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『テンシンシエン!』第19話

◆「セッソウナク?」

2021年5月7日、金曜日
 今日は2週間に一度の就職支援センターでのカウンセリング。今回は特に宿題のようなものもなく、まぁ雑談をしに行くような感じだ。そう言えば、支援VIPのサイトから応募した2件には、まだ返事がないがこんなものなんだろうか・・・少し不安になる。そうか今日、山泉さんに相談してみよう。

 前回同様、JR浦和駅西口近くの雑居ビル7階にある就職支援センターの入り口でドアフォンを押す。

「はい。就職支援センターです。」
「あっ、こんにちは。沢村とお申しますが、山泉さんは・・・。」
「沢村様ですね・・・お入りください。」
「はい。」

”ミー、カチャ・・・”

 これも前回と同じ流れ。
「沢村さん、こんにちは。こちらの部屋へどうぞ。」
 これも前回と同じ、そして椅子に座る。
「退職されてから一か月が経過しましたが、いかがですか?なにか生活で変化がございましたか?」
 山泉さんが、前回と同じことを、同じように嬉しそうな顔で聞いてくる。
「山泉さん、これ前回も聞かれましたよ。なにかの決まり事なんですか?」
「うーん。別に決まり事という訳ではなくて・・・まぁクライアントさんの健康状態とか精神状態とかは、我々カウンセラーはちゃんと把握しておかないといけませんので・・・。」
「そうですか・・・まぁ前回同様で特に変化がないというか・・・ちょっと凹むようなことはありましたが・・・。」
「そうですか。・・・で、就職活動はいかがですか?」

 この16日間にあったことを話した。七味さんと言う変なヘッドハンターのことや、桝口さんからのオファー、そしてそれ以降、ヘッドハンターからスカウトらしい連絡がパタッとなくなってしまったこと、数日前に就職VIPで2件の求人に応募したこと・・・山泉さんは「そうですかぁ、そうですかぁ」と聞いていてくれた。
 そう、なにか意見や提案が欲しかった訳ではなくて、ただ聞いて欲しかっただけで、なんだか山泉さんの存在が暖かく、そして有難く感じた。

「その枡口さんというヘッドハンターの方は、なにか切れない縁があったんでしょうね。なにか運命的なものを感じますね。それに・・・沢村さんのことをよくご存じで、マッチングの良い案件を選んでくれそうですけどね。」
「えぇ、確かに仕事の内容はとても合っていると思いました。ただ収入がね・・・まぁ今はまだ安売りするタイミングではないと思って、そこは譲れませんでした。」
「先方さんから良い返事があると良いですね。それと、その・・・しち?しちみ?・・・七味さんのような人間の話は、仲間内で聞いたことがあります。歩合制のヘッドハンターや就職コンサルタントの方で、なかなか成果が上げられないと、経歴の立派な人や初顔の人を見つけて、ストレス解消のために”いびったり”してるって話を・・・。」
「なんですか、それ。完全に弱いものいじめじゃないですか。」
「そういう人に限って、現役時代は割と高いポジションにあった人が多いみたいですよ。で、再就職先がうまく見つけられなくて、なんとなくキャリアコンサルタントの資格をとって・・・みたいな。私たちの仕事って、なんとなくでやれるような仕事ではないですから、そんな動機ではやっていけませんよ。」
「ふーん・・・そうなんですね。」
 山泉さんの顔がいつもより少しカッコよかった。

「で、応募された2件ですが、どんな会社ですか?」
「社名ですか?ええっと・・・浅井化成とエムロンです。業界は違いますけど、どちらも新規事業企画なのでいけるかなと。」
「ほう、けっこうなビッグネームを狙いましたね。」
「そうですかねぇ・・・。」
 この人、たまに失礼だ。

「えっと両社ともこの前の土曜日に応募ですか?」
「はい。」
「少し返事が遅いかな・・・返事が遅いということは向こうも真面目に考えてくれているってことですから、期待が持てるかもしれませんね。」
「そうですか。」
 ほらほら、そうでしょ?

「一つご助言させていただきますと、もっと応募しても良いかと・・・以前にもお話ししましたが、沢村さんの年代の再就職は、年齢と同じぐらい応募しないと書類選考に通らないっ・・・。」
「はいはい、わかりました、わかりました。明日からは節操なくガンガンいきますぅ。」
「そう!節操なくです!」

はぁ・・・少しふざけて言ったのに・・・


■第20話へつづく


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