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メディア論とは?(マクルーハンはメッセージ)

こちらは、友人との読書会で読んだ名著や流行書を人に勧める形で紹介してみる記事です。

今回ご紹介する本

服部桂『マクルーハンはメッセージ -メディアとテクノロジーの未来はどこへ向かうのか?』です。

この本は大学の「メディア論」の講義で参考図書に指定されていたもので、この機会にしっかりと読みたいと思い、推薦しました。

本書は比較的平易な書き方で構成されていますが、内容はれっきとした社会学の専門書でした。社会学は非常にユニークな論理体系を有するので、後日社会学の考え方をまとめた記事も書く予定です。

一言でいうと何?

本書『マクルーハンはメッセージ』は、批評家マーシャル・マクルーハンを通してテクノロジーの在り方を考えていくメディア論の専門書籍になります。

解説:メディア論って何?

読者の皆さまは、メディア論をご存知でしょうか?

読書会メンバーに聞いたところ、「マスメディア」「新聞」「落合陽一」などのキーワードが出てきました。どれも「メディア」とは関連しそうですが、「メディア論」とは若干違いがあります。

「メディア」とは、英語mediaに由来し、情報を伝達する媒体や手段を表します。つまり、コミュニケーションの手段とも言えます。

先に出てきた「マスメディア」は、誰かが不特定多数に一方的に情報を伝える手段のことを言います。またその一例として「新聞」があります。

しかし「メディア論」の分野で取り扱うのはそれらの手段としてのメディアだけではありません。実際にメディアがどのような特性を持ち、どの感覚を通して私たちに影響を与えるのかを論じます。

例えば、「新聞」はどのようなメディアでしょうか。

ニュースを伝えるメディア。

これも正解ですが、もう少々分析してみましょう。

・紙が重ねられて構成
紙でできているということは、めくることができます。デジタルネイティブはともかく、紙の手触りを感じながら文章を読んできた人たちにとっては、電子版で読む時に比べて読む意識が変わります。また、切り取ってスクラップにすることもできますね。

・黒インクで写真と活字が印刷
新聞は基本白黒のものが多いですよね。もちろんコストカットのためであると思いますが、それによって私たちの印象も大きく変わります。

カラー印刷になると写真はカラーになりますが、活字は黒のままです。写真と活字のコントラストによって、私たちは自動的に写真からより多くの視覚的情報を得ようとします。したがって新聞は白黒ゆえに、他のメディアに比べて活字の注目度・影響力が大きいことになります。

・見出しと本文がある
活字中心の新聞においては、どの箇所でどのようなトピックを取り上げているのかを明示的に示す必要があり、見出しが存在します。しかし、書籍の章や節のタイトルと異なり、独特な文法でメッセージ性を帯びていることがあります。いま目に入った見出しは次のようになっていました。

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瞬時に見出しだけで情報を伝えられるように書かれるようになった新聞の見出しは、独自で発達してきた修辞法であると言えます。

・ブロック状にトピックが羅列
新聞はトピックごとにブロックのような独自のレイアウトがなされています。普段から読書をしている方でも新聞を読んでいなければ、速読みは難しいと思います。

新聞に読み慣れている方は、縦書き・横書きだけではなく、ジグザグに見出しを追いながら、また特定のページのみを開きながら、必要な情報を拾っていくようです。雑誌に少し似ていますね。マクルーハンはこのような特有の構成を「モザイク」と呼びます。

・毎日決まった時間に届く
これもメディアとしての「新聞」の大きな特性になります。新聞は習慣性をもとに作られているので、新聞を読むことでその日その日の情報を得ることができます。つまり、日本であれば日本のニュースを毎日得ることで、自分が住んでいる物理的なコミュニティよりも霞ヶ関や北方領土、沖縄の問題が自分ごとのように感じるようになります。

「自分ごとって...」と思われるかもしれません。でも新聞ができる以前の時代には、いったい誰が遠く離れた同国籍人のことを情報に興味があったでしょうか。新聞はそのような特性を持っているが故に、新聞社の方針と合間って左翼的だとか言われることもありますね。

学問として「新聞」というメディアについて考えるだけでも、こんなにユニークな特性を持っていることがわかりました。その「メディア論」を提唱したのが紛れもなくマーシャル・マクルーハンです。

全容はどんなもの?

マクルーハンが提唱したメディア論をもとに、現代のテクノロジーの特性を踏まえた上で、未来を洞察する内容です。

実はマクルーハンが『メディア論』を提唱したのは60年代で、いま現在再注目され始めています。そのきっかけとなったのが、紛れもない電子メディアの登場です。

前節では簡単のために「新聞」を例にあげてご説明しましたが、メディア論はメディアによってどのように人々の思考が生活が変わるかを考える学問であると考えています。つまり、メディア論は未来を見据える学問です。

本書ではメディア論提唱当時の解説から、近年のデジタルメディア、これからのテクノロジーによる私たちの暮らしの変化について言及されています。

他の本と何が違う

マクルーハンの抽象的な提言を解釈し、メディアのこれからを一種の哲学のように考察している点です。

落合陽一『魔法の世紀』をお読みになった方はいますでしょうか。メディアアーティストとしてよく話題になる落合陽一さんです。

『魔法の世紀』の前半部は技術史・現代美術史を中心にこれまでのメディアの歴史について説明した上で、後半にて作品とともに彼の作りたいこれからのメディアが説明されていきます。

そのように見ていくと、本書『マクルーハンはメッセージ』はメディア論による鳥瞰的な未来、『魔法の世紀』はアート的な表現としてのメディアの未来が述べられていると言えます。

キモは何?

マクルーハンの残した影響力溢れる文章がいくつも紹介される点です。

「目ばかりに頼るな。あなたの視点はただ一つのものにすぎない。書かれている文字に目を凝らすのではなく、もっと他の感覚を動員しろ」

メディア論は、書かれていることだけではなく、そのメディア(新聞から電子書籍、デジタルサイネージなども)自体の特性からもメッセージを受け取っている。本書のタイトルはこういったメディア論の側面から付けられていると推測できます。

こうして考えてみると、これまでのメディアに対する見方がいかに盲目的だったかを痛感します。私たちは無意識的にメディアから情報を受け取り続け、動かされています。

「ちょうどハチが植物の世界の生殖器であるように、人間は機械の世界のいわば生殖器となり、つねに新しい形式をその世界に受胎させ、進化させる」

痛烈な言葉です。メディアが身体拡張であることを説明する文脈で、マクルーハンはこの言葉を残しました。その前後の話も非常に面白いのでここでは紹介せずにご自身で確認していただきたいと思います。

本書『マクルーハンはメッセージ』もといメディア論に関する書籍は、デジタル社会に生きるすべての人におすすめです。ぜひ書店にてお手に取ってみてください。

おわりに

本記事では「新聞」を例にあげてメディア論を紹介しました。ものによっては、曜日で主要題材が変わったりもしますね。

私は昔から毎週土曜日のパズルと毎日の4コマ漫画のコーナーが好きです。あの部分の企画担当の方はいい仕事だよなあと思います。

私も子どもに楽しさを与えられるような仕事をしたいです。

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