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論文まとめ278回目 Nature 将来の極端な熱リスクによる経済コストを増幅するグローバルサプライチェーン!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Mitochondrial complex I activity in microglia sustains neuroinflammation ミクログリアのミトコンドリア複合体I活性が神経炎症を持続させる
「ミクログリアは脳内の免疫担当細胞で、普段は脳の環境を監視していますが、何らかの異常があると活性化して炎症を起こします。多発性硬化症などの慢性的な神経疾患では、ミクログリアが過剰に活性化し続けることで、炎症が持続し神経細胞が傷つけられてしまいます。 この研究では、ミクログリアが活性化し続ける仕組みを、ミトコンドリア(細胞内のエネルギー工場)に着目して調べました。するとミクログリアが活性化すると、ミトコンドリアの電子伝達系複合体Iの働きが変化し、本来のエネルギー産生ではなく活性酸素の産生を促進することがわかりました。この活性酸素が炎症を悪化させ、神経細胞を傷つけているのです。 複合体Iを阻害する薬剤を投与すると、ミクログリアの活性化が抑えられ、マウスの多発性硬化症モデルでは症状が改善されました。将来的には、ミクログリアの複合体Iを標的とした新しい多発性硬化症の治療法開発につながる可能性があります。ミクログリアのミトコンドリアが慢性炎症の鍵を握っていたのですね。」

Last-mile delivery increases vaccine uptake in Sierra Leone
シエラレオネでの最後の1マイル配送によるワクチン接種率の向上
「シエラレオネの遠隔地域では、COVID-19ワクチンへのアクセスが非常に限られていました。この研究では、ワクチンと医療従事者を最も不便な地域まで直接届ける介入を行い、ワクチン接種率を大幅に向上させることに成功しました。この介入には、コミュニティの動員も含まれていました。クラスターランダム化比較試験の結果、介入を受けた村では48〜72時間以内にワクチン接種率が約26パーセントポイント増加しました。さらに、近隣の村からも人々が集まり、接種数は介入前の6倍以上に増加しました。1人あたりのワクチン接種コストは33ドルでした。輸送費が大部分を占めたため、他の母子保健サービスと組み合わせることでコストをさらに削減できる可能性があります。この研究は、遠隔地のコミュニティへの移動サービスを優先することで、発展途上国における医療サービスの利用率を大幅に向上させられることを示しています。」

Roll-to-roll, high-resolution 3D printing of shape-specific particles
ロール・ツー・ロール方式による高解像度3Dプリントを用いた形状特異的粒子の製造
「この研究では、ロール・ツー・ロール方式の連続液体界面生産(r2rCLIP)という新しい3Dプリント技術を使って、さまざまな形状やサイズの微小粒子を大量に作る方法を開発しました。従来の粒子製造技術では難しかった複雑な形状の粒子も、この方法なら簡単に作ることができます。
例えば、中空の立方体や八面体、十二面体など、型を使っても作るのが難しい形の粒子を、数百ミクロンという小ささで大量生産できるようになったのです。しかも、材料も柔らかいハイドロゲルから硬いセラミックまで幅広く選べます。
この技術は、例えば薬を内部に詰めて体内で徐々に放出する薬剤送達システムや、微小なロボット、電子部品など、さまざまな分野への応用が期待されています。まさに、粒子製造の新時代を切り開く画期的な研究だと言えるでしょう。」

Rapid unleashing of macrophage efferocytic capacity via transcriptional pause release
転写の一時停止解除によるマクロファージ貪食能力の迅速な解放
「ウマクロファージは、私たちの体の中で死んだ細胞を食べて処理する重要な役割を担っています。しかし、マクロファージがどのようにして次々と死細胞を効率的に処理しているのかは、これまでよくわかっていませんでした。この研究では、マクロファージが死細胞に出会ってから数分以内に、転写の一時停止と再開というメカニズムを利用して、素早く遺伝子発現を変化させていることが明らかになりました。
転写の一時停止と再開とは、RNA ポリメラーゼ II という酵素が遺伝子の転写を開始した後、20〜60塩基だけ転写して一時的に停止し、数分から数時間後に再開して完全な mRNA を作るという機構です。この研究では、マクロファージがこの機構を利用して、死細胞を処理するために必要な遺伝子の発現を素早く変化させていることがわかりました。
さらに、転写因子 EGR3 が転写の一時停止と再開によって制御されており、細胞骨格や死細胞の処理に関わる他の遺伝子の発現を調整していることも明らかになりました。また、ゼブラフィッシュの egr3 欠損ミクログリアでは、死んだ神経細胞の貪食と成熟したファゴソームの形成が減少していたことから、EGR3 が死細胞の処理に重要な役割を果たしていることが示唆されました。
この研究は、マクロファージが転写の一時停止と再開を利用して、死細胞を効率的に処理するために必要な遺伝子発現を素早く変化させるという新しいメカニズムを明らかにしました。これは、マクロファージの機能を理解する上で重要な発見であり、将来的には炎症性疾患や自己免疫疾患の治療法の開発につながる可能性があります。。」

Evolutionary trajectories of small cell lung cancer under therapy
小細胞肺がんの治療下における進化の軌跡
「小細胞肺がん(SCLC)は、化学療法に対して高い感受性を示すが、その後急速に再発する特徴があります。この研究では、65人の患者から160個の腫瘍を採取し、化学療法や免疫療法の前後で腫瘍の系統発生を調べました。その結果、治療前のSCLCは腫瘍部位間でクローン的に均一でしたが、一次の白金ベース化学療法により、ゲノムの腫瘍内不均一性と空間的なクローンの多様性が急増しました。また、腫瘍の再発には、分岐進化と祖先クローンへのシフトが関与していました。放射線療法や免疫療法が奏功すると、一次化学療法で獲得したゲノム損傷を持つ創始者クローンが再拡大しました。TP53とRB1の変異は共通の祖先に独占的に存在していましたが、MYCファミリーの増幅は創始者クローンの構成要素ではないことが多かったです。再発時に出現するサブクローン変異は、SCLCの生物学に関連する重要な遺伝子に影響を与え、クローン性のCREBBP/EP300変異を有する腫瘍ではゲノム重複が起こりました。TP53の遺伝子損傷変異とTP53のミスセンス変異とTP73、CREBBP/EP300、FMN2の共変異は、化学療法後の再発までの期間が有意に短いことと関連していました。」

Penning micro-trap for quantum computing

量子コンピューティングのための微小ペニングトラップ
「この研究では、微小加工したペニング・イオントラップを用いて、単一のイオンの量子制御と任意の2次元輸送を実証しました。ペニングトラップは、高周波電場を3Tの磁場に置き換えることで、高電圧対応のチップや消費電力の管理、イオンの輸送や配置の制限などの高周波トラップのスケーリングの課題を解消します。この自由度の高い2次元輸送能力は、量子チャージカップルドデバイス(QCCD)アーキテクチャを改良し、接続性と柔軟性を向上させ、大規模な量子コンピューティング、量子シミュレーション、量子センシングの実現を容易にします。この研究は、ペニングトラップの利点を生かした、イオントラップ物理学の新たな可能性を切り開くものです。」

Global supply chains amplify economic costs of future extreme heat risk 将来の極端な熱リスクによる経済コストを増幅するグローバルサプライチェーン
「地球温暖化が進むと、熱波などの極端な高温現象が頻発するようになります。この研究では、そうした熱ストレスが人々の健康や労働生産性に直接的な悪影響を与えるだけでなく、グローバルなサプライチェーンを通じて間接的にも世界経済に大きなダメージを与える可能性があることを明らかにしました。
例えば、熱波によってアフリカのカカオ農家の生産性が下がると、世界中のチョコレートメーカーの生産にも影響が出ます。また、東南アジアの工場で熱中症による欠勤者が増えれば、その工場に部品を供給している日本の企業の生産にも支障をきたすかもしれません。
このように、地球温暖化による熱ストレスは、直接的な影響だけでなく、サプライチェーンを通じて世界経済全体に複雑な影響を及ぼします。この研究は、そうした影響を定量的に評価する画期的なモデルを開発し、将来の経済リスクを試算した点で非常に重要な意義があると言えるでしょう。」


要約

慢性神経炎症を持続させるミクログリアのミトコンドリア複合体Iの役割を解明

慢性の神経疾患では活性化したミクログリアによる炎症の持続が症状悪化の原因となるが、その分子メカニズムは不明だった。本研究では、活性化したミクログリアではミトコンドリア電子伝達系の複合体Iの働きが変化し、エネルギー産生ではなく活性酸素の過剰産生を促していることを明らかにした。複合体Iを阻害することで、ミクログリアの活性化と炎症が抑制され、マウスモデルでは神経障害が改善した。ミクログリアの複合体Iが慢性神経炎症の治療標的となる可能性がある。

事前情報

  • 多発性硬化症などの慢性神経疾患では、ミクログリアの持続的な活性化と炎症が神経障害の原因となる。

  • ミクログリアの代謝やミトコンドリアの特徴が活性化状態を制御している。

行ったこと

  • 多発性硬化症モデルマウスからミクログリアを単離し、シングルセルRNA-seqとメタボローム解析を行った。

  • ヒトの多発性硬化症の脳組織の解析を行った。

  • ミクログリアの複合体Iを阻害することの効果を、細胞実験とマウスモデルで検証した。

検証方法

  • FACS、シングルセルRNA-seq、メタボローム、ウエスタンブロット、免疫染色などの手法を用いて、ミクログリアの性質を解析。

  • in vitroでミクログリアを刺激・薬剤処理し、活性酸素の産生や神経細胞への影響を評価。

  • 複合体I変異マウスやノックアウトマウスを用いて検証。

分かったこと

  • 慢性期のミクログリアでは複合体Iの発現が上昇し、逆電子転移により活性酸素の産生が亢進していた。

  • 複合体Iを阻害すると、活性化ミクログリアの活性酸素産生と神経毒性が抑制された。

  • 複合体Iを欠損させたマウスでは炎症が抑制され、多発性硬化症の症状が改善した。

  • ヒトの多発性硬化症の脳でも、複合体Iの発現増加が見られた。

この研究の面白く独創的なところ
ミクログリアの慢性活性化の新たなメカニズムとして、ミトコンドリア複合体Iの働きの変化を見出したこと。複合体Iが治療ターゲットとなる可能性を提示したことは独創的。

この研究のアプリケーション
多発性硬化症など慢性神経疾患の新規治療法開発に役立つ可能性がある。複合体I阻害薬が治療薬の候補となるかもしれない。

著者と所属
L. Peruzzotti-Jametti, C. M. Willis, G. Krzak他、ケンブリッジ大学、コロンビア大学、エジンバラ大学など。

詳細な解説
私たちの脳内には、ミクログリアという免疫担当細胞が存在しています。ミクログリアは、脳内環境の変化を常に監視しており、何らかの異常があると速やかに活性化し、炎症反応を開始することで脳を守ろうとします。しかし、多発性硬化症のような慢性的な神経疾患では、ミクログリアが過剰に活性化し続けてしまい、かえって炎症が悪化して神経細胞が傷つけられてしまうのです。
Peruzzotti-Jametti氏らの研究グループは、慢性的にミクログリアが活性化し続ける分子メカニズムを解明するため、ミクログリアのエネルギー代謝に着目しました。ミトコンドリアは細胞内のエネルギー工場ですが、ミクログリアが炎症性の活性化状態になると、ミトコンドリアの働きが変化することが知られていたのです。
研究チームは、多発性硬化症のマウスモデルからミクログリアを単離し、シングルセルRNA-seqやメタボローム解析などの手法を駆使して、詳細な解析を行いました。すると、慢性活性化状態のミクログリアでは、ミトコンドリアの電子伝達系複合体Iの発現が上昇し、その働きが変化していることが明らかになりました。本来、複合体Iはエネルギー産生に関わるのですが、活性化ミクログリアでは逆電子転移が起こり、活性酸素の産生が亢進していたのです。活性酸素は炎症を悪化させ、周囲の神経細胞を傷つけてしまいます。
さらに研究チームは、複合体Iを阻害する薬剤をミクログリアに投与したり、複合体Iを欠損させたマウスを作製したりして、複合体Iの働きを抑制することで何が起こるかを調べました。すると、複合体Iを阻害することで、ミクログリアの活性化が抑えられ、活性酸素の産生も減少し、神経細胞への毒性も軽減されることがわかりました。マウスモデルでは、複合体Iの阻害により多発性硬化症の症状が改善されたのです。
ヒトの多発性硬化症の脳組織を解析したところ、慢性活動性の脱髄領域のミクログリアでも複合体Iの発現増加が認められ、マウスと同様の変化が起きていると考えられました。
以上の結果から、慢性神経疾患においてミクログリアが持続的に活性化状態を維持する仕組みの鍵は、ミトコンドリアの複合体Iの働きの変化にあることが明らかになりました。複合体Iを標的とすることで、ミクログリアの慢性活性化を抑え、神経炎症を制御できる可能性が示されたのです。
この発見は、多発性硬化症をはじめとする慢性神経疾患の新しい治療法の開発に役立つかもしれません。現在、複合体I阻害薬であるメトホルミンを用いた多発性硬化症の臨床試験も進められているそうです。ミクログリアのミトコンドリアが、慢性神経炎症のカギを握っていたことが明らかになったこの研究は、今後の治療法開発に大きなインパクトを与えそうです。


シエラレオネの最も遠隔の地域にワクチンを届けることで、ワクチン接種率が大幅に向上

シエラレオネの遠隔地域では、COVID-19ワクチンへのアクセスが非常に限られていた。この研究では、ワクチンと医療従事者を最も不便な地域まで直接届ける介入を行い、ワクチン接種率を大幅に向上させることに成功した。介入を受けた村では48〜72時間以内にワクチン接種率が約26パーセントポイント増加し、近隣の村からも人々が集まり、接種数は介入前の6倍以上に増加した。1人あたりのワクチン接種コストは33ドルだった。

事前情報

  • シエラレオネでは、COVID-19ワクチンが開発されてから18ヶ月経っても、わずか30%の人しか接種を受けていなかった。

  • 特に遠隔地の農村部では、ワクチン接種のためのアクセスが非常に困難だった。

  • ワクチン接種率の低さは、病気の再発や新たな変異株の出現のリスクを高めていた。

行ったこと

  • ワクチンと医療従事者を最も不便な地域まで直接届ける「最後の1マイル配送」の介入を実施した。

  • コミュニティの動員も行った。

  • 150のコミュニティでクラスターランダム化比較試験を実施した。

検証方法

  • 介入前後でワクチン接種率を比較した。

  • 介入を受けた村と受けなかった村の接種率の差を分析した。

  • 介入のコストと費用対効果を評価した。

分かったこと

  • 介入を受けた村では48〜72時間以内にワクチン接種率が約26パーセントポイント増加した。

  • 近隣の村からも人々が集まり、接種数は介入前の6倍以上に増加した。

  • 1人あたりのワクチン接種コストは33ドルだった。輸送費が大部分を占めた。

  • 他の母子保健サービスと組み合わせることでコストをさらに削減できる可能性がある。

この研究の面白く独創的なところ

  • ワクチンへのアクセス改善に焦点を当てた点が独創的。

  • 実際にワクチンと医療者を遠隔地に届ける大規模な介入を実施した点が画期的。

  • 近隣コミュニティへの波及効果も確認された。

この研究のアプリケーション

  • 他の発展途上国の遠隔地でも同様の介入が有効である可能性がある。

  • COVID-19以外のワクチンや母子保健サービスにも応用できる。

  • ワクチンの供給と配送における課題解決の重要性を示唆している。

著者と所属
Niccolò F. Meriggi, Maarten Voors, Madison Levine, Vasudha Ramakrishna, Desmond Maada Kangbai, Michael Rozelle, Ella Tyler, Sellu Kallon, Junisa Nabieu, Sarah Cundy & Ahmed Mushfiq Mobarak
著者らは、エール大学、ワーゲニンゲン大学、シエラレオネ保健衛生省、コンサーンワールドワイド(国際NGO)に所属している。

詳しい解説
この研究は、シエラレオネの遠隔地域におけるCOVID-19ワクチンへのアクセス改善に焦点を当てたものです。シエラレオネでは、ワクチン開発から18ヶ月以上経過しても、わずか30%の人しか接種を受けていませんでした。特に農村部の遠隔地では、ワクチン接種のために長距離移動が必要で、多大な時間とコストがかかるため、アクセスが非常に困難な状況でした。
そこで研究チームは、ワクチンと医療従事者を直接、最も不便な地域まで届ける「最後の1マイル配送」という介入を考案しました。これは、通常の医療施設のサービス圏外にある村々を対象に、一時的な移動式ワクチン接種クリニックを設置するというものです。さらに、村の指導者の許可を得て、住民への情報提供やワクチン接種の動機づけを行うコミュニティ動員も実施しました。
150の村を対象にクラスターランダム化比較試験を行った結果、介入を受けた村ではわずか48〜72時間でワクチン接種率が約26パーセントポイント増加しました。これは、介入前の接種率が6〜9.5%だったことを考えると、非常に大きな効果です。さらに興味深いことに、介入を受けた村の臨時クリニックには、近隣の村からも多くの人が訪れ、接種数は介入前の6倍以上に増加しました。つまり、遠隔地の1つの村でワクチン接種サービスを提供することで、周辺地域全体のワクチン接種率を大幅に引き上げることができたのです。
一方で、この介入にはコストもかかります。1人あたりのワクチン接種コストは33ドルで、その大部分は遠隔地への輸送費でした。ただし、他の母子保健サービスと組み合わせて実施することで、1回の訪問で複数のサービスを提供できるため、コストをさらに削減できる可能性があります。
この研究は、発展途上国の遠隔地におけるワクチンアクセスの改善に向けた、具体的かつ効果的な方策を提示しています。今後、他の国や地域でも同様の取り組みが広がることが期待されます。また、COVID-19以外の予防接種や母子保健サービスにも応用できる可能性があります。この研究は、ワクチン接種率向上のためには、ワクチンの供給と配送における課題解決が不可欠であることを示唆しています。


高解像度3Dプリントによる形状特異的粒子の大量生産技術の開発

この研究では、ロール・ツー・ロール方式の連続液体界面生産(r2rCLIP)という新しい3Dプリント技術を使って、さまざまな形状やサイズの微小粒子を大量に作る方法を開発した。この方法により、従来の粒子製造技術では難しかった複雑な形状の粒子を、数百ミクロンという小ささで、しかも柔らかいハイドロゲルから硬いセラミックまで幅広い材料で製造できるようになった。薬剤送達システムや微小ロボット、電子部品などへの応用が期待される。

事前情報
粒子製造は、バイオエンジニアリング、薬物・ワクチン送達、マイクロ流体工学、粒状体システム、自己組織化、マイクロエレクトロニクス、研磨材など、さまざまな分野で重要な役割を果たしている。しかし、従来の粒子製造技術では、速度、スケーラビリティ、形状制御、均一性、材料特性などにトレードオフがあった。

行ったこと
研究チームは、ロール・ツー・ロール方式の連続液体界面生産(r2rCLIP)という新しい3Dプリント技術を開発した。この技術では、単一桁ミクロンの解像度の光学系とフィルムの連続ロールを組み合わせることで、さまざまな材料と複雑な形状の粒子を高速かつ大量に製造・回収できる。

検証方法
研究チームは、r2rCLIPを使って、型を使っても製造が難しい複雑な形状の粒子を、数百ミクロンという小ささで製造することに成功した。また、柔らかいハイドロゲルから硬いセラミックまで、幅広い材料で粒子を作ることができた。さらに、製造速度は1日あたり最大100万個に達した。

分かったこと
r2rCLIPは、従来の粒子製造技術では難しかった複雑な形状の粒子を、数百ミクロンという小ささで、しかも柔らかいハイドロゲルから硬いセラミックまで幅広い材料で大量生産できる革新的な技術である。この技術により、粒子製造の新しい可能性が開かれた。

この研究の面白く独創的なところ
r2rCLIPは、型を使わずに複雑な形状の粒子を製造できる点が独創的である。また、単一桁ミクロンの高解像度を達成しながら、大量生産が可能な点も画期的である。さらに、材料の選択肢が広く、柔らかいハイドロゲルから硬いセラミックまで対応できる点も魅力的である。

この研究のアプリケーション
r2rCLIPで製造された粒子は、薬剤送達システム、微小ロボット、電子部品など、さまざまな分野への応用が期待される。例えば、薬を内部に詰めて体内で徐々に放出する薬剤送達粒子や、特定の形状によって細胞への取り込みや局所での薬剤放出を促進する粒子など、医療分野でのニーズが高い。

著者と所属
Jason M. Kronenfeld, Lukas Rother, Max A. Saccone, Maria T. Dulay & Joseph M. DeSimone

詳しい解説
粒子製造は、バイオエンジニアリング、薬物・ワクチン送達、マイクロ流体工学、粒状体システム、自己組織化、マイクロエレクトロニクス、研磨材など、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。しかし、従来の粒子製造技術では、速度、スケーラビリティ、形状制御、均一性、材料特性などにトレードオフがありました。
そこで、研究チームはロール・ツー・ロール方式の連続液体界面生産(r2rCLIP)という新しい3Dプリント技術を開発しました。この技術では、単一桁ミクロンの解像度の光学系とフィルムの連続ロールを組み合わせることで、さまざまな材料と複雑な形状の粒子を高速かつ大量に製造・回収できます。
具体的には、コンピュータ支援設計で3D形状をデザインし、それを2D画像に分割します。その画像をロール・ツー・ロール方式で光重合性樹脂に投影し、フィルム上に3D形状を形成させます。形成された粒子は、フィルムごと洗浄、後硬化、回収の工程を経て完成します。
研究チームは、r2rCLIPを使って、型を使っても製造が難しい複雑な形状の粒子を、数百ミクロンという小ささで製造することに成功しました。例えば、中空の立方体や八面体、十二面体などです。また、柔らかいハイドロゲルから硬いセラミックまで、幅広い材料で粒子を作ることができました。製造速度は1日あたり最大100万個に達しました。
r2rCLIPの独創的な点は、型を使わずに複雑な形状の粒子を製造できること、単一桁ミクロンの高解像度を達成しながら大量生産が可能なこと、材料の選択肢が広いことなどです。
r2rCLIPで製造された粒子は、薬剤送達システム、微小ロボット、電子部品など、さまざまな分野への応用が期待されています。例えば、薬を内部に詰めて体内で徐々に放出する薬剤送達粒子や、特定の形状によって細胞への取り込みや局所での薬剤放出を促進する粒子など、医療分野でのニーズが高いと考えられます。
また、セラミック材料の粒子を大量生産できる点も注目に値します。前駆体樹脂を使えば、化学機械研磨用のスラリー成分、導電性粒子、マイクロツール、MEMS、光導波路など、電子機器、通信、ヘルスケアなどの分野で使える高性能セラミック粒子を製造できます。
以上のように、r2rCLIPは粒子製造の可能性を大きく広げる革新的な技術だと言えます。この技術の発展により、これまで実現が難しかった高機能な微小粒子が身近なものになる日も近いかもしれません。


マクロファージが死細胞を効率的に処理するために、転写の一時停止と再開を利用していることを発見

この研究は、マクロファージが死細胞を効率的に処理するために、転写の一時停止と再開というメカニズムを利用していることを明らかにしました。マクロファージは死細胞に出会ってから数分以内に、このメカニズムを通じて素早く遺伝子発現を変化させ、死細胞の処理に必要な機能を獲得します。また、転写因子 EGR3 が転写の一時停止と再開によって制御されており、死細胞の処理に関わる他の遺伝子の発現を調整していることも示されました。

事前情報
マクロファージは、死んだ細胞を貪食し処理する重要な役割を担っているが、どのようにして次々と死細胞を効率的に処理しているのかは十分に理解されていなかった。転写の一時停止と再開は、RNA ポリメラーゼ II が転写を開始した後、一時的に停止し、後に再開して完全な mRNA を作る進化的に保存されたメカニズムである。

行ったこと
研究者らは、ヒトとマウスのマクロファージを用いて、in vitro と in vivo での死細胞貪食における転写の一時停止と再開の役割を調べた。また、異なる時点での貪食マクロファージを対象に、precision nuclear run-on sequencing、RNA sequencing、ATAC-seq の3つのゲノムアプローチを統合し、転写の一時停止と再開によって制御される転写因子と標的遺伝子を同定した。さらに、転写因子 EGR3 に焦点を当てた機能解析を行った。

検証方法
マクロファージにおける転写の一時停止と再開の役割は、RNA ポリメラーゼ II の阻害剤を用いて検証された。また、EGR3 の機能は、ゼブラフィッシュの egr3 欠損ミクログリアを用いて調べられた。ファゴソームの成熟は、リソソームプローブと新しい遺伝子蛍光レポーターを用いて評価された。

分かったこと
マクロファージは、死細胞に出会ってから数分以内に、転写の一時停止と再開を利用して素早く遺伝子発現を変化させ、死細胞の処理に必要な機能を獲得する。転写因子 EGR3 は、転写の一時停止と再開によって制御されており、細胞骨格や死細胞の処理に関わる他の遺伝子の発現を調整している。egr3 欠損ゼブラフィッシュのミクログリアでは、死んだ神経細胞の貪食と成熟したファゴソームの形成が減少しており、EGR3 が死細胞の処理に重要な役割を果たしていることが示唆された。

この研究の面白く独創的なところ
この研究は、マクロファージが転写の一時停止と再開を利用して、死細胞を効率的に処理するために必要な遺伝子発現を素早く変化させるという新しいメカニズムを明らかにした点で独創的である。また、転写因子 EGR3 が転写の一時停止と再開によって制御され、死細胞の処理に関わる他の遺伝子の発現を調整していることを示した点も興味深い。

この研究のアプリケーション
この研究の成果は、マクロファージの機能を理解する上で重要であり、炎症性疾患や自己免疫疾患の病態解明や治療法の開発に役立つ可能性がある。転写の一時停止と再開を標的とした新たな治療戦略の開発にもつながるかもしれない。

著者と所属
Turan Tufan, Gamze Comertpay, Ambra Villani, Geoffrey M. Nelson, Marina Terekhova, Shannon Kelley, Pavel Zakharov, Rochelle M. Ellison, Oleg Shpynov, Michael Raymond, Jerry Sun, Yitan Chen, Enno Bockelmann, Marta Stremska, Lance W. Peterson, Laura Boeckaerts, Seth R. Goldman, J. Iker Etchegaray, Maxim N. Artyomov, Francesca Peri & Kodi S. Ravichandran

詳しい解説
マクロファージは、私たちの体内で死んだ細胞を見つけると、それを貪食して処理する重要な役割を担っています。この過程は、efferocytosis(エフェロサイトーシス)と呼ばれ、組織の恒常性を維持するために欠かせません。しかし、マクロファージがどのようにして次々と死細胞を効率的に処理しているのかは、これまでよくわかっていませんでした。
この研究では、マクロファージが死細胞に出会ってからわずか数分以内に、転写の一時停止と再開というメカニズムを利用して、素早く遺伝子発現を変化させていることが明らかになりました。転写の一時停止と再開とは、RNA ポリメラーゼ II という酵素が遺伝子の転写を開始した後、20〜60塩基だけ転写して一時的に停止し、数分から数時間後に再開して完全な mRNA を作るという機構です。
研究者らは、ヒトとマウスのマクロファージを用いて、in vitro と in vivo での死細胞貪食における転写の一時停止と再開の役割を調べました。その結果、マクロファージがこの機構を利用して、死細胞を処理するために必要な遺伝子の発現を素早く変化させていることがわかりました。興味深いことに、転写の一時停止と再開を阻害しても、Fc 受容体を介した貪食、酵母の取り込み、細菌の貪食には影響しなかったのです。
さらに、研究者らは異なる時点での貪食マクロファージを対象に、3つのゲノムアプローチ(precision nuclear run-on sequencing、RNA sequencing、ATAC-seq)を統合し、転写の一時停止と再開によって制御される転写因子と標的遺伝子を同定しました。その中でも、転写因子 EGR3 に着目し、機能解析を行ったところ、EGR3 が細胞骨格や死細胞の処理に関わる他の遺伝子の発現を調整していることが明らかになりました。
また、リソソームプローブと新しい遺伝子蛍光レポーターを用いた実験により、転写の一時停止と再開がファゴソームの酸性化に関与していることも示されました。さらに、ゼブラフィッシュの egr3 欠損ミクログリアでは、死んだ神経細胞の貪食と成熟したファゴソームの形成が減少していたことから、EGR3 が死細胞の処理に重要な役割を果たしていることが示唆されました。
この研究は、マクロファージが転写の一時停止と再開を利用して、死細胞を効率的に処理するために必要な遺伝子発現を素早く変化させるという新しいメカニズムを明らかにしました。これは、マクロファージの機能を理解する上で重要な発見であり、将来的には炎症性疾患や自己免疫疾患の治療法の開発につながる可能性があります。



小細胞肺がんの治療下における進化の軌跡を解明

小細胞肺がんは、化学療法に高い感受性を示すが、その後急速に再発するという特徴があります。この研究では、65人の患者から160個の腫瘍サンプルを採取し、化学療法や免疫療法の前後で腫瘍の進化の過程を調べました。その結果、治療前の腫瘍は比較的均一でしたが、化学療法によって腫瘍内の不均一性が急増し、多様なクローンが出現したことがわかりました。また、腫瘍の再発には分岐進化と祖先クローンへの回帰が関与していました。放射線療法や免疫療法が奏功すると、化学療法で獲得したゲノム損傷を持つ創始者クローンが再び拡大しました。TP53とRB1の変異は共通の祖先に由来していましたが、MYCファミリー遺伝子の増幅は創始者クローンに由来しないことが多かったです。再発時には、SCLCの生物学に関連する重要な遺伝子のサブクローン変異が出現し、CREBBP/EP300変異を持つ腫瘍ではゲノム重複が起こっていました。また、TP53の遺伝子損傷変異と、TP53のミスセンス変異とTP73、CREBBP/EP300、FMN2の共変異は、化学療法後の再発までの期間が有意に短いことと関連していました。

事前情報
小細胞肺がん(SCLC)は、化学療法に対して高い感受性を示すが、その後急速に再発するという特徴があります。しかし、SCLCの治療下における進化のプロセスはよくわかっていませんでした。

行ったこと
65人の患者から160個の腫瘍サンプルを採取し、化学療法や免疫療法の前後で腫瘍の系統発生を解析しました。具体的には、エクソームシーケンス、ゲノムシーケンス、トランスクリプトームシーケンスを行い、体細胞変異、コピー数変化、遺伝子発現などを調べました。また、腫瘍サンプルの一部はマウスに移植して解析に用いました。

検証方法
治療前後の腫瘍サンプルを比較することで、治療が腫瘍の進化に与える影響を調べました。また、腫瘍内の複数の部位からサンプルを採取することで、腫瘍内の不均一性とクローンの多様性を評価しました。ゲノムデータから腫瘍の系統樹を推定し、クローンの動態を追跡しました。また、変異シグネチャー解析により、変異の原因となるプロセスを推定しました。

分かったこと
治療前のSCLCは腫瘍部位間でクローン的に均一でしたが、一次の白金ベース化学療法により、ゲノムの腫瘍内不均一性と空間的なクローンの多様性が急増しました。また、腫瘍の再発には、分岐進化と祖先クローンへのシフトが関与していました。放射線療法や免疫療法が奏功すると、一次化学療法で獲得したゲノム損傷を持つ創始者クローンが再拡大しました。TP53とRB1の変異は共通の祖先に独占的に存在していましたが、MYCファミリーの増幅は創始者クローンの構成要素ではないことが多かったです。再発時に出現するサブクローン変異は、SCLCの生物学に関連する重要な遺伝子に影響を与え、クローン性のCREBBP/EP300変異を有する腫瘍ではゲノム重複が起こりました。TP53の遺伝子損傷変異とTP53のミスセンス変異とTP73、CREBBP/EP300、FMN2の共変異は、化学療法後の再発までの期間が有意に短いことと関連していました。

この研究の面白く独創的なところ
この研究は、小細胞肺がんの治療下における進化の過程を、多数の患者由来サンプルを用いて詳細に解析した点が独創的です。治療前後、および腫瘍内の複数部位からサンプルを採取することで、治療が腫瘍の進化に与える影響と腫瘍内の不均一性を評価しました。また、マウスへの移植も活用することで、より詳細な解析を可能にしました。その結果、化学療法が腫瘍内の不均一性を急増させること、再発には分岐進化と祖先クローンへの回帰が関与することなど、小細胞肺がんの進化の特徴が明らかになりました。

この研究のアプリケーション
この研究の成果は、小細胞肺がんの治療戦略の改善に役立つと期待されます。例えば、創始者クローンに特異的な変異を標的とした治療法の開発や、治療効果のモニタリングへの応用が考えられます。また、化学療法によって引き起こされるゲノムの不安定性や、TP53変異などの特定の遺伝子変異が再発リスクと関連することから、これらを考慮した治療法の最適化も可能かもしれません。さらに、この研究で得られた知見は、他のがん種の治療下における進化の理解にも役立つと期待されます。

著者と所属
Julie George, Lukas Maas, Nima Abedpour, Maria Cartolano, Laura Kaiser, Rieke N. Fischer, Andreas H. Scheel, Jan-Philipp Weber, Martin Hellmich, Graziella Bosco, Caroline Volz, Christian Mueller, Ilona Dahmen, Felix John, Cleidson Padua Alves, Lisa Werr, Jens Peter Panse, Martin Kirschner, Walburga Engel-Riedel, Jessica Jürgens, Erich Stoelben, Michael Brockmann, Stefan Grau, Martin Sebastian, Roman K. Thomas (University of Cologne, Germany)

更に詳しく
この研究では、65人の小細胞肺がん患者から160個の腫瘍サンプルを採取し、化学療法や免疫療法の前後でゲノムやトランスクリプトームを解析することで、治療下における腫瘍の進化の過程を詳細に調べました。
治療前の小細胞肺がんは比較的均一でしたが、化学療法を受けると腫瘍内の不均一性が急激に増加し、多様なクローンが出現することがわかりました。また、腫瘍の再発には分岐進化と祖先クローンへの回帰が関与していました。放射線療法や免疫療法が奏功した場合は、化学療法で獲得したゲノム損傷を持つ創始者クローンが再び拡大する傾向がありました。
TP53とRB1の変異は共通の祖先に由来していましたが、MYCファミリー遺伝子の増幅は創始者クローンに由来しないことが多かったです。再発時には、小細胞肺がんの生物学に関連する重要な遺伝子のサブクローン変異が出現し、CREBBP/EP300変異を持つ腫瘍ではゲノム重複が起こっていました。また、TP53の遺伝子損傷変異と、TP53のミスセンス変異とTP73、CREBBP/EP300、FMN2の共変異は、化学療法後の再発までの期間が短いことと関連していました。
これらの知見は、小細胞肺がんの治療戦略の改善に役立つと期待されます。例えば、創始者クローンに特異的な変異を標的とした治療法の開発や、治療効果のモニタリングへの応用が考えられます。また、化学療法によって引き起こされるゲノムの不安定性や、特定の遺伝子変異が再発リスクと関連することを考慮した治療法の最適化も可能かもしれません。


量子コンピューティングのための微小ペニングトラップを実現

この研究では、微小加工したペニング・イオントラップを用いて、単一のイオンの量子制御と任意の2次元輸送を実証しました。このトラップは、高周波電場を3Tの磁場に置き換えることで、高電圧対応のチップや消費電力の管理、イオンの輸送や配置の制限などの高周波トラップのスケーリングの課題を解消します。実験では、単一のベリリウムイオンを6.5Kの極低温環境下でトラップし、スピンと運動の量子制御を行いました。また、トラップ表面上のイオンを任意の2次元経路で輸送できることを示しました。この自由度の高い2次元輸送能力は、量子チャージカップルドデバイス(QCCD)アーキテクチャを改良し、接続性と柔軟性を向上させ、大規模な量子コンピューティング、量子シミュレーション、量子センシングの実現を容易にします。この研究は、ペニングトラップの利点を生かした、イオントラップ物理学の新たな可能性を切り開くものです。

事前情報
高周波電場を用いたイオントラップは、量子ゲートの高い忠実度と長いコヒーレンス時間から、量子コンピューティングの有力なアプローチの1つですが、高電圧対応のチップや消費電力の管理、イオンの輸送や配置の制限など、スケーリングの課題がありました。一方、ペニングトラップは静電場と磁場のみを使用するため、消費電力がなく、イオンの配置に制約がないという利点がありますが、大規模な量子コンピューティングに必要な柔軟性とスケーラビリティを提供する単一トラップサイトはこれまで実現されていませんでした。

行ったこと
研究チームは、単一のベリリウムイオンを、表面電極型のペニングトラップにトラップしました。このトラップは、極低温の超高真空チャンバー内に設置され、3Tの超伝導磁石によって磁場が供給されます。レーザー冷却とサイドバンド冷却により、イオンの3次元の運動基底状態を準備し、スピンと運動の量子制御を実証しました。また、イオンを電極面上で任意の2次元経路で輸送し、新しい位置で観測することに成功しました。輸送による運動励起は観測されず、信頼性の高い輸送が実現されました。

分かったこと
ラムゼイ分光法により、スピンのコヒーレンス時間は1.9ミリ秒、運動のコヒーレンス時間は440ミリ秒と測定されました。また、運動の加熱率は、同程度のサイズの高周波トラップと比較して低いことが確認されました。トラップ電極を外部電圧源から切り離すことで、さらなるコヒーレンス時間の改善が観測されました。

この研究の面白く独創的なところ
この研究は、微小加工したペニングトラップを用いて、単一イオンの量子制御と柔軟な2次元輸送を初めて実証した点が独創的です。高周波トラップの課題を解消し、QCCDアーキテクチャの改良につながる可能性を示しました。また、ペニングトラップの利点を生かした、イオントラップ物理学の新たな可能性を切り開くものです。例えば、光共振器の反ノードにイオンを配置したり、表面からの電場ノイズをサンプリングしたりするなど、センシング、コンピューティング、シミュレーション、ネットワーキングの分野で新たな道を開くことが期待されます。

この研究のアプリケーション
この研究の成果は、大規模な量子コンピューティング、量子シミュレーション、量子センシングの実現に向けて、ペニングトラップを用いたQCCDアーキテクチャの開発を促進すると期待されます。また、複数のトラップサイトを操作するための課題や、光学系の集積化、電場ノイズの特性評価など、今後の研究の方向性を示しています。将来的には、先進的な標準的製造方法との互換性も期待され、イオントラップ物理学の新たな可能性を切り開くものです。

著者と所属
Shreyans Jain, Tobias Sägesser, Pavel Hrmo, Celeste Torkzaban, Martin Stadler, Robin Oswald, Chris Axline, Amado Bautista-Salvador, Christian Ospelkaus, Daniel Kienzler & Jonathan Home (ETH Zurich, Switzerland)

更に詳しく
この研究では、微小加工したペニング・イオントラップを用いて、単一のベリリウムイオンの量子制御と任意の2次元輸送を実証しました。ペニングトラップは、高周波電場を3Tの磁場に置き換えることで、高電圧対応のチップや消費電力の管理、イオンの輸送や配置の制限などの高周波トラップのスケーリングの課題を解消します。
研究チームは、6.5Kの極低温環境下で、表面電極型のペニングトラップに単一のベリリウムイオンをトラップしました。レーザー冷却とサイドバンド冷却により、イオンの3次元の運動基底状態を準備し、ラムゼイ分光法によりスピンと運動のコヒーレンス時間を測定しました。また、イオンをトラップ表面上で任意の2次元経路で輸送し、新しい位置で観測することに成功しました。輸送による運動励起は観測されず、信頼性の高い輸送が実現されました。
この自由度の高い2次元輸送能力は、量子チャージカップルドデバイス(QCCD)アーキテクチャを改良し、接続性と柔軟性を向上させ、大規模な量子コンピューティング、量子シミュレーション、量子センシングの実現を容易にします。また、ペニングトラップの利点を生かして、光共振器の反ノードにイオンを配置したり、表面からの電場ノイズをサンプリングしたりするなど、センシング、コンピューティング、シミュレーション、ネットワーキングの分野で新たな可能性を切り開くことが期待されます。
今後は、複数のトラップサイトを操作するための課題や、光学系の集積化、電場ノイズの特性評価など、大規模な量子コンピューティングの実現に向けた研究が進められていくでしょう。将来的には、先進的な標準的製造方法との互換性も期待され、イオントラップ物理学の新たな地平を切り開く可能性を秘めています。


地球温暖化による極端な熱ストレスが、グローバルサプライチェーンを通じて世界経済に深刻な影響を及ぼす可能性を明らか

この研究は、気候変動による将来の極端な熱ストレスが、健康被害や労働生産性の低下を通じて経済に与える影響を、グローバルサプライチェーンを考慮しながら定量的に評価したものです。気候モデル、疫学モデル、経済モデルを統合した独自の分析フレームワークを用いて、2030年から2060年までの期間について影響を試算しました。その結果、熱ストレスによる直接的な健康被害と労働生産性の低下に加えて、サプライチェーンを通じた間接的な経済損失が大きいこと、特に発展途上国で深刻な影響が出ることなどが明らかになりました。この研究は、気候変動が世界経済に与えるリスクを評価する上で、サプライチェーンの影響を考慮することの重要性を示した点で画期的だと言えます。

事前情報

  • 地球温暖化により、将来的に熱波などの極端な高温現象が増加すると予測されている。

  • 極端な熱ストレスは、人々の健康や労働生産性に悪影響を与える可能性がある。

  • グローバル化が進む現代経済では、あるセクターの生産性低下が他のセクターにも波及する可能性がある。

行ったこと

  • 気候モジュール、健康モジュール、経済モジュールを統合した独自の分析フレームワークを開発。

  • 異なる気候シナリオと社会経済シナリオの組み合わせで、2030年から2060年までの熱ストレスの影響を試算。

  • 国や地域、セクター別に、健康被害、労働生産性低下、サプライチェーンを通じた間接的損失を定量的に評価。

検証方法

  • 14の気候モデルを用いて、将来の気温や湿度などを予測。

  • 疫学的な関数を用いて、熱ストレスによる超過死亡率と労働生産性低下率を推定。

  • 多地域間産業連関モデルと応用一般均衡モデルを組み合わせた経済モデルで、サプライチェーンを通じた間接的影響を分析。

分かったこと

  • 熱ストレスによる世界の年間GDP損失は、2030〜2040年の0.03〜0.05%から、2050〜2060年の0.05〜0.15%へと指数関数的に増加する。

  • 2060年までの累積損失は0.6〜4.6%で、健康被害が37〜45%、労働生産性低下が18〜37%、間接的損失が12〜43%を占める。

  • アフリカや東南アジアの発展途上国は、健康被害と労働生産性低下の直接的影響を特に強く受ける。

  • 中国や米国などの製造業大国は、サプライチェーンを通じた間接的損失が大きい。

この研究の面白く独創的なところ

  • 気候モデル、疫学モデル、経済モデルを統合した分析フレームワークを開発した点。

  • グローバルサプライチェーンを考慮して、熱ストレスの間接的な経済影響を定量的に評価した点。

  • 国や地域、セクター別に詳細な分析を行い、熱ストレスに対する脆弱性の違いを明らかにした点。

この研究のアプリケーション

  • 気候変動対策や適応策を立案する上で、サプライチェーンの視点を取り入れる必要性を示唆。

  • 企業のサプライチェーン管理において、気候変動リスクを考慮することの重要性を示唆。

  • 途上国支援や国際協力の在り方を考える上で、グローバルサプライチェーンの視点の有用性を示唆。

著者と所属
Yida Sun, Shupeng Zhu, Daoping Wang, Jianping Duan, Hui Lu, Hao Yin, Chang Tan, Lingrui Zhang, Mengzhen Zhao, Wenjia Cai, Yong Wang, Yixin Hu, Shu Tao & Dabo Guan (清華大学、中国科学院、ロンドン大学、東英吉利大学などに所属)

詳しい解説
この研究は、地球温暖化による極端な熱ストレスが世界経済に与える影響を、グローバルサプライチェーンの視点から定量的に評価したものです。
近年、地球温暖化に伴って熱波などの極端な高温現象が増加しており、人々の健康や労働生産性に悪影響を及ぼすことが懸念されています。しかし、従来の研究では、こうした熱ストレスの直接的な影響は検討されてきたものの、グローバルに連関する現代経済において、サプライチェーンを通じた間接的な影響まで考慮した分析は十分ではありませんでした。
そこでこの研究では、気候モデル、疫学モデル、経済モデルを統合した独自の分析フレームワークを開発し、将来の熱ストレスがもたらす経済影響を多角的に評価しました。気候モデルを用いて21世紀末までの気温や湿度を予測し、疫学的な関数で熱ストレスによる超過死亡率と労働生産性の低下率を推定。さらに、多地域間産業連関モデルと応用一般均衡モデルを組み合わせた経済モデルを用いて、サプライチェーンを通じた間接的な経済損失も算出しました。
その結果、熱ストレスによる世界のGDP損失は21世紀半ばにかけて指数関数的に増加し、2060年までの累積損失は最大で4.6%に達することが示されました。その内訳は、健康被害が37〜45%、労働生産性の低下が18〜37%、サプライチェーンを通じた間接的損失が12〜43%となっています。地域別に見ると、アフリカや東南アジアの発展途上国は健康被害と労働生産性の直接的影響を特に強く受ける一方、中国や米国などの製造業大国はサプライチェーンを通じた間接的損失が大きいことが明らかになりました。
この研究は、グローバル経済におけるサプライチェーンの重要性を踏まえ、気候変動が及ぼすリスクを多角的に評価した点で画期的だと言えます。分析の結果は、気候変動への適応策を立案する上で、サプライチェーンの視点を取り入れる必要性を示唆しています。また、企業がサプライチェーン管理において気候変動リスクを考慮することの重要性や、途上国支援などの国際協力の在り方を考える上での示唆も与えてくれます。
気候変動という地球規模の課題に立ち向かうためには、このような学際的かつ包括的なアプローチが欠かせません。本研究は、自然科学と社会科学の知見を統合し、気候変動が人類社会に与える影響を多面的に示した点で、非常に意義深いと言えるでしょう。


最後に
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