなの想像以上に多いです。

補足1.考え方:意味のイノベーション

「意味のイノベーション」とは、ロベルトベルガンティの提唱した、製品やサービスの機能的な改善だけでなく、ユーザーにとっての意味や価値を根本的に変えるイノベーションの考え方を指します。

先ほどから例示では出てきていますが、ユーザーの生活や行動パターンに新しい意味をもたらすような体験を創造することが重要であるとされています。

補足2.フレームワーク:PVIとMVV そして GVP

私はこれらを考える方法として、普段PVI(Philosophy/Vision/Idea)というフレームワークを使っています。
あるいは、似たようなものにMVV(Mision/Vision/Values)もあります。こちはら皆さんが馴染み深いのではないかと思います。

ユーザー起点か社会課題起点で物事を捉える

PVI (Philosophy / Vision / Idea)

PVIは人間はそもそも何をしたいか/どうありたいかを起点として、それを実現する方法を考えることで、現状のサービスやプロダクト、ユーザーの声、市場の競合などのバイアスからの影響を抑え、本質的な価値を目指すフレームワークです。

PVIは人間中心のフレームワークで、以下のように構成されます:

  1. Philosophy:人間は根本的に何をしたいか、どうありたいか

  2. Vision:それを実現するための具体的なビジョン

  3. Idea:ビジョンを実現するための具体的なサービスコンセプト

例:教育系スタートアップのサービスのPVI
「人々は自分の可能性を最大限に引き出したいと思っている(Philosophy)。そこで、誰もが自分に合った方法で、いつでもどこでも学べる世界を作りたい(Vision)。だから、AIを活用してユーザーの学習スタイルや進捗に合わせてカスタマイズされる、オンライン学習プラットフォームを開発しよう(Idea)。」

MVV (Mission / Vision / Values)

MVVはよくあるフレームワークですが、これを組織中心で書き起点がユーザーから離れてしまうと、ユーザーとの乖離が起きます。
MVVは社会課題を起点とし、社会を起点とすることで、より広い視野を持つことができます:

  1. Mission:社会課題にどのように取り組むか

  2. Vision:その取り組みによって目指す姿

  3. Values:ミッションとビジョンを実現するために必要な価値観

例:環境技術企業のMVV
「私たちは、持続可能なエネルギー利用を通じて気候変動問題の解決に貢献する(Mission)。2030年までに、当社の技術を用いて世界のCO2排出量を10%削減することを目指す(Vision)。そのために、イノベーション、協働、透明性を重視する(Values)。」

先ほどのPVIも、企業内部の価値浸透に使うときは、PVV (Philosophy / Vision / Values)とすることもできるかもしれません。

GVP (Goals / Vision / Priorities)

間違っても単に企業起点で設計してはいけません。
私はこれを否定するためにこれをGVPと定義します。

  1. Goals(目標): 企業が設定した具体的な達成目標

  2. Vision(展望): 企業が描く将来像

  3. Priorities(優先事項): 企業が重視する価値や行動指針

例:大手家電メーカーのGVP
「私たちは、最新技術を駆使した製品で世界中の家庭に革新をもたらす(Goals)。2030年までに、グローバル家電市場でシェア30%を獲得し、業界No.1の座を確立する(Vision)。そのために、急速な製品サイクル、コスト削減、アグレッシブな販売戦略を重視する(Priorities)。」

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