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論文まとめ275回目 SCIENCE 量子光学で生物学的サンプルのより鮮明な画像を得る新しい技術!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

The low intensity of attosecond pulses remains one of the main challenges in conducting true attosecond-pump/attosecond-probe experiments
アト秒パルスの低強度は、真のアト秒ポンプ/アト秒プローブ実験を行う上での主要な課題の一つである
「水の分子がどのように電子を使って話し合っているか、超高速カメラで初めてのぞき見ました。」

Sister chromatid cohesion is mediated by individual cohesin complexes
姉妹染色分体の結合は個々のコヒーシン複合体によって媒介される
「細胞が分裂する時、DNAのコピーが正しく分配されるのを確実にするための微細な機構を解明しました。」

Climate change is an important predictor of extinction risk on macroevolutionary timescales
気候変動は、大進化的時間スケールでの絶滅リスクの重要な予測因子です
「過去を掘り返して、未来を守る!海の生き物たちが教えてくれる、気候変動のリスク。」

Fishing for oil and meat drives irreversible defaunation of deepwater sharks and rays
油と肉のための漁業が深海のサメとエイの取り返しのつかない減少を引き起こす
「深海の隠れた巨人たちが、私たちの食卓と美容製品のために静かに消えていく。」

Adaptive optical imaging with entangled photons
量子絡み合いを利用した適応光学イメージング
「量子の不思議を使って、微生物のセルフィーをクリアに撮る方法を発見!」



要約

水の電子反応をアト秒レベルで解明

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn6059

Liらは、アト秒X線パルスのペアを生成・同期させることが可能な最近アップグレードされたX線自由電子レーザーを用いて、液体水の価電子イオン化に対する初期電子応答をアト秒トランジェント吸収分光法で測定し、長年の議論の的であった1b1 X線放出ダブレットの解釈を実験的に解決しました。

事前情報
アト秒パルスの強度が低いため、真のアト秒ポンプ/アト秒プローブ実験には制約がありました。

行ったこと
アト秒X線パルスのペアを用いて、液体水中の価電子イオン化による電子応答を研究しました。

検証方法
全X線アト秒トランジェント吸収分光法(AX-ATAS)を使用して、液体水の初期電子応答を測定しました。

分かったこと
AX-ATAS応答はサブフェムト秒のタイムスケールに限定され、1b1分割が構造的なモチーフの違いではなく、動的なものであることを示しました。

この研究の面白く独創的なところ
液体水中での価電子イオン化に対する初期電子応答をアト秒レベルで明らかにしたことです。

この研究のアプリケーション
核運動を凍結させて情報内容を捉える必要がある複雑な凝縮相問題の解決に応用可能です。

著者と所属
Li et al.

更に詳しく
Liらのチームは、液体水における価電子イオン化後の電子動態を探るために、技術的な進歩を活用しました。彼らが使用したアップグレードされたX線自由電子レーザーは、二色のアト秒X線パルスペアを正確に生成し、同期させる能力を備えており、これにより実験では前例のないレベルの精度で電子動態を観測することが可能になりました。アト秒トランジェント吸収分光法(AX-ATAS)を通じて、研究チームは価電子イオン化が起きた直後の水分子内の電子がどのように振る舞うかをサブフェムト秒の時間スケールで追跡しました。
この研究で得られたデータは、水の電子応答がイオン化の瞬間からサブフェムト秒レベルで発生し、この極めて短い時間内に水分子内の電子配置が変化することを明らかにしました。特に、1b1 X線放出ダブレットの分割に関する解釈に革新的な光を当て、この分割が二つの異なる構造的モチーフによるものではなく、イオン化に対する電子の動的応答の結果であることを実証しました。これまでの議論は、この分割が液体水の異なる構造的状態を示しているのではないかという仮説に基づいていましたが、Liらの研究はこれを否定し、その代わりに電子動態の直接的な証拠を提供しました。
この成果は、水分子の電子構造とダイナミクスを理解する上での重要な進歩を表しており、物理化学や生物学など、水の性質が重要な役割を果たす幅広い科学分野において、新たな理解と応用の可能性を開きます。具体的には、液体水の電子動態に関するこれまでの理論モデルを再評価し、新たなモデルの開発に貢献することが期待されます。


姉妹染色分体の結合は個々のコヒーシン複合体によって媒介される

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl4606

Ochsらは、ヒト細胞の染色質に結合した単一分子をイメージングすることでコヒーシンの化学量論を明らかにし、姉妹染色分体の結合に関わるコヒーシン複合体が独立した単体であることを発見しました。

事前情報
コヒーシンは染色体の分離に必要な姉妹染色分体の結合を媒介するリング状の多タンパク質複合体である。

行ったこと
定量的超解像イメージングを用いて、細胞分裂後のヒト細胞の染色質に結合するコヒーシンの化学量論を特定しました。

検証方法
染色質に結合したコヒーシン複合体の単一分子イメージングを行いました。

分かったこと
姉妹染色分体の結合に関与するコヒーシンは、予想されていた通り、個々のコヒーシンリング内で姉妹DNAが共に閉じ込められることによって形成される単一のモノマーであることが示されました。

この研究の面白く独創的なところ
細胞分裂の基本的なプロセスにおけるコヒーシンの働きを個々の分子レベルで理解することができた点です。

この研究のアプリケーション
加齢に関連する不妊症や異数体症を引き起こす疾患の病因理解に寄与する。

著者と所属
Fena Ochs, Charlotte Green, Aleksander Tomasz Szczurek, Lior Pytowski, Sofia Kolesnikova, Jill Brown, Daniel Wolfram Gerlich, Veronica Buckle, Lothar Schermelleh, Kim Ashley Nasmyth

更に詳しく
Ochsらの研究では、ヒト細胞内の染色質に結合するコヒーシン複合体の動作原理に関して新たな発見をしました。彼らは定量的超解像イメージング技術を駆使して、染色体の姉妹染色分体がどのようにして一緒に保持されるか、その分子レベルでの機構を解き明かしました。具体的には、染色質に結合したコヒーシン複合体の中で、多くが二量体として存在しているかのように見えたものの、実際に姉妹染色分体の結合を担っているコヒーシンは、予想されていた通り、単量体(モノマー)の形態を取っていることを確認しました。
この発見は、姉妹染色分体の結合という極めて重要な細胞分裂プロセスが、個々のコヒーシンリングによって、それぞれの姉妹DNAがリング内に共同で閉じ込められることによって達成されることを示しています。これはコヒーシンが一つのリングで二つのDNA鎖を捕捉することにより、細胞分裂時に染色体が正確に分配されるための基礎を形成します。この作業により、姉妹染色分体の結合がどのように成立するかについての理解が深まり、細胞生物学の基本的な疑問に答えました。
これまでの理論やモデルでは、コヒーシンの働きや染色体の結合に関して様々な仮説が立てられていましたが、Ochsらの研究によって、姉妹染色分体の結合が実際には個々のコヒーシン複合体によって媒介されること、そしてその複合体が単量体であることが明らかになりました。この発見は、細胞分裂のメカニズムを理解する上での重要な進歩であり、将来的には加齢に伴う不妊症や異数体性疾患の研究にも寄与する可能性があります。


気候変動が生物種の絶滅リスクを高める主要因

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj5763

気候変動が、過去485百万年にわたり海洋無脊椎動物の絶滅パターンをどのように形成してきたかを明らかにする研究

事前情報
人為的な気候変動が急速に進行しており、生物多様性に既に影響を与えている

行ったこと
海洋無脊椎動物のデータを用いて、ファネロゾイック全期間を通じて絶滅した種を決定づける要因を調査

検証方法
過去の気候を再構築し、生理学的特性と気候変動の大きさを組み合わせて分析

分かったこと
狭い熱帯ニッチ、小さい地理的範囲、または小さい体を持つ種、さらには温暖な場所に生息していて激しい気候変動を経験した種が、絶滅リスクが高いこと

この研究の面白く独創的なところ
気候変動と生物の特性を組み合わせることで、絶滅パターンを新しい視点から解析した点

この研究のアプリケーション
気候変動による未来の生物多様性リスクを予測し、保全戦略の策定に役立てる

著者と所属
Cooper M. Malanoski, Alex Farnsworth, Daniel J. Lunt, Paul J. Valdes, Erin E. Saupe -

更に詳しく
Malanoskiらの研究は、過去の気候変動が種の絶滅リスクに及ぼす影響を、海洋無脊椎動物のデータを通じて詳細に分析しました。この研究では、ファノロゾイック時代を通じて、つまり過去約4億8500万年間にわたり、種が経験した気候変動の程度と、絶滅に至った種の特徴を組み合わせて検討しました。具体的には、種の生理的特徴と外的な気候変動がどのように相互作用して絶滅リスクを高めるかを解析し、種の熱的ニッチの幅、地理的分布の広さ、体の大きさなどの内在的な特性と、それらが生息していた地域の気候変動の大きさを比較しました。
研究結果からは、狭い熱的ニッチ幅を持つ種、小さい地理的範囲に分布する種、体サイズが小さい種が絶滅リスクが高いことが明らかになりました。これらの種は、特に極端な気候変動を経験した場合、より脆弱であることが示されました。さらに、研究は、気候変動の影響は地理的位置によっても異なり、特に極地や赤道近くの狭い熱的ニッチを持つ種は絶滅リスクが最も高いことを発見しました。
この研究は、気候変動が大進化的時間スケールでの絶滅パターンに重要な役割を果たしていることを示し、特に物理的、生理的な特性が絶滅の脆弱性にどのように影響するかについての理解を深めました。これらの知見は、気候変動が今後の生物多様性に与える影響を予測する上で、極めて重要な意味を持ちます。絶滅した種の特性と過去の気候変動のパターンを理解することで、現代の種が直面している絶滅リスクをよりよく理解し、適切な保全戦略を立てるための基礎を提供します。


深海のサメとエイを救え:漁業による無戻りの生態系変化

https://www.science.org/doi/10.1126/science.ade9121

深海のサメとエイが、肉や肝油の需要により過剰漁獲され、その結果、彼らの生存に対する脅威が高まり、絶滅リスクが増大していることを示す研究

事前情報
深海は人類の活動から逃れる最後の自然の避難所であるが、深海のサメとエイは過剰利用に特に敏感である

行ったこと
深海のサメとエイ全521種に関するこれまでで最大かつ最も包括的な評価を利用して、彼らの生物学的感受性、人口動態の傾向、絶滅リスク、脅威を分析

検証方法 ベイジアン状態空間モデルを使用して深海サメとエイの相対的な豊富さのトレンドを分析し、IUCNのレッドリストを使用して全世界の絶滅リスクとそのトレンドを評価

分かったこと
深海サメとエイの約1/3が漁業の対象となっており、肝油の国際取引の対象となっている半数の種が絶滅の危機に瀕している。彼らの回復の見込みは限られており、絶滅防止のための即時の取引と漁業規制が必要である

この研究の面白く独創的なところ 深海の生物の生理学的特性と絶滅リスク間の関係を解明し、保護策の提案を行った点

この研究のアプリケーション
提案された保全措置、特に漁業活動への深度と空間制限の導入は、深海サメとエイの回復と保護に貢献する可能性がある

著者と所属
Brittany Finucci, Nathan Pacoureau, Cassandra L. Rigby 他 - 研究者たちは、深海生態系とその保護に関する幅広い専門知識を持つ、世界中のさまざまな機関に所属している

更に詳しく
深海のサメとエイは、その肉や特に高いスクワレン含有量で知られる肝油のために、長年にわたり漁業の対象となっています。これらの生物は、地球上で最も生命史が遅い動物の一部であり、非常に長い寿命を持ち、繁殖率が低いことが特徴です。例えば、グリーンランドサメの個体群成長率は年間わずか0.022と推定され、これはマナティーやクジラなどの他の大型海洋哺乳類と比較しても非常に低い数値です。このように、深海のサメやエイは自然な繁殖サイクルが遅いため、過剰漁獲による個体数の減少からの回復が困難であることが示されています。
実際に、研究では、1980年以前からデータがある限られた種について調査した結果、ほとんどの種で90%以上の地域個体群が減少していることが明らかにされました。これは、漁業による影響が深刻であり、特に国際的な肝油取引がこの減少の大きな原因となっていることを示しています。深海サメの肝油は、化粧品やワクチンのアジュバントなど、さまざまな用途に利用されており、特に肝油の主成分であるスクワレンは、植物由来や合成代替品にもかかわらず、依然として高い需要があります。
このような状況の中で、深海のサメやエイの絶滅リスクは増大しています。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、調査された深海サメやエイの約14.1%が絶滅の危機に瀕していると評価されています。特に、肝油取引の対象となる種の約半数が絶滅の危機に瀕しており、これらの種の個体数は、漁業活動によって急速に減少しています。
この研究からは、深海のサメやエイを保護するためには、即座に国際的な取引と漁業規制を導入し、これらの種の絶滅を防ぎ、可能であれば回復させる必要があることが強調されています。具体的には、漁業活動に対する深度と空間の制限を設けることで保全の恩恵が得られる可能性が示唆されており、これらの措置が、深海サメやエイの未来を守るための鍵となるでしょう。



光の絡み合いを利用して、生物学的サンプルのより鮮明な画像を得る新しい技術

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk7825

従来の光学イメージングは「ガイドスター」と呼ばれる外部の光源を必要としていましたが、この研究では、量子の特性を利用してその必要をなくし、特にラベルのない顕微鏡検査での課題を解決しました。

事前情報
適応光学(AO)技術は、天文学から顕微鏡まで、光学的な歪みを補正することで画像の質を飛躍的に向上させてきました。しかし、ラベルのない(すなわち、特定の光を発しない)サンプルでは、ガイドスターとして機能するものがなく、効果的な補正が難しいという問題がありました。

行ったこと
研究チームは、空間的に絡み合った光子のペアを生成する光源を用いて、ガイドスターを必要としない新しい適応光学(AO)手法を提案しました。

検証方法
この新しい手法を使用して、さまざまな光学的歪みを持つ生物学的サンプルのイメージングを行い、従来の方法と比較しました。

分かったこと
絡み合った光子を用いることで、特に焦点が大きくずれた場合においても、従来の方法より優れた補正が可能であることが分かりました。

この研究の面白く独創的なところ
量子力学の一見抽象的な概念を、具体的な技術的進歩に結びつけた点にあります。絡み合った光子が、実際の世界での画像の鮮明化に直接貢献できるというのは、量子力学の新たな応用例と言えるでしょう。

この研究のアプリケーション
この技術は、医学や生物学での顕微鏡検査に革命をもたらす可能性があります。特に、従来の光学的手法では困難だった、深部の組織や微小な細胞構造のクリアなイメージングが可能になるでしょう。

著者と所属
Patrick Cameron, Baptiste Courme, Chloé Vernière, Raj Pandya, [...] and Hugo Defienne +1 authors. Affiliations include various research institutions and universities, showcasing a collaborative effort across the field of quantum optics and imaging.

更に詳しく
この研究では、従来の光学イメージング技術の限界を量子力学の特性を活用して克服しました。具体的には、観測対象にラベルを付けることなく、かつ外部からのガイドスターを使用せずに、高品質な画像を得る手法を開発しました。この技術の中核となるのは、空間的に絡み合った光子のペアを使用することです。絡み合った光子とは、一方の光子の状態がもう一方の光子の状態に即座に影響を与えるという量子力学の現象を利用したものです。
この手法の大きな利点は、光学系を通過する際に生じるあらゆる種類の歪みやぼやけを、外部の参照光源なしで直接補正できる点にあります。これは、光子ペアの一方がサンプルによって影響を受けると、その影響が絡み合っているもう一方の光子にも反映されるため、生じた歪みを正確に把握し、補正することが可能になるためです。従来のガイドスターを必要とする方法では、このような直接的な補正は難しかったですし、ラベルのないサンプルでは適用が限られていました。
特に、生物学的サンプルや深部組織のイメージングにおいて、この技術は顕著な効果を発揮します。従来技術では、サンプル自体から十分な光を得ることが難しく、さらにサンプルを損傷させずに内部を観察することはさらに困難でした。しかし、絡み合った光子を用いることで、これらの問題を解決し、サンプルに無害で、より鮮明で深部まで届くイメージングが可能になります。このアプローチは、特に深い焦点を必要とする場面での歪みやぼやけを大幅に減少させ、それによって微小な細胞構造や組織の詳細を未だかつてない明瞭さで観察できるようになりました。


最後に
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