小説・成熟までの呟き 49歳・1

題名:「49歳・1」
 2039年冬、美穂と康太は2人きりでスキーをしに行った。場所は、美穂の出身地である山浜市である。南の方は温暖だが、北は高原になっていて冬は雪が積もる。夏に牛の動きを見ながら散策して涼しさを感じることで楽しいが、冬は一面の銀景色が広がり格別である。久しぶりだったが、非現実の動きだったのか楽しさを味わった。その夜、2人はログしハウスにいた。康太は美穂に質問をした。「美穂は、なんで誰に対しても温かみを持って接しているの?なんで優しくできるの?ここでどのように育ったの?」すると美穂は、「私は自然に振る舞っているだけだよ。幼い頃、母親の膝の上に横になった時を覚えているんだ。その時、私の母親が優しく撫でてくれたんだ。あの感覚がたまらなくて・・。あの優しさを、次は私が誰かにできればなあって思っていったんだ。私は親に「勉強しろ」って言われたこともないし。なんか子供はのびのびそのまま育てばいいっていう考えだったのかなあ。だから私が自分で家庭を持った時はそんな環境にしてくれる人が隣にいればと思って・・。それが康太だったんだ。」と答えた。すると康太は、「えっ、見た目が冴えなかった俺が?俺美穂と出会うまでは童貞だったんだ。だからなんで美穂みたいな明るい女の子が俺を気にしてくれたのかやっぱり引っかかっていて・・。」と動揺していた。すると、美穂は「それは、私が想定していた夫のイメージが合致したからだよ。どんなに見た目が格好よくたって、必ずしも私が想定している幸せな家庭のイメージに合うわけではなかったから・・。康太といると、奥深さに存在する優しさを感じられたんだ。だからずっといるならこういう人だなあって思っていったんだ。」と答えた。すると康太は、「ありがとう。美穂がそんな風に思ってくれていたなんて・・。話は変わるけど、美穂っていいなあ。俺はむしろ親にいつも勉強させられていたから。そのせいで視力が低下してメガネを掛けなきゃいけなくなったから。」と答えた。すると美穂は、「今ならそんなこといいじゃない。私だって今は老眼だからメガネをかけることが増えてきているよ。もし見た目だけで判断していたら、きっとこんな幸せな家庭にはなっていなかったって思うから・・。だから康太、一緒に歩んできてくれてありがとう。」と言った。康太はそれを聞いてとても嬉しくなった。夫婦の絆を深める機会になったようである。そして、春が訪れて、5月10日に美穂は49歳になった。その後、例年通り、オリーブの花が咲いた。

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