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歴史を変えるおバカ

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』のDVDを中古で購入して見た。

もう20年前(!)の作品で考察なども出尽くしているので改めて語る余地もないかもしれないが、感想としては評判通り面白かった。


ギャグとキャッチーさで血生臭い暴力表現を避けつつも、チャチくない迫力ある殺陣と綿密な考証を感じさせる合戦のシーン。

明るく前向きなキャラクターたちが交わす楽しいやり取りと、侍と姫の想いを秘めた身分違いの恋などに見られる繊細な心理描写。

物語は、作中でしんのすけと絆を深め親密になった侍・又兵衛の死によって幕引きとなる。

序盤にしんのすけが戦国時代の合戦の場面にタイムスリップして歴史に介入したことで又兵衛の胸を逸れた銃弾が、終盤の山場となる合戦に勝利して大団円を思わせるエンディングの直前でどこからともなく飛んでくる。
タイムスリップしてしまった野原一家を元の時代に戻す鍵は、冒頭で死んでいたはずの又兵衛、助けたはずの又兵衛が「ちゃんと死ぬこと」だった。
長く生き延びることを運命は許さなかったが、"死に損なった"わずかな時間で、又兵衛は大切な人と国を守る戦いが出来た。
(※又兵衛の死については解釈はいくつか存在している)

いやはや、仮にも子ども向けアニメにしちゃ重い。
ビターエンドである。
しかし見応えがあった。こういうの大好きで。

クレヨンしんちゃんの映画というと、これとオトナ帝国が筆頭に上がるイメージなのだが、どちらも高評価が頷けるクオリティだ。
一緒に見る親世代にはあまりに深く刺さってしまうと思うので、やや大人向けかな?という印象は受けるが。

日本アニメ映画といえばまず挙がるのはジブリだろうとは思うが、戦国大合戦やオトナ帝国などの作品は、当然ながらクレヨンしんちゃんだからこそ出来たものだ。他のどんなスタジオにもきっと作れない。

人の成長や愛など、テーマ的に陳腐になりそうなラインをスレスレで躱している際どいバランス感覚には本当に感心させられる。

このバランスの肝となるのは、やはりベースがギャグ漫画であることだと思う。

戦国大合戦は死にゆく人の運命が大きなテーマの1つにあり、深刻な場面との緩急がジェットコースターのようであるが、随所に笑いが挟まれ、最後も朗らかに話を着地させてくれる。
これは見る側の「照れ隠し」としても非常にうまく働いていて、とても安心感がある。

自分は漫画だと『ルナティック雑技団』が好きなのだが、コメディが好きなのだと改めて思った。
シリアスなテーマや表現はどこかで茶化したくなってしまうのだ。
性格的に表現にあまり陶酔出来ないというか。
同じ自己表現でも歌を歌うのはとても苦手で嫌いなのだが、そういう心理とも通じているように思う。

しかしこの戦国大合戦が20年も前の作品であることを思うと、たとえ良作は色褪せないとはいえ「もう少し早く出会っておけば…」とどこか悔しい気持ちにもなった。
しかし、今だからこそ心に響いたのだろう。

DVDを再生機に入れればいつだって同じ話が再生されるが、見る自分が変わればいつだって違って見える。
もし昔の自分が見ていたら、それほど魅力を感じなかったかもしれない。

又兵衛が死の運命から逃れられなかったように、自分もこの作品とは今出会うべくして出会った運命なのかもしれない。そんなことを考えたのだった。

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