論文まとめ240回目 Nature ショウジョウバエが目的地へ向かう脳内プロセスを解き明かした!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Evidence of superconducting Fermi arcs
超伝導フェルミアークの証拠
「金属の表面だけが超能力を持つようになったら?この研究は、ある材料の表面でだけ超伝導が起こることを発見しました。これは、電気が全く抵抗なく流れる現象で、量子コンピューターの実現に一歩近づけるかもしれません。」

Converting an allocentric goal into an egocentric steering signal
客観的目標を主観的操縦信号に変換する
「ショウジョウバエがどのように目的地へ向かうか、その脳内プロセスを解き明かした研究です。」

A rechargeable calcium–oxygen battery that operates at room temperature
室温で動作する充電可能なカルシウム-酸素電池
「カルシウムと酸素を使って、スマホやウェアラブル機器を長時間動かせる革新的な電池を作り出した。」

A recently formed ocean inside Saturn’s moon Mimas
土星の衛星ミマス内に最近形成された海
「惑星の衛星で、見た目はただの氷の塊のように見えるミマスが、実は内部に隠された海を持っていることが判明した。これは、まるで宇宙版の「隠れ家」を見つけたようなもの。」

Spatial transcriptomics reveal neuron–astrocyte synergy in long-term memory
空間トランスクリプトームが長期記憶における神経細胞とアストロサイトの協同を明らかにする
「脳の中で神経細胞とアストロサイトが手を取り合って、恐怖の記憶を長期間保存する仕組みを発見しました。これは、情報を図書館に分類して保存するようなもので、必要な時に正確に取り出せるようにしています。」



要約

表面のみで起こる超伝導を発見

この研究は、非中心対称Weyl物質であるPtBi2の二つの対向する表面において、超伝導フェルミアークが存在することを、角度分解光電子分光法と第一原理計算によって明らかにしました。

事前情報
量子コンピューターの開発に必要なマヨラナフェルミオンを作るためには、トポロジカル超伝導が必要です。しかし、その実現には多くの実験的課題がありました。

行ったこと
研究チームは、PtBi2という非中心対称Weyl物質を使って、その表面状態が超伝導を示すことを実験的に確認しました。

検証方法
角度分解光電子分光法(ARPES)と第一原理計算を用いて、PtBi2の表面状態の超伝導性を検証しました。

分かったこと
PtBi2の二つの対向する表面上で、約10Kの温度で超伝導フェルミアークが発現することが分かりました。これは、固体からの光電子放出で検出された中で最も強く鋭い励起の一つです。

この研究の面白く独創的なところ
PtBi2が表面のみで超伝導を示す可能性があるという点です。これにより、トポロジカル超伝導体の新たなプラットフォームが開かれる可能性があります。

この研究のアプリケーション
この発見は、量子コンピューティングにおけるマヨラナモードを宿すトポロジカル超伝導体―通常金属―超伝導体ジョセフソン接合の実現に繋がるかもしれません。

著者
Andrii Kuibarov, Oleksandr Suvorov, Riccardo Vocaturo, Alexander Fedorov, Rui Lou, Luise Merkwitz, Vladimir Voroshnin, Jorge I. Facio, Klaus Koepernik, Alexander Yaresko, Grigory Shipunov, Saicharan Aswartham, Jeroen van den Brink, Bernd Büchner & Sergey Borisenko

この研究では、特定の非中心対称Weyl物質であるPtBi2が、その二つの対向する表面上で超伝導フェルミアークを示すことを発見しました。この発見は、角度分解光電子分光法(ARPES)と第一原理計算を組み合わせることで行われました。具体的には、研究チームはPtBi2の表面状態が、約10ケルビンの温度で超伝導性を示すことを確認しました。超伝導状態において、フェルミアークからのコヒーレンスピークは、固体から放出された光電子の中で最も強く、鋭い励起として検出されました。これは、超伝導がPtBi2の表面に限定されて発生することを示唆しており、従来の体積超伝導とは異なる現象です。この結果は、非中心対称Weyl物質の表面状態が、固有のトポロジーにより超伝導性を示す可能性があることを示しています。この発見により、トポロジカル超伝導体としての新たなプラットフォームの可能性が開かれ、量子コンピューティングにおけるマヨラナモードの実現に向けた一歩となります。


ショウジョウバエの脳内回路が、目標を自分中心の操縦信号に変換する仕組みを解明

研究者たちはショウジョウバエの中枢複合体における神経回路を特定し、この回路がどのようにして飛行中のハエの向きと目標角度を比較し、それを自分中心の操縦信号に変換するかを明らかにしました。

事前情報
空間ナビゲーションに関連する神経信号は多くの種で記述されていますが、これらの信号がどのように相互作用してナビゲーション行動を導くかについての回路レベルでの理解は不足していました。

行ったこと
研究チームは、ショウジョウバエの中枢複合体における神経回路を解析し、この回路がハエの見出し角度と目標角度をどのように比較して、体中心の操縦信号を生成するかを調べました。

検証方法
EPGニューロンとFC2ニューロンの活動をモニタリングし、これらがPFL3ニューロンとどのように連携して目標指向のナビゲーションを可能にするかを研究しました。

分かったこと
PFL3細胞が見出し角度と目標角度の両方に対して結合したスパイク率の調整を示し、これにより客観的な見出しと目標角度を比較し、主観的な操縦信号をPFL3出力端子で構築する回路の仕組みを開発しました。

この研究の面白く独創的なところ
ショウジョウバエの脳内で、目標を自分中心の操縦信号にどのように変換するかという具体的な神経回路が初めて明らかにされました。

この研究のアプリケーション
この発見は、動物のナビゲーション能力に関する理解を深めるだけでなく、人工知能やロボティクスへの応用にもつながる可能性があります。

著者
Peter Mussells Pires, Lingwei Zhang, Victoria Parache, L. F. Abbott & Gaby Maimon

更に詳しく
研究チームによるショウジョウバエの中枢複合体の解析では、ハエがどのようにして飛行中の自分の向き(見出し角度)と目標地点の方向(目標角度)を把握し、その情報を基にして自分中心の操縦信号に変換するかのメカニズムが詳細に調べられました。具体的には、EPGニューロンがハエの現在の向きを表す信号を提供し、FC2ニューロンが目標角度に関連する活動を示すことが発見されました。これら二つのニューロンタイプは、PFL3という第三のニューロンクラスにモノシナプス的に接続しています。
この研究で特に注目すべきは、個々のPFL3細胞が、ハエの向きと目標角度の両方に対して調整されたスパイク率を示すことが明らかになった点です。この発見から、研究チームは、ハエが目標に向かってどのように舵を取るべきかを決定するための、客観的見出し角度と目標角度を比較し、主観的操縦信号を生成する神経回路のモデルを開発しました。このモデルは、PFL3ニューロンの出力端子で構築される信号によって、ハエが目標方向に適切に舵を取るための具体的な指示を提供します。
さらに、PFL3活動の定量的分析と光遺伝学的操作によって、このモデルが実際にショウジョウバエのナビゲーション行動を説明することがサポートされました。新しいナビゲーション記憶課題を使用して、PFL3細胞のサブセットにおけるシナプス伝達の障害を持つハエが任意の目標方向に沿ってオリエンテーションする能力が低下することも示され、この効果の大きさはモデルの予測と定量的に一致していました。
この研究は、動物がどのようにして外界の目標を自分の身体に関連する操縦命令に変換するかについての理解を深めるものであり、神経科学の領域における重要な進歩を示しています。


室温で700回再充電可能なカルシウム-酸素電池の開発

カルシウムと酸素を用いた新型電池が開発され、それは室温で700サイクル以上の充放電が可能であり、カルシウムペルオキシドを放電産物とする化学反応を利用しています。イオン液体ベースの耐久性のある電解液を使用し、カルシウム金属アノードのカルシウムメッキ・ストリッピングとエアカソードのCaO2/O2還元酸化反応が室温で促進されます。

事前情報
これまで、カルシウム-酸素電池は高いエネルギー密度を理論的に提供する可能性がありますが、室温で再充電可能なシステムの実現には至っていませんでした。その主な障壁は、不活性な放電産物と、カルシウム金属アノードと酸素の両方に適した電解液の不足でした。

行ったこと
研究チームは、室温で動作する再充電可能なカルシウム-酸素電池を開発しました。この電池は、化学的に反応性の高いカルシウムペルオキシドを放電産物として使用し、イオン液体ベースの電解液を採用しています。

検証方法
700サイクル以上の充放電テストを行い、電池の性能と耐久性を評価しました。また、カルシウムメッキとストリッピングのプロセス、およびカルシウムペルオキシドと酸素の還元酸化反応を詳細に調査しました。

分かったこと
カルシウム-酸素電池は、室温で700サイクルの再充電が可能であり、安定した性能を示しました。また、この電池は空気中でも安定しており、柔軟な繊維に織り込んでテキスタイル電池を作ることができ、次世代のウェアラブルシステムに応用可能です。

この研究の面白く独創的なところ
室温で動作し、高い再充電サイクルを実現した点と、カルシウムペルオキシドを放電産物とすることで、以前の課題を克服したことです。

この研究のアプリケーション
この電池技術は、スマートフォンやウェアラブル機器などのポータブル電子機器に応用可能であり、長寿命で環境に優しいエネルギー貯蔵システムの実現に貢献します。

著者
Lei Ye, Meng Liao, Kun Zhang, Mengting Zheng, Yi Jiang, Xiangran Cheng, Chuang Wang, Qiuchen Xu, Chengqiang Tang, Pengzhou Li, Yunzhou Wen, Yifei Xu, Xuemei Sun, Peining Chen, Hao Sun, Yue Gao, Ye Zhang, Bingjie Wang, Jun Lu, Haoshen Zhou, Yonggang Wang, Yongyao Xia, Xin Xu & Huisheng Peng

更に詳しく
カルシウムと酸素を活用したこの新型電池の開発は、室温での使用が可能な充放電システムにおいて、顕著な進歩を示しています。具体的に、この電池は700回以上の充放電サイクルに耐える能力を持ち、これは従来の多くの電池技術と比較して著しく長寿命であることを意味します。この長寿命は、カルシウムペルオキシドを生成する化学反応に基づいています。この反応は、放電時にカルシウムと酸素が反応してカルシウムペルオキシドを形成し、充電時にこの過程が逆転することにより実現されます。
この電池の核心部分には、イオン液体ベースの電解液が使用されており、その耐久性は電池の長寿命に寄与しています。この種の電解液は、カルシウムメッキとストリッピングのプロセスを室温で効率良く進行させることができ、それによりカルシウム金属アノードの安定性と性能が向上します。さらに、エアカソードにおけるカルシウムペルオキシドと酸素の間の還元酸化反応も改善され、これにより全体的な電池の効率と再充電能力が高まります。
この技術により、使用される化学物質のコストが低く、環境に優しい電池を提供することが可能となります。加えて、柔軟な素材への応用が見込まれ、これによりウェアラブルデバイスや携帯電子機器に組み込むための新たな可能性が開かれます。この電池技術は、持続可能なエネルギー貯蔵ソリューションへの道を拓くものであり、その実用化は今後のエネルギー需給に大きな影響を与えることが期待されます。


土星の衛星ミマス内部に新たに形成された海を発見

カッシーニ宇宙船のデータに基づくミマスの軌道運動の詳細な分析から、ミマスの氷の殻の下に20〜30キロメートルの深さに全球的な海が存在することが示されました。この海は25百万年未満の比較的新しいもので、現在も進化中です。

事前情報
太陽系内の衛星で全球的な海が存在することは、徐々に一般的な発見となっていますが、ミマスでは表面の変化からその存在が示唆されることはありませんでした。

行ったこと
ミマスの近点ドリフトに特に焦点を当てたカッシーニ宇宙船のデータに基づく軌道運動の詳細な分析を行いました。

検証方法
衛星の軌道運動の分析を通じて、ミマスの氷の殻の下に隠された全球的な海の存在を示唆しました。

分かったこと
ミマスの氷の殻の下には、20〜30キロメートルの深さに新しく形成された全球的な海が存在し、この海はまだ25百万年未満で進化し続けていることが判明しました。

この研究の面白く独創的なところ
重くクレーターだらけの氷の殻の下に隠された全球的な海の存在を、軌道運動の細かな分析から明らかにした点です。

この研究のアプリケーション
この発見は、太陽系内の他の衛星や惑星の内部構造と進化の理解を深めるのに役立ちます。

著者
V. Lainey, N. Rambaux, G. Tobie, N. Cooper, Q. Zhang, B. Noyelles & K. Baillié

更に詳しく
カッシーニ宇宙船から得られたデータを通じて行われたミマスの軌道運動に関する詳細な分析は、この土星の衛星が予想外の秘密を隠していることを明らかにしました。表面から20〜30キロメートルの深さに位置する氷の殻の下には、全球的な海が存在しています。この発見は、特にミマスの近点ドリフト、つまりその軌道上で最も土星に近づく点の移動に注目することで成されました。分析結果から、この海は非常に新しい、つまり25百万年未満の年齢であることが示唆されており、さらに現在も進化し続けていることが示されました。この進化は、海と氷の界面が最近になってようやく30キロメートル未満の深さに達したことからも裏付けられています。この時間枠は2〜3百万年前と推定され、これはミマスの表面に活動の兆候が現れるには短すぎる期間です。このようにして、土星の小さな衛星内部に新たに形成された海の存在が、その軌道の微妙な変化を通じて明らかになったのです。



長期記憶形成における神経細胞とアストロサイトの協働を解明

この研究は、恐怖の長期記憶を形成する過程で、神経細胞とアストロサイトがどのように相互作用し、記憶を保存するのかを明らかにしました。空間的な遺伝子発現のマッピングを通じて、特定の神経細胞の集団が記憶の保存に必要であり、これらの細胞が隣接するアストロサイトと相互作用することが重要であることが示されました。

事前情報
記憶は過去の経験をコード化し、未来の計画を可能にします。恐怖の長期記憶の形成には脳の特定の領域が関与しており、そのメカニズムは完全には理解されていませんでした。

行ったこと
マウスの扁桃体を使い、空間的および単一細胞レベルでのトランスクリプトーム(遺伝子発現)分析を実施しました。

検証方法
恐怖条件付けを受けたマウスと受けていないマウスの扁桃体から、神経細胞とアストロサイトの遺伝子発現を比較しました。

分かったこと
恐怖の長期記憶が形成されると、特定の神経細胞が活性化し、これらの細胞が隣接するアストロサイトと相互作用することが記憶の保存に不可欠であることが判明しました。

この研究の面白く独創的なところ
神経細胞だけでなく、アストロサイトが長期記憶の形成と保存において積極的な役割を果たしていることを空間的な遺伝子発現の分析を通じて初めて明らかにしました。

この研究のアプリケーション
この発見は、記憶障害や神経疾患の治療法の開発に向けた新たな道を開く可能性があります。特に、アストロサイトを標的とした治療法の開発が期待されます。

著者
Wenfei Sun, Zhihui Liu, Xian Jiang, Michelle B. Chen, Hua Dong, Jonathan Liu, Thomas C. Südhof & Stephen R. Quake

更に詳しく
この研究では、マウスの扁桃体を用いて、恐怖に関連する長期記憶がどのように形成され、保存されるかを解明しました。特に、神経細胞とアストロサイトの間の相互作用に焦点を当て、空間的な遺伝子発現のマッピング技術を利用して、記憶形成に必要な特定の神経細胞の集団と、これらの細胞が隣接するアストロサイトとの間の繋がりを明らかにしました。研究により、恐怖の長期記憶を形成する際に、ある神経細胞のサブセットが活性化し、その活性化した神経細胞群が特定の遺伝子発現パターンを示すことが分かりました。このパターンは、記憶保存に関わる重要なシグナル伝達経路や神経ペプチド、脳由来神経栄養因子(BDNF)シグナリング、MAPKおよびCREBの活性化、およびシナプス接続性に関連する遺伝子を含んでいました。
さらに、これらの活性化した神経細胞が隣接するアストロサイトとどのように相互作用するかも調査されました。アストロサイトは、神経細胞の活動に応答して遺伝子発現を変化させることが分かり、これらの変化は長期記憶の形成と保存に必要であることが示されました。例えば、特定の神経ペプチドやその受容体がアストロサイトによって発現され、これが記憶形成プロセスにおける神経細胞とアストロサイト間の重要なコミュニケーション手段となっていることが明らかになりました。この発見は、記憶形成における神経細胞だけでなく、アストロサイトの役割を新たに示すものであり、長期記憶の形成と保存のメカニズムを理解する上で重要な一歩となります。


最後に
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