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論文まとめ299回目 SCIENCE 計算機を使って高親和性の薬物結合タンパク質を設計する新手法を開発!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Prophage terminase with tRNase activity sensitizes Salmonella enterica to oxidative stress
tRNase活性を持つプロファージターミネースが、Salmonella entericaを酸化ストレスに感受性にする
「細菌に感染するウイルス(ファージ)は、宿主である細菌に様々な影響を与えます。この研究では、サルモネラ菌に感染するGifsy-1というファージが、酸化ストレスという過酷な環境下で、細菌の成長を止めるために、tRNAを切断するという予想外の方法を使っていることが明らかになりました。一見すると細菌にとって不利益なようですが、実はこれが細菌のゲノムを守り、生存率を上げる巧妙な戦略だったのです。ウイルスと細菌の知られざる駆け引きを垣間見ることができる興味深い発見です。」

De novo design of drug-binding proteins with predictable binding energy and specificity
薬物結合タンパク質の結合エネルギーと特異性を予測可能な新規設計
「薬は体内のタンパク質に結合して効果を発揮します。この研究では、コンピューターを使って薬とぴったり結合するタンパク質を最初から設計する画期的な方法を開発しました。実験で設計の正しさを確認し、様々な薬との結合の強さも予測できました。この技術により、副作用の少ない安全な薬の開発が加速するかもしれません。」

Carbon quaternization of redox active esters and olefins by decarboxylative coupling
カルボン酸とオレフィンを用いた脱炭酸カップリングによる四級炭素の合成
「 炭素が他の4つの炭素と結合した「四級炭素」は、医薬品などに重要な構造ですが、合成が難しいことで知られています。この研究では、カルボン酸とオレフィンという身近な化合物から、鉄触媒とレドックス試薬を使って四級炭素を一段階で作る画期的な方法を開発しました。これにより、複雑な四級炭素化合物の合成が大幅に簡略化されると期待されます。」

Sister chromatid cohesion establishment during DNA replication termination
DNA複製の終了時におけるシスター染色分体の接着の確立
「細胞分裂の際、コヒーシンというタンパク質が複製されたDNAを接着して均等に分配します。この研究では、コヒーシンがDNA複製の最後の段階で、2つの複製装置が出会う場所に集められ、そこで複製されたDNAを接着することを発見しました。複製装置の解体もこの過程に重要だと分かりました。これにより、正確な染色体分配のメカニズムが明らかになりました。」

HD-Zip proteins modify floral structures for self-pollination in tomato
HD-Zipタンパク質がトマトの自家受粉のための花の構造を修飾する
「トマトの栽培品種では、花の雄しべが円錐形に集まり、雌しべに自動的に花粉が届く自家受粉の仕組みがあります。この研究では、HD-Zipという遺伝子が、雄しべを束ねる毛を作ると同時に雌しべの長さを調節することで、この自家受粉に適した花の構造を作ることを発見しました。野生のトマトでは、これらの遺伝子の発現が低いため、自家受粉の構造が発達していないのです。」



要約

細菌に感染するウイルスが、宿主の細菌を酸化ストレスから守るために、意外な方法で細菌の成長を止めることを発見した研究

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl3222

この研究は、サルモネラ菌に感染するGifsy-1というファージが、酸化ストレス下で細菌の成長を止めるために、tRNAを切断するという予想外の方法を使っていることを明らかにしました。これは一見すると細菌にとって不利益なようですが、実はこれが細菌のゲノムを守り、生存率を上げる巧妙な戦略だったのです。

事前情報

  • 細菌には、ファージと呼ばれるウイルスが感染し、細菌の進化や病原性に影響を与えている。

  • サルモネラ菌のゲノムには、ストレス誘導性のプロファージが複数存在する。

行ったこと

  • サルモネラ菌のGifsy-1プロファージのターミネースタンパク質が、酸化ストレス下でtRNAを切断する予想外の機能を持つことを発見した。

  • tRNAの切断が細菌の翻訳を阻害し、細胞内生存や酸化ストレスからの回復を損なうことを明らかにした。

  • サルモネラ菌がRNA修復システムRtcを転写することで、このtRNA断片化に適応していることを示した。

検証方法

  • 酸化ストレス条件下でのGifsy-1プロファージターミネースタンパク質の機能解析

  • tRNA切断が細菌の翻訳、生存、ストレス回復に与える影響の評価

  • RNA修復システムRtcの転写解析

分かったこと

  • Gifsy-1プロファージのターミネースタンパク質が、酸化ストレス下でtRNAを切断するtRNase活性を持つ。

  • tRNAの切断は細菌の翻訳を阻害し、細胞内生存や酸化ストレスからの回復を損なう。

  • サルモネラ菌はRNA修復システムRtcを転写することで、tRNA断片化に適応している。

  • tRNAの切断による翻訳の停止は、プロファージの動員を阻害し、細菌にゲノムの修復の機会を与えることで、最終的に宿主の生存を促進する可能性がある。

この研究の面白く独創的なところ

  • ファージのターミネースタンパク質が、予想外のtRNase活性を持ち、宿主細菌の翻訳を阻害するという新たな機能を発見した点。

  • 一見すると細菌にとって不利益な翻訳の停止が、実はゲノムの保全と生存率の向上につながるという、ウイルスと細菌の巧妙な相互作用を明らかにした点。

この研究のアプリケーション

  • 細菌感染症の新たな治療ターゲットの発見につながる可能性がある。

  • ファージと細菌の相互作用の理解を深め、ファージを利用した細菌制御技術の開発に貢献する可能性がある。

著者
Siva Uppalapati, Sashi Kant, Lin Liu, Ju-Sim Kim, David Orlicky, Michael McClelland, Andres Vazquez-Torres

詳しい解説
この研究は、サルモネラ菌に感染するGifsy-1というファージが、酸化ストレスという過酷な環境下で、細菌の成長を止めるために、tRNAを切断するという予想外の方法を使っていることを明らかにしました。
通常、ファージのターミネースタンパク質は、ファージDNAを処理してウイルス粒子に詰め込むという役割を持っています。しかし、この研究では、Gifsy-1プロファージのターミネースタンパク質が、酸化ストレス下でtRNAのアンチコドンループを切断するtRNase活性を持つことが発見されました。
tRNAの切断は、細菌の翻訳を阻害し、細胞内生存や酸化ストレスからの回復を損なうことが示されました。一見すると、これは細菌にとって不利益なように思えます。しかし、サルモネラ菌はRNA修復システムRtcを転写することで、このtRNA断片化に適応していることが明らかになりました。
つまり、tRNAの切断による翻訳の停止は、プロファージの動員を阻害し、細菌にゲノムの修復の機会を与えることで、最終的に宿主の生存を促進する可能性があるのです。これは、ウイルスと細菌の間の巧妙な相互作用を示す興味深い発見です。
この研究は、ファージと細菌の関係性に新たな光を当てるとともに、細菌感染症の新たな治療ターゲットの発見やファージを利用した細菌制御技術の開発につながる可能性を示しています。


計算機を使って高親和性の薬物結合タンパク質を設計する新手法を開発

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl5364

研究者らは、一連のPARP-1阻害剤に共通する薬物構造を認識するタンパク質を計算機で設計する手法を開発した。設計した3つのタンパク質のうち1つが、様々な阻害剤に対して<5nMから低μMの親和性で結合することを実験で確認した。X線結晶構造解析により設計の正確さを検証し、分子動力学シミュレーションで水が結合に与える影響を調べた。設計モデルに対する結合自由エネルギー計算は実験値とよく一致し、計算のみで高親和性の薬物結合タンパク質を設計できることを示した。

事前情報

  • タンパク質と薬物の相互作用を考慮した設計手法の必要性

  • 既存の設計手法では多数の構造を生成し、スクリーニングや最適化が必要

行ったこと

  • PARP-1阻害剤に共通する薬物構造を認識するタンパク質の設計

  • 3つの設計タンパク質の結合親和性を実験で評価

  • X線結晶構造解析による設計の検証

  • 分子動力学シミュレーションによる水の影響の解析

  • 設計モデルに対する結合自由エネルギー計算

検証方法

  • 設計タンパク質と阻害剤の結合親和性測定実験

  • X線結晶構造解析による設計タンパク質と薬物の相互作用の確認

  • 分子動力学シミュレーションによる水の影響の解析

  • 設計モデルに対する結合自由エネルギー計算と実験値との比較

分かったこと

  • 設計した3つのタンパク質のうち1つが様々な阻害剤に高親和性で結合

  • 設計タンパク質と薬物の相互作用がX線結晶構造解析により確認された

  • 水分子が結合に重要な役割を果たすことが分かった

  • 設計モデルに対する結合自由エネルギー計算は実験値とよく一致

この研究の面白く独創的なところ

  • 薬物の構造を考慮してタンパク質を設計する新しいアプローチ

  • 計算のみで高親和性の薬物結合タンパク質を設計できる可能性を示した

  • 設計モデルに対する結合自由エネルギー計算が実験値を再現

この研究のアプリケーション

  • 副作用の少ない安全な薬物の開発

  • 薬物の結合親和性や特異性の予測

  • 新たな創薬ターゲットの探索

著者と所属
Lei Lu, Xuxu Gou, Sophia K. Tan, Samuel I. Mann, Hyunjun Yang, Xiaofang Zhong, Dimitrios Gazgalis, Jesús Valdiviezo, Hyunil Jo, +4 authors, and William F. DeGrado 所属: カリフォルニア大学サンフランシスコ校、スクリプス研究所、ラドバウド大学医療センター

詳しい解説
この研究では、薬物の構造を考慮して、計算機で薬物結合タンパク質を設計する新しい手法を開発しました。研究者らは、PARP-1阻害剤に共通する薬物構造を認識するタンパク質を設計し、3つの設計タンパク質の結合親和性を実験で評価しました。そのうち1つのタンパク質が、様々な阻害剤に対して<5nMから低μMの親和性で結合することを確認しました。
X線結晶構造解析により、設計したタンパク質と薬物の相互作用が正確に再現されていることが分かりました。また、分子動力学シミュレーションにより、水分子が結合に重要な役割を果たすことが明らかになりました。さらに、設計モデルに対する結合自由エネルギー計算を行ったところ、実験値とよく一致することが分かりました。
この研究の独創的な点は、薬物の構造を考慮してタンパク質を設計するアプローチを取ったことです。従来の手法では多数の構造を生成し、スクリーニングや最適化が必要でしたが、この手法では計算のみで高親和性の薬物結合タンパク質を設計できる可能性が示されました。
この技術は、副作用の少ない安全な薬物の開発や、薬物の結合親和性・特異性の予測、新たな創薬ターゲットの探索などに応用できる可能性があります。計算機を使ってタンパク質と薬物の相互作用を精密に設計することで、より効果的で安全な薬物の開発が加速するかもしれません。


簡単な試薬から四級炭素を直接合成する新手法を開発

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn5619

四級炭素の合成は、複雑な条件や強力な試薬を必要とし、多段階の合成を要することが多い。本研究では、カルボン酸とオレフィンという入手容易な原料から、鉄ポルフィリン触媒とレドックス試薬を用いて、ラジカル中間体を経由する四級炭素化反応を開発した。この手法により、簡単な化合物から様々な四級炭素含有化合物を合成できるようになった。

事前情報

  • 四級炭素の合成には多段階の合成や複雑な条件が必要とされてきた

  • 極性結合の逆合成的切断に基づく従来法では、官能基変換や酸化還元操作、保護基の使用が必要

行ったこと

  • 鉄ポルフィリン触媒とレドックス試薬を用いた、カルボン酸とオレフィンからの四級炭素化反応の開発

  • 触媒が各基質を電子移動または水素原子移動で活性化し、ラジカル中間体を経由して結合させる反応機構の解明

検証方法

  • 様々なカルボン酸とオレフィンを用いた四級炭素化反応の基質適用範囲の検討

  • 反応機構の解明のための実験的・理論的検討

分かったこと

  • 鉄ポルフィリン触媒とレドックス試薬の組み合わせにより、カルボン酸とオレフィンから効率的に四級炭素化合物が合成できる

  • 触媒がラジカル中間体を経由して基質を活性化し、二分子ホモリティック置換(SH2)反応で結合させる

この研究の面白く独創的なところ

  • 入手容易な原料から直接四級炭素を合成する画期的な手法の開発

  • ラジカル中間体を利用した新しい反応機構の発見

この研究のアプリケーション

  • 医薬品や機能性材料など、四級炭素を含む化合物の効率的な合成

  • 複雑な化合物の合成ルートの大幅な簡略化

著者と所属
Xu-Cheng Gan, Benxiang Zhang, Nathan Dao, Cheng Bi, Maithili Pokle, Liyan Kan, Michael R. Collins, Chet C. Tyrol, Philippe N. Bolduc, +3 authors, and Ryan Shenvi 所属: スクリプス研究所

詳しい解説
四級炭素、すなわち他の4つの炭素と結合した炭素原子を含む化合物は、医薬品や機能性材料などに広く存在し、重要な構造単位となっています。しかし、四級炭素の合成は一般的に難しく、多段階の合成や複雑な条件、強力な試薬を必要とすることが多いのが現状です。これは主に、極性結合の逆合成的切断に基づく従来の合成法では、官能基変換や酸化還元操作、保護基の使用が避けられないためです。
本研究では、この問題を解決するために、入手容易な原料であるカルボン酸とオレフィンから直接四級炭素を合成する新しい手法を開発しました。鍵となるのは、鉄ポルフィリン触媒とレドックス試薬の組み合わせです。触媒は各基質に電子移動または水素原子移動を起こすことでラジカル中間体を生成し、これらが二分子ホモリティック置換(SH2)反応によって結合して四級炭素が形成されます。
この手法の優れた点は、複雑な基質の設計や多段階合成を必要とせず、簡単な化合物から効率的に四級炭素化合物を得られることです。また、ラジカル中間体を経由する新しい反応機構の発見は、合成化学における新たな可能性を開くものです。
本研究で開発された手法は、医薬品や機能性材料など様々な分野で重要な四級炭素含有化合物の合成を大幅に簡略化し、効率化することが期待されます。今後、この手法がさらに発展し、幅広い基質に適用されることで、複雑な化合物の合成が加速されるでしょう。


DNA複製の終了時にコヒーシンがシスター染色分体の接着を確立する

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adf0224

コヒーシンは複製されたシスター染色分体を接着するが、その機構は不明だった。単一分子イメージングにより、コヒーシンが複製装置に押されて複製フォークの会合部位に集積し、複製装置の解体後もDNA上に残ってシスター染色分体を接着することが分かった。また、出芽酵母では複製終了時の複製装置の解体が接着に重要であることが示された。これらの結果から、シスター染色分体の接着はDNA複製の終了時に確立されるというモデルが支持された。

事前情報

  • コヒーシンはシスター染色分体を接着するが、DNA複製とどのように協調するかは不明

  • 従来のモデルでは、コヒーシンは複製フォークの後方に留まると考えられていた

行ったこと

  • アフリカツメガエル卵抽出液を用いて、単一の複製フォークとコヒーシンの衝突を可視化

  • 複数の複製起点から開始する複製でのコヒーシンの挙動を解析

  • シスター染色分体の接着を測定する実験系を開発し、コヒーシンの役割を検証

  • 出芽酵母でCMGヘリカーゼの解体を阻害し、接着への影響を調べた

検証方法

  • 蛍光ラベルしたコヒーシンと複製装置の挙動を単一分子イメージングで追跡

  • 複製されたDNAの末端を固定し、シスター染色分体の接着を観察

  • 出芽酵母でCdc48やDia2を変異・欠失させ、接着と複製装置の解体への影響を調べた

分かったこと

  • コヒーシンは複製フォークに押されて複製終了部位に集積し、複製装置の解体後もDNA上に残る

  • 複製終了部位に残ったコヒーシンは、シスター染色分体を物理的に接着できる

  • 出芽酵母では、複製終了時のCMGヘリカーゼの解体が接着に重要である

この研究の面白く独創的なところ

  • 単一分子イメージングにより、コヒーシンと複製装置の動的な相互作用を可視化した

  • シスター染色分体の接着を直接測定する実験系を開発した

  • 複製終了時のコヒーシンの挙動と接着の関係を明らかにした

この研究のアプリケーション

  • 染色体分配エラーによる疾患の理解と治療法の開発

  • 複製ストレス下での染色体安定性の維持機構の解明

  • 細胞周期制御と染色体構造の関係性の理解

著者と所属
George Cameron, Dominika T. Gruszka, Rhian Gruar, Sherry Xie, Çağla Kaya, Kim A. Nasmyth, Jonathan Baxter, Madhusudhan Srinivasan, and Hasan Yardimci 所属: フランシス・クリック研究所、オックスフォード大学

詳しい解説
この研究は、コヒーシンがどのようにしてシスター染色分体を接着するのかという長年の謎に迫るものです。従来のモデルでは、コヒーシンは複製フォークの後方に留まり、複製された2本のDNAを捕捉すると考えられていました。しかし、この研究では、単一分子イメージングを用いて、コヒーシンが実際には複製フォークに押されて移動し、複製終了部位に集積することを明らかにしました。
さらに、複製されたDNAの末端を固定する実験系を開発し、複製終了部位に残ったコヒーシンがシスター染色分体を物理的に接着できることを直接示しました。これは、コヒーシンによる接着がDNA複製の終了時に確立されるという新たなモデルを強く支持するものです。
また、出芽酵母を用いた実験から、複製終了時のCMGヘリカーゼの解体が接着に重要であることが分かりました。CMGヘリカーゼの解体に関わるCdc48やDia2を変異・欠失させると、接着に異常が生じたのです。
この研究は、染色体分配の基本的なメカニズムを明らかにしただけでなく、複製ストレス下での染色体安定性の維持や、細胞周期制御と染色体構造の関係性の理解にもつながる重要な知見をもたらしました。今後、この研究を発展させることで、染色体分配エラーによる疾患の理解と治療法の開発にも寄与すると期待されます。



HD-Zipタンパク質がトマトの花の構造を自家受粉に適するよう変化させる

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl1982

閉鎖花は、雌しべを包み込む花の構造により自家受粉を行う。3つのHD-Zip IV遺伝子が、葯の縁で絡み合う毛を形成し、隣り合う葯を結合して閉鎖的な葯の円錐形を作り、閉鎖花を促進することを特定した。これらのHD-Zip IV遺伝子は、細胞分裂から倍数化への移行を制御することで、雌しべの長さも制御する。これらのHD-Zip IV遺伝子とその下流の遺伝子であるStyle 2.1の発現は、トマトの進化と栽培化の過程で順次修飾され、閉鎖花の形態を形作った。

事前情報

  • 閉鎖花は雌しべを包み込む花の構造により自家受粉を行う

  • 栽培トマトでは、葯が円錐形に集まり自家受粉が起こる

行ったこと

  • 閉鎖花の形成に関与する遺伝子を同定

  • これらの遺伝子が葯の毛の形成と雌しべの長さを制御することを解明

  • トマトの進化と栽培化の過程でこれらの遺伝子の発現がどのように変化したかを調査

検証方法

  • 遺伝子の機能解析

  • 形態学的解析

  • 進化・栽培化の過程での遺伝子発現の比較

分かったこと

  • 3つのHD-Zip IV遺伝子が、葯の縁の毛の形成を促進し、隣接する葯を結合して閉鎖的な葯の円錐形を作る

  • これらの遺伝子は、細胞分裂から倍数化への移行を制御することで、雌しべの長さも制御する

  • これらの遺伝子とその下流の遺伝子Style 2.1の発現は、トマトの進化と栽培化の過程で順次修飾され、閉鎖花の形態を形作った

この研究の面白く独創的なところ

  • 閉鎖花の形成に関与する遺伝子を特定し、その分子メカニズムを解明した

  • 雄しべと雌しべの構造が協調して発達することを示した

  • トマトの進化と栽培化の過程で、閉鎖花の形態がどのように形作られたかを明らかにした

この研究のアプリケーション

  • 遺伝子組換え作物での花粉汚染の防止

  • 果実の着果率の改善

  • 有用形質を後代に確実に受け継ぐ自家受粉性作物の開発

著者と所属
Minliang Wu, Xinxin Bian, Benben Huang, Yadi Du, Shourong Hu, Yanli Wang, Jingyuan Shen, and Shuang Wu 所属: 中国農業科学院野菜・花卉研究所、中国農業科学院作物科学研究所、浙江省農業科学院

詳しい解説
この研究は、トマトの栽培品種でみられる自家受粉の仕組みに着目しました。トマトの栽培品種では、雄しべが円錐形に集まり、その頂点から雌しべが突き出ています。この構造により、雄しべの花粉が雌しべに自動的に届き、自家受粉が起こります。一方、野生のトマトではこのような構造は見られません。
研究グループは、この自家受粉の構造の形成に関与する遺伝子を探索しました。その結果、HD-Zip IVという3つの遺伝子が重要な役割を果たしていることを突き止めました。これらの遺伝子は、雄しべの縁で絡み合う毛(ジッパー状毛)の形成を促進し、隣り合う雄しべを結合して閉鎖的な円錐形の構造を作ります。また、雌しべの長さも制御していました。
興味深いことに、これらの遺伝子とその下流の遺伝子であるStyle 2.1の発現は、トマトの進化と栽培化の過程で段階的に修飾されていました。野生種では発現が低く、栽培品種になるにつれて発現が高くなり、自家受粉の構造が発達したと考えられます。
この研究は、トマトの自家受粉の分子メカニズムを解明しただけでなく、雄しべと雌しべの構造が協調して発達する仕組みを明らかにしました。また、トマトの進化と栽培化の過程で、どのように自家受粉の構造が形作られてきたかを示しました。
この知見は、遺伝子組換え作物での花粉汚染の防止や、果実の着果率の改善、有用形質を後代に確実に受け継ぐ自家受粉性作物の開発などに応用できる可能性があります。自家受粉は農業上有用な形質であり、その仕組みの理解は重要な意味を持ちます。


最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。