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ELT持田香織になれるマイクとM-1グランプリの話、日本製建築3Dプリンター、AI画像生成の話(コンワダさん49週目)

 こんにちは、株式会社アーキロイドの津久井です。今週も社内で話題になった事例(コンワダさん)からいくつかをご紹介します。バックナンバーはこちら

ELT持田香織になれるマイクとM-1グランプリの話

―――概要
 ヤマハはマイクを通した声が「Every Little Thing」のボーカル持田香織の声に置き換わる技術を開発、発表しました。人の歌声を別人の歌声にリアルタイム変換する新技術「TransVox(トランスヴォックス)」の実証研究です。TransVoxは一般的なボイスチェンジャーとは異なり、歌声の特徴や音の高低に応じた音色の変化など歌い方の癖をAIに学習させることで、年代や性別を問わずどんな人の声でも特定の人の歌声に変換できます。
 このマイクは「なりきりマイク feat.ELT 持田香織 スペシャルルーム」として、カラオケ大手ビックエコーの3店舗で提供されます。ネットでかなりバズったのでご存じの方も多いと思いますが、その再現度の高さに私も驚きました。是非映像も御覧ください。

―――この事例について(1)
 皆さんはM-1グランプリをご存知でしょうか。年末に行われる漫才の日本1を決める賞レースで、毎年数千組の漫才コンビ(トリオやグループもいる)が出場し、これまでに多くのスターが誕生してきました。今年も各地で既に予選が始まっているようですね。テレビ中継される決勝ではネタの面白さは言うまでもなく、まだ知名度のない若者(たまにおじさん)がこの舞台で優勝して売れるぞ!夢をつかむぞ!という熱い思いと、この日までに年間数百のステージに立つなど決勝の数千分の十に入るまでの凄まじい努力が垣間見える、笑いあり涙ありの年末の風物詩です。
 さて、私はM-1やお笑いに詳しいわけではないのですが、近年のM-1中継の中で一番印象に残っているのはこれだ!というシーンがあります。それは、M-1グランプリ2019で、この年優勝することになるミルクボーイが1本目のネタを終えたときに、審査員のナイツ・塙さんが「誰がやっても面白いネタ プラス この人達がやったら1番面白いというのがベストだと思う(中略)100点に近い99点」と絶賛したシーンです。
 ここから読み取れるのは、良い創作者がかならずしもその創作物における良い表現者であるとは限らないという点です。そしてミルクボーイのネタに関しては、余人を持って代えがたいほどミルクボーイが最高の表現者であるということです。(誰がやっても面白いネタ、という謂わば再現可能なシステムとしてのネタも着目したい点なのですが、今回は深掘りせずに置きましょう)
 ようやく本筋に戻ってきますが、歌も「〇〇が歌うからいいんだよね~」ということはよくあります。当然その曲を持ち歌にしている歌手のイメージが有るので、その歌手が歌うのが一番耳馴染みがいいです。誰がカラオケで歌っても名曲であることに変わりはないELTの曲も、やはりELTが歌うのが一番かもしれません。でもこのマイクがあれば、誰でもELTになれるわけなのでその最高の状態を作り出せてしまうというのがすごいですね。
 一方で「〇〇がカバーしてる△△の曲って最高だよね」ということも有りますよね。本人よりもカバーのほうが有名とか、アナ雪のように劇中歌とエンディングで歌手が違うとか。このマイクでELT以外のアーティストの曲を歌ってみるのも面白い発見があるかもしれません。

 余談ですが、M-1グランプリ2019は決勝の途中段階で1位かまいたち、2位和牛、3位見取り図という前評判通り実力派のコンビが上位に並ぶ中、無名のミルクボーイがM-1史上最高得点でトップに躍り出ました。更にこの後これまた無名のぺこぱが和牛を蹴落としてファイナルステージに進出という、誰もが予想しなかったM-1史に残る名展開でした。
 また、塙さんにとって「誰がやっても面白いネタを、その人がやるのが1番面白いのが最高」という評価軸は通底しているようで、チュートリアルのネタに関しても同じように評価していることがこちらのインタビューでも見て取れます。

―――この事例について(2)
 以前のコンワダさんで、声や話し方の特徴を抽出してフォント化した「CoeFont」の事例をご紹介しました。CoeFontは文字のフォント同様に、同じ内容を多様な表現で楽しめるだけでなく、病気で発声ができなくなってしまったときにも自身のCoeFontがあれば、まるで自分が話しているかのように伝えることができるといった意義深さも有りました。
使用法も得られる価値も全く異なる2事例ですが、AIの学習モデルで声を扱うという点では共通しています。こうした高度な技術は開発者が増えることで、いろんなシーンに敷衍し、いろんな価値を生み出していきます。第三次AIブームと呼ばれている現在、こうした革命的なプロダクトがすさまじいペースで生まれ、大袈裟かもしれませんが社会全体が大きく変革する片鱗を感じた筆者でした。

その他の継続ウォッチ事例

日本製3Dプリンターで倉庫やサウナ、公衆トイレなど「ポリウス」

国内外で3Dプリンターの家や建築物の研究・開発が進んでいます。今年から国内で販売をスタートする予定という企業もあります。本事例はそんな盛り上がりを見せる国内3Dプリント建築から、コンワダさんでも2月に取り上げたPolyuse(ポリウス)のニュースです。
 建設用3Dプリンタの開発は2012年頃から活発化し、国外では住宅施工の事例もあります。しかし自然災害の多い日本では、3Dプリンター住宅で厳しい建築基準法をクリアすることが難しく、長らく課題となっていました。今年2月には建築基準法を満たし、確認申請を受けた初めての3Dプリント建築としてポリウスの設計・施工した倉庫が話題になりました。
3Dプリンタの建築を実現するには、技術的には3Dプリンター本体の性能や機構、さらには適した材料の開発が求められ、事業的には採算性の他に安全性、法規適合性のハードルがあります。これまでの建築の文脈にはない新技術であるため、技術的にも法的にも「やってみないとわからない」という状態。そこに精力的に挑戦するポリウスの皆さんの情熱が伝わってくる記事でした。
一般住宅に3Dプリンター技術が使われるのはまだ先になるそうですが、土木分野での技術開発を進めている他、既に飲食店、仮設住宅、キャンプ場、公共トイレといった、一般の人も使える公共物や共有物での相談・需要があるそうで、私たちが3Dプリンター建築に触れる機会はそう遠くないかもしれません。

AI画像生成関連の話題note

 この1ヶ月で急激に進化した感のあるAI画像生成。コンワダさんでもこの数回度々取り上げています。大きな盛り上がりが少しだけ落ち着いて、noteに解説や考察、著作権に言及した記事などが出てきましたね。

▲StableDiffusionに関する解説+事例集noteが有りました。既にかなり話題になっているnoteですが、掲載事例数が半端ないです。まだ読んでない方は一見の価値有りなので是非!
AI画像生成によって社会はどう変わるのか、創作の世界はどう変わるのかを考察しています。産業革命時代のラッダイト運動のような創作者による拒絶反応、或いは法律レベルのブロックの可能性。創作の世界は、商習慣、制作工程、マーケットサイズ、社会的価値…あらゆるものが、数年内に大転換を強いられる。といったことを述べています。

まとめ

 今週も読んでくださりありがとうございます。先週は夏休みで、2週間ぶりのコンワダさんとなりました。今回は歌声、建築、AI画像生成と幅の広い事例紹介となりましたが、どれもこれまでのコンワダさんの系譜でもあります。これまでの守備範囲の広さを感じるとともにより広い事例にリーチできるようにアンテナを張っていきたいなと思いました。
実は先週のコンワダさん(ラフなロボットスケッチが自在に動く、残材BANK、木材培養する話)で、これまでに紹介した事例数が200事例を超えました。そして次回は記念すべき50号と節目が続きます。これからも(ほぼ)毎週連載で続けていきたいと思いますので、フォローして記事をお待ちいただければ幸いです。

▼最後に、ELTのマイクについてはこの映像が一番バズったかもしれませんね。

「今週、社内で話題になった事例」 について
株式会社アーキロイドの社内で話題になった事例(ニュース、リリース、書籍、動画、論文などなど)のうち、いくつかをご紹介します。元記事の配信時期は必ずしも今週とは限りません。数ヶ月前、数年前のものもあるかもしれません。

社外にこれを発信することで、
①アーキロイドメンバーが日々どのようなことに目を向けているのか、を知ってもらいたい。
②せっかく読んでもらえるなら有益な情報をお届けするために、自分たちの情報感度をもっと高めていきたい。
という目論見があります。

メンバーも大半が30代に差し掛かってきたので、備忘録という意味合いが一番強いかも。ご笑覧ください。

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