論文まとめ242回目 Nature 社会的に学習した脅威に対する脳の独自の反応コードを解明!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Convergence of coronary artery disease genes onto endothelial cell programs
冠状動脈疾患遺伝子の血管内皮細胞プログラムへの集約
「あなたの心臓を守る血管の内壁細胞が、遺伝子の指令でどのように協力し合って病気から守っているかの秘密が明らかに。」

The nuclear factor ID3 endows macrophages with a potent anti-tumour activity
核因子ID3はマクロファージに強力な抗腫瘍活性を与える
「体のがん細胞を食べる免疫細胞に「スーパーパワー」を与える方法を見つけた!」

Structural basis of ribosomal 30S subunit degradation by RNase R
RNase Rによるリボソーム30Sサブユニット分解の構造基盤
「体内のタンパク質工場であるリボソームが、どのようにして古くなったり不良品になったりした際に分解されるのかの謎を解明。」

A distinct cortical code for socially learned threat
社会的に学習した脅威に対する独自の皮質コード
「他の動物が危険を避ける様子を見て学ぶことで、自分自身が危険にさらされるリスクを最小限に抑える脳の仕組みを発見。」




要約

心臓病リスク遺伝子が血管内皮細胞の特定のシグナル経路に集中していることを発見

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06985-7

この研究は、冠状動脈疾患(CAD)の遺伝的リスクが血管内皮細胞内の特定の転写経路、特に脳神経系の異常を引き起こすCCMシグナリング経路に集中していることを発見しました。

事前情報
遺伝子変異と病気のメカニズムを結びつけることは難しく、特に細胞タイプ特有の経路やあまり研究されていない遺伝子の機能は未解明が多い。

行ったこと
GWAS変異を遺伝子にリンクさせ、Perturb-seqを使って遺伝子を経路にde novoでリンクし、これらのデータを統合してGWAS座位が経路に集約することを特定しました。

検証方法
エピゲノミクスデータを使用して変異を遺伝子にリンクし、Perturb-seqを用いて遺伝子から経路への新たなリンクを作成し、これらを統合して分析しました。

分かったこと
43のCAD GWASシグナルがCCMシグナリング経路に集約されており、この経路の二つの調節因子CCM2とTLNRD1がCADリスク変異とリンクし、他のCADリスク遺伝子を調節し、内皮細胞における動脈保護プロセスに影響を与えることが分かりました。

この研究の面白く独創的なところ
CADの遺伝的リスクが、血管内皮細胞の特定の転写経路に集中しているという新しいモデルを提案し、共通および希少血管疾患間の共有遺伝子を明らかにしました。

この研究のアプリケーション
このアプローチは、他の一般的な多因子疾患の変異を機能にリンクするために広く役立つでしょう。

著者
Gavin R. Schnitzler, Helen Kang, Shi Fang, Ramcharan S. Angom, Vivian S. Lee-Kim, X. Rosa Ma, Ronghao Zhou, Tony Zeng, Katherine Guo, Martin S. Taylor, Shamsudheen K. Vellarikkal, Aure

更に詳しく
この研究では、心臓病である冠状動脈疾患(CAD)への遺伝的傾向が、血管の内壁、つまり内皮細胞で活動する特定のシグナル伝達経路にどのように集中しているかを解明しました。具体的には、脳内の血管が異常に結合してしまう病気である脳神経系の異常、脳神経系の異常を引き起こす「CCMシグナリング経路」という特定の経路に焦点を当てました。この経路は通常、血管の正常な構造を維持し、血管の壁が適切に機能するのを助ける役割を果たしています。
研究チームは、遺伝子広範囲関連研究(GWAS)で特定された43の遺伝子変異(シグナル)が、このCCMシグナリング経路に集中していることを発見しました。これらの遺伝子変異は、CADのリスクを高める可能性があると以前から考えられていましたが、その具体的な作用メカニズムは不明でした。この発見は、これらの遺伝子変異が、内皮細胞におけるCCMシグナリング経路を通じて、実際にCADのリスクを高めていることを示しています。
さらに、CCM2とTLNRD1という二つの重要な遺伝子が、この経路内で中心的な役割を果たしていることが明らかにされました。これらの遺伝子は、CADに関連する他の遺伝子を調節することに加えて、内皮細胞の健康を保つための重要なプロセス、例えば血管を保護するプロセスにも影響を及ぼします。これにより、CADの遺伝的リスクが内皮細胞の機能障害とどのように関連しているかについての新たな理解が深まりました。
この研究は、CADのような複雑な疾患の背後にある遺伝的要因を解明する新しいアプローチを提供し、将来的にはより効果的な治療法や予防策の開発につながる可能性があります。


マクロファージにがんに対する強力な抗腫瘍活性を与えるキーファクターを発見

研究チームは、ID3という因子がマクロファージ(体を守る免疫細胞の一種)にがん細胞を攻撃し、消化する能力を強化し、さらに肝臓において自然免疫応答を活性化させることを発見しました。

事前情報
マクロファージは活性化と抑制のバランスによって制御され、通常は正常組織を過剰なダメージから保護しますが、がんの成長と転移を促進することもあります。

行ったこと
研究者たちは、ID3がこのバランスをコントロールし、マクロファージががん細胞を直接食べる能力と、自然キラー細胞やCD8 Tリンパ球といった効果器細胞の募集、増殖、活性化を促進することを発見しました。

検証方法
遺伝学的ツールと人工多能性幹細胞から作成されたマクロファージを使用し、ID3の発現がマクロファージに強力な抗腫瘍活性を与えることを実証しました。

分かったこと
ID3は、マクロファージががん細胞に対してより効果的に働くよう調整し、腫瘍の成長を制限するための強力な免疫反応の場を形成することができることが分かりました。

この研究の面白く独創的なところ
肝臓のマクロファージが、ID3の影響でがん細胞を攻撃し、抑制する特別な能力を持つことが明らかにされた点です。

この研究のアプリケーション
ID3を活用して、がん治療における新たな細胞療法の開発が可能になるかもしれません。

著者
Zihou Deng, Pierre-Louis Loyher, Tomi Lazarov, Li Li, Zeyang Shen, Bhavneet Bhinder, Hairu Yang, Yi Zhong, Araitz Alberdi, Joan Massague, Joseph C. Sun, Robert Benezra, Christopher K. Glass, Olivier Elemento, Christine A. Iacobuzio-Donahue & Frederic Geissmann

更に詳しく
研究チームが行った発見によれば、ID3という特定の因子がマクロファージのがん細胞に対する攻撃力を顕著に向上させることが明らかにされました。マクロファージは本来、体内の異物や病原体を排除する役割を担う免疫細胞ですが、ID3の作用により、これらの細胞はがん細胞を直接認識し、飲み込む(貪食)能力が強化されます。特に、この現象は肝臓のマクロファージ、すなわちクッパー細胞において顕著であり、肝臓ががんの進行に対する強固な防御線となるメカニズムの一端を担っています。
ID3による影響はただ貪食能力の向上にとどまらず、肝臓内での自然免疫応答の活性化にも及びます。ID3の存在は、マクロファージが自然キラー細胞やCD8陽性Tリンパ球といった他の免疫細胞を呼び寄せ、これらの細胞の増殖や活性化を促進することによって、がん細胞に対する包括的な攻撃を実現します。この過程は、がん細胞の成長を制限し、転移を防ぐ上で重要な役割を果たします。
実験では、ID3を発現させたマウスの骨髄由来マクロファージや、人工多能性幹細胞から導出されたマクロファージが、がん細胞に対して顕著な抗腫瘍活性を示すことが確認されました。この結果は、ID3がマクロファージをがんに対する強力な防御線に変えるためのキーファクターであることを示しており、がん治療における新たな細胞療法の開発に向けた可能性を秘めています。この発見により、がんの治療法に革命をもたらす新しいアプローチが開かれることになるでしょう。


リボソームの分解メカニズムを明らかにした画期的な発見

リボソーム30SサブユニットがRNase Rという酵素によってどのように分解されるかの構造的な詳細を初めて明らかにしました。

事前情報
リボソームの生産とターンオーバーは細胞の主要なエネルギー消費プロセスであり、そのバランスが厳密に制御されていますが、リボソームの分解に関する構造的洞察はこれまで不足していました。

行ったこと
リボソーム30Sサブユニットの2種類の異なる分解中間体の構造を、3'から5'方向へのエキソヌクレアーゼであるRNase Rと関連付けて解析しました。

検証方法
高度な構造生物学的手法を用いて、RNase Rがリボソーム30Sサブユニットに結合し、その分解を促進する過程を明らかにしました。

分かったこと
RNase Rはまず30Sサブユニットのプラットフォームに結合し、重要な機能領域を分解します。障害に遭遇した際には、30Sサブユニットの大きな構造変化を伴って障害を乗り越え、最終的に完全な分解を達成します。

この研究の面白く独創的なところ
リボソーム30Sサブユニットの分解過程における、RNase Rの動的な結合部位の変化という新しい発見を提供しました。

この研究のアプリケーション
リボソームの品質管理とエネルギー効率の向上に関連する新たな治療戦略の開発に寄与する可能性があります。

著者
Lyudmila Dimitrova-Paternoga, Sergo Kasvandik, Bertrand Beckert, Sander Granneman, Tanel Tenson, Daniel N. Wilson & Helge Paternoga


社会的に学習した脅威に対する脳の独自の反応コードを解明

マウスを使用した研究で、社会的に観察された恐怖学習がどのように脳内で処理されるか、特に前頭前野がどのように関与しているかを明らかにしました。

事前情報
他者の反応を観察することで脅威について学習する能力はよく知られていますが、このプロセスにおける神経メカニズムはこれまで十分に理解されていませんでした。

行ったこと
社会的観察による恐怖学習(OFL)において、前頭前野がどのように活動し、この学習プロセスに必要であるかを調査しました。

検証方法
細胞レベルのカルシウムイメージング、神経回路マッピング、電気生理学的記録、およびオプトジェネティクスを組み合わせて、前頭前野の神経活動を詳細に解析しました。

分かったこと
前頭前野のニューロンは、社会的に学習した恐怖を独自の方法でコーディングし、この学習における凍結と動きの状態の切り替えを予測します。さらに、この領域から中脳の周水道灰白質への投射が観察者の凍結を制限し、扁桃体と海馬からの入力がこの凍結を調節することが分かりました。

この研究の面白く独創的なところ
社会的に学習した脅威に対して前頭前野が生成する独自の反応コードを明らかにし、長距離の神経回路を通じて行動反応を選択するメカニズムを提供しました。

この研究のアプリケーション
恐怖と不安障害の治療に向けて、新たな神経生物学的アプローチの開発に寄与する可能性があります。

著者
Shana E. Silverstein, Ruairi O’Sullivan, Olena Bukalo, Dipanwita Pati, Julia A. Schaffer, Aaron Limoges, Leo Zsembik, Takayuki Yoshida, John J. O’Malley, Ronald F. Paletzki, Abby G. Lieberman, Mio Nonaka, Karl Deisseroth, Charles R. Gerfen, Mario A. Penzo,

更に詳しく
この研究では、マウスを用いて社会的に観察された恐怖学習、つまり他の個体が脅威に反応する様子を見ることで恐怖を学習するプロセスがどのように脳内で処理されるかを探求しました。特に焦点を当てられたのは前頭前野(dmPFC)で、この脳領域が社会的情報の処理や脅威の手がかりの区別など、観察による恐怖学習(OFL)におけるいくつかの重要な機能を担っていることが示唆されています。研究チームは、マイクロエンドスコピックなカルシウムイメージングを用いて、dmPFC内のニューロンが観察による恐怖をどのように符号化するかを詳細に追跡しました。この分析から、dmPFCのニューロン活動が、直接的な経験による恐怖とは異なる、独自の方法で観察による恐怖をコーディングしていることが明らかになりました。また、このニューロン活動が脅威によって引き起こされる凍結と動きの状態の切り替えを予測することが分かりました。
研究チームはさらに、神経回路マッピング、電気生理学的記録、そしてオプトジェネティクスを組み合わせることで、dmPFCが中脳の周水道灰白質(PAG)へ投射し、この経路が観察者の凍結反応を制限する役割を果たしていることを発見しました。このプロセスは、扁桃体と海馬からdmPFCへの入力によってさらに調節されており、これらの入力が観察者の凍結反応を対照的に調節することが示されました。
この一連の実験から、dmPFCが社会的に学習した恐怖に対する独自の反応コードを計算し、行動反応を選択するために長距離の神経回路を調整する中心的な役割を担っていることが示されました。この発見は、動物がどのようにして他者の経験から学び、その情報を行動選択に統合するかの理解を深めるものであり、社会的学習の神経基盤に新たな光を当てています。





最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。