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政治思想のマトリックス

マトリックスとは元は「何かを生み出すもの」、一般的に「行列」を表す。

現状に変わるイデオロギー体系を構築するためには、まず国家の要素とは何かを考える必要がある。

そこで、今回様々な政治思想を図式化するマトリックスを紹介しようと思う。

4つの基準

いくつものバリエーションがあるのだが、典型的なのは2本の軸に、左派 / 右派、権威主義 / 自由主義の軸は個人の自由を定義する。

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ミニ王国

イデオロジーに応じて4つの地域に分けられた新たなイギリスの思考実験を行ったグループがある。このクリエイティビティがとにかく面白い。

このグループがイギリスを選んだ理由としては、全く架空の国には、今ある世界とのつながりが一切ないと考えたからである。

この思考実験では、イギリスを4つの巨大な州に分け、4通りのテクノロジーとイデオロギーの組み合わせを描いた。

共産主義 + 原子力エネルギー
社会民主主義 + バイオテクノロジー
ネオリベラリズム + デジタル技術
無政府主義 + 自己実験

シナリオは、21世紀に向けて国家を改革すべく、イギリスは「共産核保有主義者」「バイオリベラル」「デジタリアン」「無政府進化主義者」が住む4つの巨大な州に分かれた。各州は自由に独自の統治形態、経済、ライフスタイルを決められる実験特区隣、イギリスは社会、イデオロギー、経済のモデルを巡って競争し合う、自由な実験の場となった。

実験を通して、崩壊後の新しい世界秩序の中で生き残って行けるような、最適な社会、政治、経済の構造を発見することが目的だ。

「デジタリアン」

名前が示すとおり、「デジタリアン」はデジタル技術に依存している。タグ付け、計量化、完全な監視、追跡、データの記録、100パーセントの透明性など、デジタル技術が示唆する暗黙の全体主義体制にも依存している。

デジタリアン社会は市場の力だけで組織されている。市民と消費者は同じ意味ただ、デジタリアンにとって、自然は必要に応じて消費するためにある。デジタリアンが技術官僚によって統治されているのか、それともアルゴリズムによって統治されているのか、誰もよくわかっていないし、興味もない。

何もからがスムーズに行われていて、それがたとえ幻想だとしても、選択肢を与えられている限りは、そのことを誰も気にしない。デジタリアン社会は、4つの王国のなかで最もディストピアに近いが、我々にとっては最も馴染み深い。

「バイオリベラル」

デジタリアンは、減少する資源の需要と供給をデジタル技術で管理することで、全員が水久に資源を利用できるという幻想を生み出している。

その一方で、社会民主主義者である「バイオリベラル」は、バイオテクノロジーと、それに伴う新しい価値観を追求する。バイオリベラルもまた、全員の自由と選択肢を求めてはいるが、それが一過性のものにならないことを望んでいる。

バイオリベラルたちは、合成生物学の夢がついに実現し、その約束が果たされた世界で暮らしている。政府がバイオテクノロジーに莫大な投資をし、自然界との共生社会が実現したのだ。その世界観の中心には生物学があり、我々の世界とはまったく異なるテクノロジーの風景を生み出している。膨らんでいく人間のニーズを満たすために自然に手が加えられる一方で、人々の側も、限りある資源に合わせてニーズを調整する。

一人ひとりが自分のニーズに応じて自分でエネルギーを作り出す。バイオリベラルはいわば農民であり、料理人であり、園芸家でもある。植物や食べ物だけでなく、製品も自らが作る。庭、台所、農場が工場や作業場の代わりなのだ。

「無政府進化主義者」

無政府進化主義者は、大半のテクノロジーを捨て(または少なくとも開発するのをやめ)、トレーニング、自己流のバイオハッキング、自己実験を通じて、科学の力で自分自身の能力を最大限に高めることに専念する。彼らは、膨らみ続ける人間のニーズに合わせて地球を改造するのではなく、地球の制約のなかで生きていけるよう、人間自身を改造していくべきだと考えている。

無政府進化主義者には、トランスヒューマニストやポストヒューマニスト(いずれも、テクノロジーの力を用いて、老いに逆らったり肉体を向上させたりして、人間の限界を超えようとする人々)がたくさんいる。進化を自らの手でコントロールするのだ。規制はほとんどなく、市民は他人に危害を加えない限りは何をしてもかまわない。

無政府進化主義者は政府をはとんと信頼しておらず、何でも自分で組織しようとする。市民の権利は個人や集団とうしの信頼や同意に基づいている。デジタリアンとは正反対だ。世界の中心には人間がおり、何をしろと命令されることはない。

「共産株保有主義者」

共産核保有主義者の社会は、ゼロ成長と人口抑制を掲げる実験的社会である。彼らは全長3キロメートルにもおよぶ原子力発電方式の移動環境のなかで暮らしている。

この移動環境は、国の端から端まで伸びる幅3メートルの2本のレールの上を這うように進む。車両は1両あたり20×40メートルで、列車は全75両。軌道の周囲には、非武装地帯のような完全に手つかずの自然が広がっている。

自然を愛する共産主義者たちが、安全なのなかから楽しめる自然のパラダイスだ。

共産株保有主義者の世界では、国が何もかも提供する。原子力エネルギーに頼って生きているため、エネルギーは豊富だがそれ相応の代償もある。エネルギー源として比較的安全なトリウム原子炉を用いているとはいえ、誰も原子炉の近くには住みたがらないし、攻撃や事故の危険にいつも怯えている。そのため、彼らは非常に規律の厳しい移動式の国家として組織されている。

すべては集権管理され、計画され、規制される。彼らは自ら進んで喜びに囚われた囚人である。日々どう生きようかというプレッシャーから解き放たれ、貧困ではなく贅沢を分かち合う共産主義者なのだ。人気のナイト・クラブと同様、ひとり減ればひとり入国させる、という政策を採っている。ただしその期限は死ぬまでだ。

住民は、研究所、工場、水排畑、ジム、宿舎、キッチン、ナイト・クラブなど、必要なものを完備したいわば“山脈列車”のなかで暮らしている。山派には水泳プール、魚の養殖場、孤独を楽しむための予約可能な隔離小屋もある。

最後に

いかがだっただろうか。自分はこの4つのシナリオを見て、正直身震いをした。なぜなら、その世界観に魅了されたからだ。さらに現在の問題点も顕著に現れてくるため、親近感も湧く。

デザインは普段は出会わないもの同士を結びつける強力な土台となる力を持ち合わせる。自然にくっつかないもの同士をくっつける接着剤とも言える。

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