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手話を学び、ろう文化を伝える映像をつくるには? “ライブ感”を残したコンテンツ制作の舞台裏

櫻井駿介(東京アートポイント計画)

「ろう文化」や「ろう者」という言葉をご存知でしょうか。あるいは多くの方がテレビやウェブサイトで「手話」を見た経験があるかと思います。

Tokyo Art Research Lab が実施するレクチャー「手話と出会う 〜アートプロジェクトの担い手のための手話講座〜」では、手話の基礎を学び体感するとともに、ろう文化やろう者とのコミュニケーションを考える映像プログラムを公開しました。
この記事では、その制作に至るまでの背景や、収録の舞台裏をご紹介します。

2020年度からはじまった試みと、オンライン講座の課題

このレクチャーは「アートプロジェクトの担い手を対象に、新たな視点・技術を獲得する講座シリーズ」の一環として実施してきました。
2020年度からは、コミュニケーションやアクセシビリティを考える糸口になればと手話のオンライン講座がはじまります。当時の受講者は定員いっぱいの10名。手話やろう文化を学びたい初心者を対象に、全12回のレクチャーを3ヶ月間にわたり開講しました。

オンライン講座のはじまり、試行錯誤については、上記noteに詳しいので是非ご覧ください。

手ごたえを掴んだ一方で、あくまでこのオンライン講座に参加できたのは10名のアートプロジェクトの担い手たちです。
オンラインゆえに、受講者が多すぎても丁寧なコミュニケーションが難しくなるばかりか、ひとりひとりの画面が小さくなり手指や表情を読み取れなくなってしまいます。

講座に関心を寄せる方は他にもいらっしゃいましたし、必ずしもアートプロジェクトという言葉で限定しなくても「手話」や「ろう文化」に触れる機会は広げられるかもしれません。
いつでも、どこからでも、まずは一歩を踏み出してみる。ふとしたときに、身近にあるコミュニケーションに目を留める時間をつくれないだろうか。

そうして2021年度は「手話、ろう文化を体感する映像プログラム」の制作、YouTubeでの公開に取り組むことになります。この制作は、私たち運営チームにとっても「手話」や「ろう文化」を伝えることについて改めて考える機会となりました。

はじめての映像プログラム制作、その舞台裏

通勤通学や家事の合間、入浴中、就寝前など、短い時間に視聴できるよう、それぞれの映像は5分を目標に収めることに。
どんなテーマを扱うのが良いのだろうか、優先すべきことはなにか、「ろう者」と「聴者」の違いをどうやって伝えるべきか。オンライン講座と違って、目の前の受講者とやり取りできない不安もあります。

インターネットで調べてみれば、いわゆる「手話を学ぶための動画」は内容も様々に存在しているようです。教材、あるいは単語ごとのシャドーイング、長編から短編まで、それぞれの工夫を見ることができます。

それでは、この映像プログラムで伝えたいことは何だろうか。それは例えば、アートプロジェクトをはじめとした現場、イベント、日常のなかで出会う人びとの文化、その背景に想像を膨らませるヒントになること。あるいは、手話やろう文化に触れながら、自ら学びを広げたくなるきっかけになること。

だからこそ、まずは「ろう文化」を身近に感じてもらい、その先にある様々な気付きや学びに繋げられる内容を目指しました。

運営チームで打合せを重ね、テーマやスケジュールを確認します。
4本の映像で1つのテーマを掘り下げ、各テーマを約2週間ごとに公開。4つのテーマからなる計16本の映像を制作することに。
各テーマの最後には「ろう文化を寸劇で紹介する特別編」を用意し、肩の力を抜いて手話やろう文化に触れられる工夫をしたほか、映像で得た学びを復習する初心者向けオンライン講座や、さらには現場で実際に手話をつかうことを想定した中級者向けオンライン講座も開講しました。

映像は#1〜4の4テーマに分けて公開。
各テーマの最後には、寸劇シリーズ「ろう文化を知る」を制作しました。

私たちにとっても初めての映像プログラム制作。
悩みつつも、セリフを細かく練るというよりは、それまでのオンライン講座で得たノウハウを活かし、相手がそこにいるような「ライブ感」を残したコンテンツ制作を心がけることに。

まずは何事もやってみることからと、台本に固執せず「伝えたいこと」の優先度を現場で再確認し、それを伝えるための撮影方法やカット割りを話し合います。
カメラの前に立って、すぐさま映像を確認して、改善点があればその場で、そして次回の収録に向けてアップデートを続けました。

収録はSTUDIO302で行いました。
現場はライブ感満載。気を引き締めつつも、和やかに進行します。

映像コンテンツ、だけれど「ライブ感」は半分残してみる

苦戦したのは「手話通訳」の収録でした。
はじめは手話映像と、通訳音声を同時に収録しようと試みましたが、手話の文脈によって、通訳で扱う言葉の取捨選択が変化します。

その場にいる受講者に向けたオンライン講座や、ぶっつけ本番のライブ配信・アーカイブであれば、文脈によって通訳をすぐさま言い直したり、多少言葉遣いに無理があったりしても違和感は少ないでしょう。
ですが「ライブ感」を残すといえども、収録・編集を経てパッケージ化して世に出すとなれば、言い直しは減らし、なるべく語弊のない言葉遣いを選びたい。

とはいえ、映像収録の勢いを止めて、1から台本をつくり直して、別日に原稿を読み上げても「相手がそこにいるような」空気感を残せるだろうか。

そこで活用したのが「UDトーク」を用いた文字起こし、そして同時進行での文字編集でした。

・映像収録と同時に、その通訳をUDトークに取り込みます。
・文字起こしを他のメンバーが同時に確認し、言い直しや誤植を校正。
・1つのテーマ、4本の映像収録が終わったら音声収録の準備です。
・全体の流れや表現を再確認、加筆修正して原稿に仕上げます。
・撮りたての映像を見ながら、原稿を片手にいざ音声収録。

ただし、映像に合わせて原稿をそのまま読み上げるだけではありません。それらを言葉選びや文脈の手がかりにしながら、撮りたての手話映像を見て、2度目の通訳をおこなうイメージで収録します。
そうして「ライブ感」が半分残るような、目の前で講座が開かれているような空気感を目指しました。

UDトークの文字起こしを修正し、映像の流れを確認。
勢いそのままに音声収録に臨みます。
それぞれの収録が終わったら、
その場で運営チーム全員で内容を確認しました。

映像プログラム公開中、ぜひご覧ください

2021年夏、4日間の収録、編集期間を経て、映像プログラムを順次公開しました。反省も多い収録でしたが「ろう文化」や「手話」のことを知り、みなさまの身近にあるコミュニケーションに思いを巡らせたり、新たな学びに繋げていただけたら幸いです。

[映像プログラムの目次]
#1【手話の基本表現について】

(1)見ることに慣れよう
(2)手の動きに慣れよう
(3)度合いに慣れよう
(4)「ろう文化」を知る:ろう者と聴者の時間感覚
#2【自分のことを伝えてみる】
(1)NMM(非手指要素)について
(2)趣味、嗜好を伝えてみよう
(3)YES/NOを伝えてみよう
(4)「ろう文化」を知る:ろう者と聴者の会話の特徴
#3【仕事のことを伝えてみる】
(1)職業・役割の表現①
(2)職業・役割の表現②
(3)チケット窓口、受付での対応
(4)「ろう文化」を知る:ろう者とのコミュニケーション①
#4【CL表現を学ぶ】
(1)目で見たままを伝えてみよう
(2)CL表現①
(3)CL表現②
(4)「ろう文化」を知る:ろう者とのコミュニケーション②

TARL公式YouTubeチャンネル:映像プログラム再生リストはこちら

付録、2つの指文字表

また、2021年冬には2つの指文字表を公開しました。ひとつは「相手から見たときの指文字(読み取り用)」、もうひとつは「自分から見たときの指文字」です。

相手から見たときの指文字
自分から見たときの指文字

ご自身で好きな方を使って学習することもできれば、紙面両面に印刷してその場その時に応じて使い分けることもできます。ぜひ、ご活用ください。

↓「指文字表」ダウンロードはこちらから ↓

2021年度 TARLレクチャープログラム 運営チーム
講師:河合祐三子
手話通訳士:瀬戸口裕子
撮影・編集:齋藤彰英
モデレーター:嘉原妙櫻井駿介(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)


櫻井駿介(東京アートポイント計画)
アーツカウンシル東京プログラムオフィサー。東京アートポイント計画「HAPPY TURN/神津島」「ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)」「めとてラボ」や Tokyo Art Research Lab 事業などを担当。多肉植物と暮らす。