見出し画像

レクチャー「手話と出会う〜アートプロジェクトの担い手のための手話講座(基礎編)〜」はじまりました

Tokyo Art Research Lab(TARL)「思考と技術と対話の学校」では、アートプロジェクトを「つくる」という視点を重視し、これからの時代に求められるプロジェクトとは何かを思考し、かたちにすることができる人材の育成を目指しています。2020年度は、実践的な学びの場「東京プロジェクトスタディ」、アートプロジェクトの可能性を広げる「レクチャー」、プロジェクトを行う上で新たなヒントを探る「ディスカッション」の3つのプログラムを展開。レクチャー「手話と出会う〜アートプロジェクトの担い手のための手話講座(基礎編)」の様子や実施するなかでの気づきを、モデレーターを務める担当プログラムオフィサーの視点で綴ります。

はじめてづくしの第1回を迎えるまでに

2020年7月1日(水)、いつもより朝早くに家を出て、3331 Arts Chiyodaに向かう。つい先日、ROOM302内に完成したばかりの「STUDIO302」には、真新しい機材が並び、蛍光灯も新調されて空間全体がなんだかピカピカと眩しい。この日は、アーツカウンシル東京として本格的にSTUDIO302をはじめて使う日で、「思考と技術と対話の学校」のはじめてのオンライン講座開講日でもあり、そして、はじめて「手話講座」に取り組むという「はじめてづくし」の1日だった。

レクチャー「手話と出会う〜アートプロジェクトの担い手のための手話講座(基礎編)〜」は、7月1日から9月30日までの全12回(8月9日、8月12日は休み)、毎週水曜日の朝10時から11時(第4回以降は11時30分まで)に開講する。ちょうどレクチャーの立ち上げ準備をしていた頃、日本国内でも新型コロナウイルス感染症の感染拡大の報道が日毎に増えていたときだった。だから、レクチャーの実施については悩んだ。もちろんすぐにオンライン講座の方向性は出ていたし、東京アートポイント計画・Tokyo Art Research Lab(TARL)チーム内でも実施する方向で議論は進んではいた。

でも、本当にできるのだろうかと不安は拭えなかった。なぜなら、手話は話す相手の目を見て、手だけでなく顔の表情や身体の動き、その人の気配、なんと言うかその人を取り巻く空気全体を伴っての身体言語だと思っていたから。オンラインミーティングに慣れはじめたとはいえ、小さなパソコンの画面越しで、視線が合うという実感はなかなか持てない。そんな状態で、手話講座としてもちゃんと成り立つのか心配だった。

どうすればできるか、新しい方法を一緒に話し合って考えてみたい。

その不安を軽くしてくれたのが、講師の河合祐三子さんと手話通訳士の瀬戸口裕子さんの一言だった。事前打ち合わせのやりとりをするなかで、河合さんは、すでに他の手話講座の仕事がオンラインになり不慣れながらもなんとか進めていること、瀬戸口さんはオンラインでの手話通訳をやってみてできる実感を持てたことを教えてくれた。そして、TARLのレクチャーは、どうすればできるか、新しい方法を一緒に話し合って考えてみたい、チャレンジしてみたいと言ってくれた。そのことばを受けて、よし、まずは初回の準備に集中しよう、実施する度に少しずつ更新していこうと腹が決まった。

配信テスト、テスト、テスト!

第1回に向けて準備は入念に行った。講師や手話通訳士の立ち位置はどうするか、モデレーターの位置はどこか。カメラはどこから撮影し、スタジオのモニターはどのように使うか。もし接続できない人がいたら、こちらが接続が不安定になったらどうするか。具体的にシミュレーションしながら、実際にテスト配信をした。これら配信・機材関係を一挙に対応してくれているのは、NPO法人Art Bridge Institute齋藤彰英さん。本レクチャー記録・運営担当として、毎回サポートしてくれている。オンライン講座では、何かあったときに即座に対応できる運営体制が必須だ。とても心強い。

画像1

講師の立ち位置からの風景。テストすると改善点がいろいろ見つかる。

画像2

画面上で講師はどう見えるか、代役を立ててのテスト。

アートプロジェクトの担い手のための手話講座スタート

こうして準備万端で迎えた初日。河合さんから「時計はどこにありますか」と一言。スタジオの講師のポジションに立つと、ちょうどモニターに被って壁掛け時計が見えにくいことが分かった。配信のことばかりに注意が向いて、実際のフィジカルなスタジオへの視点が抜けていた。動き出すとなんと気づくことが多いことだろう。フィジカルとオンラインとを行き来しながら、場づくりについて今一度目を見開いて注意を向けなくちゃ、と思う。急遽、その日はラップトップの画面を覆い尽くすくらいにまんまる大きなアナログ表示の時計を映し出し、卓上時計の代わりとした。

9時59分、参加者が全員と接続したことを確認して、正面のカメラに視点を合わせた。「おはようございます!」と声をかけて見たモニターには、10名の参加者の表情が映っていた。いよいよ「はじめてづくし」のレクチャーがはじまった。

サイレントな状態に慣れていく

参加者は都内にお住まいの方が中心だが、中には都外から参加している方もいる。こうして遠方の人ともはじめましてと出会い、共に学びを深めていけるのはオンラインならではの良さなのかもしれない。でも、やっぱり会ってその人の表情や気配を感じながら手話で会話してみたいなと思う。それは、いったいいつになるのだろう。まだまだ先のことは全く分からない。だから今は、最大限何ができるのかを考え、いろいろと工夫を重ねながら、このスタジオで新しい方法を発見していくことに注力してみようと思う。

レクチャーは、第1回〜第3回までは手話に慣れること、サイレントな状態に慣れていくことを目指す内容になっている。「手話と出会う」の導入編といった感じだろうか。本レクチャーを通して、「手話」の基礎を学びながら、だんだんとアートプロジェクトの現場で活用できる手話を身につけていけるようなカリキュラムとなっている。具体的にアートプロジェクトやワークショップ、イベントの現場で交わされる会話を想定した対話型の手話のワークショップも検討中だ。さらに、手話の基礎を学ぶだけでなく、アートプロジェクトにおけるコミュニケーションやアクセシビリティについても視野を広げていけるような機会にしたいと考えている。先週、第3回を終えたばかりだが、普段何気なくやっていたコミュニケーションがズレを生む可能性があることを知った。知らなかったということを知る体験が毎週、毎週、起こっている。そんなレクチャー第1回〜第3回の様子については、また次回に。

つづく...