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『テンシンシエン!』第35話

◆「ミライガタキギョウ?」

「それでは、面接対策はこれで終わりにしたいと思います。沢村様、ご苦労様でした。面接、頑張ってくださいね。」
「あっ、ありがとうございます。本当に助かりました。」
 お世辞ではなく本当にありがたく思った。

「ところで沢村さんって”専任付き”ですよね?」
「えっ?なんって言いました?」
 中舘の”様”と”さん”の使い分けのルールがよく分からない。そのことが気になってよく聞いていなかった。

「”せんにんづき”です。あぁ、えっとですねぇ、専任のエージェントが付いていらっしゃるお客様のことです。沢村さんの専任エージェントは・・・山泉さんか・・・なんでだろ・・・」
「えっ?あぁ、山泉さんのことですか・・そうですよ。山泉さんが色々とカウンセリングしてくれてますよ。」

「そうですか・・・なにか至らないことがございましたか?」
「いや、特に問題はないですけど・・・」
 ん?なんだろな。なにか会話に違和感。


「そうですか・・・・・・承知いたしました。何かございましたら、私のほうへもご相談ください。それでは本日はこれで終わりにしましょう。長時間お付き合いいただき、ありがとうございました。」
「あっ、こちらこそありがとうございました。」

 ・・・なにか最後のやり取りが気になるな・・・山泉さんって、社内ではあまり評判が良くないのかな?何かがひっかかる。まっいいか・・・次はDavisの面談だ。切り替えていこう。

 Davisからのスカウト案件は社名が不明。スカウトメールには、”事業会社×コンサルファームの良さを掛け合わせた未来型企業”・・・?。メーカーなのかコンサルなのか・・・この怪しさが面白そうだ。求人ポジションはサービス企画者、DX開発事業部責任者、または責任者候補、プロジェクトマネージャーとあって幅広い。さらに仕事内容やその要件を見ると、ほぼひとりで何でもこなすスーパーマンのような人を探しているようだ。年収提示も、最高2000万円との記載はあるが下限の記載はない。これを、”働き次第で上限2000万円”と解釈すると、職種も自ずと限られてくる。
 大手メーカーか?と一瞬考えてもみたが、イメージできる社名がない。そうなると、デジタル系ベンチャー、もしくは新興DXコンサルといったところだが、まぁ十中八九コンサルであろう。勤務地、想定年収は申し分なく、フルリモート勤務も魅力的。条件的にはかなりの好条件。できればここに決めたいが・・・なんて色々考えていたら時間が来た。

 送られてきたアドレスをクリックするとZoomが立ち上がる。”オーディオで参加する”をクリックして先方の承認待ち画面で待機。

 しばらくするとPCのスピーカーから、独り言のような声が聞こえてきた。
「あれ?これでいいんだよなぁ・・・聞こえ・・・聞こえない・・・・」
「あっ田中さんですか?沢村です。聞こえますか? 田中さーん!」
「沢村様ですね。エグゼクティブHRファームDavisの田中です。はじめまして!本日はよろしくお願いいたします。」
「はじめまして。沢村です。本日よろしくお願いいたします。」

 ディスプレイに映る姿は、体育会系のガッチリした短髪の男性だ。想像以上に老けていて、というか、普通のおじさんで少し戸惑った。勝手にシュっとしたスマートな男性をイメージしていた。

「えぇっと・・・それでは簡単な自己紹介をお願いいたします。」
「はい、沢村健、52歳。前職は・・・・

 自己紹介を3分ほどした後、職務経歴書に記載されている内容を何点か質問された。まぁ人物確認というか、スカウトする側としては、人間性に問題のある人物を顧客へ紹介するわけにはいかないので、おそらくその確認であろう。

「えっとですね、今回、面談させていただきまして、キャリア、スキル、さらに人物的にも申し分ないと判断し、沢村様を当社のクライアント様へ紹介させていただきたいと思います。」
「はぁ・・・ありがとうございます。」
「それでそのクライアント様ですが・・・”フューチャーコンサルティング”様です。ご存じですか?」
「フューチャーコンサルティング?・・・初めて聞きま・・・あっ!動画サイトでよく広告入れている会社じゃないですか?!」
「その通りです。フューチャーコンサルティングさんは、現在、その領域拡大中で、新規事業、とくに『社会課題解決型』や『ヒューマンセントリック分野』の『ビジネスプロデュース』型コンサルティングを目指しておりまして、実際に事業会社で新事業開発やその立上げに従事され、かつデジタル領域に強い人材を探しておられます。沢村様はまさにその人物像にピッタリと言ったところでしょうか。」

 あの会社ね・・・最近、動画サイトで、耳障りの良い言葉を並べて求人広告を出している新興DXコンサル・・・社会課題の解決とか、ヒューマンセントリック?ビジネスプロデュース?とか、そんな流行り言葉を羅列してはいるが、内容自体にはあまり意味を感じられない・・・あの会社・・・なにか胡散臭いんだよなぁ・・・まぁ条件的に断る理由は無いし、受けるだけ受けてみるか・・・

「田中さん、ありがとうございます。では、よろしくお願いいたします。」
「はい、沢村様。それでは、まずは一次面接としまして、フューチャーさんの人事部長にお会いしていただきます。通常ですと新宿のオフィスまで来ていただくのですが、まぁこんな状況ですからZoomでの面談となります。」
「はい。わかりました。」
「それでは、後日、当社よりZoomのご案内と、面接までに読んでいただきたいテキストをお送りしますので、ご対応のほど、よろしくお願いいたします。」
「はい、承知しました。」
「それでは本日はこれで終了とします。ありがとうございました。」
「こちらこそ。」

よし、スカウト案件も第一関門通過。

ずいぶんと風向きが変わってきた。


■第36話へつづく


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