川内有緒(かわうちありお)

生まれ変わったら冒険家になりたいと思いつつ、フランスとアメリカ、日本で計12年働いたあ…

川内有緒(かわうちありお)

生まれ変わったら冒険家になりたいと思いつつ、フランスとアメリカ、日本で計12年働いたあと、今は本やエッセイを書いて暮らす。趣味は旅と本とDIY小屋づくり。知らない場所、知らない人々を求めてずっと旅を続けたい。1児の母。著作いくつか。「空をゆく巨人」で開高健賞受賞。

マガジン

  • 午前四時の試写室

    『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』という映画の制作・配給に関連するエッセイを集めたマガジンです。

  • 空をゆく巨人

    第16回 開高健ノンフィクション賞『空をゆく巨人』を発売に際して、書籍の内容を全文公開することにしました。11/16より毎日午前7時に一章ずつ公開しています。

  • 目の見えない白鳥さんとアートを見に行く話

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    空をゆく巨人 (単行本)

    川内 有緒
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    パリでメシを食う。 (幻冬舎文庫)

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    パリの国連で夢を食う。 (幻冬舎文庫)

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    晴れたら空に骨まいて

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    バウルの歌を探しに バングラデシュの喧騒に紛れ込んだ彷徨の記録 (幻冬舎文庫)

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午前四時の試写室 (中編)

 前編では、自主制作したドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』の完成までの顛末を書きつつ、「この原稿が世に出る頃には、どこかの街の映画館で上映されているかもしれないし、そうではないかもしれない」としめくくった。中編ではさらなる詳細とその後の展開を書きたい。  遡ること二〇二一年の一二月。  「Hさんが出てくる場面はいらない。その次の場面も。えーと、Hさんのシーンは全カットで」  そう言ったのは、ある配給会社のプロデューサーだった。西荻窪のレンタルスペ

    • 『ロッコク・キッチン』 食の記憶を探して 国道6号線を行く

      少し前になるけれど、福島県の双葉町と大熊町における2週間の滞在作品制作を終えた。『ロッコク・キッチン』というプロジェクトで、キッチンや食を通じて、暮らしを紐解きつつ、一冊の本と映画を作っていくというなかなかの長期プロジェクトだ。ロッコクとは、仙台から日本橋まで続く国道6号線のこと。まずはロッコク沿いの町に住む人々に呼びかけ、食にまつわるエッセイを募集するということろからプロジェクトは始まった。通常私は、自分が取材して書くという立場なのだが、今回は他の人が書くものをぜひとも読ん

      • 心のなかをのびのびと自由でいさせる方法とは

        先日出版した『自由の丘に、小屋をつくる』の試し読みができるようになりました!!以下のサイトで1章まるまる読んでいただけます。 https://www.bookbang.jp/article/766829 そこに出てくるのが、娘のためにはじめて作った小さな机。家庭科が「一」で、不器用すぎる自分には大きなチャレンジでした。 8年後も現役で、なかなか長持ちしています。我ながら手作りらしい味が出ています。写真とともに試し読みしてみてください。 私がこの本で伝えたかったことは、

        • 午前四時の試写室 (後編)

          映画の宣伝・配給というものに実に多くの資金が必要になることを知った私と三好は、最終手段ともいえるクラウドファンディングを決意した。配給のための資金なので、キャッチフレーズは「映画を全国に届けたい!」である。 威勢の良いフレーズと比例するように、私は不安がどーんと募り、夜もよく眠れなかった。過去に一度だけ友人の作品集を制作するためにクラウドファンディングをしたことはあったが、今回はその時の四倍近い二三〇万円を集めないといけない。しかも、手数料を抑えるために、「All or N

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          すぐそこにある荒野。そして34冊の冒険書

          探検や冒険とはなんだろうか。 思い浮かべるのは、遠く隔絶された地に向かい、身体的能力を限界まで駆使し、ある地点から別の地点への踏破に挑んだり、山の頂きに立ったりしながら、何かを発見していくことではないだろうか。しかし、私はある時から、冒険というものは、時として自分たちのすぐそばにあると考えるようになった。 去年、河出書房新社のIさんから突然メールがあり、今後「世界探検全集」というものを出します、世界の名著が続々復刊します、ひいては、そのうちの一冊に対し、本の前段「ナビゲーシ

          すぐそこにある荒野。そして34冊の冒険書

          真昼の花火という夢 《満天の桜が咲く日》が現実になった日

          6月26日月曜日。 夢は諦めなければ現実になる。再びそれを教えてくれた日となった。ついにアーティストの蔡國強さんが、いわきの四倉海岸で昼花火を打ち上げたのである。 昼花火は、夜に打ち上がる光の花火とは異なり、色のついた火薬を使うことで、まるで空に絵を描くような手法で、この日の作品は《満天の桜が咲く日》というタイトル。大掛かりなスペクタクルだが、実は広く世に告知せずに、地元いわきの人々や、蔡さんの友人達に見守られながら決行された。そのため報道を見るまで知らなかった人も多く、ピ

          真昼の花火という夢 《満天の桜が咲く日》が現実になった日

          午前四時の試写室 (前編)

           二〇二二年の二月一〇日午前五時五〇分――。  私と友人の三好大輔は、制作中のドキュメンタリー映画の試写をしていた。場所は、私の自宅マンションのリビング。夜半まで編集作業を続け、いったん仮眠をとり、家人が眠っているさなかの午前四時から試写を始めるというのがこの頃の習慣だった。プロジェクターで壁に映像を投映すれば、即席の試写室ができあがる。まだ映画のタイトルは決まっていなかった。  エンドロールが流れる。続いて喫茶店のシーン。画面が暗転。その瞬間、よし! と思った。それまで彷

          午前四時の試写室 (前編)

          プールへ飛び込め

          奇妙な夢を見た。高い崖のようなところから20メートルくらい下にあるプールに飛び込むしかない、なぜかそんなシチュエーション。 プールの中にはたくさんの人が泳いでいるんだけど、みんな私が飛び込もうとしていることに気がついて、そのためのスペースを開けて泳ぎながら待ってくれているようだった。怖いという感覚はなく、ただ思い切って飛び込むことを決意。 えーい! ざぶーーーん!! すると、とても深い深い水の中に入ってしまい、息ができない状態になりとても苦しい。それでも何とか水面まで泳いで

          映画が始まる。航海前夜

          前回noteを投稿してからずいぶん時間が経ってしまった。あのときは、クラウドファンディングが終わり、映画を出港させられる喜びを切々と綴っていた。その中でわたしは、これからは映画をかけてくれる映画館をお客さんでいっぱいにできるように頑張ろう、という決意を固めていたのであった。 あれから、3ヶ月近く経った。そしていま、来週の2月16日からいよいよ劇場公開が始まる。最初の映画館は、東京のシネマ・チュプキ・タバタ。日本で唯一にユニバーサルシアターである。 実は、去年、上記のnot

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          静かな船出と賑やかな船出

          12年前に出版した『パリでメシを食う』が10刷、39000部になったとのお知らせが幻冬舎から届く。この本は文庫書き下ろしという形態だったので、発売当時もその後もひとつのメディアにも取り上げられず、静かでゆっくりとした船出だった。それでも遠くにいけることもあるということを知ってる。そのことは、いつもわたしを勇気づけてくれる。 一方、映画「目の見えない白鳥さん、アートを見にいく」の方はちょっと賑やかな船出を迎えようとしている。本日が最終日となる、クラウドファンディングで現時点で

          静かな船出と賑やかな船出

          本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞しました

          先週の金曜日、『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』が本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞いたしました。大きな喜びと、そこに輪を大きな驚きとともに受けとめています。 受賞の第一報は、担当編集者の河井さんからの電話でした。その日は週末の朝で、娘とふたりでぼやっとしながらコーヒーを飲んでいました。あれ、週末の朝に電話?なんだろう、珍しいな。おっ、まさか、増刷か!?と思いながら電話をとると「受賞」という話で半分腰が抜けそうなほどびっくりしました。終始低いテンションを崩さないこ

          本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞しました

          ワールドプレミアってなんだ?

          すでに1週間前になってしまいましたが、無事に『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』のワールドプレミア@水戸映画祭が終わりました!! ほぼ満員の会場の皆さんに迎えていたえだいて、 心からほっとしました。 だって本当に未知数じゃないですか。 鉄の心臓に見られるけど、毎回ビッグイベントはけっこうドキドキしてるんです。 実際に映画を作ってみるまで知らなかったのだけど、プレミア(初上映)というのはわりと重要で、映画をどこからスタートさせるのかでその後の運命は評価も変わって

          ワールドプレミアってなんだ?

          出会って、別れる。出会って、別れる。そしてわたしたちは。

          もはやご存知だと思うが、この2年間、映画を作ってきた。『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』という長編ドキュメンタリー映画である。 自分でもどうしてこんなに一生懸命になれるのかわからないまま、とにかく「映画」というゴールに向かって突っ走り続けてきた。 振り返れば2019年の冬、友人の紹介で白鳥建二さんという人物と出会った。 全盲の人で、美術を見るのが好きな人だった。それが自分の人生でどういう意味合いを持つかも知らないまま、拙い言葉とともに美術館をめぐった。 さまざまな

          出会って、別れる。出会って、別れる。そしてわたしたちは。

          未知なるカオスに向かって走れ

          先日、探検家・作家の角幡唯介さんと大船のポルべニールブックストアで「越境」をテーマに公開対談した。私の文庫『空をゆく巨人』の解説を角幡さんに書いていただき、それがきっかけに今回の対談が実現。 (アーカイブは7月31日まで見られるそう) ぶっちゃけた話をしてしまうと、わたしは、角幡本だったらノンフィクションだろうとエッセイだろうが書評だろが、愚直なまでに全て読んできました、ええ、そうなんです、という熱心なファンであり、ファンが憧れの作家と対談して良いのか、マジでそんなのいいの

          未知なるカオスに向かって走れ

          【大宅壮一ノンフィクション賞 受賞しなかった人の言葉!】

          先日「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」が大宅壮一ノンフィクション賞にノミネートされたわけですが、えーと、結論から言うと受賞には手に届きませんでした!! (え、マジで!?われながら、ふたつとない新しいノンフィクションなのになんで!?と思いました笑、おめでたいやつです)。 おかげで、先週は久しぶりに、ひー、ちょっと悔しいぞ!という思いが募りましたが、いまは次に向かって精進しようと切り替わりました。 とはいえ、どうして自分が書籍という沈みゆくオールドメディアで書き続け

          【大宅壮一ノンフィクション賞 受賞しなかった人の言葉!】

          「新しいとは、こういうことさ」

          1年前に制作した映画「白い鳥」(50分)の劇場公開版「見えない鳥は、アートを渡る」(約100分)を絶賛制作中である。 当初の予定では、去年末にはできているはずだったのですが、まあそう簡単にはいかないものですね。共同監督である三好(大輔)くんと、なんとか他の仕事をテキパキと片付け、時にあちこちにどかし、時間をかきあつめ、どちらかの家に集まっては、ああでもない、こうでもないといいながら、再編集やら細部のツメが続いている。 この間の朝は、三好くんとその時の最終編集版を見ていて、

          「新しいとは、こういうことさ」