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メディア・企業・広報 サステナブル狂想曲 VOL.2 メディア編

2020年2月、横浜に寄港していたダイヤモンド・プリンセス号に乗船していた乗客がCOVID-19(コロナ)に集団感染し、多くの人がパンデミックの始まりを認識しました。

ただこの時は、これがすぐに収束するものなのか、それとも長引くものなのかわからなかったものの、翌3月には東京オリンピック・パラリンピック2020の延期が決まり、多くの企業、メディアが混乱の渦中に入ることになりました。人々の暮らしも、外出を控えざるを得ない状況となり、外食産業や旅行産業は大いに打撃を受け、アパレルや鉄道会社など多くの産業が不況に陥ったのは、記憶に新しいことだと思います。

新聞や雑誌などのメディアも、混乱は同じでした。
担当する範囲を超えて記者をコロナ問題に割り当てたり、何かとコロナに関する問題を取り上げたりしていました。また外出して取材や撮影する機会も減り、休刊、廃刊などに迫られるメディアも出てきました。

当時私はオリンピックに関連する企業の広報・PR支援、コンサルテーションの提供をしていたので、このドタバタは第一線で見てきたのですが、雑誌の特集も先が見通せずに具体的な企画が立たずで空欄が目立っていました。そのような中、ある有名なライフスタイル雑誌からメールが届きました。

1.新しい収入源

女性向けライフスタイル誌の企画書を見ると次のように書いてありました。

「初めてのSDGs特集!」

レストランや旅行、ファッションや化粧品などの広告出稿が激減した中で、広告収入で成り立っているメディアは新たなトレンドを作らなければならない。そこで白羽の矢が立ったのが、SDGsという切り口なんだな、と悟りました。

「各社の環境にやさしい商品やサステナブルな商品を独自に紹介」

と書かれていたものの、企業からオフィシャル写真を提供してもらい、メディア側での写真撮影を省くのは、かなり独自性に欠けるだろうなと考えました。しかし、それくらい収益的に緊迫した状況だったのだと思います。そして、それほど月日が経たないうちに、オンラインビジネスメディアから

「SDGsの課題を解決している企業とのタイアップ広告を募集します」
「ESG経営とは」

といった内容の広告企画のメールが送られてきました。
取材ではなく、タイアップ広告だからお金が欲しいのね、考えていたのも束の間、ビジネスメディア、ライフスタイルメディア問わず、同じようなメールが次々と送られてくるようになり、広告を出稿する企業が少なくて経営難に陥りそうな中で、良くも悪くも不況の中で活路を見出したのだな、と思ったことを鮮明に記憶しています。

2.その時の新聞社や出版社の状況は?

SDGsやESGに限らずですが、新しい潮流を作ってニュースを売る人たちにとって、その新しい潮流は時に課題にもなります。

なぜなら、専門知識が必要でも専門的に知識を身につけている人が圧倒的に少ないからです。また、日本は雇用流動性は低く、これまで社員を育て、社員で経営を賄ってきた企業にとって、研究者やNPOなどの人材を外から人を採ってきて、部長以上の新ポジションに配置するのは簡単ではない風潮があります。もちろんこれは、新聞社や出版社に限った状況ではないのですが。

正しい情報を発信する責任、メディアとしてのクオリティが問われる以上、中途半端な知識で書いたものを発信することはできません。ESGやSDGs、持続可能な社会を作るための取り組みなどを書く記者は大きな新聞社や出版社でもほんの数名のみが在籍するような状況でした。

それゆえ、タイアップ広告を売りたいのに、クオリティが担保された記事を書けるライターが少ない、また広告だけでなく、世界ではESGの重要性が話題になっているのに、ジャーナリズムを持ってESGのことを書ける記者が少ない。特にESGは金融の知識や動き、気候変動など複数の専門知識を必要とする分野なので、クオリティが担保された記者を育てるのは簡単なことではありません。それは今もあまり変わりないように見えます。

日本のESGやSDGsメディアを見てみると、大学教授などの有識者が執筆しているケースをよく見ます。本来は、自社内に記者やライターを配置した方が、そのメディアの特色を出せる(&コントロールがしやすい)と思いますが、オープンイノベーションの必要性に迫られています。

また、SDGsやESGの記事が増えれば増えていくほど、広告費用をかけずに取材を望む事業会社も増えてきます。この分野に限りませんが、一日に数百ものプレスリリースや売り込みがある昨今、関連する情報を集中的に回されても読めないよ!という声も、記者からよく聞きます。

もっとも、メディアからすれば、企業が言いたいことを発信するというのは、広告に分類するというのが言い分だと思います。ジャーナリズムは企業が言いたいことを取り上げるのではなく、真実が何かを追求することに重きを置いてますので。

何か新しい考え方や戦略を取り入れるということは、どこの企業も試行錯誤だと思いますが、2023年現在、メディアはその混乱に慣れてきたところ、少しずつ改善に向かっているところ、といった状況でしょうか。

3.大きな声では言えない課題

新しい考え方というのは、逆説的に考えると今まで考えてこなかったことでもあります。根付いてこなかったのには何か理由があったり、また口で賛成を唱えながらも、心底賛成とは限らないというのは社会ではよく見る光景です。

古くからあるビジネスメディアでは、男性の読者が多くを占め、また役職も部長以上の方が多い読者プロファイルだそうですが、

「女性活躍:女性役員の比率を30%以上に!」
「男女賃金格差是正」

となどいった記事を、読者が好まない傾向があることがわかっているそうです。世界では、世間では押し寄せるムーブメントと、読者からの共感を得られにくい分野で、売れるメディアを作らなければいけないというのは、あまり大きな声では言えない本音であり課題なのではないでしょうか。

ライフスタイル誌だけでなくビジネス誌も、共感は大きなマーケティング材料なのです。

4.メディア関連のまとめ

それではまとめていきます。

  1. ESGは2006年、SDGsは2015年に生まれたコンセプトだが、メディアで取り上げられることが増えたのは2019年から2020年ごろ

  2. コロナ禍の収益源として、サステナビリティ、ESG、SDGsの広告が一気に増え、一般の人が目にする機会が増え、認知度が高まった

  3. 大手新聞社や出版社内でも専門的にこの分野を書く記者やライター、編集者は少ない。複数の専門知識を深く理解する必要があることが起因していると考えられるが、2023年現在も状況が大きく変わることはない

  4. 大学教授や研究者などが執筆することも多いことから、結果的にキュレーションメディアが多くなる

  5. 企業からの取材依頼(売り込み)は多いが、企業が自分たちから発信したい内容は広告に適していることが多く、メディアの広告部、宣伝部も負けじと企業へ企画を売り込んでいる

  6. 読者が必ずしも本音で持続可能な社会を望んでいる訳ではないことを理解しているメディアも多い

こんなところでしょうか。
次回は、企業内の混乱について書いていきます。

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