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〜〜波待ち日記〜〜 「親子サーファー」になりたいなら、目先の波は見送るべし

7月20日(火)
ノーサーフ(ロックダウン)


シドニーエリアは、新規感染者の人数が増え続けているため、7月の頭から約1ヶ月のロックダウンに入っている。日に日に状況が悪化しているために、少し前までなんの問題なかった屋外でのエクササイズにも厳しい条件が付けられた。

LGA(居住地域)内、もしくは家から10km以内でのみ、というのがその条件だ。

これによって、ロックダウン中にサーフィンに行ける人、行けない人がハッキリと分かれてくる。そして僕は、残念ながら後者だ。

仕事がどれだけヒマでも、体の調子がよくても、波がパーフェクトでも、サーフィンに行けないという状況は、これほどツラいのかということを今思い知っている。

昨年、移住したばかりでまだ車も持っていなかった頃はその状況を受け入れていたが、一度自由に海へと通うライフスタイルを味わってしまった今となっては、それは耐え難いストレスとなって心身を蝕んでくる。

まあ、その分、圧倒的に家族と過ごす時間が持てている、という側面もあるのだけれど。

今、これまでにないほど家族で過ごす時間が長いからこそ考えることがある。

それは、我が家は「親子でサーファー」になれなかったな、ということだ。

憧れの「親子サーファー」

家族持ちのサーファー多くが一度は考えることとして、「子どもにも(あるいはパートナーにも)サーファーになってもらいたい」というのがある。

家族全員、海とサーフィンが大好きで、毎週ビーチに行ければ超幸せ、というライフスタイルを想像してみてほしい。

パパやママが交代でサーフィンしつつ、子供はビーチで遊ぶ。時々、小さい波で子供にサーフィンを手解きし、成長してくれば全員でラインナップする週末——

そうすれば週末の過ごし方にいちいち頭を悩ます必要はないし、「家族サービス」などという、押し付けがましい考え方からも解放される。

僕は実際にそういう家族を見たことがあるし、できれば自分の家族にもそうなってもらいたかった。

すでに過去形なのは、多分、もうそういう家族になるのは難しいと思っているからだ。

一度は軌道に乗りかけた長女

長女に関して言えば、ほんの一瞬、うまくいきかけた時期もあった。

小学校4年生の誕生日にソフトボードをプレゼントにし、ウェットスーツも買い与え、毎週海へ連れていってはボードを押して、湘南の小さい波であればウネリからテイクオフを成功させるところまではいった。

しかし、その後が続かず、今ではもうサーフィンには見向きもしない。

例えば、世界の名だたるプロサーファーは、その子供もすごいジュニアサーファーだったりするケースが多いように感じる。シェーン・ドリアンの息子ジャクソン君や、ジョシュ・カーの娘シエラちゃんなんかはその筆頭だろう。

ジョンジョンのお母さんアレクサンドラなんかも、本人がバリバリのサーファーでありつつ、今をときめくワールドチャンプを育てた事になる。

そういう人たち(プロだけじゃなくて、先述したビーチ大好きなファミリーも含む)と、我が家の“失敗”との差はなんだろう?と、このロックダウン中、思わず考え込んでしまう時間が増えた。

自分のサーフィンしか考えていなかった

朧げながら、これが答えなんじゃないか、と思っていることがある。

それは、僕が「目先の楽しみを取り続けてきた結果」である、ということだ。

平たく言えば、今の状況は、いつも自分のサーフィンを優先して、言い方は悪いが、家族が海好きになるために時間を“投資”してこなかったせいなんじゃないかと思っている。

軌道に乗りかけていた長女にしても、波乗りそのものだけじゃなく、行き帰りの道中含めて、もっと全面的に「楽しい時間」を醸成していれば、結果は違っていたかもしれない。

次女にも三女にも、「ビーチはこんなに楽しい場所なんだよ」ということが伝わるまで、何かを与えたかと言われれば、多分僕は、「ここまで遊んだから、あとはサーフィンに行かせてもらうよ」という態度だったと思う。

子供だけでなく、妻に対しても同様だろう。妻にとってビーチは、”僕がサーフィンにいってしまうせいで一人で3人の面倒を見なくちゃいけない場所”になってしまったのだ。

成り行きで「親子サーファー」は生まれない

先述したようなプロサーファーの親子なんかを見ていると、「親のライフスタイルの中心にサーフィンがある」という環境を作りさえすれば、子供も成り行きでサーファーになるものなのだと勘違いしてしまいそうだが、実際は絶対にそんなことはないと思う。

目先の波を見送ってでも、とにかく子供(やパートナー)に献身的にギブし続けて、ゆっくりと環境を育む必要があるのだろう。

五十嵐カノアのお父さん、五十嵐ツトムさんの日記を読むと、まさにそれを地道に、かつ最高のレベルで実践し続けてきたのがよくわかる。その献身性たるや、ツトムさんの日記を読んだ時、自分が恥ずかしくなったほどだ。

そして、その結果として、ご存知の通り、今のカノア選手の活躍がある。

大切なのは「今の波」?「将来の波」?

むしろ、そういう意味では理想的な親子サーファーの方が、割合としては圧倒的に少ないかもしれない。なぜならサーファーとは、目の前のいい波を黙って見送れるほど自制心が働く人種ではないからである。その性質が招いた人生における失敗談は枚挙にいとまがないだろう。

もちろん僕自身も、そんな鋼のメンタルを持ち合わせていなかった。

そしてサーフィンへの依存度合いが高い人間ほどその傾向は強い気がする。

まあ、そのおかげで体験できた波や、培ったスキル・経験もないとは言えないので、どちらがいいか、というのは一概には決められない。

しかし、将来、親子で最高の波をシェアする、という得難い時間を手に入れたいと本気で思うなら、目の前の波を見送ってでも、その時間を子供に捧げる覚悟が必要なのである。

——とはいえ、まだ、三女あたりが奇跡的に自ら「サーフィンやりたい〜」と言い出さないかな、とは思っている……

〜〜波待ち日記〜〜


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