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冒険好きな少年が小説家に育ち、30歳になった話。


自己紹介

小説家の新馬場しんばんばあらたです。
日本SF作家クラブの会員で、最近はSFばかり書いています。
著作などはX(旧Twitter)のbioを確認してくだされば幸いです。

さて、僕はついさきほど30歳になった。
30だ。
30なんて、子どもの頃には死よりも遠くに見えていた場所だった気がする。

なので、ここらで一度、半生を振り返ろうと思い、noteを開いた。
なにせ遠くまできたのだ。
十年前の今日、ハタチの誕生日に世界一周の旅に出てから、今に至るまでをおもしろおかしく綴ってやろうかと思う。

たとえば、アフリカの国境でスパイに間違われて、小銃を首筋に突きつけられたこと。三万羽のフラミンゴに見るべく、数日かけてサバンナの湖に向かったら、三羽しかいなかったこと。(サムネがこれだ)

寝袋に包まれて年を越したエジプトの白砂漠や、南の島フィジーで見た透明な海原。
インドの田舎町では知らない人の結婚式に参列して、カナダではオーロラを見ながらペンキを塗って日銭を稼いだ。
イスラム教国のブルネイではバーガーキングのありがたさに涙し、微笑みの国ラオスではなけなし10万円を盗まれて泣いた。
世界一周の資金が尽きた時、自然と零れ落ちたため息を今でも覚えている。
トルコで帰国便のチケットを取った時、「ああ、ここで終わりか」という喪失感と「ようやく帰れるのか」という安堵感が同時に胸を占めた。
あの奇妙な感覚は、今も忘れることができずにいる。

タクシーの運転手さんに撮ってもらった帰国時の僕。顔が疲れている。

帰国し、大学に戻ってからは自衛隊のパイロット試験を受けた。合格一歩手前で落ちてしまい、最終的にゲーム会社に入社した。会社では中国関連のプロジェクトを任され、また海の向こうを歩く日々がはじまった。
そして気が付けば、小説家になっていた。

正直、とても濃密な30年だったと自負している。
僕は僕自身のことはたいして好きではないが、僕が歩んできた道のりはとても好きだ。誇っているといってもいい。
僕は最高に刺激的でおもしろい人生を生きてきた。いつかこの経験をふんだんに注ぎ込んだ物語を書きたいとも思っている。
けれど、書いていて思ったことがある。
今これをすべて書くとなると、すごく長くなる。
いや本当に、めちゃくちゃ長くなる。
なので、旅の記録は一部抜粋したもの記事の最後に載せておくことにした。
旅の話だけが気になる人は、ここから盛大にスクロールしてくれていい。
以降は、小説家としての今後の展望を記そうと思う。
これも少し長くなる。秋の夜長に読んで欲しい。


最新作『沈没船で眠りたい』について

まずは最新作の宣伝をさせてほしい。
『沈没船で眠りたい』(双葉社)は、2023年8月に刊行されたシスターフッドSFだ。

2044年の日本。発展を続けるAIにより、多くの仕事は機械が担うようになった。だが社会は幸せになったとはいえず、雇用は減少を続ける一方。
ついには、反機械運動団体が死傷者を出す暴動を起こしてしまった。
その暴動の最中、機械を抱いて海に飛び込んだ女子大生がいた。
暴動の首謀者との関与を疑われる彼女は、なぜ機械と心中をしたのか?
謎を解く鍵は、三年前のある出逢いにあった――。

というのが、物語の筋。
本作は自身初の単行本であり、渾身の一作で、自信作だ。
新聞や文芸誌、WEBサイトなどで取り上げていただいたり、SNSやブログでも嬉しい感想をいただいている。SF読者だけでなく、ミステリー読者からの評判も良い。
しかし、いまいち売れていない。
というか、まだまだ全然知られていないというのが実情だ。
我が子ながら、この子はもっと読まれて良いと思っている。
なので、今これを読んでいるみなさまにちょっとしたお願いがしたい。


第44回日本SF大賞エントリー開始

今年も日本SF大賞のエントリーがはじまった。
『沈没船で眠りたい』も対象作品になっている。
察しの良いみなさまなら、僕がなにを言わんとしてるかお気づきだと思う。
ご推察のとおり、応援をお願いしたいのだ。
正直、エントリー数だけで賞が獲れるほど日本SF大賞は甘くない。そもそもこれは人気投票ではないし、今年最も優れているSFを決めようって賞なのだから。
「おいおい。お願いしておいてなんだよ」
ごもっともだと思う。申し訳ない。あと数スクロールだけ付き合って欲しい。
なぜ、僕が日本SF大賞のエントリーを求めるか。
それには以下のような理由がある。


日本SF大賞は、SFファンにリーチできる絶好の場。

日本SF大賞は人気投票ではない。これは賞の要項にも明記されている。
しかし、日本SF大賞は”SF推し祭り”であり、”今年のSF作品カタログ”という側面を持つ。ここで存在感を出すことができれば、賞は獲れなくとも、気になったSFファンが手に取ってくれる可能性が生まれるイベントなのだ。
(この理念は、運営のこのポストからもうかがえる)

そりゃ僕だって賞が獲れたら嬉しい。
獲れるくらいおもしろいSFを書いた自信もある。
けれど、僕の現状としては、まずは渾身の一作である『沈没船で眠りたい』を知ってもらい、”SF作家 新馬場新”を認知してもらわなければならないステージにいる。
僕はまだまだ知名度のない駆け出しで、無力なひよっこ作家すぎない。
だから今、あなたの力を借りたくてこの文章を打っている。

第44回日本SF大賞 作品エントリー

前置きが長くなったが、上のリンクからエントリーができるので、「『沈没船』読んだよ!良かったよ!」という方は、ぜひ応援をお願いします。
読んでない方は、これを機に読んでいただけると嬉しいです。
安心してください。おもしろいです。これは保証します。

また、他の方が推している作品のエントリーも確認できるので、一覧をざっと眺めて、気になった作品を読んでみるのもオススメだ。
先ほども述べたが、日本SF大賞のエントリー欄は、その年に出たSF作品のカタログみたいなものだから(しかも熱いコメント付き)、眺めているだけでも結構楽しい。
今年の僕のイチ押しは『ラウリ・クースクを探して』『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』『障害報告: システム不具合により、内閣総理大臣が40万人に激増した事象について』とか。青島もうじきさんの『私は命の縷々々々々々』もいいよね…!
あとさぁ!今回は対象期間外だけどさぁ!宮澤伊織さんの『ウは宇宙ヤバイのウ!〔新版〕』はまじでヤバイよねぇ!新版刊行にあたって作中世界が変動するとかさぁ!ちょっとSFすぎやしないかい!?
レイ・ブラッドベリもこれにはにっこりでしょうよ!!(元ネタの『R Is for Rocket』はこちらから )

さて、他にもあるけど挙げたらきりがないので、ひとまずここではこのくらいにしておこうと思う。
年に一度のSF推し作品合戦、みんなで楽しみましょう。
(ついでに『沈没船で眠りたい』を応援してくれたら望外の喜びである)


SFに拘る理由

ここで少しだけ自著と過去のSF作品の関係について触れる。
最新作『沈没船で眠りたい』には多くのSF作品が登場する。『祈りの海』『一九八四年』なんかはダイレクトに作品名が出てくる。
前作の『サマータイム・アイスバーグ』でも、『夏への扉』『未来からのホットライン』を引用した。
さて、なぜ僕がここまでSF、それも過去のSFのオマージュや引用に拘るのかという話も、この際だからしておきたい。

理由は至極シンプルで、これらが僕のSF的推し作品だからだ。
もちろん、自著においては作品のテーマや物語の構成上必要だから引用している。物語ファーストであることは揺るがない。
だが、ある側面では、これらの作品をもっと多くの人に届けたいという下心がないとも言い切れない。
おまえみたいな若造の作品に描かれなくても、これらの名作はみんな知ってるわボケナス」
そうした意見はあると思う。落ち着いて欲しい。僕もそう思っている。
しかし、実のところ、『沈没船で眠りたい』を読んだ知人から「『一九八四年』って読んだことなかったから買ってみたよ」と報を受けたという事実もある。
そう――”タイトルは知っているけど、実は読んだことのない名作”というのは、多かれ少なれ、個々人の中に存在するはずなのだ。

僕は、僕の書く物語を通し、そうした”タイトルは知っているけど、実は読んだことのない名作SFを読むキッカケ”が生まれることを望んでいる。
誰かひとりでも「そういえばタイトル知ってるけど、読んだことないな…読んでみるか」とか「なにこのSFネタ。へえ…そういう作品があるのか。読んでみるか」と、うっかり足を滑らせてSF沼に漬かってくれたりしたら、そこに僕が小説を書いた意味や価値が生まれるのだ。
思うに、僕がSFを書く動機を透かして見れば、そうした邪な企てが多分に含まれている。


来年以降の活動とか、今後の目標とか

来年(2024年)は執筆時間をしっかり確保できる想定なので、これまで以上に書きたいと思っている。「頑張る30。活き活き30」がこの一年の標語だ。
現在まで単巻作品しか書いてないので、シリーズ作品も書けたらと企んでいる。企画案はいくつかあるので、なんとか出版までこぎつけたい。

実は今年、連載企画がはじまる予定があったのだが、運悪く立ち消えてしまったという経緯もある。ゆえに、自身の想定やキャパシティよりも、年間の刊行点数が少なくなってしまっている。哀しいね。
一緒に仕事してもいいよ!という編集者さまがいらっしゃいましたら、noteのクリエイター問い合わせ、またはX(旧Twitter)のDMにてご連絡いただけますと幸甚です。シリーズでも単巻でもSFでもSFじゃなくても、書きたいものがたくさんあります。

また、勉強の一環で書いていた漫画原作脚本もいくつかnoteにアップしてみた。漫画原作脚本はこれまでに10本近く書いてきたが、そのすべてを勉強用フォルダに眠らせておくのはちょっと惜しいと感じたからだ。
以下にリンクを並べておくので、よろしければ暇つぶしにどうぞ。
※これらの作品は現在、少年マガジンの原作賞に応募中です。応募規約の関係で、一般的な脚本とは書き方が異なる箇所があります。ご了承ください。
※落選したらnoteで不定期連載するかもしれません。小説として書き直すのもいいなと思っている3作です。

2023/12/23追記
こちら2作が受賞しました。


月面ホームレス
祖父から相続した月の土地を売り払い、一儲けするはずが…。
月面都市でホームレスになってしまった男の話です。遠くない国際宇宙社会において、起こるであろう社会問題をテーマにしています。
かつて本気で宇宙飛行士を志し、「プラネテス」と「宇宙兄弟」に読みふけり、フロリダのNASAで元宇宙飛行士の講演を聞いた挙句、自衛隊のパイロット試験を受けた僕の経験も少し反映されています。
あと、全然関係ないですけどTHE BULE HEARTSの『月の爆撃機』はめちゃくちゃ良い曲なので、みなさんも聴いてください。

転生なんて、しないから
死んだら異世界に行けるのは、フィクションの中だけの話で…。
シスターフッド旅行記です。死んでも異世界転生はできない現実世界。しかたないから、代わりに現実の異世界を旅しちゃおう!な話です。
ケニアを陸路で横断したり、砂漠のど真ん中でキャンプをしたり、ガンジス河で平泳ぎをした僕のバックパッカー経験が反映されています。
『深夜特急』や『よりもい』が好きな方はぜひ。

タイムマシンのレシピ
恋人を亡くした同級生に「タイムマシンを作って欲しい」とお願いされた数学の天才は、青春のすべてを捧げてタイムマシン開発に励むが…。
タイムマシンを巡る青春SFサスペンスです。ジャンプ+の原作賞で最終候補に残った読み切りを連載用にリライトしています。広瀬正さんの作品集や、70年代後半の邦画などから影響を受けています。昨今流行りのタイムリープモノというよりは、がっつりタイムマシンモノをやりたくて書きました。


最後に

この冬にライトノベルの新刊が出ます。
太陽風と都市災害を題材にした一巻完結のSFで、レーベルからの公式発表もそろそろ行われるはず。
こちらはX(旧Twitter)で再度告知する予定です。

以上です。思いのほか長くなりましたね。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
Xのフォローをしてもいいよ!って方は、”こちらからお願いします。
各種告知や宣伝は、基本Xにて行っています。

では、また機会があればnoteで会いましょう。
僕はWOWOWで配信が開始された『三体』のドラマを見ます。
旅の記録はこの下にあります。気になる方はどうぞ。

2023/10/7 ビクトリージンを飲みながら
新馬場新

おまけ:旅の記録(アジア~アフリカ編)


タイ-アユタヤに向かう駅にて撮影。これが僕の基本装備だった。二つバックパックを前後に担いで移動して、宿に着いたら大きい方をおろして身軽になる。貴重品はパンツの中に隠して町歩きに繰り出す。これがバックパッカー。
タイ-アユタヤ遺跡。僕は像に乗るお金がなかったので、レンタルサイクルで観光した。近くにはセブンイレブンもあった。めちゃくちゃ観光地。遺跡が好きならおすすめ。
タイ-カンボジア国境。はじめての陸路国境越えは緊張の連続。
カンボジアはアンコールワットとかベンメリア遺跡とかを巡って楽しんだ。
あとベリーダンス見たりして、普通に観光していたと思う。
お次はラオス-シーパンドン。メコン河に浮かぶ4000の島々のうちの一島に滞在していた。別に観光名所があるわけでもないため、バックパッカーすらあまりいない。しかし、観光地に疲れていた僕にはどんぴしゃだった。とにかくのどか。朝はコーヒー飲みながら近所の猫撫でて、昼は散歩して、夕方は近所の子どもと蹴鞠みたいな遊びをして過ごしていた。メシもうまい。
マレーシアでは洞窟探検もした。ここにたどり着くまでも飛行機、バス、船、徒歩……と、大冒険だった。この時はRPG脳だったので、レアアイテムの入った宝箱とセーブクリスタルをずっと探していた。見落としていただけで、確実にあったと思う。
この雰囲気でない方がおかしい。
ブルネイ王国の水上集落。ここは旧市街。歩くと道が軋む。猫がたくさんいた。
ブルネイにはなんで立ち寄ったか覚えていない。マレーシアから簡単に行けるからだったかな。
はじめてのイスラム教国訪問だった。
ブルネイ王国の水上集落。ここは新市街。コンクリート造りで安心。
左手に見える柵の向こうには発電所がある。船で通勤できるので、結構人気の住宅街らしい。
あと小学校や病院もある。すごい。
お次はインド-コルカタ。滞在中は伝説の宿と名高いホテルマリアに宿泊していた。
まあ、なんだ。一言でいえば最悪だった。
場所と時間は大きく動き、ここはインド-ビハール州のとある村。ひょんなことから訪れるはめになったのだが、不思議なもので、滞在中に何を食べていたのか、何日過ごしたかさえ覚えていない。僕はどうして、なぜ、どのくらいあの村にいたのだろうか。トイレは大地に、洗濯やシャワーは近くの川でおこなっていたことだけは鮮明に覚えている(普通に嫌だったので)
みんな大好きインド-ガンジス河。ここで僕はとある人との奇跡的な再会を果たし、村で失った気力を取り戻すままにガンジス河に飛び込んで体調を崩すのだが、それはまた別のお話。
イモディウムという緑色の秘薬は、状態異常:毒を治すぞ!覚えておくといい!
そして舞台はアフリカへ。ケニア陸路横断がはじまった。
基本はバス移動だが、バスが通っていないルートは自転車をGETして進んだ。
当然のことかもしれないが、バスが通らないルートにはホテルもろくにない。
なので……
ここをキャンプ地とする!
野生のカバさんがいたよ。フラミンゴを見に行くための道中は危険がいっぱい。ちなみに僕は旅の途中で仲良くなった動物博士(本物)と行動を共にしていたので、そこまで危険な目には遭うことはなかった。知識は野生において武器になる。
野生のキリンさんだね。肉食獣がいないルートを念入りに調べてから進んでいたが、草食獣だってやっぱり怖い。特にキリンとシマウマはまじで怖かった。動物博士が仲間にいないパーティーは、大人しくツアーを組もう。ちなみに動物博士は僕と別れたあと、タンザニアに移動して三ヶ月ほどフィールドワークをしていた。すごい。
動物博士と別れ、ひとりウガンダ入りした僕は赤道でクリスマスを祝うことになる。
このモニュメント、観光地みたいな面してるでしょう?
でもね、めちゃくちゃ僻地。ここに来るだけで一苦労だった。
なにせ、ここに向かうバスがいつ、どこから出るのか全然わからないのだ。
現地の人に聞いても「さあ?」しか返ってこない。恐怖である。
来たぜ、エジプト。
ジョジョの聖地巡礼するぜ~とか浮かれていたけど、市街地にあった戦車を見て、なんだかその気も失せた。紛争というものを肌で感じたのは、後にも先にもこの時だけだ。
夜中には宿の近くで爆破を伴うデモがあって、呑気に観光している自分がなんだか浮いている気がした。そんなことを宿の主人に話したら「でもね、観光してくれる人がいないと僕らの仕事はやっていけないんだ。来てくれてありがとう」と感謝された。
世界って難しいなと思った。
だから精一杯観光してやろうと思った。外務省のホームページでも帰国指示出てなかったし。
白砂漠で年越しをした。隣には黒砂漠もあった。こっちは本当に砂が黒いんだ。ファンタジーだよね。そして、砂漠の夜は星空がとんでもなく綺麗で、奇形岩地帯ということもあって、まるで別の星にいるみたいだった。
砂漠の夜はまさに宇宙。
月面に着陸した宇宙飛行士の真似して、いろんなところを歩いた。
現地ガイドに怒られた。本当にごめんなさい。

かなり端折ったけど、こんな感じです。
南の島編と、北米編はいつかまた気が向いたら書きますね。
最後に宣伝をひとつまみ!
『沈没船で眠りたい』(双葉社)をどうぞよろしくお願いいたします!

それでは。また。

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