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〜〜波待ち日記〜〜 タッパーとライダース

8月7日 (土)ブロンテビーチ
サイズ:カタ〜頭オーバー

サザリー(南ウネリ)が入り始めたシドニー近郊のビーチは、どこも軒並みサイズアップ。ここブロンテも、チューブが出現するライトブレイクのピークにはローカルサーファーが集結している。

ピークの目の前は岩が剥き出しになっていて、新参者の僕はちょっと近づける気がしないから、少しインサイドで“おこぼれ”を狙う作戦だ。まあ、なかなかこぼれては来ないのだけれど、時たま北よりから入ってくるウネリに運良く乗れるから、気長に待つことにする。

南半球はただ今真冬。しかし水温は18℃前後と、ブーツ必須な日本の冬を考えれば天国だ。僕にとっては日本から持ち込んだセミドライを着込んでちょうどいいぐらいである。

こちらのサーファーも大抵は3mmのフルスーツ(スティーマーと呼ばれている)を身につけているのだが、中にはタッパーとトランクスでサーフィンしているヤツもいる。一体どういう体感温度をしているのだろうか。

タッパーを見ると、思い出すことがある。

アーバンサーファーに向けたBANKS×Barney's NYのコラボ

あれは5年ほど前だったろうか。今は破産してしまったバーニーズニューヨーク銀座店で、BANKSとのコラボアイテムをストア・イン・ストアのような形で展開していたことがある。

普段サーフカルチャーとは無縁のバーニーズがこのような取り組みを行うことは斬新だったし、イベント初日にはBANKSのアンバサダーだったちょいワル親父サーファーの星、ブラッド・ガーラックが来店したりして、そこそこ盛り上がっていた。

当時の僕は新橋のオフィスに勤めるサラリーマンだったため、ある日サボってバーニーズを覗きに行った。展示されているのはほとんどがTシャツかショーツで、どれもアダルトサーファーにはもってこいの落ち着いたデザインだった。

しかし、その中にどういうわけか、BANKSとバーニーズダブルネームのタッパーがその場でオーダーできるコーナーがあった。

それを見た僕は、ほのかな違和感を覚えた。

見本として吊るされていたブラックのタッパーは、ジッパーで前が全開にできるタイプのもので、それ自体は間違いなくカッコいいものなのだが——

ここは銀座のど真ん中。客層的にもそのタッパーをオーダーする人間がいるとは思えないな……

——僕がそう感じていた、まさにその時だった。

同伴カップルがタッパーを見た時に何が起きたか

1組の男女が、BANKSコーナーに足を踏み入れてきた。

「ほら、このTシャツ可愛いんじゃない?」

女性がイニシアチブを取りながらアイテムを見て回るその2人は、どう見てもサーフィンとは無縁の人生を歩んでいそうだった。そして、女性の方は、いわゆる“夜の蝶”を彷彿とさせる、少し派手な装いとメイクが印象的だった。

僕の憶測にすぎないが、これは間違いなく“同伴”というヤツではないだろうか。時間はちょうど夕刻。食事をする前のちょっとした時間を、女性が何かをねだるためにバーニーズに足を踏み入れた——事実はどうあれ、僕の目にはもう、そうとしか映らなかった。

Tシャツやショーツを一通り眺めて回った男女は、ついにタッパーの前に到達した。

男性の方がことさらタッパーを食い入るように見つめている。そして、男性はおもむろに店員に手をあげて自分の元へ呼び寄せた。

次の瞬間、僕は信じられない言葉を耳にした。

「このライダース、試着させてもらえる?」

……ラ、ラ、ライダース!?

僕は一瞬度肝を抜かれたが、冷静になって考えてみた。

確かに、サーファーではなく、タッパーの存在を知らずに吊るされたモノを見れば、ツヤツヤしたブラック一色、前空きジップというそのフォルムは、シングルのライダースジャケットに見えないこともない。しかもここはサーフショップではなく、銀座のど真ん中のバーニーズニューヨークなのだ。それにその男性は、いかにもライダースジャケットを好みそうなファッションをしていた。

僕は傍観者だからまだいい。男性に声をかけられたスタッフは、顧客の機嫌を損ねることなくそれがライダースではないことを説明するのに、しどろもどろだった。

何しろ相手は、恐らく好意を寄せているに違いない女性に対してファッションセンスがあるところを見せつけようと頑張っている(と思われる)オジさんだ。プライドを傷つけられたら無闇に怒りだす可能性がないとは言えない。難易度が高いミッションである。

「いえ、すみません、これはライダースではなくてですね、えー、タッパーという……

え?タ、タッパー……?何?

「はい、えー、サーフィンをする時に着る、ウェットスーツの一種でして……」

僕は笑いを堪えるのに必死だった。満を辞して「ライダースの試着」をオーダーした男性は、どのようにスタッフの説明を受け止めたのだろうか。

少なくとも表向きには、男性が自分の勘違いに動じたり、プライドを傷つけられたと感じているようには見えず、その場は穏便に収まったようだった。

そして、同伴カップルが去った後、僕はスタッフに声をかけた。

「ライダースに見えなくもないですもんね」

「そうなんですよ、ああいう方がたまにいらっしゃいまして」

「オーダー入りました?」

「いえ、まだ一着も」

スタッフの顔には明らかに「ここでタッパーを売るのは失敗だ」と書いてあった。

そのタッパーはとてもカッコ良かったから僕は欲しいと思ったが、値札を見て、そっとハンガーに戻したことを覚えている。さすがバーニーズ。

さて、8月が終われば、シドニーでもタッパー・トランクスでサーフできる季節はもうすぐだ。

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