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風力発電できる壁、日本郵政のデジタル地図、BIMで不動産鑑定評価、の話(コンワダさん21週目)

 こんにちは、株式会社アーキロイドの津久井です。今週も社内で話題になった事例のうち、いくつかを紹介します。バックナンバーはこちら

事例1:風力発電できる壁

【概要】
 アメリカ人のデザイナー兼起業家のジョー・ドーセット氏により開発された家庭用のWind Turbine Wall(風力発電壁)です。強力なクリーンエネルギーである風力発電ですが、従来の大型風力タービンは都市部に設置することは現実的ではありませんでした。この風力発電壁は2.4m×7.6mのコンパクトさでありながら、日本の1家庭の年間電気消費量4,332kWhの2倍以上に当たる、年間10,000kWhの発電が可能です。

【この事例について】
ー 未来への期待
 エクステリアとしてのデザイン性を兼ね備えた設備ですね。世界人口はまだまだ増加を続けていますが、日本は一足(一足どころじゃなく)早く人口が減少しています。都市部への集中と地方の過疎化、維持不可能になりつつあるインフラ。中央集権から自立分散へという大きなテーマの中で、インフラ基盤は避けて通れないトピックです。この風力発電壁は、電気の自給自足を可能にする自律的なスモールインフラの1つとなり得るでしょうか。現実的には安全面・機能面の許認可や法整備、美観や騒音などの条令関係など導入へのハードルがありそうですが、そのあたりのことは詳しくは分かりません。
ー ZEH
 日本では「2020年までにハウスメーカーなどが新築する注文戸建住宅の半数以上で、2030年までに新築住宅の平均でZEHを目指す」という政府目標があります。ZEHについて詳しくはこちらを御覧ください。ZEHで重要になる要素の1つが創エネルギー(発電)です。現在戸建住宅で最も一般的な発電方法は太陽光発電です。日本の家庭用太陽光パネルの平均的な年間発電量は5,155kWh(こちらの記事調べの予想量)だそうです。太陽光にしても風力にしても、環境に大きく左右されるのは大前提ですので、手元の数値だけで判断するのはもちろん尚早ではありますが、家庭に設置するならば太陽光パネルよりもパフォーマンスを発揮するかもしれません。
ー ジョー・ドーセット
 デザイナー兼起業家のドーセット氏は、以前「コンワダさん14週目」で紹介した、AIR COMPANYが手掛ける世界初のカーボンネガティブスピリット『Air Vodka』のデザインも手掛けている人物です。その他には日本酒や、メカブを使ったシャンプーなども開発/デザインしています。

事例2:日本郵政、デジタル地図事業に参入へ…変化を随時反映する「生きた地図」作り

【概要】
 日本郵政グループが、カーナビ用デジタル地図大手「ジオテクノロジーズ」と業務提携し、デジタル地図事業に参入。2022年中にサービスを始めたい考えです。
 日本郵政は、全国に約2万4千の郵便局と約10万人の配達員を抱えています。配達員の目視やカメラ、センサーを搭載した配達用バイクなどから、詳細な情報を収集。道路状況の変化、店舗の開店・閉店などを速やかに反映させます。23年には配送でドローンを導入する計画なので、そのドローンからも情報を収集します。デジタル地図は、自動運転や無人配送など、次世代サービスを展開する上で欠かせないインフラです。先行するGoogleMapは、スマートフォンの利用者から集めた膨大な位置情報を活用し、世界的にサービスを提供しています。
 将来的には郵便事業を通じて集めた顧客データ(例えば居住者の人数など)も盛り込んで、付加価値を高めたい考えですが、郵便法では郵便事業で得た情報を郵便以外の事業で使うことを禁じているので、サービス提供の範囲など慎重に議論していく必要があるそうです。

【この事例について】
 デジタル地図は自動運転や無人配送だけでなく、メタバース・デジタルツイン領域でも大きな基盤になります。コンワダさん(本事例集)でも、これまでデジタルツイン、WebMap、MapAPI、衛星データといった事例を多く取り上げてきました。

コンワダ掲載事例一部抜粋
衛星データとAIを活用してバーチャル空間に「世界」を自動生成するプロジェクト
データが豊富なMAP API|Mapbox Tiling Service
toMap beta
東京23区のマンホール蓋をコンプせよ。インフラ老朽化対策に「シビックテック」の力(賞金総額100万円)
その他

 市場を見ると、B向けのMap APIでは長らくGoogleMapが王者ですが、ZENRINがデータを提供するMapBoxも徐々に存在感を増しているようです
 C向けのデジタルマップでもGoogleMapの認知度が圧倒的です。私も外出時は必ず利用します。下図に示した2019年の調査では、GoogleMapを使ったことがあると答えた人は全体の8割以上で、2位のYahoo!マップの4割を大きく上回っています。
 郵政のデジタルマップについて、現段階で対象顧客や展開方法などは発表されていませんが、圧倒的な認知度を誇る先行アプリに対してどの程度競争力を発揮できるでしょうか。大きなニュースだけに続報が楽しみです。

株式会社エフェクチュアル発表の調査(2019年)
出典:https://www.value-press.com/pressrelease/215276

事例3:スターツらがBIMが建物のレーティングにつながる可能性を検証

出典:ArchiFuture Web

【概要】
 スターツグループは日本不動産研究所との共同実験で、不動産鑑定評価の領域でBIMに一定程度の有用性が確認できたと発表しました。BIMによる建物の資産価値の判定手法の開発は投資・金融などの領域で今後BIMサービスを提供するために必須との考えです。
 今回の実験では、FM用BIMモデルから不動産鑑定評価書と各種評価レポートを作成。収益性・経済的価値の算出、建物の個別性の鑑定評価への反映などが確認できています。引き続き、BIMデータを建物の投資価値に反映させるスキーム構築を検討するそうです。

【この事例について】
 FinTech分野との連携への期待はもちろん、BIMデータを元にして機械的な評価が可能であれば、現況調査の省力化や評価基準の一貫性など、実務的なメリットも大きそうです。
 今回の実験は共同住宅を対象に実施していますが、戸建住宅も同じように評価できるといいですね。個人間の取引が主である中古住宅市場こそ、適正な評価の必要性が高いからです。しかし、現状戸建住宅設計にBIMを導入している事業者は多くありません。よく、詳細な図面がなくても家が建つと言われることがあります。設計図という言葉があるように、始めは建てるための情報として図面や3Dモデルを作りますが、それが不要なのであればBIMどころかろくな図面がないということもあるでしょう。
 戸建住宅に限らず、データの不足は広く運用するための大きなハードルとなりそうです。古い建物や大きな建物では、現況と保管されている図面や3Dモデルが一致しないというケースはよくあります。実験ではFM用のBIMモデルを使用したとありますが、そのような情報整備がなされている建物は決して多くはないでしょう。
 今後、例えばBIMでの建築確認申請制度が整うなど、設計業界にBIMモデルを作るインセンティブが高まるような環境的変化も必要そうです。 
 いずれにしても、本事例は不動産×金融分野の開拓者として、不動産テックカオスマップに新たな領域を作るかもしれません。

出典:一般社団法人不動産テック協会WEB

まとめ

 当社は、WEB上で簡単に住宅を設計できるサービスarchiroid.comを開発・運営しています。これまで、この連載では幅広い事例を紹介してきましたが、今回はたまたま建築や都市に”関わり”のある事例だけでした。

風力発電できる壁(=建築設備)
郵政のデジタル地図(=ダイナミックなデジタル都市)
BIMによる建物評価(=建物モデル活用)

ちょっとこじつけのような薄い”関わり”ですが。筆者としては今回は”偏ってるなぁ”という印象を持っているのです。

 最後までお読みいただきありがとうございました。是非「スキ♡」を押してください。良い華金を。


「今週、社内で話題になった事例」 について
株式会社アーキロイドの社内で話題になった事例(ニュース、リリース、書籍、動画、論文などなど)のうち、いくつかをご紹介します。元記事の配信時期は必ずしも今週とは限りません。数ヶ月前、数年前のものもあるかもしれません。

社外にこれを発信することで、
①アーキロイドメンバーが日々どのようなことに目を向けているのか、を知ってもらいたい。
②せっかく読んでもらえるなら有益な情報をお届けするために、自分たちの情報感度をもっと高めていきたい。
という目論見があります。

メンバーも大半が30代に差し掛かってきたので、備忘録という意味合いが一番強いかも。ご笑覧ください。

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