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映画照明、メルカリ、ウォッカの話(コンワダさん14週目)

こんにちは、株式会社アーキロイドの津久井です。
毎週金曜日はコンワダさん(今週、社内で話題になった事例)を紹介しています。バックナンバーはこちら

ピックアップ事例:映画のライティング術を解説『ciloversgroup』のInstagram

 ciloversgroupは、インスタで有名映画のライティングを図解しているアカウントです。上の写真は2015年公開の『ブルックリン』です。電車の動きもライトで表現している事がわかります。

 12/17に公開される『マトリックス レザレクションズ』からも。なんてことのない1シーンですが、奥行き感や自然な光を表現するために、スクリーンには見えないところの工夫があるのですね。写真・映像撮影はもとより、3DCG制作などにも参考になりそうです。
 同じように映画の裏側を紹介するインスタグラムアカウントとしては、ciloversgroupの10倍のフォロワーがいるmovies.effectsが人気です。こちらもハマると見続けてしまいます。

 今回はDVDの特典映像、movies.effects、そしてこのciloversgroupの3つを参照し、映画撮影の裏側の見せ方を考察したいと思います。筆者の体験、体感に基づいた私見です。

【DVDの特典映像=ファン向け、ストーリーの共有】
 かつて、一般の視聴者が映画の撮影の裏側を知るのは、DVDの特典映像や、ドキュメンタリー番組などでした。筆者がグリーンバックを知ったのは、確か子供の頃に観た『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』の特典映像だったと記憶しています。
 特典映像で見せたいのは、撮影のテクニックそのものではなく、映画の裏にあるストーリーです。それは広く世の中に向けられたものではなく、その映画のファンに向けられたものです。スター・ウォーズのDVD特典に含まれる撮影風景や関係者インタビューは当然スター・ウォーズのものであり、ハリー・ポッターの映像は入っていません。主役はあくまで本編の映画です。

【movies.effects=マス向け、面白さの共有】
 movies.effectsは、様々な映画からあるシーンのVFX、あるキャラクターの特殊メイクのビフォー・アフターを紹介するアカウントです。DVD特典映像がストーリー重視であるのに対して、movies.effectsはテクニック重視です。本編の映画はもはや主役ではありません。「リアルはこうだけど、スクリーンではこうなる」という面白さは万人が共有できます。その画の変わりように驚いたり、時にはリアルな撮影風景が滑稽に見えて笑えたり。movies.effectsのコンテンツの面白さは、映画を観たかどうかにはさほど左右され無い、単体で成立するエンタメコンテンツと言えます。

【ciloversgroup=コア向け、知の共有】
 movies.effectsとの共通点は、特定の映画のファン向けではないこと、裏側を知ることの面白さと言えるでしょう。特に「知る」ことの面白さは拡散やリアクションを呼ぶので、SNSとの親和性が高いように思います。
 当然異なる点もあります。movies.effectsが撮影の裏側をリアルに見せていたのに対し、ciloversgroupは裏側を”そのまま”見せているわけではありません。照明もレフ板もカメラも実際には見せません。見せているのはどのように機材を配置しているかという、裏側の図解です。前者は、そのまま見せるエンタメコンテンツ、後者は図解で見せるメタコンテンツ。前者はひと目見るだけで楽しめる、後者は画と図解を反復して理解することで楽しめる。前者は高度なので見て終わる、後者は図解なので理解したら応用が可能です。ciloversgroupは「知る」を超えて、「分かる」のステップ(=知の共有)に手をかけていると言えるでしょう。

【まとめ】
 プロフェッショナルな技術や知識の中には、実は伝えるメディアがなかっただけでそこを整備すれば、「知る」「分かる」こともあります。
もちろん、だからといってプロと同じように実践できるというわけではありませんが、評価を正当に下せる可能性は高まります。情報格差に勝機/商機があるのは事実で、だからこそ「知らない」「分からない」というのは不利益に繋がることもあるのです。
 当社はarchiroid.comというWEB上で住宅を設計、内覧、検索、比較できるサービスを開発・運営しています。住宅設計のプロフェッショナルな知見を順次形式知化しており、みなさんの「知る」「分かる」に貢献したいと思っております。

その他の事例

その1:メルカリのサービス改善に参加できるポイ活「メルワーク」

 メルカリがリリースした新サービス「メルワーク(merwork)」です。メルカリが作成した、メルカリをより良くするためのワークを、ユーザーがこなします。対価としてメルカリ・メルペイで使用可能なポイントが付与されます。昨今流行りのポイ活(ポイントをコツコツ貯める作業、スマホでスキマ時間にアンケートに応えるなど)のメルカリ版と言えるかもしれません。
 例えば、洋服の商品に「これは花柄である」「これはVネックである」という属性を付与していくワークがあるとします。これらの情報は写真や商品の説明を見れば分かりますが、処理可能な属性情報としては付与されていないので、その条件で検索する事はできません。そこで、月間2000万人を超えるメルカリのユーザーがスキマ時間を使えば、あっという間に出品済みの商品にもその情報を追加していくことができます。
 単にポイントが貰えるだけでなく、メルカリのサービス自体が使いやすくなるのは、全ユーザーにとっての利益です。全ユーザーが使いやすさを実感すれば、利用頻度や継続率が向上し、メルカリにとってもありがたい状態になります。ワーク参加者、ユーザー、メルカリ、3者が循環的に利益を得ていく枠組みの設計です。今や1つのインフラ、経済活動基盤としての地位を確立しつつあるメルカリですが、そのアップデートの仕方も秀逸でした。当社内でもよく、archiroid.comのサービスを使って設計を生み出すユーザーや、それを支える設計計算機能を、共に開発してくれるプログラマや建築家にポイントを付与し、オープンに、フラットに、エコに、発展していけると良いな、と話しています。メルカリほどの企業でも、メルワークも構想から実現に2年を要してるようなので、我々も諦めずにコツコツとやっていきたいと思います。なお、現在ワークに参加できるのはiOSアプリ利用者の1%で、今後拡大予定だそうです。
 余談ですが、記事にはメルワークのチームメンバーの写真とそのコメントが載っています。それ自体は珍しいことでもないのですが、なんだかこのページからは、「生産者の見える野菜」のような妙な温もりというか、安心感というか、ほっこりを感じた筆者でした。

その2:世界初のカーボンネガティブスピリット『Air Vodka』 by AIR COMPANY.

Air Vodkaイメージ(商品ページより)

Air Companyは、CO2を不純物のないアルコールに変換する炭素変換技術を発明したアメリカの企業です。その技術を用いて、空気から作った商品を販売しており、現在は香水、エアスプレー、ウォッカの3種類を販売しています。その1つ、Air Vodkaは世界初のカーボンネガティブスピリットで、ロックかマティーニで飲むのがおすすめだそうです(Air CompanyではAirtiny/エアティーニとよんでいるそうです。オシャ)
 最近「カーボンニュートラル」という言葉をよく聞きます。みなさん耳にタコだと思いますが、カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量から吸収量を引いた値がゼロになる、正味ゼロの状態です。日本を含む世界の120以上の国と地域で、2050年カーボンニュートラルを目標にしています。一方「カーボンネガティブ」は、排出量よりも吸収量が多い状態です。マイクロソフトは2030年、花王が2050年にカーボンネガティブを目標にしているようです。
 吸収量というのは、本業とは別の植林・森林管理で相殺するというのが一般的であるのに対し、Air Companyは本業の活動の過程でCO2をアルコールに変換している点が大きくに異なります。
 私達が商品を買う際にプラスチックのレジ袋やストローを使わない意識を持つのは、自分たちにできること1つです。でも、商品自体や持参したエコバッグが製造や流通の過程で温室効果ガスを多く排出していたとしたら。環境破壊をほんの少しは遅くできても、根本的には持続可能な状態にははなりません。「じゃぁ何も買わない」というのは非現実的なので、手に取れる商品がカーボンニュートラル、カーボンネガティブというのが理想です。その状態を実現するのは、個々人の意識の問題ではなく、こうした技術革新によるのだろうと思いました。

まとめ

 今週もお楽しみいただけたでしょうか。

 コンワダさんの特徴の1つが、事例の幅広さだと自負(と思ってもきっと大いに偏っているんだろうなという矛盾を吐露)しています。様々な分野の事例を取り上げていますが、建築、住宅、不動産に関するトピックが1つもないのは、14回目にして初めてかもしれません。意図して排除したわけではなく、筆者がnoteで取り上げたいものを抜粋したらこのような結果になりました。
 他方で今度、住宅や間取り設計に特化した事例集を書きたいな、と画策したりしています。コンワダさん(今週、社内で話題になった事例)の趣旨とは外れますが。

 最後までご覧頂きありがとうございました。それでは良い週末を。

「今週、社内で話題になった事例」 について
株式会社アーキロイドの社内で話題になった事例(ニュース、リリース、書籍、動画、論文などなど)のうち、いくつかをご紹介します。元記事の配信時期は必ずしも今週とは限りません。数ヶ月前、数年前のものもあるかもしれません。

社外にこれを発信することで、
①アーキロイドメンバーが日々どのようなことに目を向けているのか、を知ってもらいたい。
②せっかく読んでもらえるなら有益な情報をお届けするために、自分たちの情報感度をもっと高めていきたい。
という目論見があります。

メンバーも大半が30代に差し掛かってきたので、備忘録という意味合いが一番強いかも。ご笑覧ください。

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