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「わかりやすい」は誉め言葉か?

戦略コンサルタントのアップルです。

コンサルティングの仕事をしていると、「わかりやすい」ということを誰かから言われたり、レビューするとき誰かに言ったりすることがよくあります。無論、コンサルティングの仕事以外でも、なんらかの資料やアウトプットに対して「わかりやすい」という言葉を使うことはあるでしょう。

ではこの「わかりやすい」という言葉、果たして誉め言葉なのでしょうか?

これが今回の記事のテーマです。

否定的な言葉ではないので、誉め言葉に近いトーンではあります。じゃあめちゃくちゃほめているかというと、そこまで強いトーンでない気もする。うーん、どっちなんだろう?

ということで、今回はこの「わかりやすい」という言葉に対する解釈について書いてみようと思います。

戦略ファームに入った頃の違和感

いくつかの記事でも触れましたが、アップルは中途で戦略コンサルティング業界に入っています。入社して間もないころは、コンサルタントの仕事の進め方や、アウトプットの出し方、更には独特の言葉の使い方(論点や仮説はまあ想定内として、構造化、とか、メカニズム、とか枠組み、とか、・・)に戸惑った部分もありました。

そして、今回のテーマである「わかりやすい」という言葉を前職に比べてよく聞く点にも違和感をもちました。

前職でも様々なドキュメントを作っていましたが、それに対して上司から「わかりやすい」という言葉や評価をもらった記憶はあまりありませんでした。「よくできている」とか「よく練られている」とか「しっかり内容が詰められている」というフィードバックの言葉はありましたが、「わかりやすい」という言葉はあまり聞かなかったなあと。

それが、戦略ファームに入って、資料に対してマネージャーから「わかりやすいですね」と言われることが良く出てきて、前職との違いを感じたというわけです。

よくよく考えれば、わかりやすいという言葉が頻出するのは、戦略コンサルがクライアントサービスだからです。どんな資料も最終的にはクライアントに届けることを念頭に作っています。わかりやすくないと、そもそもクライアントに理解されないので、わかりやすさがとても大事ということですね。

「わかりやすい」は誉め言葉じゃない?

さて、このように「わかりやすい」という言葉をしばしば言われたわけですが、ファームに入りたての頃はあまり褒められていると感じませんでした。

なぜなら、
・「わかりやすい」という言葉は、あくまでドキュメントなどのアウトプットの表現形式に対する言葉であり、中身に対する評価の言葉ではない
・「わかりやすい」という言葉には、「レベルが低いこと、簡単なことだからわかりやすい」という語感が含まれている感じがする

という印象をもったからです。ややひねくれているかもしれませんが、次のような感じで受け止めていました。

・その言葉、中身については評価してないよね?
・わかりやすいって、それ、俺が低レベルなタスクを与えられてるってことなんじゃないの?!

ファームに入った頃のアップルにとって、「わかりやすい」という言葉は決して誉め言葉ではなかったのです。

「わかりやすい」という言葉の真意

では、実際のところはどうなのか?

コンサルタント歴を重ね、レビューする立場にもなりました。つまり「わかりやすい」という言葉を言われる側だけではなく、言う側にもなりました。その中でたどりついた結論は、「わかりやすいという言葉は、最上級に近い誉め言葉である」ということです。

なぜ、最上級に近い誉め言葉なのか?

少なくとも戦略ファームにおいて、わかりやすいという言葉には次の2つのことが含意されているからです。

①物事の本質にまでしっかりとたどりつけている
②その本質が、過不足なくドキュメントに表現されている

①は思考がしっかりとなされていること、②はその思考がシンプルに表現されていることを指しています。この2つがプレゼンやドキュメントからひしひしと感じられて初めて「わかりやすい」という言葉が発せられるのです。

ちなみにこの2つがそろっていないときに発せられる代表的な言葉は以下の通りです。

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左下の象限は論外として、左上象限と右下象限がなぜこういう反応になるのか簡単に説明しておきましょう。

<左上象限>
一見資料の体裁はきれいだし、スライドもそれっぽく書いてあるが、中身が本質にたどり着けていない(深みがない)ときには「浅いな・・・」という反応になります。中身がないものを資料でクライアントにぶつけても仕方ないので、せっかく作った資料はごみ箱行き、思考や分析のところからやり直すというハメになります。

<右下象限>
深いことやいいことを考えられていそうなんだけど、ドキュメントの表現力が拙い結果、すっと頭に入ってこないというケースです。事業会社の技術系の人がこの手の象限に該当する資料を作るケースが散見されます。


繰り返しになりますが、「わかりやすい」という言葉は中身と表現の両方がそろったときに発せられるため、最上級に近い誉め言葉と言えるわけです。クライアントから「わかりやすいですね~」とポロっと言われたときも、かなり褒められていると受け取ってよいでしょう。

わかりやすさが超大事な理由

とここまで「わかりやすい」という言葉について考察してきたわけですが、最後に企業経営において「わかりやすさがなぜ大事なのか」ということを書きます。

結論から言うと、「意思決定や合意形成のスピードを早める」からです。

特にクライアントの大企業をみていると、わかりやすさが足りないがために関係者の合意形成が進まないとか、議論が空中戦になったりとか、意思決定者がなかなか決断できないという光景をよく見ます。せっかくいいことが検討されていても、それがわかりやすく表現されていないがために前進しないのはとてももったいないですし、スピードがものをいうビジネス環境においてわかりにくさがスピードを阻害することは企業の競争力をも左右します。

組織の機動力やスピードを担保するために、ドキュメントコミュニケーションのわかりやすさはとても大事です。


今回はここまでです。
最後までご覧いただきありがとうございました!

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