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郷土紙という超ローカル新聞(連載23)税務署も見ている?


農業は地元の重要産業


食欲の秋と並ぶといいますか、関連しているのが実りの秋です。秋に収穫期が訪れる野菜や果物はたくさんあります。さつまいもだけではありません。

農業も盛んな遠浜県(仮称)南部地域は、さまざまな農産物を生産。地域内消費だけでなく、東京、大阪など都市部へもたくさんの農産物を出荷しています。地元の重要産業という位置づけです。
国内全体では就業者割合が5%を切った第一次産業(農業、漁業、林業など)。この辺りは、まだ体感的に農業だけで10%以上いると思われるくらいたくさん農家がいます。
典型的な田舎地方都市である本郷市は、大手製造業の工場やAから始まる4文字のショッピングセンターもあります。さすがに農家ばかりということはありません。そこを考慮に入れても農業従事者は多いです。地方都市あるあるの平日は工場勤務で「土日農家」という人もたくさんいます。


地元の主要ニュース


農産物出荷は、地元経済の主要ニュース扱いです。新聞業界でいうところの「硬派記事」として一面や経済面トップのような重要な位置に、多くの紙幅を割いて報道します。
経済ニュースという位置付けながら、本郷日報(仮称)内での担当分けは、経済ではなく農業・農協担当が担っていました。そこまで細分化するくらい重要に考えていたともいえます。

社会面に載り、娯楽的要素が高い芋掘りイベントとは、さすがに違いました。
農業担当になり、初めて取材に行ったときは、ようやく「新聞記者っぽい仕事が回ってきた」と妙に感動した記憶が…。
慣れてくるにしたがい、そんな気持ちもなくなってしまうのは、いつものことです。

規模で負けてテレビが来ない


本郷日報の発行エリアくらいの出荷規模では、テレビの取材は、地元ケーブルテレビ以外来てもらえません。栃木や福岡のいちご、山梨のぶどう、福島のさくらんぼ、北海道のじゃがいもなど、全国クラスのメジャー農産物なら、テレビ局も地方ニュース扱いで取材に来てくれます。
遠浜県南部地域は、そこまで有力産地ではありません。出荷額も何分の1というレベルです。規模で負けてしまっています。残念。
そのおかげでしょうか。郷土紙は、こちらが戸惑うくらいに歓迎されます。ありがたいことです。
なお、具体的な農産物を出すと、本郷日報の発行地域が限定される可能性もあります。本連載では「某果実」「某野菜」といたします。

写真はいちおう工夫


農産品の出荷は、各作物ごとに毎年取材します。記事としてはほぼ例年通り、前例踏襲の内容です。
コピペという意味ではありません。情報が統計的に毎年必要となるので、同じようになるという意味です。
今年のできばえと出荷量、市況の見込み、出荷地域、今年解決できた課題など多角的に報道します。専門紙に比べるとデキは違いますけどね。それでも彼らの視点を参考にしながら、地元の情報として詳しく、わかりやすく書くようにしていました。
また、地域内消費も重要です。地元のスーパーでもよく売れるようにおいしい食べ方も記事本文に混ぜるのを忘れません。

写真も毎年同じカットとはいきませんでした。※あたりまえです。いくら郷土紙でも、いちおう工夫します。
農協の出荷場で選果するベルトコンベアの作業風景だったり、荷台(アルミボックス)に「産地直送 本郷の某野菜」と書かれた大型トラックを見送る農協職員と生産者たちのときもあります。事前に取材依頼が届くので、農協に電話して収穫風景を撮らせてくれる生産者の畑に出向くこともありました。

声の大きさは大事


出荷場での取材は、記者会見のような各社が手を挙げながらというようなことはありません。
農協の担当者か部会長を囲み、配布された資料に載っていない知りたいこと、わからないことなどを声の大きい人から質問していきます。こういう場では、声量が大事です。

残念なことに全国紙から県紙、郷土紙まで脳の回路と目が連動していない人が多いのか、資料に書かれていることまで質問して貴重な時間を奪っていく記者もいらっしゃいやがります。
総理大臣記者会見でもありますよね?さっき話したことを平気で聞いてくる人。企業の会見でも「お手元の資料にありますように…」などという回答しかもらえない愚問をする人。マスゴミと言われる要素のひとつがこれだと思ってます。※郷土紙は「マス」ではありませんけどね。

部会というのは、その農協の中で同じ作物を生産、出荷する農家の集まりです。りんご部会とかキャベツ部会みたいな感じで、農産物の数だけあります。
部会長は、そのリーダー(役員)です。取材窓口になってくれます。

準公的データ扱い?


農業の記事は、書く側が思っているのと同じくらい、読む側もしっかり大事に思い、記事をしっかり読み込んでくれます。
市況見込みや出荷量の前年比などの数値は、地元の税務署も読んでいるとうわさされていました。
市や町の次年度予算の割り振り、農業振興策にも影響があります。主力農産品の市況が厳しそうなら、歳入見込みも変わってきます。
農業系の市会議員、町会議員も支持者向け政策、要望を練ってくることもあります。
ホームセンターや農業系の商社も今後の自社商品の売れ行きと関係するので目を通すと聞いています。
統計のような公式データは、発表まで時間がかかります。正確性では少しそこそこ劣りますが、速報性から郷土紙の記事が準公的データ扱いされているともいえます。
自分で言うと恥ずかしいですけどね。
この辺りは、さすが自称・本郷市のFinancial Times笑です。

本物のFinancial Timesは、取材後に出荷する果物や野菜をおみやげでもらうことはありませんが、郷土紙の記者はあたりまえのようにもらっていきます。このあたりは、芋掘りと同じです。
「ください」といってたかるほどひどくはありませんでしたが、取材に乗ってくる車がひどくて同情されたのでしょう。出荷規格外のサイズやキズありの野菜、果物を毎回恵んでいただいていました。
表向きは、食味などの実地調査です。食べても「おいしい」としか言わないのに建前だけは大切にしています。


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