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『テンシンシエン!』第15話

◆「ニカイセン?」

 とんでもなく後味の悪い面談だった。いったい何が目的なんだろうか。わざとあんな態度をしてこちらの胆力を試す?いや、そんな感じではなかった。現役の時の恨みやコンプレックスを、今の立場を利用して解消しているだけのように感じた。それであるなら、なんて陰湿な手口だろう。会社の事業部長などと言う、責任のある役職を担っていた人間とは思い難い人格だった。部下だった人たちが哀れだ。

 ともあれ、このことは忘れて気持ちを切り替えよう。

 枡口さんとの約束まではずいぶんと時間がある。時計を見るともう13時になる。腹が減った・・・なにか食べよう。

”カランカラン・・・”

「いらっしゃいま・・・あら。」
「また来ちゃいました。」
「ちょうどランチのお客様がひと段落したところなんですよ。あっ、今日もランチがカレーだけになっちゃって・・・。」
「あっ、大丈夫です。カレーとトラジャでお願いします。」
「はい、かしこまりました。カレーとトラジャですね。少々お待ちください。」

 本日、2回目のすなどけい。何を期待している訳でもないが、なんとなく足が向いた。ここであれこれ愚痴を言うのもカッコ悪い。いつも通りの大人な態度でランチを楽しむことにした。ここのカレーは密かにおいしいのだが、なぜかいつもランチでは人気がない。カレーではメニューとして特別感が無いからなのか?まぁ、私はここのカレーが好きだからむしろ有難い。それにしても久しぶりに緊張したのか・・・ちょっと疲れてしまった・・・あんな人間の世話にはなりたくないものだ・・・なんだか少し眠気が・・・

「・・・さん。・・・村さん。沢村さん。そろそろ起きませんか?こんなところで寝ていると風邪ひきますよ。」
「・・・ん?」
「沢村さんったら、お食事待っている間に居眠りを始めて、そのまま眠ってしまったんですよ。」
「えっ?」
時計を見ると14時半を過ぎていた。1時間以上眠ってしまっていたようだ。「カレーは温め直しますけど、電子レンジですよ。その代わりコーヒーは淹れなおしますね。」
「あっ、すみません。本当にすみません。申し訳ないです。」

 なんだか恥ずかしくって、急いで食事をすませた。結局、昼寝をしに行ったような感じなってしまった。お店を出て、眠気覚ましに少し付近を散歩した。

とにかく気持ちを切り替えよう。

 枡口さんから紹介の案件は、千葉のカワナカゴーキンという金属加工会社で経営人材の求人だ。このカワナカゴーキンは前々職で取引があった会社なので工場の工程含めてよく知っている。仕事としてはかなりやり易いが、年収が800万円から900万円と言うのと、勤務地が千葉の佐倉というのが少々ネックだ。まぁ勤務地は引っ越せばよいのだが問題は年収だな・・・ここが交渉のポイントになるか・・・でもまぁ、焦って希望条件を下回る会社に就職しなくとも、今はもう少し慎重に吟味するべきか・・・そうだ、両サイトの求人紹介サービスも今日から始まったばかりだ。そういえば何通かメールが来ていたな。それらに目を通してみてからでも遅くはない。枡口さんとの時間までによく見ておこう。

 帰宅してPCを開く。枡口さんのとの約束まで時間が無くなってしまったので、少し駆け足で求人内容を見た。支援VIPのほうは”ものづくり”業界向けの”DX”コンサルの求人が多い。年収は・・・2000万円前後か・・・悪くないな。キャリフロは新事業企画のコンサルか・・・年収は・・・2500万円以上・・・やはり高年収を選択するとコンサルか。

 思っていた以上に高収入かつ自分のキャリアにマッチする求人が多い。と言うことは、今あえて枡口さんのオファーに応える必要はないということだな。彼には申し訳ないが今回もパスだな。

”プープー・・・。プープー・・・。”

枡口さんからウェブ面談のコールがなった。


■第16話へつづく


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