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論文まとめ403回目 Nature IL-11シグナルの阻害がマウスの健康寿命と寿命を延長!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Giant chiral magnetoelectric oscillations in a van der Waals multiferroic
ファンデルワールス多強的物質における巨大なカイラル磁気電気振動
「物質の中で電気と磁気が絡み合うと、とても面白い現象が起こります。今回の研究では、原子1層分の厚さしかない物質で、電気と磁気が協調して大きく振動する様子を観測しました。これは、光の向きを変える「自然光学活性」と呼ばれる現象の一種で、これまでの物質の100倍以上強く現れました。この発見は、超高速で動作する新しい電子デバイスの開発につながる可能性があります。」

Groundwater-dependent ecosystem map exposes global dryland protection needs
地下水依存型生態系マップにより、世界の乾燥地保護の必要性が明らかに
「この研究は、地球上の乾燥地域における地下水依存型生態系(GDE)の分布を初めて高解像度でマッピングしました。その結果、GDEは乾燥地の36%を占め、多くの生物多様性ホットスポットと重なっていることが判明。しかし、53%のGDEが地下水減少の影響を受けており、79%が保護区域外にあることも明らかになりました。このマップは、重要な生態系の保護と持続可能な水資源管理のための貴重なツールとなります。」

Identification of plant transcriptional activation domains
植物の転写活性化ドメインの同定
「植物の遺伝子発現を制御する転写因子のうち、遺伝子を活性化させる領域(転写活性化ドメイン)について、これまで詳しい情報がありませんでした。この研究では、シロイヌナズナの全転写因子を対象に、酵母を使った新しい実験手法で転写活性化ドメインを網羅的に探索しました。その結果、1,553個もの新しい転写活性化ドメインを発見し、その特徴から6つのタイプに分類しました。さらに、人工知能を使ってドメインを予測する手法も開発。この成果は、植物の遺伝子発現制御の理解を大きく前進させるものです。」

Inhibition of IL-11 signalling extends mammalian healthspan and lifespan
IL-11シグナルの阻害により哺乳類の健康寿命と寿命が延長する
「この研究は、加齢とともに体内で増える炎症性タンパク質「IL-11」を抑えることで、マウスの健康と寿命を大幅に改善できることを発見しました。IL-11を遺伝子レベルで欠損させたマウスや、抗IL-11抗体を投与したマウスは、通常のマウスに比べて肥満や筋力低下などの老化現象が抑えられ、平均寿命が20%以上延びました。さらに驚くべきことに、75週齢(人間の55歳相当)の高齢マウスへの投与でも同様の効果が得られました。これは人間の健康寿命延長への応用が期待できる画期的な発見です。」

Mechanical release of homogenous proteins from supramolecular gels
超分子ゲルからの均一タンパク質の機械的放出
「この研究では、タンパク質を安定化し、純粋な形で放出できる画期的なヒドロゲル技術が開発されました。従来のタンパク質保存方法では、コールドチェーンが必要だったり、添加物が混ざってしまう問題がありました。しかし、このヒドロゲルは室温でタンパク質を安定化し、さらにシリンジを通すだけで純粋なタンパク質を取り出せます。これにより、ワクチンや治療用タンパク質の輸送・保存が容易になり、医療アクセスの改善につながる可能性があります。まさに、タンパク質の「魔法の容器」と言えるでしょう。」

Position-dependent function of human sequence-specific transcription factors
ヒト配列特異的転写因子の位置依存的機能
「私たちの遺伝子の働きを制御する転写因子。これまで「活性化因子」や「抑制因子」と単純に分類されてきました。しかし本研究は、同じ転写因子でも、遺伝子のどこに結合するかによって、活性化にも抑制にもなることを発見。まるで交通整理のように、転写因子は遺伝子発現を巧みにコントロールしているのです。この発見は、遺伝子制御の理解を深め、様々な病気の解明や治療法開発にもつながる可能性があります。」

Psilocybin desynchronizes the human brain
シロシビンは人間の脳を非同期化する
「シロシビンを摂取すると、脳の活動パターンが大きく乱れ、普段は協調して働いている脳の部位がバラバラに動き始めます。これにより、自我が溶解したような感覚や時空間感覚の歪みなどの幻覚体験が引き起こされます。さらに面白いことに、この脳の乱れ具合が強いほど、より強烈な精神体験が得られることが分かりました。まるで脳内で花火大会が起こっているかのような状態が、私たちの意識を劇的に変化させるのです。この研究は、脳の活動と意識の関係性に新たな光を当てています。」


要約

ファンデルワールス多強的物質NiI2において巨大なカイラル磁気電気振動を観測

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07678-5

NiI2という物質において、テラヘルツ周波数での巨大な自然光学活性を観測した。この現象は、スピン螺旋構造と相対論的スピン軌道相互作用の相乗効果に起因する。観測された磁気電気結合定数は、これまでに報告されたどの螺旋磁性体よりも大きい値を示した。

事前情報

  • NiI2は層状の多強的物質で、電気分極と磁気秩序が絡み合っている

  • 多強的物質では、電磁波と結合する集団励起モード(エレクトロマグノン)が存在する

  • カイラリティ(右手系・左手系の非対称性)は、物質の光学特性に大きな影響を与える

行ったこと

  • NiI2の薄片試料を作製し、低温で光学測定を行った

  • 時間分解第二高調波発生(tr-SHG)とカー回転測定を組み合わせた新しい測定手法を開発

  • 密度汎関数理論(DFT)計算を用いて、実験結果の理論的解釈を行った

検証方法

  • エレクトロマグノンモードを共鳴的に励起し、その振動を時間領域で追跡した

  • tr-SHGとカー回転信号の位相差を精密に測定し、自然光学活性の存在を確認した

  • 実験で得られた磁気電気結合定数を、理論計算と比較した

分かったこと

  • NiI2のエレクトロマグノンモードは、テラヘルツ周波数で巨大な自然光学活性を示す

  • 観測された磁気電気結合定数は、Im{ακκ} = 11 × 103 ps m-1 という非常に大きな値を持つ

  • この巨大な結合は、スピン螺旋構造、ヨウ素原子上の強いスピン軌道相互作用、ニッケルとヨウ素の強い混成に起因する

研究の面白く独創的なところ

  • 単一のカイラルドメインにおける動的磁気電気結合の精密測定に成功した

  • tr-SHGとカー回転測定を組み合わせた新しい測定手法により、電気分極と磁化の同時観測を実現した

  • ファンデルワールス物質における巨大な自然光学活性の観測は、これが初めての報告である

この研究のアプリケーション

  • 超高速で動作するカイラルスピントロニクスデバイスの開発

  • 新しい高感度センサーの設計

  • 多強的物質におけるカイラルドメインの非破壊イメージング技術の確立

著者と所属

  • Frank Y. Gao (テキサス大学オースティン校)

  • Xinyue Peng (テキサス大学オースティン校)

  • Xinle Cheng (マックスプランク構造動力学研究所)

  • Edoardo Baldini (テキサス大学オースティン校)

詳しい解説
本研究は、ファンデルワールス多強的物質NiI2におけるテラヘルツ周波数での巨大なカイラル磁気電気振動の観測を報告しています。多強的物質は、電気分極と磁気秩序が共存し相互作用する物質であり、次世代のエレクトロニクスデバイスへの応用が期待されています。
研究チームは、NiI2の薄片試料を作製し、低温で精密な光学測定を行いました。特に、時間分解第二高調波発生(tr-SHG)とカー回転測定を組み合わせた新しい測定手法を開発し、電気分極と磁化の振動を同時に観測することに成功しました。この手法により、エレクトロマグノンと呼ばれる集団励起モードの振動を時間領域で追跡し、その振る舞いを詳細に解析しました。
実験の結果、NiI2のエレクトロマグノンモードがテラヘルツ周波数で巨大な自然光学活性を示すことが明らかになりました。観測された磁気電気結合定数は、Im{ακκ} = 11 × 103 ps m-1 という非常に大きな値を持ち、これまでに報告されたどの螺旋磁性体よりも大きいものでした。
理論計算との比較により、この巨大な結合がスピン螺旋構造、ヨウ素原子上の強いスピン軌道相互作用、ニッケルとヨウ素の強い混成に起因することが示されました。これらの要因が相乗的に作用し、通常の格子振動を介した効果よりもはるかに大きな磁気電気結合を生み出しているのです。
この研究の独創性は、単一のカイラルドメインにおける動的磁気電気結合の精密測定に成功したことにあります。また、ファンデルワールス物質における巨大な自然光学活性の観測は、これが初めての報告であり、この分野の研究に新たな道を開くものです。
応用面では、この発見が超高速で動作するカイラルスピントロニクスデバイスの開発につながる可能性があります。また、高感度センサーの設計や、多強的物質におけるカイラルドメインの非破壊イメージング技術の確立にも貢献すると期待されています。
今後の研究では、この巨大な磁気電気結合を利用した新しいデバイスの設計や、他のファンデルワールス物質での類似の現象の探索が進むでしょう。また、強い光パルスを用いたカイラルドメインの制御や、カイラル空洞場を利用した新奇量子状態の実現など、さらなる展開が期待されます。


地下水依存型生態系(GDE)のグローバルマップ作成により、乾燥地の保護ニーズが明らかに

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07702-8

地下水は地球上で最も普遍的な液体の淡水源ですが、多様な生態系を支える役割は認識されていません。本研究では、機械学習を用いて世界の乾燥地域における地下水依存型生態系(GDE)の高解像度(約30m)マップを作成しました。その結果、GDEは分析対象の世界の乾燥地の36%を占めることが判明しました。しかし、53%のGDEが地下水量の減少傾向にある地域に存在し、保護区域内または持続可能な地下水管理政策のある地域にあるGDEはわずか21%でした。このマップは、GDEを保護するための政策や保護メカニズムの優先順位付けや開発に重要な情報を提供します。

事前情報

  • 地下水は地球上で最も普遍的な液体の淡水源だが、生態系支援の役割が認識されていない

  • 多くの地域でGDEの位置と範囲が不明で、保護措置が不足している

  • 乾燥地は地球の陸地面積の約40%を占め、20億人以上の人々を支えている

行ったこと

  • ランダムフォレスト機械学習モデルを使用して、世界の乾燥地域のGDEを高解像度(約30m)でマッピング

  • 6年分(2015-2020年)のLandsat 8画像、気候、地形、地下水、GDEトレーニングデータを組み合わせて使用

  • GDEの分布と地下水貯留量の傾向、保護状況、文化的・社会経済的要因との関連を分析

検証方法

  • ランダムフォレストモデルの検証精度は84%

  • 地域別のクロスバリデーションテストを実施(サヘル、西オーストラリア、ニューメキシコ)

  • 予測変数の分布をグローバルなランダムポイントデータセットと比較

分かったこと

  • GDEは分析対象の世界の乾燥地の36%(834万km2)を占める

  • 53%のGDEが地下水貯留量の減少傾向にある地域に存在

  • 保護区域内または持続可能な地下水管理政策のある地域にあるGDEはわずか21%

  • GDEは多くの生物多様性ホットスポットと一致

  • 牧畜地域でGDEがより連続的で広範囲に分布

この研究の面白く独創的なところ

  • 世界で初めて乾燥地のGDEを高解像度でマッピング

  • 機械学習と衛星データを組み合わせた新しいアプローチ

  • GDEの分布と地下水減少、保護状況、社会経済的要因との関連を明らかにした

この研究のアプリケーション

  • GDE保護のための政策や保護メカニズムの優先順位付けと開発

  • 持続可能な地下水管理計画の策定

  • 生物多様性保全と農村の生計支援の統合的アプローチの開発

  • 気候変動への適応策の立案

著者と所属

  • Melissa M. Rohde - カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ネイチャー・コンサーバンシー

  • Christine M. Albano - 砂漠研究所

  • Xander Huggins - ビクトリア大学

  • その他多数の共著者(合計25名)

詳しい解説
本研究は、世界の乾燥地域における地下水依存型生態系(GDE)の分布を初めて高解像度でマッピングしました。GDEは、一部または全ての水需要を地下水に依存する生態系の総称です。研究チームは、機械学習(ランダムフォレスト)モデルを用いて、衛星画像、気候データ、地形データなどを組み合わせ、約30mの解像度でGDEをマッピングしました。
その結果、GDEは分析対象の世界の乾燥地の36%(834万km2)を占めることが判明しました。これらのGDEは、多くの生物多様性ホットスポットと一致しており、希少種や固有種の重要な生息地となっています。また、GDEは乾季や干ばつ時の重要な避難場所としても機能しています。
しかし、研究結果は同時にGDEが直面する脅威も明らかにしました。53%のGDEが地下水貯留量の減少傾向にある地域に存在しており、気候変動や過剰な地下水くみ上げによる影響が懸念されます。さらに、保護区域内または持続可能な地下水管理政策のある地域にあるGDEはわずか21%にとどまり、多くのGDEが適切な保護を受けていないことが分かりました。
研究チームは、サヘル地域を事例に、GDEと文化的・社会経済的要因との関連も分析しました。この地域では、GDEが生物多様性だけでなく、遊牧民の生計や人々の移動経路にも重要な役割を果たしていることが示されました。このことは、GDEの保護が単なる生態系の問題ではなく、社会的安定や食料安全保障とも密接に関連していることを示唆しています。
本研究の成果は、GDEを保護するための政策や保護メカニズムの優先順位付けと開発に貴重な情報を提供します。また、このマップは持続可能な地下水管理計画の策定や、生物多様性保全と農村の生計支援を統合したアプローチの開発にも活用できます。気候変動が進行する中、GDEの保護は生態系の回復力を高め、人間社会の適応能力を向上させる上で重要な役割を果たすと考えられます。


植物の転写活性化ドメインを大規模に同定し、その特徴を解明した画期的研究

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07707-3

シロイヌナズナの全転写因子を対象に、新しい実験手法PADIを用いて転写活性化ドメイン(AD)を網羅的に探索した研究です。1,553個の新規ADを同定し、6つのサブタイプに分類しました。さらに機械学習モデルTADAを開発してADの予測を可能にしました。また、オーキシン応答因子(ARF)ファミリーのAD位置が進化的に保存されていることも明らかにしました。この研究は植物の遺伝子発現制御の理解を大きく前進させる重要な成果です。

事前情報

  • シロイヌナズナには1,900以上の転写因子が存在するが、そのほとんどでADの位置や特徴が不明だった

  • ADは転写を活性化する領域だが、配列保存性が低く同定が困難だった

  • ADは一般に固有配列を持たない天然変性領域に存在すると考えられていた

行ったこと

  • シロイヌナズナの全転写因子を40アミノ酸断片に分割し、酵母での転写活性化能を測定するPADI法を開発

  • PADI法で得られたデータを用いて機械学習モデルTADAを開発

  • 同定したADの特徴解析や既知のADとの比較を実施

  • ARFファミリーのAD進化解析を行った

検証方法

  • PADI法の再現性や既知のADとの一致を確認

  • 植物プロトプラストでの転写活性化能の検証実験

  • TADAの予測精度を既存手法と比較

  • ARFのAD位置保存性を複数の植物種で解析

分かったこと

  • シロイヌナズナの転写因子の半数以上にADが存在する

  • ADは6つのサブタイプに分類でき、それぞれ特徴的なアミノ酸組成を持つ

  • ADは必ずしも天然変性領域にのみ存在するわけではない

  • TADAは高精度でADを予測可能

  • ARFファミリーのAD位置は進化的に保存されている

この研究の面白く独創的なところ

  • 網羅的なAD探索を可能にする新手法PADIの開発

  • ADの6つのサブタイプ分類と各タイプの特徴解明

  • 機械学習を用いたAD予測モデルTADAの開発

  • ARFファミリーのAD進化解析による保存性の発見

この研究のアプリケーション

  • 植物の遺伝子発現制御メカニズムのより深い理解

  • 合成生物学での人工転写因子設計への応用

  • 作物改良のための新たな遺伝子操作ツールの開発

  • 進化生物学的観点からの転写制御システムの解明

著者と所属

  • Nicholas Morffy (デューク大学生物学部)

  • Lisa Van den Broeck (ノースカロライナ州立大学植物・微生物学部)

  • Caelan Miller (デューク大学生物学部)

詳しい解説
この研究は、植物の遺伝子発現制御において重要な役割を果たす転写活性化ドメイン(AD)を、シロイヌナズナの全転写因子を対象に網羅的に同定したものです。研究チームは、転写因子を40アミノ酸ごとに断片化し、それぞれの断片の転写活性化能を酵母で測定するPADI法を開発しました。この方法により、1,553個もの新規ADを同定することに成功しました。
さらに、同定されたADの特徴を詳細に解析し、6つのサブタイプに分類しました。各サブタイプは特徴的なアミノ酸組成を持ち、これまで考えられていたように必ずしも天然変性領域にのみ存在するわけではないことが明らかになりました。
研究チームは、PADI法で得られたデータを用いて機械学習モデルTADAも開発しました。TADAは高い精度でADを予測することができ、既存の予測手法を上回る性能を示しました。
また、オーキシン応答因子(ARF)ファミリーのAD進化解析も行い、AD位置が進化的に保存されていることを発見しました。これは、ADの機能的重要性を示唆する興味深い発見です。
この研究成果は、植物の遺伝子発現制御メカニズムの理解を大きく前進させるものです。また、合成生物学での人工転写因子設計や、作物改良のための新たな遺伝子操作ツールの開発など、さまざまな応用が期待されます。


IL-11シグナルの阻害がマウスの健康寿命と寿命を延長させることを示した画期的な研究

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07701-9

加齢に伴い、IL-11という炎症性サイトカインが様々な組織で発現量が増加することが示された。IL-11シグナルを遺伝子レベルで欠損させたマウスや、抗IL-11抗体を投与したマウスでは、加齢に伴う代謝機能低下、虚弱、炎症などが抑制され、健康寿命と寿命が延長した。特に75週齢(ヒトの55歳相当)の高齢マウスへの投与でも同様の効果が得られたことは注目に値する。

事前情報

  • IL-11は炎症性サイトカインの一種で、加齢とともに発現が増加する

  • ERK、AMPK、mTORC1などのシグナル経路が寿命制御に重要な役割を果たしている

  • 慢性炎症は加齢関連疾患の重要な要因の一つである

行ったこと

  • 若齢および高齢マウスの各組織におけるIL-11発現量の測定

  • IL-11またはIL-11受容体をノックアウトしたマウスの表現型解析

  • 高齢マウスへの抗IL-11抗体投与実験

  • 各種代謝パラメータ、筋力、虚弱度、寿命などの測定

  • 組織学的解析、遺伝子発現解析

検証方法

  • ウェスタンブロット法によるタンパク質発現解析

  • 免疫組織化学染色

  • 代謝ケージを用いた代謝パラメータ測定

  • グリップ強度測定器による筋力測定

  • 虚弱度スコアリング

  • RNA-seq法による遺伝子発現解析

  • カプランマイヤー法による生存分析

分かったこと

  • 加齢とともに様々な組織でIL-11発現が増加する

  • IL-11シグナルの阻害により、加齢に伴う代謝機能低下、筋力低下、炎症が抑制される

  • IL-11シグナルの阻害により、白色脂肪組織のベージュ化が促進される

  • IL-11ノックアウトマウスや抗IL-11抗体投与マウスでは、平均寿命が20%以上延長する

  • 75週齢の高齢マウスへの抗IL-11抗体投与でも同様の効果が得られる

研究の面白く独創的なところ

  • 炎症性サイトカインの一種であるIL-11に着目し、その阻害が健康寿命と寿命延長に効果があることを初めて示した

  • 遺伝子改変マウスと抗体投与という2つのアプローチで一貫した結果を示した

  • 高齢マウスへの投与でも効果があることを示し、治療応用の可能性を広げた

  • 白色脂肪組織のベージュ化促進という新たなメカニズムを発見した

この研究のアプリケーション

  • 抗IL-11抗体を用いたヒトの健康寿命延長治療法の開発

  • 加齢関連疾患(肥満、糖尿病、サルコペニアなど)の新規治療法開発

  • IL-11シグナルを標的とした抗老化薬の開発

  • 加齢関連がんの予防・治療法への応用

著者と所属
Anissa A. Widjaja, Wei-Wen Lim, Sivakumar Viswanathan, Sonia Chothani, Ben Corden, Cibi Mary Dasan
Duke-National University of Singapore Medical School, National Heart Centre Singapore, Barts Heart Centre

詳しい解説
本研究は、炎症性サイトカインの一種であるIL-11に着目し、そのシグナルを阻害することで哺乳類の健康寿命と寿命を延長できることを示した画期的な研究です。
まず研究チームは、マウスの様々な組織において、加齢とともにIL-11の発現量が増加することを発見しました。これを受けて、IL-11またはその受容体をノックアウトしたマウスの表現型を解析したところ、加齢に伴う代謝機能の低下、筋力低下、炎症反応などが顕著に抑制されることが明らかになりました。
さらに興味深いことに、IL-11シグナルの阻害により、白色脂肪組織のベージュ化(熱産生能を持つベージュ脂肪細胞への分化)が促進されることも発見されました。これは、IL-11シグナル阻害による代謝改善効果の重要なメカニズムの一つであると考えられます。
最も注目すべき点は、IL-11ノックアウトマウスや抗IL-11抗体を投与されたマウスの平均寿命が、通常のマウスと比較して20%以上延長したことです。特筆すべきは、75週齢(ヒトの55歳相当)という高齢のマウスに抗IL-11抗体を投与した場合でも、同様の寿命延長効果が得られたことです。これは、IL-11シグナルの阻害が単に若い時期からの予防的効果だけでなく、高齢期からの介入でも有効である可能性を示唆しています。
この研究結果は、IL-11を標的とした新しい抗老化療法の可能性を開くものです。現在、抗IL-11抗体は線維症疾患の治療薬として臨床試験が進められていますが、本研究の成果により、その適応がさらに広がる可能性があります。今後、ヒトでの有効性と安全性の確認が期待されます。


タンパク質を安定化し、純粋な形で放出できる新しいヒドロゲル技術の開発

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07580-0

タンパク質の安定化と純粋な形での放出を可能にする新しいヒドロゲル技術が開発された。この技術は、タンパク質を室温で安定化し、シリンジを通すだけで添加物なしで放出できる。これにより、ワクチンや治療用タンパク質の保存・輸送が容易になり、医療アクセスの改善につながる可能性がある。

事前情報

  • タンパク質やワクチンの保存には通常コールドチェーンが必要

  • 既存の安定化技術では添加物が必要で、純粋なタンパク質の放出が困難

  • タンパク質の変性や凝集が機能喪失の主な原因

行ったこと

  • 低分子量ゲル化剤(LMWG)を用いた新しいヒドロゲルの開発

  • ヒドロゲル内でのタンパク質の安定化と放出メカニズムの検証

  • インスリンとβ-ガラクトシダーゼを用いた安定化と機能保持の実験

  • 高温条件下での長期保存試験

  • 実際の輸送を想定した郵送試験

検証方法

  • レオロジー測定によるゲルの物理的特性の評価

  • 小角X線散乱(SAXS)によるゲル構造の分析

  • チオフラビンT蛍光アッセイによるインスリン凝集の評価

  • β-ガラクトシダーゼ活性アッセイによる機能保持の確認

  • 高分解能質量分析によるタンパク質の化学的安定性の確認

分かったこと

  • 開発したヒドロゲルは50°Cで4週間以上タンパク質を安定化できる

  • シリンジフィルターを通すことで、純粋なタンパク質溶液が得られる

  • ゲル中のタンパク質は凝集が抑制され、機能を保持する

  • 高濃度(10 wt%まで)のタンパク質をゲルに封入可能

  • 実際の輸送条件下でもタンパク質の安定性が維持される

研究の面白く独創的なところ

  • ゲルの特性を利用して、添加物なしでタンパク質を放出できる点

  • 機械的な操作(シリンジ押し出し)だけで純粋なタンパク質が得られる点

  • 室温以上の高温でも長期間タンパク質を安定化できる点

  • 既存技術の課題(添加物の混入、複雑な操作)を一挙に解決している点

この研究のアプリケーション

  • ワクチンや治療用タンパク質の常温輸送・保存

  • 低資源地域への生物学的製剤の提供

  • コールドチェーンに依存しない医薬品流通システムの構築

  • 高濃度タンパク質製剤の新しい製剤化技術

著者と所属

  • Simona Bianco - グラスゴー大学化学科

  • Muhammad Hasan - ウォーリック大学医学部

  • Dave J. Adams - グラスゴー大学化学科

詳しい解説
この研究では、タンパク質を安定化し純粋な形で放出できる新しいヒドロゲル技術が開発されました。従来、タンパク質やワクチンの保存にはコールドチェーンが必要で、これが途上国での医療アクセスを制限する要因となっていました。また、既存の安定化技術では添加物が必要で、純粋なタンパク質を取り出すことが困難でした。
研究チームは、低分子量ゲル化剤(LMWG)を用いて新しいヒドロゲルを開発しました。このゲルは、タンパク質を物理的に閉じ込めることで凝集を防ぎ、50°Cという高温でも4週間以上安定化できることが示されました。さらに、ゲルをシリンジフィルターに通すだけで、純粋なタンパク質溶液が得られるという画期的な特性を持っています。
実験では、インスリンとβ-ガラクトシダーゼを用いて安定化と機能保持を検証しました。その結果、ゲル中のタンパク質は凝集が抑制され、高温条件下でも長期間機能を保持することが確認されました。また、10 wt%という高濃度でもタンパク質をゲルに封入できることが示されました。
この技術の独創的な点は、ゲルの特性を利用して添加物なしでタンパク質を放出できる点です。機械的な操作だけで純粋なタンパク質が得られるため、従来技術の課題を一挙に解決しています。さらに、実際の輸送を想定した郵送試験でも安定性が確認され、実用化への期待が高まっています。
この研究成果は、ワクチンや治療用タンパク質の常温輸送・保存を可能にし、低資源地域への生物学的製剤の提供を容易にする可能性があります。コールドチェーンに依存しない医薬品流通システムの構築や、高濃度タンパク質製剤の新しい製剤化技術としての応用も期待されます。


転写因子の機能は DNAへの結合位置によって変化する6

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07662-z

転写因子は遺伝子の発現を調節する重要な因子ですが、その機能メカニズムは完全には解明されていません。本研究では、転写因子の機能が転写開始点(TSS)からの相対的な結合位置に依存して変化することを発見しました。多くの転写因子は、TSSの上流で結合すると転写を活性化し、下流で結合すると抑制することが明らかになりました。この位置依存的な機能は、遺伝子制御の複雑さを説明し、疾患関連変異の影響を理解する上で重要な知見となります。

事前情報

  • 転写因子は遺伝子発現を制御する重要なタンパク質だが、その機能メカニズムは不明な点が多い

  • プロモーターやエンハンサーなどの制御領域には似たような転写因子結合サイトが存在する

  • 転写因子の結合と遺伝子発現の変化の関係は必ずしも一致しない

行ったこと

  • ヒト細胞株を用いて、転写開始点(TSS)を高精度にマッピング

  • 転写因子のノックダウンやドミナントネガティブ変異体の発現による影響を解析

  • マウス系統間の遺伝的変異を利用した転写因子結合サイトの機能解析

  • 大規模並列レポーターアッセイ(TSS-MPRA)による転写因子結合サイトの系統的解析

  • ヒト集団における遺伝的変異と疾患関連変異の解析

検証方法

  • csRNA-seq法によるTSSの高精度マッピング

  • ChIP-seqによる転写因子の結合部位同定

  • 転写因子結合サイトの位置と転写活性の関係を統計的に解析

  • TSS-MPRAによる転写因子結合サイトの位置効果の直接的検証

  • ヒト集団のtssQTLデータを用いた遺伝的変異の影響解析

分かったこと

  • 多くの転写因子の機能はTSSからの相対的な結合位置に依存して変化する

  • TSSの上流に結合すると転写を活性化し、下流に結合すると抑制する傾向がある

  • 転写因子は「純粋な活性化因子」「純粋な抑制因子」「二重機能因子」に分類できる

  • 位置依存的な機能は種を超えて保存されている

  • 疾患関連変異の一部は、この位置依存的機能を変化させることで影響を及ぼす可能性がある

研究の面白く独創的なところ

  • 転写因子の機能を、TSSからの相対的な位置という新しい観点から体系的に解析した点

  • 多様な実験手法と大規模データ解析を組み合わせて、一貫した結論を導き出した点

  • 従来の「活性化因子」「抑制因子」という単純な分類を超えた、より複雑な転写制御モデルを提示した点

この研究のアプリケーション

  • 遺伝子発現制御メカニズムのより深い理解

  • 疾患関連変異の機能的影響の予測と解釈の改善

  • 転写因子を標的とした治療法開発への応用

  • 人工的な遺伝子制御系の設計への応用

著者と所属

  • Sascha H. Duttke - School of Molecular Biosciences, College of Veterinary Medicine, Washington State University, Pullman, WA, USA

  • Carlos Guzman - Department of Medicine, Division of Endocrinology, U.C. San Diego School of Medicine, La Jolla, CA, USA

  • Christopher Benner - Department of Medicine, Division of Endocrinology, U.C. San Diego School of Medicine, La Jolla, CA, USA

詳しい解説
本研究は、転写因子の機能が転写開始点(TSS)からの相対的な結合位置に依存して変化するという新しい知見を明らかにしました。これまで転写因子は単純に「活性化因子」や「抑制因子」と分類されることが多かったのですが、実際にはその機能がより複雑であることが示されました。
研究チームは、まずcsRNA-seq法を用いてTSSを高精度にマッピングし、その周辺における転写因子結合サイトの分布を解析しました。その結果、多くの転写因子結合サイトがTSSの上流や下流の特定の位置に集中して分布していることが分かりました。
次に、転写因子のノックダウン実験や、マウス系統間の遺伝的変異を利用した解析を行いました。その結果、多くの転写因子がTSSの上流に結合すると転写を活性化し、下流に結合すると抑制する傾向があることが明らかになりました。さらに、大規模並列レポーターアッセイ(TSS-MPRA)を用いて、この位置依存的な機能を直接的に検証しました。
これらの結果から、転写因子は「純粋な活性化因子」「純粋な抑制因子」「二重機能因子」の3つに分類できることが示されました。特に「二重機能因子」は、結合位置によって活性化と抑制の両方の機能を持つことができ、遺伝子発現の精密な制御に寄与していると考えられます。
さらに、ヒト集団における遺伝的変異のデータを解析し、この位置依存的な機能が種を超えて保存されていることも明らかになりました。また、一部の疾患関連変異は、転写因子の位置依存的機能を変化させることで影響を及ぼしている可能性が示唆されました。
この研究成果は、遺伝子発現制御メカニズムのより深い理解につながるだけでなく、疾患関連変異の機能的影響の予測や解釈の改善、さらには転写因子を標的とした新たな治療法の開発にも応用できる可能性があります。また、人工的な遺伝子制御系の設計にも役立つ知見となるでしょう。


シロシビンは脳の同期性を乱し、意識状態を大きく変化させる

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07624-5

この研究は、シロシビン(マジックマッシュルームの主成分)が人間の脳機能にどのような影響を与えるかを、高精度の機能的MRI(fMRI)を用いて詳細に調査したものです。健康な成人を対象に、シロシビン服用前後の脳活動を長期にわたり綿密に観察し、脳のネットワーク変化や意識状態の変化を分析しました。

事前情報

  • シロシビンは強力な幻覚作用を持つ物質で、うつ病や依存症の治療に効果があることが示唆されている

  • シロシビンの作用機序や脳への影響の詳細はまだ解明されていない

  • 動物実験では、シロシビンが神経可塑性を促進することが示されている

行ったこと

  • 健康な成人7名を対象に、シロシビン(25mg)とメチルフェニデート(40mg、対照薬)を1-2週間おきに投与

  • 投与前、投与中、投与後3週間にわたり、高精度fMRIで脳活動を詳細に観察(1人あたり約18回のMRI撮像)

  • 脳の機能的結合性(FC)や空間的複雑性(NGSC)などの指標を用いて脳活動の変化を分析

  • 主観的な精神体験の強度を質問紙(MEQ30)で評価し、脳活動の変化と比較

検証方法

  • 個人内および個人間での脳活動の変化を統計的に分析

  • シロシビンによる変化を、メチルフェニデートや日々の変動と比較

  • 多次元尺度構成法(MDS)を用いて、薬物の効果を視覚化

  • タスクfMRIを用いて、認知課題中の脳活動変化も観察

  • 海馬とデフォルトモードネットワーク(DMN)の結合性の長期的変化を分析

分かったこと

  • シロシビンは脳全体の機能的結合性を大きく変化させ、その効果はメチルフェニデートの3倍以上

  • 脳活動の非同期化(脱同期)が起こり、特に連合野で顕著

  • 脳の非同期化の程度と主観的な精神体験の強度に強い相関

  • タスク遂行中は非同期化の程度が減少

  • 海馬とDMNの結合性が3週間にわたり減少

研究の面白く独創的なところ

  • 高精度fMRIを用いて個人レベルでの詳細な脳活動変化を捉えた点

  • 脳の非同期化という新しい視点からシロシビンの作用を説明した点

  • 主観的体験の強度と脳活動変化の相関を示した点

  • タスク遂行による影響も含めて包括的に分析した点

この研究のアプリケーション

  • うつ病や依存症治療におけるシロシビンの作用機序の解明

  • 意識状態と脳活動の関係性の理解の深化

  • 精神疾患の新たな治療法開発への応用

  • 脳の可塑性メカニズムの解明への貢献

著者と所属
Joshua S. Siegel - ワシントン大学医学部精神医学科
Subha Subramanian - ベスイスラエル・ディーコネス医療センター精神医学科
Demetrius Perry - ワシントン大学医学部精神医学科
(他多数)

詳しい解説
本研究は、シロシビンが人間の脳機能に与える影響を、これまでにない精度で解明しました。高精度fMRIを用いた長期的な観察により、シロシビンが脳全体の機能的結合性を大きく変化させることが明らかになりました。特に注目すべきは、脳活動の「非同期化」または「脱同期」という現象です。通常、脳の各部位は協調して活動していますが、シロシビンの影響下ではこの協調性が失われ、各部位がより独立して活動するようになります。
この非同期化は、特に連合野(高次の認知機能を担う領域)で顕著でした。さらに興味深いことに、この非同期化の程度が強いほど、被験者はより強烈な精神体験(自我の溶解感や時空間感覚の変容など)を報告しました。これは、脳の活動パターンと主観的体験の間に直接的な関連があることを示唆しています。
また、タスク遂行中は非同期化の程度が減少することも分かりました。これは、注意を外部に向けることで幻覚体験の強度が弱まるという臨床観察と一致します。
長期的な影響としては、海馬(記憶や空間認知に重要)とデフォルトモードネットワーク(自己関連処理に関与)の結合性が3週間にわたって減少することが示されました。これは、シロシビンがうつ病などの治療に効果を示す神経生物学的メカニズムの一端を説明する可能性があります。
本研究は、シロシビンの作用機序に新たな光を当てただけでなく、脳活動と意識状態の関係性についても重要な知見を提供しています。これらの発見は、精神疾患の新たな治療法開発や、人間の意識の本質に迫る研究の基盤となる可能性があります。


最後に
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