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映画版ガリレオ「沈黙のパレード」~黙秘の罠 あなたは「疑わしきを罰せず」を受け入れられますか?(ネタバレなし)

映画「沈黙のパレード」が明日・2024年3月30日にフジテレビで放送されます。
ガリレオ映画最新作のが「土曜プレミアム」で地上波テレビ初登場。

今回は映画「沈黙のパレード」についてnote記事にしたいと思います。
地上波初放送の前なので完全にネタバレなしです。

公式サイトに書いてある内容を大きく超えるネタバレはなし。
別の視点からnote記事を書いていきたいと思います。

ああ天才物理学者・湯川学(福山雅治)の元に、警視庁捜査一課の刑事・内海薫(柴咲コウ)が相談に訪れる。
行方不明になっていた女子学生が、数年後に遺体となって発見された。

内海によると容疑者は、湯川の親友でもある先輩刑事・草薙俊平(北村一輝)がかつて担当した少女殺害事件で、完全黙秘をつらぬき無罪となった男・蓮沼寛一(村上淳)。

蓮沼は今回も同様に完全黙秘を遂行し、証拠不十分で釈放され、女子学生の住んでいた町に戻ってきた。
町全体を覆う憎悪の空気…。

そして、夏祭りのパレード当日、事件が起こる。
蓮沼が殺された。
犯人は誰か。

女子学生を愛していた、家族、仲間、恋人…全員に動機があると同時に、全員にアリバイがあった。
そして、全員が沈黙する。

湯川、内海、草薙にまたもふりかかる超難問…!果たして、湯川は<沈黙>に隠された<真実>を解き明かせるのか…!?

フジテレビ「土曜プレミアム」のサイトにおける「沈黙のパレード」の説明 太字は引用者=私



・黙秘しか勝たん

「沈黙のパレード」にて登場人物たちからも観ている人たちからも憎悪を一心に集める男・蓮沼

蓮沼は少女殺人事件で逮捕・起訴されます。
事件について完全黙秘

裁判の結果は無罪が確定

地裁も高裁も無罪判決でした。
検察は最高裁へ上告せず。

最高裁に上告するには特別な理由が必要ですが、地裁・高裁の両方で負けるくらいなので検察は最高裁に上告するような争点を作れなかった。

蓮沼の父親が刑事であり、その父が「容疑者に自白されていたことを息子に自慢してた」可能性が映画では示唆しさされています。

警察・検察・裁判所が「自白至上主義」だった時代がありました
今ではだいぶ改善されていますが「容疑者が自白すればほぼ有罪」だった時代がありました。

裁判所が「自白があればどんな状況でも有罪にしてくれる」となれば警察も検察も「自白を取れさえすればよい」となります。

本来は刑事司法の在り方としてはおかしいのですが、そういう時代もあった。
そしてそういう時代の警察を蓮沼は知っていた

映画では書かれていませんが、東野圭吾先生の原作小説にはもうちょっと細かく書いてあります。


ハードカバー版「沈黙のパレード」p34には草薙の次ようなセリフがあります。

「19年前の最大のミスは、死体遺棄の証拠を武器に問い詰めれば、蓮沼が落ちると思ってしまったことだ」

「ところが、あんな逃げ道があったとはな」

「当時は黙秘権のことはよく知られてなかったから、質問されたら何か答えなきゃいけないという意識が被疑者たちにはあったはずなんだ。ところが蓮沼は黙り続けた。身の上話どころか世間話にも応じようとしなかった。しかもその態度を裁判中もずっと貫いた。こんな言い方をするのも変だが、あの精神力には驚かされたよ」

警察や検察が「自白に頼る捜査手法に慣れきってしまったことによる罠」でした。

自白に頼っていたという事は自白がない場合、黙秘された場合、困ってしまうということです。
普段の手法が通じないからです。

刑事事件は検察が担当します。
検察は負けました。

蓮沼は刑事裁判で無罪が確定します。

・疑わしきは罰せずの勝者・蓮沼

以下は原作小説「沈黙のパレード」に書かれている高裁の判決のこと
です。

裁判長は、「被害が本橋優奈さんを死亡させた疑いは強い」と一審の判断をさらに進めた表現を使ったが、検察側が新たに示した証拠については、「被告が殺意を持って死亡させたとする証拠として十分とは言い難い」と述べ、控訴を棄却し、一審に続いて被告を無罪とする判決をいい渡したのだった。

東野圭吾「沈黙のパレード」 ハードカバー版p34 太字は引用者=私

刑事事件では検察がすべての立証責任を負います。
「あの人が犯人です」という証拠を検察がすべて揃えないといけません

被告には何も言う義務がありません。
被告は黙っていたければ黙っていてよいのです。(黙っていた方が裁判に有利になるとは限りませんし、不利になることもあります)

たとえ「容疑者の自白がなかったとしても裁判官を納得させる証拠」を検察が揃えないといけないのです。

本来の刑事裁判の姿がそこにあります。

しかし従来の警察・検察は「自白ありき」に慣れてしまっていたため、「自白がない殺人事件」において立証が下手だった。

警察・検察が黙秘の罠にはまった。
その反対に蓮沼は「疑わしきは罰せず」の勝者となりました。

「疑わしきを罰せず」≒「疑わしきは被告人の利益」については第二東京弁護士会のサイトより引用しておきます。

「無罪推定の原則」を受けて、刑事裁判においては、検察官が被告人の犯罪を証明できなければ、有罪とすることができません

被告人の側から見れば、被告人が無実を証明する必要はなく、裁判で自ら無罪であるという説明をする義務もない、ということになります。

犯罪事実が、法廷に提出された証拠だけでは、あったともなかったとも確信できないときは、被告人に有利な方向で判断しなければなりません

これを、「疑わしきは被告人の利益に」の原則といいます。

太字は引用者=私がつけました

原作小説「沈黙のパレード」で書かれた高裁の判決はまさにこの「疑わしきを罰せず」のことを言っています。

蓮沼は損害賠償で約1000万円をゲット
世に放たれます

・登場人物たちは「疑わしきを罰せず」を受け入れなければいけないのか?

そして・・・蓮沼は別の殺人事件の容疑者として逮捕されます。
しかし今回も完全に黙秘

警察は起訴に持ち込めると判断しましたが、検察は処分保留で起訴しませんでした。

今回の殺人事件の被害者家族や被害者と親しかった人たちはこのことに納得できるでしょうか?

普通の感覚だったら納得できないでしょう。

検察が起訴しなかったのは「逃げた」と思うでしょう。

「裁判で有罪できるだけの証拠がなければ検察は起訴しない」というのは大正論です。
しかし「もし2度失敗したら目も当てられないと検察が判断した」と被害者遺族たちは思うはずです。

実際にもし今回も蓮沼が無罪となれば世間の批判はすさまじいはず。
「殺人犯が1回殺すごとに1000万円もらえるのか?」と。

しかも蓮沼はあくまで無罪の人なのであからさまに批判できません。
警察・検察に批判が殺到すると思われます。

刑事裁判は検察が担当します。
最終的には検察が失敗したことになります。
検察が逃げ腰になるのもわかります。

「沈黙のパレード」に登場する人たちは「疑わしきを罰せず」を受け入れるべきなのでしょうか?

それとも・・・・

・あなたは「疑わしきを罰せず」を受け入られるか?


「疑わしきを罰せず」が問題になるのはフィクションの世界だけではありません

最近話題になった暴力団に関するニュースがあります。

工藤会トップ・野村悟被告の刑事裁判では「死刑判決が無期懲役に変更された」と報道されました。

なぜ死刑から無期懲役になったのか?

工藤会トップ・野村被告は4つの事件で起訴されています。

地方裁判所4つとも有罪で死刑。
高等裁判所3つを有罪、1つを無罪で無期懲役。

この1つの無罪判決が効いて死刑から無期懲役に変更されています。

この1つの事件が無罪になったのが「疑わしきを罰せず」だったのだろうと言われています。

簡単に言えば「無罪になった事件は古すぎて、検察官が有罪を立証できなかった」。

そのように指摘する人もいます。

高裁判決が「疑わしきを罰せず」を徹底した結果のかは断定しません。

しかしもし高裁の判決が「疑わしきを罰せず」を徹底した結果だった場合、
あなたはこの判決を受け入れますか?

ちなみにツイッター(X)で行ったアンケートを載せておきます。

このアンケートは「疑わしきを罰せず」については触れていません。
しかし75%以上の人が「死刑が妥当」だと言っています。

「疑わしきを罰せず」の話を聞いた後でこのアンケートの結果が大きく変わることはあるのでしょうか?


今回のnote記事は以上です。

同じ東野圭吾さん原作のミステリー小説が今年の1月に映画化されています。
2024年1月に映画化されたのは「ある閉ざされた雪の山荘で



4月5日からアマプラで観ることができるようです。

過去2回、映画「ある閉ざされた雪の山荘で」についてnote記事にしています。

興味のある方はぜひお読みください

映画に関するマガジン(記事のまとめ)も作りました!


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