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ショートシナリオ「三沢望の憂鬱」

学園もののコメディです。昔書いたシナリオの一つ。課題は「おせっかい」でした。珍しく笑いの神が降りてきた。クラスで読み上げたときにクスクス笑いが聞こえてきて、笑ってもらえることの楽しさを教えてくれた思い出深い作品。ちょっとくどいけど、キャラもシナリオも個人的に気に入ってます。

■登場人物

三沢望(16) 高校二年生
石田一郎(31) 望の担任
桐島慎吾(17) 野球部キャプテン
小寺千佳(16) 望の友達
三沢芳江(42) 望の母
伊藤まどか(33) 教師


■本文

○三沢家・全景(朝)
   小鳥の鳴き声に包まれた一軒家。
芳江の声「望ー、遅刻するよー」

○同・トイレの前(朝)
   ドアの向こうから水が流れる音。

○同・キッチン(朝)
   三沢芳江(42)が洗い物をしている。
   制服姿の三沢望(16)が入ってくる。
望「ああ、おなかが張るー」
   望、テーブルを見回して、
望「ママー、ここに置いといた薬は?」
芳江「薬って?」
望「ビオフェルミン」
芳江「ああ、こっちにしまっちゃった」
   芳江、小瓶を取り出して望に手渡す。
望「もう一週間も出てないんだけど」
   望、錠剤を口に放り込むと、水を飲む。
芳江「溜め込むのはよくないよ」
望「人のこと言えんのぉ?」
   望、スクールバッグに小瓶を入れる。
望「行ってくる」
   望、キッチンから出て行く。

○多摩川・土手沿いの道(朝)
   小寺千佳(16)の後ろ姿。
   望が千佳を見つけて、
望「千佳ー、おはよ。ごめんね遅れて」
千佳「(振り向いて)遅い! ね、見て」
   千佳、足元を指差す。
望「(足元を覗き込んで)何ー?」
   ダンボールの中に一匹の猫。
望「あ、かわいい!」
千佳「でしょ? 捨て猫かな?」
望「にしてはこの子、大きくない?」
   望、猫に手を伸ばし、抱きかかえる。
千佳「(はっとして)望、きたよっ」
   向こうから野球部の集団が走ってくる。
   集団の中に桐島慎吾(17)がいる。
   望と千佳の前を集団が走りすぎていく。
望「はぁ、桐島先輩、やっぱりかっこいい」
千佳「先輩、私の方見てなかった?」
望「えーっ! 見たとしたら私でしょ?」
千佳「いやいや、だとしたら猫を見たんだよ」
   望と千佳、はじけるように笑い合う。
   その声に猫がびっくりして望の手首を引っかき、逃げていく。
望「いったーい!」
   望の左手首に引っかき傷。
千佳「うわー、痛そう。大丈夫?」
望「最悪ー。リストカットの跡みたい」

○緑山高校・正門

○同・教室
   黒板に『数学 試験時間50分』の文字。
   答案用紙に向かう生徒たち。
   石田一郎(31)が教室内を見回っている。
   石田、望の席で足を止める。
   望は解答に集中している。
   石田、望の左手首の傷痕に気付き、目を見開く。
   愕然とした表情。

○空(夕)
   チャイムの音。

○緑山高校・女子トイレ前(夕)
   トイレから出てくる望。
   お腹をさすり、ため息をつく。
   千佳が近づいてきて、
千佳「望、部室行こっ」
   千佳、望の冴えない表情を見て、
千佳「ん? どうした?」
   望、恥ずかしそうに慌てて、
望「なんでもない。あ、私、石田に呼ばれてるんだ。
 ごめんね、先に行ってて」

○同・職員室(夕)
   いくつかの机のシマ。
   数人の教師が机に向かっている。
石田「まどか先生、すみませんが、少しの間、
 席を外してもらえませんか?」
   石田、隣の伊藤まどか(33)に囁く。
まどか「どうかしました?」
石田「実は、うちのクラスの三沢……」
   石田、人差し指で手首を切る仕草。
石田「自殺願望があるみたいで……」
まどか「(目を見開いて)まあ、大変!」
石田「それで、一度話を聞いてみようと」
   ドアが開き、望が顔を出す。
望「失礼しまーす」
石田「三沢、こっちだ」
   石田が立ち上がって望に手招きする。
   まどか、石田に耳打ち。
まどか「石田先生、くれぐれも慎重にね。
 思春期の女の子って繊細だから」
石田「ええ、悩み多き年頃ですからね」
   まどか、憐れみの目で望を見つめる。
   望、立ち去るまどかを見て怪訝な表情。
  ×  ×  ×
   石田のそばのパイプ椅子に座る望。
望「(不審な顔で)先生、話って?」
石田「ん? ああ、ちょっとな」
   石田、望の手首をちらと見ながら、
石田「その、なんだ……最近、どうだ?」
望「(キョトンとして)どうって?」
石田「体調とか、変わったことはないか?」
望「変わったこと? 特にないけど?」
石田「……先生な、実は心配してるんだ」
望「何を?」
石田「三沢、一人で悩んでるんじゃないか?」
   石田、望の方へ身を乗り出すと、
石田「溜め込むのはよくないぞ」
望「え?」
   望、どきっとしてお腹を手で押さえる。
石田「お前が黙って耐えてるの、知ってるぞ」
望「やだ。なんでばれちゃってるの?」
   望の顔が真っ赤に染まっていく。
石田「……やっぱり、そうだったか」
   石田、深刻な表情で腕を組む。
石田「どうして話してくれなかったんだ?」
望「は? 別に話すようなことじゃないし」
石田「わかってる。つらかっただろう?」
望「でも、薬を飲めば少しは楽になるから」
石田「薬? お前、そんなものいつから?」
望「いつからって?」
石田「(厳しい声で)隠さずに言いなさい」
望「もう、ずっと前からだけど」
石田「(驚いて)何?……俺は教師失格だな」
望「これ、遺伝なんです」
石田「え?」
望「うちの母もずっと苦しんでて」
石田「お母さんまで!? そんなに根深いのか」
   石田、頭を抱え込む。
石田「本当にすまん……気付いてやれなくて」
望「むしろ見てみぬふりしてほしかったです」
石田「ばかなこと言うんじゃない」
望「先生、話はそれだけ?
 だったらもうほっといてほしいんだけど」
   望、そそくさと立ち去ろうとする。
石田「ほっとけるわけないだろう!」
望「(うんざりして)しつこいなぁ」
石田「大切な生徒が一人で苦しんでるんだ」
望「だからって、先生に何かできるわけ?」
石田「確かに、できることは少ないかもな」
   石田、望を正面から見据えて、
石田「でも……受け止めることはできるぞ」
望「は?」
石田「どうだ? お前が溜め込んでるものを、
 全部俺にぶちまけてみないか?」
   望、ギョッとして石田を見る。
   石田、両手を広げて、
石田「ほら。その方がお前もスッキリするぞ」
望「何言ってんの!? 私そんな趣味ないし」
   望、呆れて石田をにらみつける。
石田「俺はお前の担任だぞ。もっと信用しろ」
望「そういう問題じゃないってば」
石田「どうして素直になれないんだ?」
望「いい加減に……あ、ううっ」
   望、お腹を抱えて苦しそうな表情。
石田「どうしたっ!? 大丈夫か?」
望「薬が……効いてきたみたい」
   望、よろよろと立ち上がると、
望「ちょっと、トイレに……」
石田「お、おい三沢。顔色が悪いぞ」
望「平気。心配しないで。じゃあね先生」
   望、ふらふらと歩き出す。
   石田、職員室を出ていく望の手を力強くつかむと、
石田「そんな不安定な状態で一人にはできん」
望「ちょっとやだ、先生、ついてこないでよ」
石田「お前に何かあったら、俺の責任だ」
望「何もないし、お願いだから一人にして」
   望、必死になって石田の手を引き離す。
   望、その勢いで誰かに背中からぶつかり、
   思い切り廊下に倒れこむ。
望「いったーい!」
   望のスクールバッグからビオフェルミンの小瓶が転げ落ちる。
   蓋が外れて大量の錠剤が廊下にばら撒かれる。
望「(青ざめて)やばい、最悪……!」
   慌てて錠剤を拾い集めようとする望。
   小瓶に手を伸ばすと、誰かが先に小瓶を拾い上げる。
   見上げると桐島である。
桐島「大丈夫? これ君のでしょ?」
   桐島、小瓶と望を見比べている。
望「え、あ……ち、違うんです!」
   必死で誤魔化そうとする望。
石田「おい桐島、お前も手伝え!」
   石田と桐島、散らばった錠剤を拾って小瓶に詰めると、
   望に差し出す。
石田「(笑顔で)蓋はちゃんと閉めとけよ」
桐島「おなか、大切に」
   望、真っ赤な顔で小瓶を受け取る。
   立ち去る桐島を呆然と見つめる望。
   望、泣き顔で石田につかみかかり、
望「先生、私、もう死にたい!」
石田「(嬉しそうに)お前……やっと溜め込んだものを
 ぶちまける気になったか?
 よし、俺がとことん受け止めてやるからな!」

■まとめ
・ちょっとお下劣でしたね。。。
・タイトルは『涼宮ハルヒの憂鬱』から拝借。
・先生からは「おせっかい」じゃなくて「勘違い」だと指摘されました。


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